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卒業試験 四日目 ⑥ 伝輝VSダニエル(前編)

伝輝は、四日目試験のターゲットである、ダニエルと対峙していた・・・

「どいつもこいつも、ムカつくよ・・・」


 ダニエルはつぶやいた。


「どこに行っても、何をしても、僕は誰かと比べられる。

 故郷を離れて、異なる動物達と訓練しようとしたのに、年齢も性別も近い人間が同期なんて。

 皆、お前を特別扱いする。

 ただ人間ってだけで、僕よりも成績が悪くても、皆、君を評価するんだ!」


 伝輝はダニエルの発言に驚いた。

 彼は、そんなことを思っていたのか。

 ずっと、見下されていたと思っていた。


「今日は、良い機会だ。

 僕と君とでは、格が違うってことを、他の受験生たちに見せてやるよ」


 そう言ってダニエルはスッと右手を上げ、伝輝を指差した。

「お前のターゲットは誰なんだ?」


「ダニエルだよ」


 伝輝の言葉に、ダニエルは表情を歪ませた。

「どうせ、そうしろってカリンバに言われたからだろ?

 ダニエルなら、お前でも何とかなるだろうって」


 伝輝は黙った。

 その通りだ。しかし、素直にうなづけなかった。


「馬鹿にしやがって・・・。

 僕とお前を一緒にするな」


 その発言に、伝輝は苛立ちを感じた。


「ダニエルこそ、ずっと俺を見下して、馬鹿にしてきたじゃねーか。

 何で俺をターゲットにしたんだ?

 カリンバを倒した方が、周りも評価するんじゃないか」


「黙れ。

 年下のくせに、刃向うな!」


 年下?


「入会した時期は同じでも、僕は君より年上だ。

 後輩なら、先輩を敬う態度を見せるのが当然じゃないのか?」


 伝輝は、ダニエルがなぜそんなことを言うのか、すぐに理解できなかった。


「君は僕だけではなく、他の訓練生に対しても、友達のように軽い態度で接する。

 それがムカつくんだ。

 日本列島の人間なら、もっと礼儀正しいと思っていたよ」


「別に、礼儀とか敬うとか、必要ないだろ。

 入会時期は違うけど、同じ訓練生なんだし。

 カリンバ達も先輩面なんかしていなかった。

 それに俺は周りに対して、ナメた態度をとっているつもりはないよ」


 伝輝は言った。

 ダニエルは右手をおろし、ハァーッとため息をついた。


「やれやれ。これだから、庶民は。

 やはり君には、僕との格の違いを見せてあげないと分からないようだな。

 教えてあげるよ。

 君がいかに、低レベルな動物であるかってことをね」


 シュッ!


 一瞬で、伝輝の視界から、ダニエルが消えた。

 動揺し、辺りを見渡す。


 ドスッ


 背中に衝撃を受け、伝輝はよろけた。

 すると、ダニエルにグイッと胸ぐらを掴まれた。


「この程度のスピードにも反応できないんだな、君は」


 ダニエルは伝輝を掴んだ腕を上に伸ばした。

 呼吸が出来ず、伝輝は足をジタバタさせた。


 パッとダニエルが手を離し、伝輝はその場で尻もちをついた。


「僕の家は、北アメリカ地域有数のTransformerトランスフォーマー養成所だ。

 両親も、姉や兄達も、優秀な化け能力者であり、数少ない動物界公認のトランスフォーマー指導員だ。

 僕も、その公認指導員になるべく、こうして訓練している。」


「そんな凄い家なら、なんでわざわざキバ訓練所に入ったんだよ。

 よそに行く必要ないじゃん」

 伝輝は、ゲホゲホと呼吸を整えながら言った。


 ダニエルの表情が少し暗くなった。

「あそこじゃあ、誰も僕を認めてくれない」


 伝輝はダニエルを見た。


「どんなに僕が頑張っても、家族は『ダニーはまだまだ未熟だ』『もっと練習が必要だ』って言うんだ。

 親は『マリーやケインやジョンを見習え』って言うけど、マリー達は練習相手にもなってくれない。

 僕が一人で練習しているのをチラリと見て『下手くそ、ジョンの方が上手い』って笑うだけなんだ」


 「マリー、ケイン、ジョン」とは、彼の兄弟の名前だろうと、伝輝は解釈した。

 ダニエルは、ブレーキが効かなくなったかのように、話し続けた。


「僕がキバ訓練所に入会が決まった時も、鼻で笑って『ダニーには無理だ』としか言わなかった」


「そんなに兄弟と仲が悪いのか?」


 伝輝の質問に、ダニエルは眉をしかめた。

 ピンッと伸ばした指で、メガネをクイッと上げた。


「仲が良いも悪いもないよ。

 一番歳の近いジョンでも、十歳も年齢が離れている。

 ケインとジョンは、よく一緒に遊んでいたけど、僕が交ぜてもらえるわけないだろう」


 十歳か・・・。

 俺と優輝と同じ年の差だな、と伝輝は思った。


「ちょっと冗談言っただけで、生意気だと頭を叩かれるよ。

 兄や先輩に、へりくだるのは当然のことだろう?

