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卒業試験 五日目 ⑬ 岩群へ

ハラミ救出とイグアナキメラ狩りを決心した、カリンバ班・ドリアン班・ジャンヌ班は、特別支給品を得て、準備を進めた・・・

 月は雲に隠れ、光を暗闇に与えてくれなかった。


 星も見えない夜空を、一羽のタンチョウヅルが悠々と旋回している。

 この地に似つかわしくない鳥は、怪物の動きを観察していた。


 イグアナの顔と体に、猛禽類を思わせる黒く大きな翼に鋭い鉤爪。


 イグアナキメラは南から下級クラス卒業試験場を通過し、火山の方向へ向かった。

 両手には、長い首をダランと下げたキリンを携えていた。


(上級クラス試験会場からも餌を調達しているのね。

 あっちの方が大型家畜も多いでしょうし、あのキメラにとっては都合が良いのね)


 タンチョウヅルは降下し、グル―パー島北部の草原に位置する管理棟前で着地した。

 直後、姿を二足歩行姿のキツネに変えた。


 松子は周辺を見渡した。

 煉瓦の壁の傍で、小さくしゃがんでいる影が見えた。


 梅千代は、白いシーツに包まれた竹男の遺体をじっと見つめていた。


 ロナウドを倒した後、松子は梅千代と竹男と一緒に草原の管理棟に向かった。

 その時、ただならぬ気配を感じた。

 すぐに梅千代に避難を促し、自分は事態の把握に努めた。

 キバ組織からのお知らせを見た時、判断の遅さと、その内容に呆れた。


「梅」松子は声をかけた。


「中に入りましょう。

 指定外キメラはきっと夜通し島内を飛び回るわ。

 外に居たら、危ないわよ」


 明るいところで竹男を見たくない。

 かと言って、竹男だけ外に残すなんてありえない。


 梅千代の訴えに応える為、松子は近くに落ちていた少し大きめの石を拾った。

 石は松子の化けの力で、瞬く間に形や大きさを変え、四角い箱になった。

 本来のタヌキの姿に戻ったまま二度と変わることのない竹男を、シーツに包んだままでその箱に入れた。


「竹男を運んであげて」松子は言った。


 梅千代は黙ったまま立ち上がった。

 すると、石でできた棺桶も一緒にふわりと浮いた。


 空間の化け能力者は、空間に存在するもの、空気、すなわちあらゆる気体を操る。

 棺桶周辺の空気密度を変えて、宙に浮かすことは、空間の化け能力者の基本術だった。


 管理棟一階ロビーに入ると、グル―パー島スタッフが段ボールを二つ中央のテーブルに置いた。

 突然の支給品に目を通しながら、松子は思った。


(このタイミングで、特別支給品が出されるなんて。

 きっと、どこかの班が指定外キメラを何とかしようとしているのね)


 ポンと手に持っていたペットボトルを段ボールに戻し、松子は木製椅子に座った。

 梅千代は泣き疲れたのか、棺桶の傍でウトウトし始めた。


(馬鹿ね。組織も受験生も)

 松子はじっと窓の向こうを見つめていた。


     ◇◆◇


 支給品の食糧をガツガツ平らげ、ほんの少しだけ仮眠した後、カリンバ班、ドリアン班、ジャンヌ班は東の管理棟を出た。


 雲に覆われた空のおかげで、本当の真っ暗闇だった。

 目薬を差していなかったら、何も見えずパニックに陥りそうだ。


「準備は良いか?」

 カリンバはメンバーの顔を見た。

 そして、四足歩行姿になった。


 ジャンヌ、クララ、ベルントも同様に姿を変えた。


「俺達は馬やラクダと違って、ヒトを乗せる用じゃないから、お前達が頑張って慣れてくれよ。

 ま、一応、落ちたら止まってやるよ」

 カリンバはニヤリと笑った。


 ありさはクララの背中に乗った。

 ダニエルはジャンヌに、そしてドリアンは慣れた様子でベルントの背中に乗った。


 上に乗るメンバーは背中のリュックに可能な限り荷物を詰め込んでいた。


 伝輝はカリンバの顔を見た。

 あの最悪な乗り心地を再び味わう羽目になるとは。

 嫌そうな気持ちが顔に出てしまったらしい。

 それを見たカリンバがトンッと顔を伝輝に押し当てた。


「大丈夫。今のお前なら、きっと乗れるよ。

 密林の移動で、大分バランス感覚を鍛えられただろ?

