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卒業試験 四日目 ⑧ ベルントの反撃

ダニエルとの戦いを終えた伝輝は・・・

 伝輝はダニエルの銅色カードを自分のポケットに入れた。


 その後、左手でダニエルの右手を掴む。


 ダニエルは「ひっ」と小さく声を上げた。

 彼は、伝輝の左手も化けを発動すると思っているのだろう。


 伝輝は右手を傍の地面に当てた。

 ガラガラと地表が割れ、伝輝はその場をサッと離れた。

 ギリギリまで身体を押さえられていたダニエルは崩れる地表と共に、地面の溝にはまってしまった。


「くそー、人間めー!」


 ダニエルは悔しそうに大声を上げた。

 溝の幅は狭く、深さがある。

 身動きが取れず、ダニエルは虚しく地上を仰いだ。


 溝の底から、ダニエルが悪態をついているのが聞こえる。


「でも、あいつはあいつで、ちょっと可哀想な奴だな・・・」

 きっとダニエルは、兄弟と遊びたくても遊んでもらえず、下っ端扱いで馬鹿にされてきたんだろう。

 それで、あんな人を見下すような態度をとるようになったんだな。


 夜空を見上げる。

 木の葉の隙間から、星が見える。


「まごころ町に戻ったら、ドリス達と一緒に、ヒーローごっこの練習でもするかな」


 数年後、優輝にねだられても困らないようにしておこう。

 伝輝はそう思った。


     ◇◆◇


 ダニエルからカードを奪うことに成功した伝輝は、達成感で一杯だった。

 あとは、この三枚のカードを、試験終了まで持っていれば良い。

 伝輝はダニエルが落ちている溝に背を向け、歩き始めた。


 カリンバはどこに行るのか分からない。

 ボディバッグから簡略地図と方位磁石を取り出した。

 先に東の管理棟まで戻った方が良いと考えたからだ。


「あれ・・・?」


 伝輝は地図を見て、重大なことに気付いた。


 自分が今、どこにいるのかが分からない。

 どこをスタート地点にして、どの方向に歩めば、管理棟に行けるのかが全く分からない。


 伝輝は地図と川を見た。

 地図によると、密林の西側で、川は二つに分かれている。

 しかし、どちらの川も休憩日に通ったことがあるが、目の前にあるような小さなものではなかった。

 この川は小さすぎて、簡略された地図に記載されていないのだ。

 

「と、とにかく東に進もう」

 伝輝は地図を見るのを諦めて、方位磁石を見た。

 磁石の針はピンっと安定している。

 これを信じて、伝輝は歩き始めた。


 木に登った方が良いかもしれないと思ったが、行きはカリンバの手助けがあって進めた。

 一人で、磁石を見ながらだと、歩いたほうが速いと判断した。


 密林の中は暗く、足元に黒い何かが沈殿しているようだった。

 今すぐにでも、その沈殿が背後からブワッと立ち上がってくるような気がする。


 伝輝は耳と目を凝らしながら進んだ。

 心臓がバクバク動く。

 ほんの弾みで、恐怖が口からあふれ出て、動けなくなってしまいそうだ。

 生き物の気配を感じたら、すぐに木に登って逃げられるよう、木の幹に触れながら進んだ。


 そんな伝輝の様子を、数十メートル先から照準器越しに見ている動物がいた。

 

 わざと可視レーザーを使用し、伝輝のハーフパンツとハイキングシューズの間の皮膚を狙う。


 パシュンッ!


「!?」


 ふくらはぎに、軽い痛みと、冷たさを感じた。

 立ち止まって、伝輝は周囲を見る。


 暗闇の中に形だけがくっきりと浮かぶ木々。


 気のせいかと思い、再び歩き始めようとした。

 その時、ふくらはぎが急に痺れだした。


 動かそうとすると、足がジンジン響く。

 やがて、立つことも辛くなってきた。


「何なんだ、一体・・・?」


 ノシノシと、靴底が地面を踏みしめる音が聞こえてきた。

 音がする方を向くと、長身の二足歩行姿の動物が近づいて来ていた。


 銃口を前に向けながら歩いてくるのは、ドリアン班の副班長、グレート・デーンのベルントだった。


 犬の中で最大級の大きさを誇るグレート・デーン。

 灰色の毛並みと、だらんと垂れた両耳をしている。


 その姿は、暗闇に溶け、巨人の影のようだった。

 光る黒い瞳と、赤いレーザーが伝輝を見据えていた。


「俺がお前を狙っていたのを、気付かなかったのか?

 挨拶代わりに、ヒトが視認できるレーザーを使用したのに」


 そう言って、ベルントはレーザーを切った。


「お前の持っている三枚のカード、全てをいただく。

 麻酔銃だから、痛い思いはさせないさ」


 伝輝はドキッとした。


 ダニエルの分はともかく、なぜ、ありさのカードを持っていることを知っているんだ?


「ドリアンが、カリンバからカードを奪った時に気付いたんだ。

 彼は、一枚しかカードを持っていなかったからな」


 カリンバは、ドリアンに負けたのか!


 ショックだった。

 遂に足の痺れに耐え切れず、伝輝は腰を下ろした。


 ベルントはそれを静かに見下ろす。


 このチャンスを逃してはならない。

 確実に仕留める為に、決して慌てたりはしない。

 近すぎるほどに、距離を詰め、銃を構える。


 ドリアンがまだここに来ない以上、単独でやるしかなかった。


     ◇◆◇


 長く逞しい両腕で枝や幹を掴み、ブゥンブゥンと身体を回転させ、ドリアンは木と木の間を素早く進んで行く。

 ベルントに指示を出した後、自分もダニエルと伝輝のところに向かっている。


 カリンバの後を追った際、かなり密林の奥まで進んでいたようだ。

 予想以上に、目的地にたどり着くのに時間がかかっている。


 ドスン!


