卒業試験 四日目 ④ カリンバVSドリアン
ドリアン班と遭遇したカリンバは、伝輝と離れ、ドリアンと対決する・・・
カリンバは木と木を伝いながら、密林の奥へと進んで行った。
背後からドリアンが一定の距離を保ったまま、ついて来ているのが分かる。
これ以上、伝輝と離れるのは良くないだろうと思い、カリンバはストンと太い木の枝に着地した。
下を見ると、そこは、あまり木が密集していない草むらだった。
「この辺りで良いだろう。
フェアに戦う為にも、下に降りようぜ」
カリンバは言った。
ドリアンは、それに了承したようで、木の幹に抱きつき、軽やかに降りて行った。
カリンバはジャンプして着地した。
距離を保ったまま、二人は地上で対峙した。
カリンバはボーンソードをギュッと握り、二刀流の構えをとった。
「お前に聞きたいことがある」ドリアンは言った。
並ぶとカリンバの腰下くらいになる体高のドリアンは、前方にいるカリンバを少し見上げた。
ドリアンは、他の動物のように、腕や足の骨格や長さを変えてはおらず、ずっと本来のオランウータンの体格のままである。
「なぜ、お前は二足歩行で、しかも剣を使って戦おうとする?
ライオンのお前には、そんなものは不要な程、優れた身体能力と、牙と爪があるというのに」
ドリアンの発言に、カリンバは少し戸惑った。
彼の実力の凄さを感じてはいたが、今までまともに会話することはなかった。
発言の意図が、すぐに掴めなかった。
「四足歩行で爪を振り回すより、こっちの方が好きで、俺に合ってるだけだ」
カリンバの返答に、ドリアンは残念そうに目元を歪ませた。
「分からない・・・。
お前には、サバンナの頂点に立つ種であるという、誇りはないのか?」
その時、カリンバはハッと気づいた。
なるほど、ドリアンは「そういう奴」だったのか。
二足歩行姿に化けないのは、日常生活において必要性がないから、だけではないんだな。
「お前は、随分と誇り高きお方のようだな」
ドリアンは顔をしかめた。
だが、すぐに表情を戻し、いつもの落ち着いた雰囲気に戻った。
「そうだ。わが種は、誇り高きオランウータンだ。
身体をヒトに近付ける意味が理解できない。
俺は、祖先が森を捨て、人間の真似事の様な生き方を選んだことが悲しい」
カリンバは違和感を感じた。
ドリアンの意見は尊重するが、賛同できない。
素直に、カリンバは反論した。
「俺達の祖先が、この生き方を選ばなければ、俺達はこの世に居なかった。
人間界を見てみろ。
仲良くどちらも絶滅危惧種だ。
種の存続の為に、生き方を変えた祖先に、俺は感謝しているぜ。
生きる為に、環境や姿を変えるのは、生命の本能だ。力だ。
決しておかしいことじゃない」
「その結果、お前はそんな、デタラメな姿になった訳だ」
カリンバはカチンときた。
「デタラメかどうか、腕一本切り落とされてから確認するか?」
ボーンソードをドリアンに向けた。
「試してみろ。
俺の皮膚が、そんなオモチャで傷つくと思っているのか?」
ドリアンも後ろ足で踏ん張り、長くてたくましい腕を前に構えた。
剣と腕、バチバチと音が響く。
◇◆◇
いよいよ始まるか。
木々の隙間から、犬(グレード・デーン種)のベルントは、接眼レンズ越しに二人の様子を見ていた。
カチャリと麻酔銃を構え、銃口はカリンバを捉える。
パチパチと麻酔銃に触れる身体が強化される。
本来、犬の視力はヒトに比べて決して良くない。
身体強化と訓練で、彼は嗅覚と視角を駆使し、遠く離れたターゲットを狙える実力を身に付けていた。
ドリアンからは「犬の能力を捨てる必要はない」と言われてきた。
だが、ドリアンの誇り高き野望に少しでも力になれるなら、自分がどうなっても良いと思っていた。
この距離なら、カリンバは自分の存在に気付けない。
ドリアンは、カリンバをターゲットにしていた。
以前から彼はカリンバと戦ってみたいと言っていた。
ほんの少し、嫉妬心もあったが、ベルントはそれを了承した。
だが、ベルントは一つだけ、ドリアンとの約束を破るつもりだった。
「戦いにおいては、手を出すな」
麻酔銃を使用するのは、戦いの決着がついた後、ドリアンに命の危機が及ぶ時だけだと言われていた。
(相手は肉食獣なので)
ベルントは黙って聞いていたが、納得いかなかった。
ドリアンはこの先、下級クラス卒業試験合格という肩書を身に付け、今後もっと活動を進めていく。
彼には、動物界の変える力がある。
こんなちっぽけな試験を、取りこぼすようなことはさせたくない。
絶対に合格させてやる。
トリガー(引き金)に添えた指に力がこもる。
クシュン!
鼻先がくすぐったくなり、ベルントは軽くくしゃみした。
木の上にいるせいで、花粉に刺激されたか。
気を取り直して、ベルントは再び銃を構えた。
◇◆◇
カリンバはドリアンに向かって走り出した。
手前で飛び跳ね、両腕を振り上げた。
ガキィィィィン!
