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キバ訓練所 ② 訓練所のカリキュラム

 キバ訓練所の終礼で、伝輝は同じ新入生のヒトのダニエルと一緒に、他の訓練生達と出会う。伝輝が人間だと知った訓練生達は、伝輝に興味を持つのだが・・・

 伝輝は、ありさと生えかけのたてがみを持つ雄ライオンと一緒に、廊下を歩いた。

 雄ライオンの姿を、伝輝はチラリと見上げてみる。


 茶色の革ジャンは、カッチリした襟付きで、「TANNIN」の店長が着ていたデザインと似ている。

 適度に色落ちしたデニムに足元は黒のショートブーツでまとめている。

 特徴的なのは鬣だった。

 鬣を真ん中に集中させ、サイドは刈り上げている。前方を立ち上げてボリュームを出しており、真ん中に集中させた鬣は首筋の方まで続いている。


「人間から見てどう、この髪型・・?」

 雄ライオンは指先で、立ち上げた毛先を撫でながら言った。

「人間界のメンズヘアカタログを参考にしてみたんだ。

 鬣がちゃんと伸びるまで、アレンジしたくてさ。

 そのままじゃ、何かダサいじゃん。

 ウルフモニカン風なんだけど、どうかな?」

 伝輝は素直に格好良いと思った。

 昇平が読んでいる男性向けカジュアルファッション誌に出てくるモデルみたいだった。

 彼がヒトに化けたら、きっとイケメンな気がする。

 

 ただ、ライオンなのに、髪型はウルフ(・・・)なのか・・・


「自己紹介がまだだったな」

 雄ライオンが言った。

 立ち止まって伝輝の方を向く。


 伝輝は、見上げ具合で、彼の身長は前田さん位かなと思った。

 前田さんは、昇平より背が低い。


「俺はライオンのカリンバ。

 アフリカ大陸生まれの南ヨーロッパ地域育ち。

 ここに入った目的は、化けと狩りを学んで、南ヨーロッパ地域の警察に入りたいからさ。

 よろしくな」

 カリンバはスッと手を伸ばした。

 伝輝も手を伸ばし、握手した。

 力強い肉球の弾力を感じた。


「さっきは大変だったな。

 人間ってだけで、見世物みたいになって」

 カリンバは笑った。

 カリンバは他の訓練生と違って、伝輝が人間であることを、特に気にしていないらしい。

 伝輝はホッとした。


「俺からすれば、ありさとあまり変わらないと思うんだけどな。

 ありさよりちょっと背が低くて、髪が短いだけじゃん」

 その言葉に、伝輝は驚いた。

 こんなに顔かたちの作りが違うのに・・・


 だけど、動物からすれば、そうなのかもしれない。

 伝輝も、アナゴが「カレイと違って、美人過ぎる」と言っていた、レポーターのアジア象とカレイのどこが違うのかが分からない。


 他の訓練生達と一緒にゾロゾロ歩き、訓練生達は男子・女子ロッカールームに入る中、伝輝達はそこを通り過ぎた。

「じゃあ、また月曜日な」

 ロッカールームに入る時に、シベリアンハスキーの男の子が三人に声をかけた。

「またな」

 カリンバは、サラッと手を挙げて挨拶した。


「月曜日から、一緒にカリキュラムを受けるし、俺も案内するよ。

 ありさはやる気なさそうだし」

 ありさはすまし顔で、カリンバを見る。

「任せるわ」

「よーし。ちゃんとありさもついて来いよ」

 カリンバはニッと笑い、伝輝を手招きして、廊下を走り出した。


 キバ訓練所は、大小様々な部屋があり、座学の為の部屋やトレーニング室まであった。

「キバ訓練所は、キバ組織以上に機密部門だから、全て屋内で行われる。

 外に出るとしたら、卒業試験くらいかな」

 カリンバが説明した。


 カリンバの案内が終わり、伝輝はありさと一緒に電車で帰宅した。

 家に着くと、夏美が話しかけた。

「おかえり。伝輝、月曜日からしばらく学校じゃなくって、キバ訓練所に通うんだってね。

 さっき、担任の団助先生から連絡があったわ」

 夏美の何の疑問のないような表情を見て、伝輝は夏美が既にキバ組織に頭の中を都合よくいじられたのだろうかと思った。


 仕事から戻った昇平も夏美と同様の話をケロリと話していた。


     ◇◆◇


 月曜日、伝輝はまごころ学校へ行く時間よりも早く出発し、キバ訓練所に向かった。


 訓練所についてすぐ、クッキーに今日のスケジュールを教えてもらった。

 午前中は学習時間で、伝輝は他の訓練生と一緒に各自与えられた課題を解いた。


 部屋は一人一人に学習机と椅子があり、席と席の間に仕切りがあり、勉強中は互いに顔を見ることができない。

 否応なしに、目の前の課題を見るしかない。


 伝輝は自身の希望もあり、人間界の一般大学受験に必要な量を目標に学んでいる。

 他の動物達は、自分の将来進みたい進路に合わせて、学習する内容を徹底的に選別している。

 理系の研究者を志す動物は、文系科目をほとんど学習しない。


 伝輝は他の動物達よりも学ぶべき量が圧倒的に多いのだが、学習できる(・・・・・)時間も長いので、特に問題ないと団助先生からも言われていた。


 昼食は食堂でカリンバと二人で食べることになった。

 ありさはダニエルに声をかけられ、一緒に食べていた。

 

