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卒業試験 五日目 ⑫ 賭け

試験続行が決まり、更にハラミがイグアナキメラに捕まった知った、カリンバ班・ドリアン班達は・・・

 ハラミはまだ無事かもしれない。


 伝輝はこの発言を後悔した。

 周りの目(しかも猛獣)が一斉に自分を方に向いた。

 驚きと呆れの他に、怒りも入り混じっている。

 心臓がキューッと締め付けられている気がして、次に続く言葉が出てこなかった。


「どういう意味だ、答えろ!」

 ジャンヌの恫喝の様な口調が、静かなロビーに響いた。


「えっと・・・・」


 痺れを切らしたジャンヌは伝輝に詰め寄ろうとした。

 しかしそれをカリンバが止め、伝輝に尋ねた。


理由わけを聞かせてくれないか。

 どうして、ハラミがまだ無事だと思ったんだ?」


「あのキメラ、どっかで見たことあるんだ。

 で、思い出したんだ。

 あれ、休憩日にカリンバと見に行った、西の管理棟の展示コーナーにいたキメラじゃないかな?」


 カリンバは「そうだっけ?」といった表情を浮かべた。


「大きさは全然違うけど、イグアナに翼がついたキメラは確かにいたんだ。

 新種のキメラだって、紹介されていたじゃないか。

 あれって、それを巨大化させた奴じゃないのかな?」


「キメラの感想なんか、聞いてねーよ!

 さっさと質問に答えろ!

 何でハラミが無事なんだよ!?」

 ジャンヌが苛々しながら言った。


「質問にはまず、結論から答えるべきだ。

 ジャパニーズ君」

 伝輝同様、筋肉痛に耐えながら立ち上がったダニエルが言った。


「だ、だから。

 展示コーナーの紹介だと、乾いた場所に巣を作って、そこに餌を溜めるんだ。

 で、明け方になったらそれを食べて、日中は寝るんだって!」


 伝輝の背後に居たドリアンが身を乗り出した。

「あの怪物も同じだというのか?」


「カリンバが言ってただろ。

 大きさが変わっても、基本は変わらないって」


 カリンバの表情も変わった。

「それじゃあ、奴は夜が明けるまで、捕まえた餌は食べずに巣に保管してるってことか?」


「かも・・・しれない」

 伝輝は皆の視線が少しずつ変化していることに戸惑った。


「そして、イグアナキメラがこのグル―パー島で一番巣を作る可能性が高い場所は」

 ありさが島の概略図をバッと広げ、皆に見えるように掲げた。

「岩群ってことね!」


「まだ夜明けまで少し時間がある。

 それまでにクララに治療してもらい、岩群へ向かおう」

 ドリアンが言った。


「ああ、そうだな!」カリンバが力強く答えた。


「ちょっと待ってよ。

 伝輝の言うことを信じるの?

 展示されていたキメラの習性はそうかもしれないけど、今の説明と実際に起きている事実は結構違うところがあるよ。

 奴は真昼間から家畜を襲っている。

 しかも、その場でバッファロー型キメラを丸呑みしていたじゃないか。

 それに、ハラミが生きたまま巣に連れて行かれたなら、今頃脱出して戻ってきているんじゃないか?」

 ダニエルの発言は、冷やかしでもからかいでもなく、真っ当な意見だった。

 伝輝は黙ってしまった。


「ハラミが生きたまま巣に連れて行かれたなら、きっと脱出は困難だ」

 今度はベルントがのっそり顔を上げた。

「気が付いたのか?」ダニエルが尋ねた。


「岩群は肉食獣の家畜が多く生息している場所だと聞いたことがある。

 そこを通るのは、いくらハラミでも一人では厳しいだろう。

 イグアナキメラに捕まった彼が、流石に無傷とは思いにくいし」


「これは俺の推測だが」

 ベルントの発言を受け、ドリアンが言った。

「日中に活動していたのは、飼育場で寝ていたのを無理やり起こされたからではないかと思う。

 家畜をその場で食っていたのは、腹が物凄く減っていたから。

 あれは外に出される直前に化けで巨大化されている可能性が高い。

 あのサイズのままだと飼育場では管理できないはずだ。

 胃袋がデカくなった分、餌が喰いたくて仕方なかったんじゃないだろうか」


 ベルントとドリアンの意見に、反論の声は出なかった。


「さてと、話を整理しよう」

 カリンバがジャンヌの肩に手を置いた。

 しかし、すぐに振り払われた。


「イグアナキメラは島内を飛び回り、餌をかき集める。

 そして、明け方になったら岩群に作った自分の巣に戻り、集めた餌を食う。

 俺達は明け方までに岩群に向かい、イグアナキメラが現れるのを待つ。

 そして、巣の場所を特定し、侵入しハラミを救出する。

 ハラミ救出はジャンヌ班の仕事だ。

 ドリアン班は、全体のフォローに回る。

 そして、俺達カリンバ班は」


 カリンバは伝輝とありさの方を見た。

「イグアナキメラを狩る」


 驚いた表情でジャンヌはカリンバを見た。

「本気で言っているのか?!」


「ああ、このお知らせを見て、確信したよ。

 俺の唯一の疑念が完全に晴れた。

 あのキメラを狩っても減点にならない。

 そして、五日目は加点対象が指定キメラ限定になっていない」


 ありさと伝輝は、覚悟したかのように、ぎゅっと唇を閉じた。


「指定大型キメラが全滅した以上、俺達が合格を狙うには、イグアナキメラを狩るしかない。

 今までは、いつどこに現れるか分からなかったが、次は違う。

 奴は明け方岩群に現れる。

 それも一日中空を飛んで疲れ切った状態でな。

 ハラミを救出するにも、奴を狩るにも、チャンスはそこしかない」


「素晴らしい考え方だ。

 君にはリスクという概念は無いのかい?