 さ、俺のボーンソード、ちゃんと持っていてくれよな」


 伝輝は苦笑いしながら、のっそりとカリンバの背中に足をかけた。


     ◇◆◇


 草原を駆け、火山の山すそを描くように進む。

 岩群の入口に到着するまでの間は、カリンバ達は身体強化をした状態で走った。

 四肢を動かす数が減るので、休憩日の時よりも胴体は安定しており、伝輝は思いのほか乗り続けることができた。


 予想をはるかに上回る時間で、カリンバ達は岩群入口にたどり着いた。

 彼らの身体能力に、伝輝は声を出さずに驚嘆した。

 管理棟に向かう時は、負傷者がいたから、あれでもゆっくり進んだのだと分かった。


 上に乗ったまま伝輝達はペットボトルの水を、呼吸が荒いカリンバ、ジャンヌ、ベルントに飲ませた。


「ここからは体力温存の為にも、常に身体強化はせず、必要に応じて使うぞ」

 カリンバがブハッとペットボトルから顔を背けて言った。


 ここだけ別空間かと伝輝は思った。

 一歩踏み入れると、草木はほぼ見当たらず、風を浴びると、パチパチジャリッと砂の感触があった。


 両横を地層剥き出しの固い岩壁がどこまでも続いていた。

 カリンバ達は、その壁をよじ登ったりしながらドンドン奥に進み、そして坂道を登っていった。


「これが岩の集合体とは思えないよ。

 小さい頃に連れて行ってもらったグランド・キャニオンみたいだ」

 ダニエルは前方を進むありさに、グランド・キャニオンの感想を語りだそうとした。


「シッ!」珍しくありさが返事をした。

(これを返事と呼ぶかは別として)


「クララ」

 ありさはクララを見下ろす。

「やっぱり、ありさも感じるのね」


 クララはバッと先頭のカリンバと伝輝を追い越し立ちふさがった。


「どうした?」


「カリンバ、私達は今、肉食獣の群れに狙われているみたい。

 ドリアンも感じるでしょう」


 一番後方にいるドリアンとベルントにもありさは声をかけた。


「悪いな。もっと早く呼びかければよかったんだが・・・」

 ドリアンはベルントの身体を撫でた。


 同じ四足歩行でも、犬のベルントが、ライオンの三人について行くのは、かなり大変そうだった。

 誰よりも呼吸が荒く、辛そうな表情をしていた。


 道中、カリンバがドリアンも自分に乗るよう勧めたり、伝輝と代われと言ったりした。

(ドリアンと代われと言われた時、伝輝は内心心底焦った)

 しかしベルントは頑なに拒んだ。

 あまりの頑固さに、ドリアンも何も言わなかった。


「気配から伺うに、オオカミかハイエナ・・・。

 それに近いキメラかもな。

 いずれにしても、数が多いようだ。

 倒せないことないが、余計な体力と時間を使うことになるな」


 ドリアンの言葉に、皆、ゴクリと息を呑んだ。


「少し下って、迂回するか」


 伝輝達は岩群の上層部を目指していた。

 あの馬鹿でかいイグアナキメラが岩に囲まれた下の道に降り立つことは考えにくい。

 その為、彼らは岩群の上層部も最も広い場所を目指して進んでいた。


「そんな面倒くさいことはしてられないわ。

 夜明けまで、もう時間はないのよ」

 ありさが言った。


「だが、連中は俺達の進む方向を読んで、既に待ち構えているぞ」

 ドリアンが言った。


「ええ、だったらそいつらに避けてもらいましょうよ、クララお願い」

 ありさはクララに指示を出した。

 おとなしいクララは少し戸惑いながらも従う。


「どこに行くんだ!?」

 ジャンヌが心配そうに言った。


「少しルートを変えて先回りするわ。

 皆はこのまま上層部への最短ルートを走って」

 そう言って、ありさとクララは近くの崖を登りながら前進した。


「ここは二人を信じて、行くぞ!」

 カリンバは、チームを鼓舞させるのと、肉食獣への威嚇も兼ねて、力強く吠えた。


 その声は、まだ少し青臭さを感じるものの、百獣の王と呼ぶにふさわしかった。

 鬣が完全に生えたら、きっと彼はもっと立派な雄ライオンになるんだろうと、伝輝は思った。


    ◇◆◇


 カリンバ達はルートを変えずに突き進む。


 ギャンギャン! キャンキャン!