 ドリアンは枝の上に着地した。

 頭上の木の葉が振動で揺れる。


 馬鹿を言うな。

 俺は、この数日間、ほとんど木の上で過ごしてきた。


 どの受験生よりも、この密林のルートは把握しているはずだ。

 カリンバと一緒に地上に降りた時も、自分がどこにいて、ダニエル達とどれくらい離れたかを大体分かっていたはずだ。


 それが今はどうだ?

 己の感覚で進めば進むほど、目的地にたどり着けなくなっている。


 フッと、ドリアンは地上を見下ろした。


「ハッ!」


 その草むらは、カリンバと自分が戦った場所だった。

 つまり自分は、ずっと密林内をグルグル回って戻って来ただけということか。


「やられた・・・」


 ドリアンは奥歯を噛みしめた。


     ◇◆◇


 ガチャリ


 ベルントが銃を顔に近付け、構える。

 銃口が伝輝を狙う。


 伝輝の片足は感覚を失い、力を入れて立ち上がることが出来なかった。


 何とかして、カードを守らないと。


 バチバチと右手に力を込める。


 カチャッ! パンッ!


 銃声が響いた。

 伝輝は反射的に両手を頭の横側に上げた。

 すぐ目の前の地面からチロチロと煙が昇った。


 どこが、痛い思いはしない、だよ・・・

 伝輝は思った。

  

「動かない方が、下手なところに弾が当たらず、ダメージを最小限で抑えることができるぞ」

 ゆっくり、ベルントは円を描くように進み、伝輝の真正面側に立った。


 伝輝は諦めたかのように、頭を下げ、両手を地面につけた。


「顔を上げろ。

 この麻酔弾は脳に近い所に当たった方が、安全で効果も高いんだ。

 威力を弱めて、お前が怪我しない様にするから、額をこちらに見せろ」


 小さな子どもを諭す様に、ベルントは優しく落ち着いた声で言った。

 伝輝は言われるがまま、顔をベルントに向ける。


 口を一文字につむぎ、キッと睨んでいる。


「そうだ。

 お前には、悪いが、合格は俺達がもらう・・・」

 ベルントは引き金にかけた指に力を込めた。


 ビシビシビシビシィ!


 突然、ベルントの足元の地面に亀裂が入り、大きく崩れ出した。


「うわっ!」

 バランスを崩したベルントは、銃口を下げた。


 気配を感じた。

 顔を上げると、周辺の大木が幹ごと倒れてきた。


 ズドーン!


 辺りに土や木の葉や砂が飛び散る。


 突然の衝撃に、辺りがザワザワと音を立てる。

 家畜の鳥や小動物達だろうか。


 右手の平を地面から離した。


 少し、派手にしすぎたかな。

 自然破壊と判断されて、減点されたらどうしよう。

 伝輝は不安になった。


 動くもう片方の足で、動かない足を引きずりながら、何とかその場を離れようと伝輝は進み始めた。


     ◇◆◇


 溝にはまったおかげで、ベルントは大木に押しつぶされずに済んだ。


 伝輝を見つける前に、小川の傍で、溝に落ちているダニエルを見つけた。

 彼はふてくされて、伝輝にカードを奪われたこと以外、何も話さなかった。

 ベルントは、ダニエルが自分のミスか何かで、溝にはまったと思っていた。

 違和感のある地割れだったが、地形の隆起が激しい地域なので、あまり気にしていなかった。


 伝輝(こいつ)が原因だったとは・・・


 ググッと大木を動かし、溝から顔を出す。

 伝輝は足を引きずりながら、こちらに背を向け歩いていた。


 バタン!


 ベルントは力いっぱいに大木をどかし、溝から飛び出す。

 素早く銃を構え、伝輝を狙う。


 もう、相手に気を遣っている暇はない。


 引き金に指をかける。


 伝輝も背後に気付き、振り返る。


 スパーン!


 再び、銃声が響いた。


 振り返った伝輝は、ベルントを見たまま立ち尽くす。


 ベルントは、銃を構えたまま、伝輝を見ている。


 バタン・・・


 倒れたのは、ベルントの方だった。


 伝輝の足元に、銃痕がつき、小さな煙が昇っていた。


「何で、どうして・・・?」


 伝輝は訳が分からず、倒れたベルントを見ていた。


 カサカサ・・・


 頭上から、今までと違う葉の擦れる音がした。

 伝輝はビクッと反応し、上を見る。


 シュタッ!


 木の上から、動物の影が飛び降りてきた。


 暗闇の中で、その姿が伝輝の目に、くっきりと浮かび上がった。


 華奢な身体に、長筒の銃を背負っている。

 キャップを被り、その後ろから長い黒髪が流れるように垂れている。

 その下はショートパンツと二―ハイソックスとショートブーツを履いている。

 ジャケットをはおった首元と、パンツとソックスの隙間から白い肌がのぞく。


「こんな近距離で、麻酔銃を撃とうとするなんて、危ないことしようとするわね」


 彼女はベルントを見ながら言った。


「大丈夫、伝輝?」


「ああ、ありがとう・・・」


 伝輝は、胸が熱くなるのを感じた。


「ありさ」


 ありさは、微笑んだ。

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