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試験が終わって ③ 進路

試験に合格した伝輝は、上級クラスに進級するかどうか悩んでいた・・・

「待っていたよ、伝輝君」


 冷たい雰囲気の照明とツルツルした灰色の床の向こうに、どっしりと重厚感漂う木の机に肘をついた、ホッキョクグマの剛力が言った。


「試験合格、おめでとう。

 流石は貫田先骨ぬきたぽんこつ氏が推薦しただけある。

 人間でありながら、短期間でここまで成長し、実績を残すとは」


 剛力がそう言うと、彼の陰から、ヒョコッとポンコツ先生が現れた。

 人間界にいる時と同様のヒトの姿をしていた。


「久しぶりー、伝輝、ありさちゃん」

 ポンコツ先生は、ヘラヘラ笑いながら伝輝に向かって手を振った。


「早速本題に入るが、伝輝君。

 君はまだ正式な下級クラス卒業資格を得ていない。

 君が今後どうするかの希望を聞いた上で、最終判断を下す。

 さぁ、君はどうしたいのかね?」


 剛力の小さいながらも威圧感のある瞳がジッと伝輝を見つめる。

 一歩下がっているありさも、真剣な眼差しで伝輝を見ていた。


「お、俺は・・・」

 医務室からここに向かうまでの間に色々考えた。

 だが、やはりこの言葉しか思いつかす、勇気を出して言ってみようと思った。


「俺は、キバ訓練所を辞めたいです。

 合格を取り消してほしいです」


 室内にいる、剛力、ポンコツ、ありさの表情が変わった。

 皆、驚きの目をしていた。


 しかし、すぐに剛力はフッと一瞬だけ目を伏せ、再び伝輝を見た。


「残念ながら、その希望は受理できない」


 剛力の言葉に、伝輝は愕然とした。

 やはり、自分は人間6号なのだ。

 キバ組織やまごころカンパニーに、強制的に運命を決められる存在なのだ。


「君の合格は取り消さない。

 そして、君は直後退会不可だったが、その縛りも既に消えている」


「え・・・!」

 今度は伝輝が目を丸くして、剛力を見る。


「だが、キバ訓練所としては、君を手放すのが非常に惜しい。

 そこで、頼みなんだが、君を無期限休会処置とする。

 君はいつでも戻ってきて、上級クラスに進級できる。

 その上級クラスには、君が納得できるまで在籍して構わない。

 気が進まなくなったら、再び休会しても構わない。

 いかがだろうか?」


 伝輝は何と言って良いか、分からなかった。

 辞めさせてはくれないが、絶対にキバ組織になれとも言われていない。


「君は、貫田氏特別推薦枠だ。

 キバ組織にこだわらず、自分のやりたいように化け能力を磨いていってくれ。

 我々はじっくり君の成長を見守っていきたい。

 君は人間だ。

 将来を今ここで決定する必要はない」


 剛力はにっこり笑った。

 強面の顔立ちからは、想像もつかない優しい表情だった。


     ◇◆◇


 帰りの電車に乗る頃、辺りは真っ暗になっていた。

 ありさに荷物について尋ねたら、手荷物以外は既にまごころ荘に送られているらしい。


「何で、ついてくんの?」

 伝輝は隣に座っているありさを見た。

 背筋をピンと伸ばし、どこにも隙がない。


「剛力所長に言われたからよ。

 ちゃんと家まで送れって」


「ふーん・・・」


 繁華街の駅で大勢の動物が乗り込み、何駅か進んで、住宅街エリアになると乗客の数が減っていった。

 最終駅一つ前のまごころ荘前駅まで乗っている客は、伝輝とありさ以外にいなかった。


「明日から、学校行くの?」

 ほとんど黙ったままだったありさが、フッと話しかけてきた。


「分かんない。

 まだ少し身体もだるいし、あと一日休んでから学校行くかも」


「私もあと三日位は、身体のメンテナンスがあるから、まごころ学校に行けないわ。

 でも、しばらくは訓練所に行かないで、学校に通うつもり。

 私も伝輝と一緒で、のんびりプランなの」

 ありさは伝輝の方を向き、ニコッと笑った。


「お願いだけど、私はまごころ学校では、今まで通り澄ました感じで行くから、そのつもりでいてね」


「何で?」

 伝輝はキョトンとした顔になる。


「キバ訓練所での感じのままで良いじゃん。

 そっちの方が、本当のありさらしくて良いよ」


 伝輝はこの数ヶ月間で、彼女の色んな一面を見ることができた。

 人間の目で見れば、尻ごみしてしまう程の可愛らしい容姿をしているが、中身はいたって素朴で普通、否、少し気が強すぎる位の勝気で、芯のしっかりした女の子だ。


「嫌よ。ドリスとか、面倒くさいじゃない」

 ありさはスッパリ言った。

「もし、余計なことを言ったら、どうなるか分かっているでしょうね?」


 伝輝は「はい」と言うしかなかった。


 車内アナウンスが、次がまごころ荘前駅と告げる。


 電車が止まり、伝輝は駅のホームに降りた。

 ありさはそのまま乗り、最終のまごころ動物園前駅まで行ってから、子ども園まで戻るそうだ。


「おやすみ」

「おやすみ」


 電車のドアが閉まり、車窓の景色がトンネル内の様に真っ暗になる。

 そこに映る自分の顔を、ありさはジッと見つめる。


「本当の私って何よ?」

 窓から目をそらし、ギュッと瞳を閉じる。


「私だって、そんなの知らないんだから・・・」


 乗客はたった一人しかいない、まごころ動物園前駅行き電車。

 ガタンゴトンと車両を揺らしながら、動物界と人間界の境界線へと、進んで行った。


     ◇◆◇


冬季キバ訓練所下級クラス卒業試験合格者進路


1位 ドリアン(オランウータン・雄)

 進級しない。

 訓練所退会。

 東南アジア地域に戻る。


2位 ハラミ(シマハイエナ・雄)

キバ訓練所上級クラスへ進級。


3位 ジャンヌ(ライオン・雌)

 キバ訓練所上級クラスへ進級。


4位 松子(キタキツネ・雌)

 進級しない。

 訓練所退会。

 (ただし、常木宇紺つねきうこん氏推薦枠の訓練生の為、今後復帰可)


5位 ダニエル(ヒト・雄)

 進級しない。

 訓練所退会。

 北アメリカ地域で、公認トランスフォーマー指導員を目指す。


6位 伝輝(人間・雄)

 キバ訓練所上級クラスへ進級。

 無期限休会する。


7位 ありさ(ヒト・雌)

キバ訓練所上級クラスへ進級。


8位 サンド(キタキツネ・雄)

 キバ訓練所上級クラスへ進級。


9位 カリンバ(ライオン・雄)

 進級しない。

 訓練所退会。

 南ヨーロッパ地域警察に就職する。


これで、『伝輝とキバ組織』は終わりです。

次回は新しい作品として、続きを書いていく予定です。

次のお話からは、ずっとお休みしていたまごころ荘のメンバーが登場します。

閲覧、ありがとうございました。

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