キバ訓練所下級クラス卒業試験 結果発表
合格発表です。 カリンバ班の結果は・・・
伝輝はゆっくり瞼を開けた。
日の光ではなく、暖色の室内照明の光が、伝輝の目に入る。
「起きたか?」
黒いキャップを被った、ライオンの青年カリンバの顔が真上からニュッと現れた。
ボヤーとした頭のまま、伝輝は身体を起こす。
柔らかいベッドマットに布団、枕。
サラサラした真っ白なシーツ。
「ここは・・・?」
「試験前日に泊まったホテルのスイートルームさ。
お前、イグアナキメラを倒した後、試験が終わってここに運ばれてもずっと起きなかったんだぜ」
「試験・・・」
ハッと伝輝は何かを思い出したかのように、辺りを見渡し、自分の姿を見た。
伝輝の身体には、傷一つ見当たらなかった。
ドロドロのジャケットではなく、真っ白なパジャマに着替えられていた。
下着も綺麗なものに変わっている。
カリンバもサッパリした毛並みに、Vネックシャツと足首が見えるジーンズ姿だった。
シャツの襟ぐりに、サングラスを引っ掻けている。
黒いキャップからは、ぴょこんと彼の丸い耳が飛び出ている。
「身体は拭いてるけど、シャワー浴びたいだろ。
あともう少しで結果発表だから、それまでにジャグジーに行って来いよ」
「ありがとう、カリンバ」
「礼は、クララに言いな」
「え?」
「ここまでお前を運んだのは俺だけど、俺がシャワー浴びている間に、クララがお前の身体を治療して、念入りに身体を拭いて、着替えまでしたんだぜ。
俺が戻ってきたころに、丁度終わってたけど、まぁー随分満足げに帰って行ったな。
きっと隅々まで丁寧に調べてくれたんだろうよ」
カリンバは意味ありげな笑みを浮かべた。
伝輝はパジャマ越しに自分の身体を触ってみたが、特に異変は見当たらない。
「ちょっとくらい許してやれよ。
クララがいなかったら、イグアナキメラ狩りも成功しなかったんだからな。
肉や皮の一切れ位、持って行かれていたって、どうせ傷跡も残っていないだろ」
カリンバの言葉に、全身鳥肌が立った。
「・・・ジャグジー行ってくる」
とりあえず、自分で身体を洗いたくなり、伝輝はベッドから出た。
◇◆◇
伝輝はTシャツとハーフパンツを履き、カリンバと一緒に結果発表が行われるホールへと向かった。
既に受験生達は、着替えも済ませ、奥のステージに掲げられている大モニター画面を見ていた。
「伝輝、身体はもう大丈夫なのかい?」
一番初めに声をかけてきたのは、黄色いバンダナを巻いたシマハイエナの少年ハラミだった。
少しやつれたように見えるが、表情は活き活きしている。
「イグアナキメラを狩ったんだってね。
助けに来てくれて本当にありがとう」
ハラミは伝輝の手を握って、ニコニコと笑った。
彼はバラにそっくりだが、その穏やかな表情を見ると、自然と怯えた気持ちもなくなっていった。
「起きたのね」
ハラミが挨拶をして離れた後、ありさが近づいた。
他の皆が、私服姿に対して、彼女は白いパジャマに淡いピンク色のカーディガンを羽織っていた。
長い黒髪はサラリと背中に垂らしている。
「お前こそ、何で寝る前のパジャマみたいな恰好しているんだよ」
カリンバが言った。
「違うわよ。
試験が終わってからずっと、身体をクレンジングしたり美容液パックしたりしてるの」
ありさはフンっと不機嫌そうに言った。
ステージ端からホッキョクグマの剛力が姿を現し、ホール内は静かになった。
「皆さん、六日間に渡る試験、大変お疲れ様でした。
これより、結果発表を行います。
上位九名が、今回試験の合格者として、キバ訓練所下級クラス卒業資格が与えられます。
中央のモニターをご覧ください」
