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初めてのデート ④ ショッピング

 伝輝は、ありさに付き合い、外出するが・・・

 伝輝はありさと一緒にまごころ荘前駅から電車に乗った。

 行先は「まごころショッピングセンター前駅」だった。


 電車内で、二人は並んで座った。

 互いに黙ったままで、ずっと向かいの窓の景色を見ていた。


 見た目年齢が同じくらいの、動物の女の子が電車に乗ったり降りたりしていた。

 友達同士や家族と一緒である彼女達は、リラックスしているのか、パカッと太ももを開いたまま座る。


 一方、ありさはショートパンツで下着が見える訳ではないのに、足を閉じ緊張感を漂わせている。

 三百六十度どこから見ても、みっともない部分が見つからなさそうな、そんな雰囲気がした。

 だからこそ、余計に、伝輝は隣にいるのが、辛かった。

 つられて自分も無意識に肩に力が入り、座っているだけで、ずっしり疲れそうだった。


「ありがとうね、優輝君に会わせてくれて」

 正面を向いたまま、ありさが話しかけた。

「いや、こっちこそ、親がうるさくてごめん・・・」

 伝輝もありさの方を見ずに言った。

「咲さんから聞いて、赤ちゃんってどんななのか見てみたいなぁって思ってさ」

「咲さんと知り合いなの?」

「うん。私、親兄弟がいないから、小さい頃から同じヒトの咲さんに良く遊んでもらっていたの」

「あ・・・」

 伝輝は、ありさが親がいない子どもが暮らすこども園に住んでいることを思い出した。

「ごめん・・・」

「何で謝るのよ。親と暮らさない動物なんて沢山いるわよ」

 ありさは特に気にしていないようだった。

 短くても会話が出来て、伝輝の方は少し肩の力が抜けた気がした。


 電車を降りた時に、ありさが伝輝の方を向いた。

 伝輝はとっさに目線を下に降ろした。

 ありさの方が伝輝より背が高い。ありさは伝輝を少し見下ろすように見た。


「伝輝、私を見て」

 思いもよらぬありさの言葉に、伝輝の顔は赤くなった。

 渋々と顔を上げる。

 ありさは一歩近づいた。整った口元が伝輝の目の前に来る。


 グイッとありさは伝輝の右腕を掴んだ。

 パチン・・・

 何かが弾けるような音が気がした。


「こっちよ、ついて来て」

 ありさは微笑み、伝輝の腕を引っ張ったまま、たくさんある駅出口の一つに向かって走った。


     ◇◆◇


 駅直結のショッピングモールや百貨店から背を向け、ありさと伝輝は商店街を進み、更に裏路地へ進んで行った。

 以前、ドリスと源次郎と一緒にネットカフェに行ったことを、伝輝は思い出した。


 様々な洋服屋や雑貨屋が並ぶ通りの中にある、一つの店の前でありさは立ち止まった。

 さほど大きくはない店構えに、店頭には豪快に飾られた革ジャンの数々。

 看板には「TANNIN」と書かれている。


「入るわよ」

 ありさと伝輝は店に入った。

 革の独特の匂いが、店内に充満している。

 テラテラ光る革製品が、所狭しと陳列している。


「ここで何するの?」

 伝輝は慣れない雰囲気にオドオドしながらありさに尋ねた。

「決まっているじゃない。革ジャンを買うのよ」

「ありさが着るの?」

 伝輝は意外に思った。

 おしゃれとして着るには、この店は本格的すぎる。

「違うわ。お世話になった動物にサプライズでプレゼントしたくてね。

 伝輝と背格好が似てるのよ。だから、試着してほしいの」

 ありさはサッと一着手に取り、伝輝に渡した。

 茶色のポケットが四つ位ついたデザインのものだった。


 まともに革ジャンというものを手にしてみたが、ズシリと重い。


 こんなものを着たら、動きにくそうだ。

 普段、軽いダウンやパーカーしか着ないだけに、余計にそう感じた。


 自分と背格好が近くて、革ジャンを着る動物と聞くと、勝手にクッキーを思い起こした。

 恐らく、ありさが言っているプレゼントしたい相手というのも、大人の雄の小型・中型動物なのだろう。

 これをドリスに贈るとは思えなかった。


「これなんか、どう? 凄く安いわ」

 ありさは色々と手に取ってはしまった。

 茶色のものばかり、選んでいるのは、相手の動物のリクエストによるものだろうか?


「残念だが、お嬢ちゃん。そいつは、三流の品だぜ」

 室内なのに黒いサングラスをかけた、厳つい顔のヒトの男性が声をかけてきた。

 浅黒い肌に黄土色の髪の毛。

 黒のダブルジャケットにレザーパンツを履いている。

 胸元を広げたジャケットから肌が見えているが、その肌には黄土色と黒色の縞模様の毛並みが見えた。

 ヒトではなく、ヒトの姿に化けた別の動物、多分トラだろうと、伝輝は思った。


「弟子に仕入れをやらせてみたんだが、とんでもねぇモン、業者から買わされやがってよ。

 まぁ、それも経験だから、一応店に並べているが、案の上、全く売れねぇんだわ。

 ここに来る客にとっては、タダでも要らねぇモノなんだよ」

 男性は、ありさが持っていたジャケットを取り上げて、元に戻し、ヒョイと別の場所からジャケットを持ってきた。


「ボウズ、着てみな。

 男なら、この違いを分かってもらわなきゃ困るぜ」

 伝輝は言われた通りに、ジャケットに袖を通してみた。


 しなやかに肌に吸い付く。ヒヤッとするような温かいような不思議な感覚だ。

 手にした時は重いと思ったが、着てみると案外動きやすい。

 何より、硬くてスベスベした表面の手触りが気持ち良い。


 伝輝は、ちょっと大人になれた気がした。


「ボウズ、ヒトだろ?

