卒業試験 五日目 ⑩ 火山
※今回の話はいつもより少し文章量が多めです。原稿用紙15枚分位です。 キメラから脱出し、火山に着陸したドリアンは、メンバーの到着を待つ・・・
任意課題の指定大型キメラよりも、凶暴なキメラが試験会場に出没している。
北管理棟内の試験審査本部では、ホッキョクグマの剛力は、報告に耳を傾けていた。
報告しているグル―パー島スタッフのカンガルーの隣には、シマハイエナのヒレが立っていた。
ヒレがキメラ飼育場を後にすると、西管理棟内は他の審査員からの報告で大混乱していた。
ロースは報告を止めていたが、ジャンヌ班の審査員から情報が入ったようだ。
スタッフTシャツや白衣を着た動物達が、出没しているキメラについて調査していた。
ヒレは原因が自分達であることがばれるのではないかと冷や冷やした。
案の上、すぐに審査本部から呼出をくらった。
西管理棟スタッフのカンガルーが運転する軽トラックにヒレは乗った。
「大丈夫だ。手が空いているキバ組織員は俺しかいないから、呼び出されたんだ」
ヒレは小声でボソボソと自分に言い聞かせた。
流石に今回のことは、可愛いイタズラで済まされないだろう。
何とかばれないように、どのように受け答えをしようかと、ヒレは移動中ずっと考えた。
車内無線から、カリンバ班の審査員一人が、キメラに襲われたという情報が入った。
ひぇー! やべー!
いや、逃がした張本人はラッセルだし、あいつ一人が勝手にやったってことにすれば・・・
動揺したヒレは、ビクビクと震えた。
スタッフのカンガルーは不思議そうに横目で見ていた。
◇◆◇
下級クラス試験場にある火山の活動は停滞しており、観光トレッキングとして人気の山だった。
葦の短い草がなだらかな斜面を彩るように生えている。
歩きやすさから言えば、密林よりもはるかに快適だった。
四足歩行姿のベルントはピクンッと歩くのを止め、キョロキョロと周囲を見渡した。
臭いではない別のものを察知したようだ。
「何かアラームみたいな音が聞こえるな」
そう言ったのはカリンバだった。
「もうすぐだ」ベルントは走り出した。
そのスピードに、二足歩行の四人はついて行くことはできなかった。
「ドリアーン!」
ベルントはバウワウッと吠えながら、名前を呼んだ。
やがて、ボロボロになったドリアンの姿が見えた。
「ベルン・・・」
ドリアンが名前を言い終える前に、ベルントは四足歩行姿のままドリアンに飛び込んだ。
ベルントはドリアンを地面に押し付け、顔などをベロベロと舐めた。
「よせ、ベルント、落ち着け・・・」
ドリアンが動いた際、ジャケットについている臭いが漂い、ベルントは顔をそらして離れた。
ベルントに次いで、カリンバが到着した。
二人の様子を見ていたらしく、気まずい表情をしていた。
「恋人との再会かよ。
異種同士だけどそれは自然に反する行為にはならないのか?」
「馬鹿なことを言うな、下らん」
ドリアンがギッとカリンバを睨みつけた。
「冗談だよ、ごめん」カリンバは笑いながら言った。
ダニエル、ありさ、伝輝も到着し、皆ドリアンの無事を喜んだ。
ありさは臭いを中和するスプレーをドリアンのジャケットに振った。
辛そうにしていたベルントの表情もマシになった。
「イグアナキメラはどこに行ったんだ?」
カリンバは尋ねた。
「分からない。
火山に近付いたところで降下を始めたから、目的地はこの近くだったんだろうと思うが。
お前達は火山付近を探すのか?
俺がこうなっちまった以上、申し訳ないが、協力はできないぞ」
ドリアンは包帯に巻かれた自分の腕を見た。
二足歩行姿になったベルントは、彼に応急手当(化け治療ではない)を施していた。
「分かっているよ」カリンバはニッと微笑んだ。
「本気か?
さっきのヤギみたいに、捕まったらどうするんだよ!?」
ダニエルが言った。
「巻き込まれないようにすれば良いんだろ?
