表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/60

卒業試験 四日目 ⑤ ジャンヌのターゲット

ドリアンとの戦いに敗れたカリンバは・・・

 ドリアンにカードを奪われた後、投げ飛ばされたカリンバは、大木に身体を打ち付け、ズルズルとずり落ちるようにして地面に倒れ込んだ。


 身体強化した状態で受け身をとったので、大きなダメージは受けていないが、負けたことの悔しさや、腹にくらった重い一撃の所為で、しばらく動けなかった。


「完敗か・・・」


 意外にも頭はすっきり冴えていた。


 恐らくドリアンは、「野生回帰派」だ。


 野生回帰派とは、動物界という社会は、本来のあるべき姿ではないと主張し、人間界の野生動物の生き方を目指そうと言う思想のことだ。


 時々訓練所に通うだけだったのは、単に実力があって特別扱いを受けていたからだけではなかった。

 武器や武道、コンピュータや医療、科学。

 野生とはかけ離れた特殊訓練所とは、彼は関わりたくなかったのだろう。


 じゃあ、何で、キバ訓練所に入った?


「目的の為に、優れた力は身に付けておきたい」

 ドリアンは言っていた。 


 野生回帰派は、一般的に自然を愛する平和的な連中だと言われている。

 争いを好まず、自分達が過ごしたいスタイルで生活すると。


 だが、一方で動物界の歴史上、幾度か起きた政治的革命や事件。

 それらに関与していた動物達の多くが、野生回帰思考者だったとも言う。


「ドリアン、お前は一体何者なんだ・・・?」


 互いに長くない寿命の中で、ドリアンと同じ時間を刻める瞬間があることを、カリンバは一抹も不安と同時に喜びを感じていた。


     ◇◆◇


 ジャンヌは地上から、動物の気配を感じた。

 枝の上に立ち止まり、音や臭いの在りかを探る。


「あれは?!」


 大木の根元で倒れているカリンバを見かけた。

 ジャンヌは地上に降りた。


 二足歩行姿であおむけになって倒れている彼の両手の傍に、白い刀身の双剣が落ちている。

 背後の木の幹の皮がめくれている。


「ドリアンにやられたのか?

 カリンバ、気絶しているのか?」


 通常、眠るなど、意識を失うと、動物達は四足歩行姿に戻る。

 しかし、訓練していれば、二足歩行姿を維持することも出来る。

 双剣を扱う彼が、簡単に姿を元に戻すようなことはしないはずだ。


 ジャンヌはそう思ったようだが、実際にはカリンバは気を失っていなかった。

 目を閉じていただけだった。


「ドリアンはどこにいるんだ?」


 ジャンヌの声を聞きながら、カリンバは心の中で自虐的に笑った。


 彼女のターゲットはドリアンなのか。

 気の強いジャンヌらしい。

 大方、合格にもこだわるが、タイマンにおいては、強い奴と戦いたいと考えるタイプだろう。


「あ!」

 ジャンヌは、カリンバの腕から血を流していることに気付いた。


「大丈夫か!?」

 カリンバの上半身を持ち上げ、自分の肩で支えた。

 そして、もう片方の手のひらで、腕の傷口を撫でた。


 ゆっくり少しずつだが、傷口が閉じ、出血が収まっていった。


「この傷はドリアンがつけたんだろうな。

 こいつを吹っ飛ばすことができるのもあいつくらいだ」


 カリンバに聴こえているかどうかに関わらず、ジャンヌは話し続けた。


「なさけねぇーな。

 試験前は散々、ドリアンと戦いてー、とか言ってのによ。

 あっさり、負けてんじゃねーか」


「・・・悪かったな」

 カリンバが小さく返事した。


 ジャンヌはドキッとした。


「何で、助けるんだ?

 班が違うし、今は敵同士だろ?

 つか、お前も化け治療が出来るんだな」


「この試験は個人点評価だ。

 班の違いなど、実際には関係ない。

 試験のルールに、他班のメンバーを助けたら減点ってあったか?」

 そう言いながら、ジャンヌは治療を続けた。

「僕のは、応急処置の止血程度だ。

 これくらい、身に付けておけよ」


 傷を撫でられながら、冴えた頭でカリンバは考えた。


 ジャンヌは、ターゲットのドリアンを探している。

 そしてまだ見つけていない。

 当然だ。ドリアンはついさっきまで、俺と戦っていたんだからな。


 服装に乱れの無い様子からして、ほぼ間違いなく、彼女は自分のカードを持っている。

 50点のポイントが手に入るカードだ。


 化け治療を終え、ジャンヌはカリンバをそっと地面に寝かせようとした。


 その時、カリンバが動き、ジャンヌの両腕を掴んで押し倒そうとした。

  

「・・・お前のカードをよこせ」


「な・・・!」


 腕を掴まれた状態で、ジャンヌはわざとカリンバにもたれかかり、うなじ部分を口で咥えた。

 そして、力任せに頭を振り、カリンバを投げ飛ばした。


「クソ!」


 カリンバは体勢を整え、突進した。

 ボーンソードは彼女の足元にある。

 カリンバは素手で攻撃した。


 身体を斜めに構えたジャンヌもそれに対抗した。


 やがて顎に一撃を食らわしたジャンヌは、タタンっと近くの木の幹を登った。


 カリンバもそれについて行こうとする。

 しかし、枝を掴み、鉄棒の様に身体を回転させたジャンヌの足に当たり、カリンバは地上に戻された。


「降りて来い!

