卒業試験 個人点途中経過発表
四日目試験終盤で、ありさと合流した伝輝とカリンバは、東の管理棟で試験結果発表を待つ・・・
結果発表の時間が近づき、シャワーを浴びたカリンバ班の三人は、一階ロビーに向かった。
松子班とジャンヌ班も集まっており、壁の液晶大画面を見ていた。
カリンバはジャンヌを見た。
野外で水浴びしているのか、目立った汚れは無い。
三人共、コンディションの良さを感じられた。
化け治療が出来るクララの存在は大きいと、カリンバは思った。
一瞬、ジャンヌと目が合った。
だが彼女は顔をしかめて、すぐにそらした。
「ありさ、復帰したのか?」竹男が声をかけた。
松子班も皆、小綺麗な姿をしている。
カリンバ班がいつも利用していたソファとミニテーブルは、松子班が占有していた。
竹男と梅千代がぴったり横に並んで座り、肩を組んでいる。
「まぁね」
ありさは素っ気なく返事した。
「随分と、動物が揃っているな」
(ジャンヌに声をかけにくい為)カリンバは、松子に言った。
「カリンバ、タブレットを見てないの?
五日目試験課題と一緒に、管理棟の大画面にだけ、これまでの個人点が発表されるのよ」
「マジ!?」
カリンバは目を見開いた。
「大画面しか見てなかったからな・・・」
「細かい連絡事項は、タブレットの方が詳しく見られるわよ。
この情報も四日目試験発表時に出ていたし」
松子は呆れたように言った。
「あ、順位が出た!」
ハラミの無邪気な声がロビーに響いた。
◇◆◇
個人点途中結果
掲載順:順位、氏名、四日目終了までの点、( )内は三日目終了までの点
☆1~9位が合格ラインとする。
1位 ドリアン 230点(75点)
2位 松子 180点(90点)
3位 ハラミ 170点(55点)
4位 竹男 155点(85点)
5位 ジャンヌ 125点(60点)
6位 サンド 115点(50点)
7位 梅千代 100点(50点)
8位 ありさ 95点(35点)
9位 ベルント 70点(95点)
「ヤッター! 3位だ」
ハラミがピョンピョン跳ねながら言った。
「ハラミ! ちょっとは気を遣えよ」
頭を下げるクララの肩を抱きながら、ジャンヌがたしなめた。
「松子! 梅!
やったな、全員合格ラインだ」
竹男が梅千代を抱きしめた。
松子は二人の様子を、まぁまぁ満足げな表情で眺めた。
カリンバ達は、続きの順位を早く見たくて仕方がなかった。
10位 ダニエル 60点(65点)
11位 伝輝 50点(10点)
(勝ったのは、俺なのに、順位は負けてるんだ)
伝輝は心の中で軽く凹んだ。
12位 マーブル 35点(40点)
13位 グレイ 30点(75点)
13位 コウメイ 30点(40点)
15位 カリンバ 25点(55点)
16位 ガリレイ 20点(50点)
17位 クララ 10点(35点)
18位 ロナウド 5点(55点)
「ふわぁぁぁん!」
一瞬静まり返った空気を破ったのは、クララの甲高い泣き声だった。
ジャンヌが頭や背中を撫でて慰めていた。
「カリンバ・・・」
クララの声が響く中、伝輝は恐る恐るカリンバを見上げた。
カリンバの表情は青ざめ、口を強く閉ざしていた。
すぐにでもクララの様に泣き崩れそうだったが、持ち前の見栄っ張りな性格がそれを許さなかった。
「早く課題内容、表示されないかしら?
大事なのは、そっちよ」
ありさは落ち着いた様子で言った。
「五日目課題
所要時間 本日正午~翌日正午まで
指定大型キメラを提出する(生死問わず)・・・1頭/150点
●提出方法・・・タブレットの呼出アラームを1分間鳴らし続ける。
班長所持のタブレットに、キバ組織からスタッフ呼出機能データを送付する。
班長は試験開始までにインストールし、使用可能な状態にしておくこと。
使用方法に不明点がある場合、試験開始までに管理棟ロビーのグル―パー島スタッフに質問すること。
●アラームは1分間鳴らし続けないといけない。
途中でアラームが止まった場合、始めから1分間鳴らすこと。
●課題目的以外のアラームは、減点対象とする。
ただし、緊急時における救難信号としての使用は可とする場合がある。
●指定大型キメラは試験開始と同時に3頭放たれる。
3頭までなら、狩り頭数制限なし。
●分散点評価あり。
◇◆◇
「行くわよ」
松子が静かに一言だけつぶやき、ソファから離れた。
竹男と梅千代も、先程の喜びの表情を消し、一緒にロビーを出た。
「僕達も行くぞ」ジャンヌが二人に言った。
出口に向かう際、ジャンヌはチラッとカリンバを見た。
彼女の強い眼差しは、不機嫌そうでも、同情でも、勝ち誇ったものでもなかった。
何かを、伝えようとして、あえてそれを口に出さないようだった。
カリンバは、胸ぐらを掴まれて、上半身を激しく揺さぶられた気分になった。
おかげで、少し冷静になれた。
「二頭だ・・・」
伝輝とありさはカリンバを見た。
「二頭、提出すれば、全員合格ラインに立てる」
「そんな簡単なことを言うなよ」
伝輝は思わず弱音を言った。
「いいえ、不可能じゃないわ」
ありさは画面を再び見て言った。
「え?」
伝輝は聞き返す。
「今回の課題は、他の班から奪った獲物でも点になるのよ」
「へ? 何で?」
「ちゃんと読んだの!?
今回の点数評価基準は、提出のみ!