ありさは怪我しないように離れるとして、俺と伝輝で何とかする」
伝輝は「えっ!?」と反応したが、誰も見てくれていなかった。
「とりあえず、後は俺達だけで何とかするから、早く管理棟に避難しな」
カリンバはそう言って、背負っていた荷物をベルントに返した。
キシャアアアー・・・・
ドリアン、ベルント、カリンバが一斉に空を見上げた。
「どうしたの?」ありさが尋ねる。
「聞こえたな」
カリンバは必死で笑顔を見せようと頑張りながら言った。
「なぜだ? ここには大型家畜もいないぞ」
ベルントは歯ぎしりした。
「来るぞ」
ドリアンの言葉を合図にするかのように、強い風圧が降って来るかのように発生した。
地面の細かい砂が一斉に舞い、一瞬辺りが見えなくなった。
◇◆◇
イグアナキメラは猛禽類の形をした足で地面に着地した。
翼を折り曲げ、周囲を見回しながら鳴いている。
前足には何も持っていなかった。
「どうする、カリンバ?」
ドリアンが言った。「狩るのか?」
「あの様子じゃあ、どうやら餌目的でここに来た訳じゃなさそうだしな」
カリンバはニヤッと笑った。
そして腰に提げていたボーンソードを両手に持った。
(ベルントの荷物を背負っていた為、腰に提げていた)
「ありさ! 一番強い麻痺薬を奴の目に撃つんだ!
目ん玉なら、さすがに薬も浸透するだろう!」
「分かったわ」
ありさは射程場所を確保する為、走り出した。
「待て」ベルントが強い口調で言った。
「確実に仕留めるなら、命を狙う方が良い。
ありさが持っているお薬じゃあ話にならない」
ベルントはカリンバに預けていた荷物を持ち上げて立ち上がった。
大きなリュックを二つも背負っている彼は、辛そうに表情を歪ませた。
「あの崖の方に行くぞ。
ありさも来い。俺一人では時間がかかりすぎる」
ベルントは山の斜面にできた踊り場を指差した。
そこは今の場所よりもイグアナキメラとの距離が近い。
「皆は、俺達の準備が完了するまでキメラの注意を惹いてくれ。
ドリアン救出を手伝ってくれた礼だ。
手柄はカリンバ班にやるよ」
ベルントの足元からバチバチと音が発した。
「ありさに怪我させるなよ! 減点になるから」
カリンバの注意の意図が掴めないまま、ベルントは走り出した。
勢いをつけて跳ね上がり、崖まで十歩程て到着した。
ありさも同じ方法で崖を登った。
「よし、ダニエル、行くぞ!」
「何で、僕!?」
ダニエルの顔は真っ青になった。
「伝輝はドリアンと一緒に移動して隠れてろ!
ドリアンを頼んだぞ」
カリンバはそう言って、ダニエルを連れて走り出した。
ドリアンはムクッと尻を浮かせ、拳を片方だけ地面に着けた。
もう片方の腕は、包帯を添え木で固定されていた。
一歩進むごとに痛みが全身に伝わり、ドリアンは「くっ」と唸った。
それを見た伝輝は、慌てて近付いた。
「お、おんぶした方が良いかな?」
「坊や、俺の体重が何キロだと思っているんだ」
「あ、ごめん・・・」
伝輝はドリアンを見下ろしながら言った。
キメラの鳴き声と衝撃音が背後から聞こえてくるが、伝輝は何もできずにドリアンと一緒に歩いた。
◇◆◇
ダニエルの右手はアオダイショウに化けた。
カウボーイのように、アオダイショウを頭上でビュンビュン回し、どんどん伸ばした。
そして、間合いを十分とった状態で、イグアナキメラの足に打ち付けた。
イグアナキメラは反応し、頭を動かし、カリンバとダニエルの方を見た。
キメラは一歩前に進み、口を開いた状態で胴体を下げ、二人に襲いかかった。
ガキィン!