剛力の合図に合わせて、会場内は暗くなり、画面が表示された。
「最終結果に限り、個人点内訳と、簡易総評を表示しています」
カリンバはギュッとありさと伝輝の肩を握った。
その手は少し震えていた。
「大丈夫だ。
どんな結果になっても、お前達が最高のプライドであることに変わりないから」
◇◆◇
冬季キバ訓練所下級クラス卒業試験結果発表
表示案内
(順位、氏名(種・性別)、最終点、五日目点数内訳、簡易総評の順)
1位 ドリアン(オランウータン・雄) 390点
五日目個人点:50点
五日目グループ点:10点
五日目特別点:100点
☆任意課題に対する迅速で的確な対応が秀逸。また、緊急事態における勇気ある行動を称賛する。
2位 ハラミ(シマハイエナ・雄) 255点
五日目個人点:50点
五日目グループ点:5点
五日目特別点:30点
☆全試験において、効果的な手段を行っている。狩り・化け双方の能力の高さを評価する。
3位 ジャンヌ(ライオン・雌) 230点
五日目個人点:50点
五日目グループ点:5点
五日目特別点:50点
☆班長として、メンバーの意思や自主性を尊重し、個人よりも班を優先する姿勢に高評価を与える。
4位 松子(キタキツネ・雌) 190点
五日目個人点:10点
五日目グループ点0点
☆圧倒的な化け能力の高さ。班の能力を最大限に発揮させたリーダーシップを評価する。
5位 ダニエル(ヒト・雄) 170点
五日目個人点50点
五日目グループ点:10点
五日目特別点:50点
☆独創的な化け能力を駆使し、任意課題達成等に貢献したことを評価する。
6位 伝輝(人間・雄) 150点
五日目個人点:0点
五日目グループ点:0点
五日目特別点:100点
☆発展途上ながらも、卓越した精神力で難易度最高クラスの狩りを達成したことを評価する。
7位 ありさ(ヒト・雌) 145点
五日目個人点:0点
五日目グループ点:0点
五日目特別点:50点
☆催眠の化け能力と射撃技術に高評価を与える。今後の更なる成長を期待する。
8位 サンド(キタキツネ・雄) 130点
五日目個人点:10点
五日目グループ点:5点
☆集団行動に貢献し、自身の能力を最大限に活かした狩りの姿勢を評価する。
9位 カリンバ(ライオン・雄) 125点
五日目個人点:0点
五日目グループ点:0点
五日目特別点:100点
☆自班だけではなく、他班をも成功へ導く姿勢、また目標達成における信念の強さを評価する。
10位 ベルント(グレート・デーン 雄) 115点
五日目個人点:50点
五日目グループ点:10点
五日目減点:-15点
☆任意課題達成における冷静で的確な行動力を評価。減点は本試験ルールと審査員判断による。
10位 クララ(ライオン・雌) 115点
五日目個人点:50点
五日目グループ点:5点
五日目特別点:50点
☆化け医療技術を駆使し、班活動や緊急事態において、大きく貢献したことを評価する。
12位 梅千代(タヌキ・雌) 100点
五日目個人点:0点
五日目グループ点:0点
☆化け能力を活かし、任意課題達成に大きく貢献したことを評価する。
13位 マーブル(コヨーテ・雌) 50点
五日目個人点:10点
五日目グループ点:5点
☆初参加であり最も年少であるが、集団活動を適切に行っている。今後に期待する。
14位 グレイ(シベリアン・ハスキー 雄)45点
五日目個人点:10点
五日目グループ点:5点
☆班を完璧に統率しつつ、かつ、メンバーを最優先した姿勢を評価する。
15位 コウメイ(ヒョウ・雄) 40点
五日目個人点10点
五日目グループ点:0点