 すまし顔が変わらないありさだったが、ダニエルはニコニコ顔が途切れない。

 遠目で見ていて、伝輝は何だか嫌な気分になった。


     ◇◆◇


 午後はずっと、トレーニングだった。

 伝輝は革ジャンからジャージに着替え、ダニエルと一緒に、体力測定を行った。


 短距離、持久走、握力、柔軟、ソフトボール投げ等々・・・


 全ての種目に対して、伝輝はダニエルに負けていた。

 ダニエルは結果が出る度に、フフンと鼻で笑いながら伝輝を見た。


 ダニエルの方が年上だろうし、体格も大きいので、当然だろうと思ったが、それでもムカついた。


 それから、午前中は学習時間、午後はトレーニングという日々が続いた。


 まごころ学校に通っていた時と、大して変わらないスケジュールだが、トレーニングのレベルが段違いだった。

 指導員も、本物のプロらしく、的確な指示やアドバイスをくれる。

 また、空手や柔道、剣道をベースにしているような武道の時間もあった。


 柔道に関しては、伝輝も多少の心得があったので、比較的ついていきやすかったが、それ以外はかなりきつかった。


 毎日クタクタになって、帰宅し、夕食と風呂を済ましてすぐに寝る日々が続いた。

 体はあちこち痛いが、辛さは感じなかった。


 トレーニングになると、身体能力について、肉食獣達との差を見せつけられるのだが、誰も伝輝の結果が悪くても何も言わず、指導員が丁寧にアドバイスしてくれる。

 カリンバは「昨日より数字が良くなってるじゃん」と前向きな声掛けをしてくれた。

 種類が違うので、互いに比較することがなく、あくまでも自分自身の鍛錬のみに皆集中していた。


 その環境が、伝輝にとって、心地よかった。

 周りの目を気にせず、自分のベストを目指せる。

 人間界の学校にいた頃には、なかなか出来ないことだった。


 ダニエルだけは、自分のことを気にしているようだが、伝輝は無視することができた。    


     ◇◆◇ 


 何日かして、狩りのトレーニングも受けることになった。

 その日は、狩りに使用する武器の訓練だった。


 ダニエルがいないので、少し気が楽だった。

 クッキーの案内の元、いくつか練習用の武器を手に取ってみたが、結局今まで使ってきた折り畳み式の槍を使うことになった。

 練習用の槍とは言え、ドリスの兄からおさがりでもらった槍よりも、ずっと本格的な作りで、しっかりしていた。


 カリンバは、雄虎の訓練生と、木刀を打ち合っていた。

 剣道の時間の時は、一本の竹刀しか持っていなかったが、この時のカリンバは木刀を二本使っていた。

 逞しい身体をしなやかに回転させ、あらゆる方向からカリンバは攻撃していた。

 その動きを見て、カリンバは本来二刀流なのだと、伝輝は思った。


 この訓練にはありさもいた。

 訓練生ごとにカリキュラムが異なるらしく、ウエイトトレーニングには、ありさはほとんど姿を見せなかった。

 ありさは他二人の訓練生と一緒に射撃の訓練を受けていた。

 ありさの隣の灰色短毛の動物は、耳が垂れた犬だった。

 しかし、身長はとても高く、ありさの頭は彼の背中の真ん中辺りに位置していた。


「でけぇ・・・」

 伝輝は思わずつぶやいてしまった。

「彼はベルント。グレート・デーン種。犬の中で最大級の種類だよ」

 クッキーがサクッと説明してくれた。


     ◇◆◇


 訓練所からの帰りの電車で、伝輝は身体の疲れの為、熟睡してしまった。

「おい、着いたぞ」

 誰かの声に伝輝はガバッと目覚め、慌てて電車を降りた。

 垂れていた涎を袖で拭った。


「随分お疲れみたいだな」

 黒毛の雑種犬(柴犬似)のタカシが声をかけた。


「タカシさんが起こしてくれたの?」

 伝輝は言った。

「ああ、同じ車両だったみたいだ。

 一駅前でドアの近くに行ったら、熟睡してる伝輝に気付いたんだ。

 これ、起きないだろうなぁと思ってたら、案の定起きなかった」

 伝輝は照れくさそうに頬を指でポリポリ掻いた。


「キバ訓練所に通っているんだってな。

 ポンコツ先生も、凄いところを紹介するな」

 まごころ荘へ向かう短い道のりで、二人は世間話を始めた。


「うん。

 びっくりしたけど、よく考えたら、確かにポンコツ先生は紹介するって言ってたんだよね。

 キバ訓練所とは言われていなかったけど・・・」

「伝輝にとっては、複雑だろうが、訓練するならあそこ以上の場所はないよ。

 俺も子どもの頃に少しだけ通っていたし。

 まぁ、卒業レベルまで身に付ける予定はなかったから、すぐに辞めたけどな。」

「そうだったんだ・・・」


 道のりの過程にある、街灯の光の下を二人は通った。


 その時、伝輝はタカシの姿を見て、フッと何かを感じた。


「タカシさん?」

「何だよ?」

「前よりも痩せた?」

 以前よりも少し毛並みがペッタリしているのか、タカシが小さくなっているように見えた。


「最近、仕事がキツくてね・・・」

 タカシは苦笑いすると、そのまま伝輝よりも先に階段を上り、部屋に入って行った。  

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