二人が避けた為、口に何も入っていない状態で、キメラの口は固く閉じた。
その時、牙と牙がぶつかり合う音が響いた。
「速ぇぇぇ・・・」
カリンバは体勢を整えながら呟いた。
ダニエルはほとんど腰を抜かしていた。
顔を地面から数メートルまで下げたイグアナキメラは、そのまま首を動かし獲物を探した。
視界にカリンバ達が入った瞬間に、口が開き、かぶりついた。
カリンバはダニエルを引っ張って避けた。
「オイッ! ちゃんと立てよ!」
ダニエルの膝は笑っていた。
「あの口と勝負しても勝ち目はないな。
ダニエル、ちょっとの間だけ一人で踏ん張ってくれ!」
カリンバはイグアナキメラの身体の方に向かって走った。
「えっ!? ちょっと!」
ダニエルは困惑しながらも、アオダイショウを振り回し、キメラの注意を惹きつけた。
胴体の方に向かったカリンバは、ボーンソードに力を込めた。
身体強化した二本足でジャンプし、一気にキメラに近付く。
猛禽類の足の付け根、鱗と羽毛の境界部分に狙いを定め、身体を捻り、二本の剣を振り下ろした。
ザシュッ!
切り落とすまではいかなかったが、手ごたえを感じた。
かなり深い傷を与えることができた。
キシャアアアア!
イグアナキメラは身体を起こし、空に向かって苦痛の声を上げた。
「もう一回同じところを攻撃すれば・・・」
着地したカリンバはボーンソードを握り直し、狙いを定めた。
「え?」
◇◆◇
切り崩されたような斜面にできた出っ張り部分に、ベルントとありさは到着した。
イグアナキメラに睨まれたが、下の方でメンバーが頑張ってくれているらしく、顔を背けてくれた。
ベルントは管理棟から持ってきた荷物をドスンと降ろし、中の物を取り出した。
それは火薬銃の部品だった。
ベルントはそれを慣れた手つきで組み立てた。
「実弾なんか、持ってきていたの?」
ありさは戸惑いながら言った。
「最後の切り札として準備だけしていた。
手投げ式の小型爆弾もあるぞ」
ベルントの口調はどこか楽しそうだった。
「俺が一緒に持つから、お前が狙いを定めて撃て。
そうすればカリンバ班に点が入るはずだ。
五日目は、指定キメラしか狩ってはいけないというルールではない」
「嫌よ。火薬や爆弾は使いたくないわ」
ありさが拒否すると、ベルントは顔をしかめた。
「何、綺麗事言ってるんだ。
他のメンバーも必死なんだ。
まぁ、良い。嫌なら組み立てと補助をしろ。
足の踏ん張りが効かないから、俺も一人では撃てないしな」
ありさは渋々しゃがみ、ベルントと一緒に銃を組み立てた。
出来上がったのは、ありさの身長程ありそうな特殊なバズーカであった。
ベルントは更にそこに詰めるロケットの準備もした。
「最新の化け技術も加わった、特別強大な火力をお見舞いしてやるぜ」
「後ろ、壁だけど、大丈夫なの?」
「ああ、旧式と同じにしないでくれ」
ベルントはニヤリと口元を歪ませた。
腰を下ろした状態でベルントは肩に担いで構えた。
その前にありさがしゃがみ、バスーカの狙いを微調整した。
「くらえ!」
トリガーを引き、ベルントはバズーカを発射させた。
ドゴォォォン!