☆班全体での協力が見られず、個々の実力が発揮しきれなかったことが惜しい。
16位 ガリレイ(トラ・雌) 30点
五日目個人点10点
五日目グループ点:0点
☆副班長として班をまとめようとした姿勢は評価するが、点獲得まで至らず、あと一歩であった。
17位 ロナウド(トラ・雄) -5点
五日目個人点:-10点
五日目グループ点:0点
☆実力の高さは評価するが、本試験において効果的に発揮される場面がなかった。
18位 竹男(タヌキ・雄) 155点
五日目個人点:0点
五日目グループ点:0点
☆情報収集力と判断力の高さを評価する。班全体での高得点獲得に大きく貢献した。
◇◆◇
受験生十八人全員の結果が一面に出された。
悲喜入り混じった声が一斉に上がる。
「俺、合格してる・・・」
「私も・・・」
「マジで? 俺、100点もらっちゃってる」
伝輝、ありさ、カリンバは呆然と画面に出された自分の順位を見た。
黙っていたのは、一瞬だった。
「よーっしゃー! 全員、合格だー!」
カリンバは両腕で伝輝とありさを持ち上げ、グルグルその場で回った。
伝輝とありさも大声で笑う。
バランスを崩したカリンバは、絨毯の床に背中から倒れた。
三人は川の字になって寝ころび、笑い続けた。
「なぁ、何で、竹男は155点なのに、最下位なんだ?」
クララとガリレイに祝福されていたジャンヌがポツリと言った。
ジャンヌはひっそりと立っている松子と梅千代を見つけた。
二人共黒い服を着ている。
合格した松子の表情は固いままで、梅千代はグスグスと涙ぐんでいる。
周囲を見渡しても、竹男の姿はどこにもない。
「まさか・・・」
ジャンヌは再び画面を見る。
本来であれば、合格である彼が、最下位である理由は一つしかない。
「嘘だろ・・・」
喜びも束の間、ジャンヌは歯を喰いしばった。
入口のすぐ傍の壁に、たった一人でもたれていたロナウドは、チッと舌打ちした。
「残念だったな、ベルント」ドリアンがベルントを見上げた。
「試験中にベッドルームに行くことが、これ程大きな減点になるとはね。
結局、愛用のコレクションは全部燃えちゃったし、気の毒で仕方ないよ」
ダニエルが皮肉たっぷりに言った。
流石のドリアンも、顔をしかめる。
「良いんだ、俺は。
ドリアンが一位合格してくれた。
これだけで、俺は堂々と胸を張って、君と一緒に仲間の元へ帰れるよ」
ベルントの言葉から、負け惜しみの響きは感じ取れなかった。
ダニエルはこれ以上何も言えなかった。
「しかし、こう言っちゃ悪いが、俺ってラッキー合格だよなー。
何で竹男が最下位なのか、大体想像がつくけど、この結果にならないと俺は落ちていた」
カリンバが立ち上がりながら言った。
「ベルントに申し訳ないことをしたわ。
きっと私のせいで、減点されたんだわ」
ありさが心配そうにドリアン班の方を見る。
「気にするなって。
ベルント達も妙に納得しているみたいだし。
それに一応、注意したんだぜ、ありさに怪我させるなって。
ま、おかげで俺はギリギリ合格出来たんだけどな」
伝輝は困惑しながら二人の話を聞いていた。
複雑な面持ちをしている伝輝に気付いたカリンバは、伝輝の背中をポンと叩いた。
「竹男とベルントのことが気になるのか。
悼む気持ちは大切だが、同情は不要だぜ。
二人だって、それを望んでいるはずだ。
お前がすべきは、ちゃんと自分の合格を自覚し、今後どうするかを考えることだ」
「今後・・・」
伝輝はもっと困った顔をした。
めでたく下級クラスを卒業するということは、上級クラスに進まなくてはならないということか。
どんどんキバ組織への道を昇ってしまっている事実が恐ろしくなった。