 高低入り混じった複数の鳴き声が岩壁に跳ね返りけたたましく反響する。

 やがて暗闇から姿を見せたのは、ブチハイエナの群れだった。


 カリンバ達から少し距離を置きつつも、襲いかかるタイミングを見計らっていた。


「ヒッ!」ダニエルが声を上げた。

 一頭のブチハイエナが、フライングでジャンヌに飛びつこうとした。

 彼女は一旦止まり、ハイエナを前足で振り払い、すぐに走り直した。


「大丈夫か」

 後方にいるベルント達にジャンヌ達が追いついた時、ドリアンは言った。

「イグアナキメラが出没してから、家畜達は緊張し、興奮している。

 思っていた以上に厄介だな」


「ブチハイエナとは、運が悪すぎる。

 下手すれば、本気でやられるぞ」

 ジャンヌも歯を喰いしばった。


 一方、ありさを乗せたクララは、ブチハイエナの群れ全体が見える場所を探した。

 時折、ハイエナ以外の唸り声も聞こえてくる。


「早くしないと、皆が・・・」

 クララが不安そうに呟いた。


「焦っちゃ駄目。

 大丈夫よ、ライオンは肉食獣の王様でしょ」


「そんなの、人間界の人間が勝手に言っているだけよ」


「あら、じゃあ、本当ですよって、教えてあげる?」

 そう言うと、ありさはポンとクララの身体を叩き、走るのを止めさせた。


 ターゲットと効果範囲を見定める。


 スッとありさは背筋を伸ばし、右手を前に田し、指をパチンと鳴らした。


 ブチハイエナ達は、始めは一頭ずつ、主にベルントやジャンヌを狙って襲いかかってきた。


 やがて、一度に襲うハイエナの数は増え、先頭を行くカリンバも攻撃された。

 ダニエルのヘビ化した右手や、ドリアンの剛腕も応戦したが、進み続けるには限界が近付いてきた。


「クソッ」

 目の間にブチハイエナが三頭、舌を出しながら自分達を睨んでいた。

 カリンバは立ち止まり、グルルと唸った。

 背中の伝輝は振り落とされないように、しがみ付いているだけで精一杯だった。


「伝輝、俺にボーンソードをよこせ・・・」

 カリンバがそう言いかけた時、突然ブチハイエナ達の動きが止まった。


 クゥーン クゥーン


 ブチハイエナの群れはカリンバ達から離れ、両脇に移動すると、一斉に伏せをした。


「な、何だ?」


 戸惑っていると、カリンバの前方に、別の影が現れた。


 背筋をピンと伸ばして、クララを乗りこなしているありさだった。


「さぁ、先を急ぐわよ、王様」

 クララはそそくさと脇に退けた。


 カリンバはニンマリ笑い、クララの方に近付いた。

 クララはビクッと体を震わせたが、カリンバは彼女の上に乗っているありさに顔を向けた。


 意図を汲み取ったありさはスッと手を差し出した。

 すると、カリンバから顔を近づけ、ありさに撫でてもらった。

「すげーな。助かったよ」

「どういたしまして」


 自然と、伝輝とも目が合った。

 伝輝は先程までずっとしがみついていただけの自分が恥ずかしくて仕方がなかった。


 道の中央で、その様子を見ていたダニエルはポツリと呟いた。

「やっぱり、彼女を北アメリカ地域に連れて帰りたい」


「馬鹿か、お前は」

 ジャンヌが少し不機嫌そうに言った。


「おい、早くクララから離れろ!

 さっさと進むぞ!」


 クララはタタッとジャンヌの方へ移動した。

 必然的にありさと横並びになったダニエルは、嬉しそうに話しかけた。

 ありさは鬱陶しそうに適当なあいづちを打っていた。

 

「よし、気を取り直して出発するぞ!」

 カリンバが大きな声で言った。


 再び進み始めてから少しして、カリンバが伝輝にだけ聞こえるような声で話しかけた。


「伝輝、自分は何の役にも立っていないと思うなよ。

 この班には、お前が絶対必要なんだ」


 思ってもいなかった言葉に、伝輝は目を丸くした。

 何と言って良いか分からず、誰にも見られないようにこっそり下まぶたに溜まった涙をぬぐった。 

ブチハイエナは、他のハイエナに比べて体が大きく、自ら狩りに出ることが多いそうです。

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