 今言っていることは、何の根拠もない推測だらけの空想じゃないか」

 ダニエルは口元を引きつらせながら言った。


「ダニエル、確率が百パーセントの物事は、この世で一つくらいしか俺は知らない。

 『死』だけだ。

 それ以外は、全て確実な保証などないんだ」

 ドリアンがダニエルをじっと見た。


「これは初めから答えなんか決まっていない。

 ゲームじゃない、本物の狩りなんだ。

 考察している暇はないんだ」


 そう言い終え、スクッとドリアンはソファの上で立ち上がった。


「だが、ダニエルが危惧するように、全て失敗に終わる可能性も大いにある。

 それでも、俺はお前達の計画に協力するよ。

 たまには、デカい賭けも悪くない」


 カリンバはニッと微笑んだ。


「そう言うわけだ。

 てなことで、早速クララ、ベルントとドリアン・・・

 あーもう、皆ボロボロだから全員治してくれ!」


 クララはマスク越しにクスッと笑った。

「分かったわ。でも、全員だとちょっと時間がかかるかも。

 まずはベルントね」


 クララはソファに向かい、ベルントの治療を始めた。


「俺はまたジャンヌに治してもらいたいんだけどな・・・」

 カリンバがわざとらしく、ジャンヌの耳元で囁いた。


 返答の代わりに拳が飛んできた。


 バランスを崩し、カリンバは尻もちをついた。

「痛いなー、ジャンヌ。

 もう少し優しくしてくれても・・・」


 ジャンヌはしゃがみ、カリンバのワークパンツの裾をめくり、足を撫で始めた。

「クララに、お前みたいな男を触らせる訳にはいかないからな。

 僕は、クララほど上手く治せないが、お前にはこれで十分だ」


 触れられた箇所から、徐々に足が温かくなり、筋肉がほぐれていくような感覚がした。


「ああ、ありがとう」

「礼を言うのは、こっちだ」

 

 ジャンヌは顔を上げずに小声で言った。

 何だかカリンバは照れくさくなり、顔を横に向けた。


     ◇◆◇


 化け治療も、体力をかなり消費するらしい。

 ベルント、ドリアンと治療したクララは、立つこともままならないほど、フラフラになっていた。


 カリンバ、伝輝、ダニエルは、筋肉疲労回復のみだったので、ジャンヌが対応した。

 ありさについては、何とか無理を言って、クララに傷跡の修復まで念入りにしてもらった。


 全員の治療が終わるまでに、二時間近く要した。

 伝輝はタカシの化け治療を思い出した。

 彼の技術がいかに凄いのかを実感した。


「もう少ししたら出発したいが、二人の調子はどうだ?」

 カリンバがトイレから戻ってきて言った。

 彼の鬣は元のウルフモニカンスタイルにセットし直されていた。


「僕はともかく、クララが結構キツイな。

 君達もそうなんじゃないか?」

 ジャンヌはクララと一緒にソファにもたれながら言った。


 カリンバは周囲を見渡した。

 怪我は回復したものの、精神的なものも含めて、全員疲労が溜まりきっていた。

 とても、イグアナキメラの巣に行ける状態ではない。


「クソ・・・」

 カリンバは手を額に添えた。

 ハラミ救出ももちろんだが、自分達が合格できるか否かは、時間の問題でもあるのだ。


「あ、あの・・・」

 東の管理棟スタッフのカンガルーが、台車を押しながら現れた。


「何すか?」

 カリンバは少し苛立った口調で尋ねた。


「あの、これ、今回特別にということで、減点無しの支給品です」

 カンガルーはそう言いながら、台車に積んである複数の段ボールを開けた。


 中身は、ミネラルウォーター入りのペットボトル、生肉、フルーツ、パンなどの食糧だった。

 別の段ボールには、狩り用具やサバイバル用品、麻酔銃などの補充品や、応急手当用品。

 また別の段ボールには、ジャケットなどの衣類が詰め込まれていた。


 突然の待遇に、カリンバ達は疑惑の目をカンガルーに向けた。

「本当ですって! タブレットにも表示されてますから!」

 そう言って、彼はそそくさとカウンターの方に戻っていった。


 班長達は各自タブレットを確認した。


「キバ組織も管理棟の連中も、あのキメラを倒してほしくて仕方ないんだろうな」

「だったら、とっとと試験を中止して、自分達で何とかすれば良いんだ。

 そうすれば、もっと早くハラミも助けられるのに」

「ちょっと、待ってくれよ。

 そんなことしたら、俺達合格できなくなるって!」


 ジャンヌはキッとカリンバを睨んだ。

 ドリアンは「やれやれ」と首を振った。


「よーし! それじゃあ、遠慮なくいただくとするか!

 全員、荷物整理しろよ!

 ちゃーんと、忘れずにトイレに行っとけよ!」

 カリンバは伝輝を見て言った。


「うるさいな!」思わず伝輝は反応してしまった。  


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