つまり、誰が捕まえても、アラームを鳴らした班に点が入るのよ!」
「あ・・・」伝輝も画面を見た。
四日目のカード争奪以外は、どの班も別のメンバーの獲物を奪うことはなかった。
考えたら当然だ。
狩りから一連の流れを踏まないと、点数が入らないルールだったからだ。
しかし、今回は違う。
提出さえできれば、点が入る。
アラームは一分間鳴らさないといけない。
その間に奪うこともできるのだ。
「いかに、キバ組織がフェアプレーを尊重しない連中だってのが、よく分かるぜ」
カリンバは皮肉っぽく言った。
今までの彼に戻った。伝輝は安心した。
「奴らが課題を見た途端に、ロビーを離れたのも、みっちり作戦会議をする為だろうな。
狩るか奪うか、四日目以上に駆け引きが重要になってくるな。
こうしちゃいられねー。
俺の寝室で、計画立てようぜ!」
カリンバは意気揚々と階段の方に向かって歩いた。
ありさもついて行った。
伝輝はまだ画面を見ていた。
「伝輝、早く来いよ!」
カリンバが大声で呼ぶ。
「あのさー!」
「何だよ!?」
「大型キメラって、どんなキメラなのー?」
「「あ・・・」」
カリンバとありさは、言葉が出てこなかった。
◇◆◇
受験生にとって、試験と試験の間は、自由時間・休憩時間だった。
しかし試験官であるキバ組織員は違った。
昼夜交代制で、各班に二~三人をつける。
試験が終わればすぐに採点に入り、採点が終わっても次の試験に向けてミーティングを行う。
西の管理棟の控室で、シマハイエナのヒレとロースが、グッタリと椅子に座っていた。
「あーもう、やってらんねー」
ヒレが舌をベロンと机上に垂らした状態で言った。
「四日目と五日目連続ってのは、キツイな。
集中力が途切れて、受験生が気配を察してないか心配だ」
椅子にもたれかかり、ロースは天井を見ながら言った。
「気配・・・。
そうだ! あの筋肉デブ猿、すっげームカつくぜ!
俺に指図しやがってー!」
ヒレが赤色バンダナから出ている大きく尖った耳をピンと立てた。
「オランウータンのドリアンのことか?
どこがデブなんだよ。
あんなに鍛え抜かれた身体は見たことないよ。
てか、お前が言うな」
ヒレはムッとした表情で、ハイエナにしては、太く短い腕でバンバンと机を叩いた。
「うるせー!
あの野郎、試験官の俺を完全に舐めきってやがる!
今回の受験生って、生意気な奴、多くねぇか?
まともなのは、ハラミくらいだ」
ヒレの言葉を聞き、ロースは四日目試験でのありさとのやりとりを思い出した。
「カリンバ班の現在位置は教えられない」と言っているにも関わらず、ありさはしつこく聞いてきた。
やっと黙ったと思ったら、随分上から目線で笑っていたように見えた。
(ロースは催眠をかけられていたことを、解けた後も気づいていない)
「まぁ、お前の言いたいことは分からなくもないけど・・・」
「次が最終日だ。
あいつらを簡単に合格させちまうのは、癪だぜ」
「だからって、妨害は厳禁だぞ」
「分かってるって、ロース。
けどさ、何か良い方法はないかなー。
俺達が受験生だった時にはさ、休憩時間に、試験官だったクッキーに小麦粉時限爆弾しかけたじゃん」
絶対、分かっていない、とロースは思った。
その時、控室のドアをノックする音が聞こえた。
「よう、お疲れさん」
両腕の筋肉が物凄く太い雄カンガルーが中に入ってきた。
「「ラッセル!」」
ヒレとロースはガバッと立ち上がった。
「久しぶりじゃん!
顔見ねーから、いないのかと思ってたぜ!」
ヒレが椅子から飛び降り、ラッセルと言う名の雄カンガルーに抱きついた。
「東の管理棟のロビー担当だったんだよ。
でも、それも四日目まで」
ラッセルはグル―パー島出身だが、少年期にキバ訓練所に通い、二人と同時期に試験を合格した。
グル―パー島スタッフには、キバ訓練所出身の者も多く、試験官も務めている。
「荒れてるな。ドアの外にも声が漏れてたぞ」
「そーなんだよ、ラッセル!
聞いてくれよ!」
三人は椅子に座り、ヒレは少々(いやかなり)誇張しつつ、受験生達の態度について話した。
「なるほど。
俺もドリアン班のことは、西の管理棟や、密林の管理棟スタッフから少し聞いていたぜ。
ダニエルっていうヒトのガキも、一見礼儀正しそうだが、すげー見下した態度らしいな」
ガリガリと食用木の根っこを齧りながらラッセルは言った。
「だろだろ?
なぁ、ラッセル。試験中に奴らを困らせる方法ってないか?
試験中はさ、何が起きても基本的に自己責任だからさ」
ヒレはニヤニヤしながら尋ねた。
「そうだなぁ。
五日目課題って、確かまたキメラ狩りだったよな?」
「ああ。どんなキメラなのかは、受験生に伏せた状態で実施する」
ロースが言った。
「じゃあ、俺がその試験を面白くしてやるよ。
俺、普段はキメラ飼育員をしているんだ。
一般動物じゃあ、行けないところにも行けるんだぜ」
ラッセルはそう言って、ズボンのポケットからジャラジャラと鍵束を取り出した。
「マジかよ! ラッセル、最高だぜ!
さすが、小麦粉時限爆弾発案者!」
ヒレは嬉しそうに言った。
「おい、試験妨害しちゃ駄目なんだぞ」
ロースは不安そうに二人を見た。
「もちろんさ。なぁ、ラッセル」
「ああ」
ヒレとラッセルは、楽しそうにニヤニヤ笑った。