 ヒトなら、型崩れしないように、着倒すことができるからな。

 存分にボウズだけの味が出せるぜ」

「あ、私達、高伸縮性・形状記憶タイプが欲しいんです」

 伝輝が着ているジャケットのタグを見て、ありさは言った。

 それを聞いた男性は一瞬で態度が変わった。

 先程までの、渋い雰囲気は消え、頭と手を横に振り、スタスタと離れていった。


「私、何か悪いこと言ったかしら?」

 伝輝も頭をかしげた。


「店長は、高伸縮性・形状記憶加工が嫌いなんです。

 革の本来の味が変わるって言うんです」

 ハンガーラックの裏から、ヒョウの男性が現れた。

 彼はオシャレなデザインのライダースジャケットとデニムを履いていた。


「代わりに、俺が案内しますよ。

 あ、俺が弟子です。

 弟子入りしてすぐに、さっきの駄作に騙された未熟者ですが、よろしくお願いします」

 弟子は、二人を別のフロアに案内した。


     ◇◆◇


 弟子が案内したところも、店の様子は変わらなかったが、陳列している商品の傍らに「高伸縮性・形状記憶加工済み」と書かれた札やポップがあった。


「こちらが加工済みの商品のコーナーです。

 店長はあんな感じですが、実際は加工済みでないと売れないので、品数としては加工済みの方が多いです」

「ありさ、加工済みってどういうこと?」

 伝輝はコソッと尋ねた。

「化ける動物の体格に合わせて、生地が伸縮する服のことよ。

 動物界の服の大半が加工されているのに、あの店長さんは加工を嫌がるなんてね。

 そんなことしたら、いざという時に四足歩行姿に戻れないわ」

「そうなんです。

 だから店長は、革ジャン着ている時は、ずっとヒトの姿に化けているんです。

 加工してない革ジャンで、普段の二足歩行姿や四足歩行姿になると、型崩れして傷んでしまいます。

 でも、店長曰く、本当の通は、そういうもんだと言います」

 弟子はカチャカチャと革ジャンを数点取り出しながら言った。


「洋服に携わる動物には多いですよ。

 加工しない服にこだわって、その服を着るために、ヒトに化ける動物。

 服は人間由来のものですから、服を最も良い状態で着るのは、ヒトの姿が一番だと考えられているんです」

 弟子が用意した数点の革ジャンは、シンプルなデザインで、初心者の伝輝にも扱いやすそうなものだった。

 実際は伝輝が着る訳ではないはずだが、ありさは「同じ男の伝輝が選んだ方が良い」と言った。


「普段使い、オシャレ使い、実用重視、どの目的でも牛革なら、まず問題ないと思います。

 柔らかさや軽さはほしいなら、他の革もおススメですよ

 加工済みのものなら、どの革もある程度強度がありますから、実用性も高いです」


 伝輝は、弟子とありさにされるがまま、何着も茶色い革ジャンをはおった。

「ブルスキン(雄牛の革)は、ちょっと君にはゴツ過ぎるかな」

「もっと、軽いやつはないんですか? これじゃあ、肩が凝りそうだわ」

 ありさが言う。 

 何着も説明を受けながら、試着していると、肌触りや着心地が気に入る気に入らないが、伝輝の中で分かってきた。


「あ・・・」

 優しい色味の茶色いジャケットを羽織り、伝輝はピタッと動きを止めた。

 肩回りの動きが楽で、とても軽い。

 肌触りも柔らかで心地よい。

 ジッパー付き横ポケット以外、余計な飾りがなく、伝輝の身体を自然に包み込んでくれているようだ。


「これ、良いな・・・」

 伝輝は初めて発言した。

「確かに、似合ってるわ。服に着られているって感じがしない」

 ありさも同意した。

「そうですね。

 どちらかというと、女性に人気がある革なのですが、小型・中型動物の男性にもこのタイプは人気がありますよ」

「これなら、喜んでくれそう・・・。これ、ください」

 ありさも微笑んだ。

「かしこまりました。ありがとうございます」

 伝輝はジャケットを脱いで、弟子に渡した。


 ありさが会計を済ましている間に、伝輝は先程のジャケットがいくらなのかを確認しようと、陳列されている同じジャケットを確認した。

 タグを見て、金額よりも先に目に入ったものがあった。


 ラムレザー


 トクン、と心臓が鳴った気がする。

 知らずに選んだのだが、伝輝は奇妙な縁を感じずにはいられなかった。


 まぁ、でも、俺が着るわけではないし・・・


 紙袋を持ったありさと一緒に、伝輝は店を出た。

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