 俺と戦え!」


 カリンバは吠えるように言った。

 木の上から見下ろすジャンヌは、その姿を残念そうな目で見た。


「断る。

 ボロボロのお前に勝っても、何の自慢にもならない。

 がっかりだ。

 お前ならドリアンに負けないと思っていた」


「え?」


「僕は強い奴と戦いたかった。

 その為なら、自分の点を賭けても良いと思った。

 ハラミとクララには反対されたけどな。

 だから、約束したんだ。

 100点のチャンスがない戦いはしないってな」


「ジャンヌ・・・」

 カリンバは言葉を発しようとしたが、それを聞こうともせず、ジャンヌはこの場を去った。


     ◇◆◇


 密林の中をよく探すと、地形の歪みや隆起で生まれた洞穴がちらほらある。

 その一つを、ジャンヌ班は寝床として使用していた。


 洞穴内で火を起こしているが、岩壁によって外に明かりや熱が漏れることはなかった。

 試験中、周囲に緊張が走る中、洞穴は三人を守り続けてくれた。


「おかえり、ジャンヌ」

 少し目元は腫れているが、すっかり落ち着いた様子のクララが言った。


「どうだったんだ?」

 ハラミが尋ねた。

 二人は火を囲んで、ココアを飲んでいた。

 クララはマグカップを口に近付ける瞬間だけ、マスクを少しずらしていた。


 洞穴に戻ったジャンヌは、腰に巻いていたジャケットを雑に放り投げた。

 投げた先には、柔らかい草が積まれていた。

 同じように自分の身体もそこに沈ませた。


「手遅れだった。

 あの野郎、あっさりカードを奪われていやがった」


「へー!

 誰なんだ? カリンバを倒したのは」


「多分、ドリアンだ」

 ジャンヌは不機嫌そうに答えた。


「やっぱりドリアンかー。

 じゃあ、ちゃんと約束通り、自分のカードは持ったまま戻ってきたんだな」


「ああ」

 ジャンヌは四足歩行姿になった。

「悪いけど、僕はもう休むよ。

 残り時間は交代で見張りながら、休もう」


「了解。

 じゃあ、俺が最初見張るから、クララも休みなよ」

「ありがとう、ハラミ」


 そう言って、クララもジャンヌの傍に寝ころんだ。

 四足歩行姿になり、頭をジャンヌの背中に乗せる。


「お休み」

 ハラミはマグカップに粉末ココアとお湯を補充しながら言った。

 パチパチとたき火の音が小さく響いた。


 クララは前足を優しくジャンヌの身体の上に乗せた。

 彼女の首元に自分の顔をこすりつける。


「カリンバと戦わなかったの?」

「ああ」

「後悔してない?」

「別に」


 ジャンヌは幼いころから、キバ組織を目指し、訓練所に通っていた。

 下級クラス卒業試験は、一回目は選考外、二回目は受験できたが合格には程遠かった。

   

 二回目の試験が終え、訓練所に戻ると、チャラチャラした雄ライオンが入会していた。


 ヨーロッパから来たその雄ライオンは、瞬く間に成績を伸ばし、周りと差をつけていった。

 それと並行して、訓練所内外の動物達と遊んでいた。


 あいつは教室で、まごころ町の雌ライオンとのデート話をグレイ達にしていた。


「俺は、試験に合格したら、南ヨーロッパに戻って、警察に入るんだ。

 あっちじゃあ、警察官は超モテるんだ。

 プライドも作り放題だ。折角だから、一人まごころ町から持って帰ろうかな」


 悔しかった。


 あんな軽い奴に負けるなんて、耐えられなかった。

 それだけじゃない。


 あいつの周りには、常に動物が集まっている。

 突然やって来た人間にも、あいつは変わらぬ調子で話しかけていた。


 どんな時でも、あいつは楽しそうにしていた。

 この試験期間中だってそうだ。

 ヘラヘラした態度で、女を口説く言葉しか、あいつは言ってこない。


 負けてたまるか。


 ジャンヌはそう思っていた。

 だから、50点の減点が決まったカリンバを見て、奴の合格が難しくなったことは、嬉しいはずだった。


 なのになぜか、モヤモヤしたものが、いつまでも心に残っていて、ジャンヌは苛立ちを隠せなかった。


     ◇◆◇


 木々に囲まれた空間で、沈黙が流れる。


 風で擦れる草木の音と、蠢く虫や小さな生き物が動く音や鳴き声が伝輝の耳に入ってくる。

 その中に、水の流れる音も聞こえてきた。

 川が近いのだろうか。


 草が茂る、柔らかく安定した地面の上に立ち、伝輝は少し安心した。

 木の上で戦えと言われたら、間違いなく負けていただろう。


 ダニエルは真っ直ぐ自分を見据えていた。

 彼も目薬を差しているのだろうか。

 青い瞳が、他の風景から浮かび上がり光っているようだった。


「どいつもこいつも、ムカつくよ・・・」

 沈黙を先に破ったのは、ダニエルだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