「!?」
ドリアンは両腕を横にして、顔の前で平行に並べた。
その腕は、二本の刀身を受け止め、漢字の「井」のように、両腕両刀がぶつかった。
カリンバは、まるで鉄製の盾に拒まれたような感覚に驚いた。
ドリアンは、左腕を残し、右手をさっと横に振り、カリンバを殴ろうとした。
カリンバはジャンプして避けた。
二人は黙った。
片方はじっと口を閉ざし、もう片方はうっすらと笑みを浮かべていた。
チラリとボーンソードの刀身を見る。
わずかに刃がかけている。
腕を切り落とすつもりなど、毛頭ないカリンバは、先程の一撃に対し、全力を投じていなかった。
結果、身体強化したドリアンの腕に、力負けしてしまった。
「こいつは・・・。
想像以上にキツそうだぜ」
ドリアンは笑みを浮かべたまま、前に構えた左手の指先をクイクイッと動かし、挑発した。
「この野郎・・・!」
カリンバは全身を回転させるように、双剣を振りかざし、止まることなくドリアンを攻撃した。
ドリアンは腕で剣を止めたり避けたりしながら、カリンバを攻撃に耐えていた。
ドスッ!
カリンバの素速い手数の合間に、ドリアンは重い一撃を、カリンバの腹に与えた。
カリンバは吹っ飛び、近くの木の幹にぶつかった。
「クソ!」
すぐに立ち上がり、カリンバは走り出した。
姿勢を低い位置にして、滑り込むようにしてドリアンに近付く。
カリンバは、ドリアンの短く無防備な足を狙った。
「クッ!」
それに気付き、ドリアンはジャンプし、近くの木の幹に掴まった。
カリンバは体勢を素早く整え、ドリアンに向かって剣を振った。
ドリアンは避け、地面に着地した。
先程ドリアンが掴まっていた木は、スパッと切り倒された。
丸太になった木は、しっかりと年輪が刻まれており、決して細いものではなかった。
「その木を切ったことで、一体どれだけの生き物の生活を奪うと思うんだ?
だから、武器は嫌いなんだ。
自己中心的で、周りの被害など顧みない」
ドリアンの声色には、怒りが込められていた。
「身体一つで戦えない奴に、俺に勝つ資格は無い」
肩からの腕にかけての筋肉が、バチバチと膨れ上がった。
ドリアンの反撃が始まった。
重そうな両腕をブンブンと振り回し、突進してくる。
カリンバはそれを双剣で受け止めるだけで精いっぱいだった。
身長差のあるドリアンは、高い位置からの攻撃を試みる為、一旦木に飛び移ってから、ジャンプしてカリンバに襲いかかる。
四方八方からの攻撃に、カリンバは抵抗する術を、必死で見つけようとした。
音、臭いを探る。
次、ドリアンはどこからどこへ移動し、俺を襲おうとするか。
背後から、ドリアンの気配を感じた。
カリンバは身体を回転させ、ドリアンを横から真っ二つにするつもりで剣を振った。
だが、結果は空を裂いただけだった。
ドリアンの姿は見えない。
それどころか、どこを見渡してもいない。ドリアンはどこに行った。
カリンバは剣を下ろし、周辺を歩こうと、その場に背を向けた。
モゾモゾモゾ
「ハッ!?」
ドリアンが突然姿を現し、カリンバの背中に飛びついた。
グルンと腕をカリンバの首に巻きつける。
「一体、どこから・・・?」
「お前は言っていたな。
生命は、生きる為に環境や姿を変えるってな。
俺もそうだ。
目的の為に、優れた力は身に付けておきたい。
俺を、ただの力馬鹿だと思っていなかったか?」
カリンバに巻き付いていたドリアンの腕が、スゥーッと色が変わっていった。
あっという間に、赤茶色の長毛から、ライオンの黄土色の毛並みに変色した。
「ただの擬態でも、お前の足元の草むらに溶け込むくらいできる。
それに気付かなかったお前は、まだまだ修行が足りないな」
カリンバは腕を振り、剣をドリアンに向けようとした。
サラリとそれをかわしたドリアンは、カリンバの正面に移った。
後ろ足で器用にカリンバの胴にくっつき、両手は自由に動かせる状態にした。
ドリアンは、双剣を持ったカリンバの両手を掴んだ。
掴んだ手からバチバチと音が出た。
人形を操るかのように、カリンバが持つ剣を振り、もう片方のカリンバの腕を切った。
「うわぁ!」
軽く剣先を掠めただけだが、腕からは血が流れた。
痛みと重さに耐えきれず、カリンバは膝を落とした。
「武器は好きではないが、この剣が非常に良い性能しているのは分かった。
俺の身体強化でも、カリンバの手を介して、発動するんだな。
あと、ちゃんと切れるってことも分かった。
疑って強く切りつけていたら、俺がお前の腕を切り落とすところだったよ」
ドリアンは左手をスッと動かし、剣をカリンバの首元に持って行った。
その状態で、右手をパッと離し、カリンバの懐を探った。
ドリアンは、一瞬顔をしかめ、カードを分厚い自分の手に納めた状態で、自分の胸ポケットに入れた。
「お前って奴は・・・」
ヒョイッと両手でカリンバを頭上に持ち上げた。
そしてドリアンは、砲丸投げの様にカリンバを遠くへ投げ飛ばした。
「ダニエルのところへ戻るぞ、ベルント!」
ドリアンは大声で言った後、木に飛び移り、猛スピードで移動した。