 認めてもらうには、たった一つしかない。

 化けの実力を上げることだ。

 僕は優秀な化け能力者の肩書を得る為に、この試験に参加した。

 必ず、合格して、褒めてもらうんだ」


 バチバチと、ダニエルの右手から音が発した。


「上位を予想される受験生は、ドリアンやベルントが倒してくれる。

 僕は、確実な手段で、合格を狙うよ。

 丁度、一番ブッ倒したいと思っていたところだし」


 ダニエルは、身体強化した腕で、伝輝がいるところめがけて拳を振り落とした。

 伝輝が避けると、爆発したように土や石が吹き飛んだ。


「合格のついでに、ガールフレンドの紹介もしたいんだ。

 その為には、邪魔者は消すに限る」 


     ◇◆◇


 伝輝は立ち上げり、背中に装備していた折り畳み槍を手に持った。

 素早く接続し、槍の刃をダニエルに向けて構えた。


「僕としたことが、色々話し過ぎたかな。

 まぁ、もうすぐ口がきけなくなる相手だから良いか」


 少し間合いがあるとはいえ、刃物を向けられているにも関わらず、ダニエルは全く気にしない様子で不敵な笑みを浮かべていた。

 ダニエルはコートを着ているだけで、目立った武器も持っている気配はない。

 なのに、その余裕を持った佇まいに、恐怖さえも感じた。


 狩りでもなければ、家畜でもない相手に、槍を向けるのは、伝輝にとって抵抗があった。

 しかし、そうでもしないと、立っていられないほどに、怯えている自分もいた。


「うわぁぁぁ!」

 伝輝は叫びながら、ダニエルに向かって走った。

 歯を食いしばり、ダニエルの身体を突こうと槍を前に押し出した。


 再び、ダニエルは伝輝の視界から消えた。

 槍は虚しく空を突くだけだった。


 しかし伝輝はすぐに槍を自分の背後に振り回した。

 ダニエルは、バク転しながら、それを避けた。


「一応、同じことは二度も通用しないってことか。

 良かった、安心したよ」


 そう言うと、ダニエルは別方向に走り出した。

 伝輝もそれについて行った。


     ◇◆◇


 地上を普通に(・・・)走るダニエルの背中を、伝輝は追った。

 右手でグッと槍を握りしめる。

 訓練のおかげで、自分の力で柄を折ることは、ほとんどなくなっていた。


 このままダニエルについて行くのは、罠かもしれないと思った。

 それでも伝輝は逃げようとも、戦いを避けようという考えもなかった。


 ダニエルの話をまともに聞いたのは、今回が初めてかもしれない。

 何となく、伝輝はダニエルに近しいものを感じ始めていた。


 フッ・・・!


 ダニエルの背中が消えた。

 木に飛び移ったのだろうか?

 伝輝はキョロキョロしながら、周りを見た。


「わ!?」


 足元の異変に気が付いた。

 濡れている。


 どうやら川の方へ来たようだ。


 大きな川から枝分かれした、小さくて流れの緩やかな川だった。


 伝輝は立ち止まり、川を背にして呼吸を整えた。

 ダニエルは、俺という獲物を狩る為に、息を潜めて隠れているはずだ。


 自慢ではないが、実戦においては、狙うよりも狙われることの方が多かった。

 敵がどこから襲ってくるのか、伝輝は五感を研ぎ澄まして探った。


 ダニエルはどこだ?


 背後の川の音が、耳に障る。

 振り返って水の流れを見る。

 浅くて緩い。

 日中なら、足元だけ濡らして、バシャバシャ水遊びするには丁度良いだろう。


 伝輝は再び川に背を向けた。


 その時だ。


 背後から縦横に伸びた巨大な口が上下に開いたまま現れた。


 伝輝は一瞬でその口に飲み込まれた。


     ◇◆◇


 伝輝がいた川べりには、体長十メートルはあろうかという巨大なナイルワニがどっしりと地に体をつけていた。 

 分厚い鱗状の皮膚に埋もれた小さな目をクルクルと動かしている。

 体の三分の一を占めていそうな口は、ピッチリと閉ざされ、槍の刃の部分だけがはみ出ていた。


「やれやれ、大したことないみたいだな」

 短くて太いワニの後ろ足から、ヒョコッとダニエルの顔が現れた。

 ダニエルは、ワニの背中へ、寝そべりながらよじ登った。


 グレーを基調とした皮膚は、タイルのように整列しており、ワニの動きに合わせてしなやかに曲がる。

 硬さと弾力を併せ持った体に、ダニエルはウットリしながら頬をすり寄せた。


 今頃、人間はこのワニの口の中で、身動きとれずに苦しんでいることだろう。

 ほとんど隙間の無い口内で、窒息するのを待つしかないはずだ。


「やっぱりワニは、この世で一番素敵な生き物だよ」

 ダニエルは左手で、ナイルワニの上あごを撫でた。

「でも、どうしようかな。

 このままほっておくと、本当に人間の奴、死んじゃうかもしれないし」


 そう言いながら、ダニエルはナイルワニの口の先端を見た。


「ん?」


 槍の刃が、微かに左右に動いている。

 ダニエルはもう一度、ワニの上あごに触れる。

 振動が内側から伝わってきた。


 ドス!


 ワニの口の付け根に近い部分から音がした。

 よく見ると、その音に合わせて、槍の刃が上下に動いている。

 そして、槍の柄が徐々に口から出てきた。


「ふーん。

 悪あがきは、動物並みに出来るみたいだね」


 ダニエルは、動く槍を見ながら、冷たく言った。


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