小型ロケットはイグアナキメラの胴体側面に直撃した。
キメラの鱗や肉片が炎に包まれた状態で周囲に飛び散った。
シャアアア・・・
翼に火が燃え移り、マグマを浴びたように、イグアナキメラの身体は赤い炎に包まれた。
苦しみから逃れる為に、無造作に足を動かす。
「熱ーっ!」
カリンバとダニエルが必死の形相で伝輝とドリアンのところまで走ってきた。
「いきなり、ぶっ放すんじゃねーよ!」
カリンバが怒りを込めて叫んだ。
「許してやってくれ。
ベルント自慢のオモチャのおかげで、片翼と背中が吹っ飛んだ。
奴は飛んで逃げることはできない。
ベルントは次に燃焼を抑える薬品を奴に浴びせるだろう。
そうすれば、お前達の手で確実に仕留められる」
ドリアンが説明している内に、イグアナキメラを覆っていた炎が消えていった。
所々に火種を残しながら、全身黒焦げの姿を現した。
血肉が焼ける異臭が辺りに漂う。
キメラの片翼は抉れ、地面に一部分が落ちていた。
◇◆◇
「よし、後はカリンバと伝輝が止めを刺すだけだ」
崖の上でベルントとありさは安堵の表情を浮かべた。
ググググググググ・・・
突然、地面が揺れ始めた。
地震かと思ったが、そうではないとベルントは判断した。
イグアナキメラの身体が小刻みに震えているのだ。
それが地鳴りとなってここまで響いてきた。
「見て!」ありさが声を上げた。
抉れた翼の付け根から、メキメキと骨や筋肉が伸びてきた。
羽毛が生え、まだ炎が残っている場所もあるが、先程とほぼ変わらぬ姿に戻った。
「な・・・!?」
その様子は、下のカリンバや伝輝達も見ていた。
「再生した・・・!?」
「やっぱりか」カリンバがボソッと言った。
「やっぱりって何だよ? 知っていたのか!?」
ダニエルが半泣きの状態で尋ねた。
「さっきベルント達がミサイルぶっ飛ばす前に、キメラの足を攻撃したんだが、二度目の攻撃をしようとして、その箇所を見たら、傷口がふさがっているように見えたんだ」
「キメラは動物が作った生物商品だ。
一般生物を超える細胞再生力があってもおかしくない」
ドリアンは悔しそうに言った。
同じく悔しそうに悪態をつきながら、ベルントは再びバズーカの準備を始めた。
ロケットを詰め、肩に担ぐ。
「この野郎・・・」
その時、イグアナキメラは折りたたんでいた翼を一気に広げ、風を巻き起こした。
密林の時よりもはるかに強靭な風力で、最もキメラと近い距離にいた二人を襲った。
「ぐあぁ!」
自分の身体を支えきれないベルントは、強風にあおられ、バズーカを手放してしまった。
背後の置いてあった他の荷物にバズーカはぶつかった。
「はっ!?」
翼に残っていた火種が風に乗り、ベルントとありさの後方へ飛んで行った。
ベルントはありさを抱えて崖から飛び降りた。
その直後、背後で大爆発が起こった。
ガラガラガラガラ・・・
「ありさー!」
「ベルント!」
追い風に抵抗しながら、カリンバが二人が転げ落ちた方へ向かった。
イグアナキメラは空中を浮遊し始め、やがてその巨体を上空まで運んで行った。
風が落ち着き、伝輝、ダニエル、ドリアンも走った。
ベルントとありさはグッタリとした様子で倒れていた。
ありさのソックスが破れ、血がにじんでいた。
爆風や火の粉を浴びたベルントの背中は、大きな火傷を負っていた。
ありさをかばう為、全身を酷く打ち付けた彼は、周りの声掛けに反応できなかった。
「そんな・・・どうしよう・・・」
ダニエルの声は上ずっていた。
火薬や焦げた臭いが鼻を刺激する。
「急ぐぞ」
最初に立ち上がったのはカリンバだった。
気を失い、四足歩行姿に戻ったベルントを肩に担いだ。
「伝輝、ありさの足の傷を消毒して絆創膏を貼ってやれ。
ダニエルはドリアンとありさの移動のサポートを頼む」
「どこに行くつもりだ?」
ドリアンが落ち着いた声色で尋ねた。
「ジャンヌ班だ!
ベルントとお前の怪我を治せるのは、あいつらしかいない!
ジャンヌ班も馬鹿じゃない。
きっとキメラの存在を察知して、どこかに避難しているはずだ。
まずはここから一番近い管理棟に行って、そっからジャンヌ班を探す!
密林内みたいに身体強化した状態で走れば、そんなに時間はかからないはずだ。
滅茶苦茶疲れるけどな!」
カリンバは一息ついた。
「迷っている暇はねぇ。
大丈夫だ。あいつらの化け治療の腕は、俺が保証する」
ニッと笑い、カリンバは先陣を切った。
オランウータンの雄成体の体重は60キロ以上あるそうです。




