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卒業試験 三日目 ③ カリンバ班の危機

三日目課題の、バッファロー型キメラを狩ろうとしたカリンバ班だが、キメラの群れにかけていた、ありさの催眠が解けてしまい・・・

 ドン!


 バッファロー型キメラの子どもは、自分に触れている伝輝を引き離す為に、両後ろ足で蹴り飛ばした。


 子どもとはいえ、ホルスタイン位の大きさはある。

 しかもキメラということもあるのだろう、蹴力は申し分なく、伝輝は滝壺辺りまで吹き飛ばされてしまった。


 ンモォォォォォ


 子どもキメラの、やや高い鳴き声が響く。

 それに反応した、ターゲットだった年寄りキメラ二頭は、バタバタと滝周辺から離れるように去った。


「プハァ!」

 伝輝は水面から顔を出し、急いで地上に戻ろうとした。


 蹴られる瞬間、両腕で上半身をガードした。

 その両腕は、奇跡的にも身体強化に成功し、皮膚含めて強化していた。

 着地点も水深が深い箇所だったため、伝輝のダメージは最小限で抑えられた。


 早く戻って、ターゲットのキメラの確保と、子どもを逃がさないと・・・!


 足元が地面に着く深さまで来たことを確認した伝輝は、一気に走ろうと試みた。

「うわっ!」

 しかし、地上の手前でつんのめってしまった。右足が地面にハマって動かない。

 踏んだ場所が悪く、伝輝の右足はズボッと柔らかい地面に突き刺さってしまった。


「クソ・・・。

 はっ!」


 先に移動していた、子どもキメラの親が、伝輝めがけて突進してきた。

 正面の鼻上の角が鋭く光る。


 立ち上がったありさの耳に、キメラの蹄の音が聞こえた。

「伝輝!?」


 ありさは走りながら、背中に背負っていた麻酔銃を構えて、キメラに向かって発砲した。


 パンッ! パンッ!

 突進するキメラの皮膚は硬く、ただ当たるだけでは、麻酔銃は効かなかった。


「クッ!」


 ありさは滑り込むように、伝輝の目の前に立ち、銃を構えた―――


 バンッ!

 ドスンッ!


 ありさの発砲と、キメラとの正面衝突が、ほぼ同時だった。

  

 キメラの額からは、煙が昇り、横に身体を倒した。


 ありさも吹き飛ばされ、地面に転げ落ちた。


「ありさぁー!」


 伝輝は叫んだ。

 地面に仰向けに倒れたありさの胸から腹部にかけて、衣服が裂けていた。

 その箇所から、たちまち血が流れてくる。


 右手を地面につけた伝輝は、右足周辺の地面をバフンッと破壊した。

 右足が抜け、ありさの元へ向かおうとした。


 シュタッ!


 だがその前に、ありさの傍に一人の動物が降り立った。


 試験の審査員の、キンイロジャッカルのクッキーだった。

 非常に残念そうに、ありさと伝輝を見た。

 そして、素早くありさを抱き上げ、傍らに落ちていた麻酔銃を拾った。

 そのまま高くジャンプし、クッキーとありさは、密林の彼方へ消えていった。


 ブォォォォォ・・・・


 背後から、キメラの低い鳴き声が聞こえてきた。

 ありさに撃たれたキメラは、ゆっくりと立ち上がり、敵である伝輝を見た。


「あ・・・」

 一瞬で起きた、様々な事態に、頭が追いつかず、伝輝はその場で立ちすくんでしまっていた。


 ドカッ!


 激しい音と共に、キメラは再び倒れた。

 その傍には、ボーンソードを一本手にした二足歩行姿のカリンバがいた。


「東の管理棟に行くぞ、伝輝」

 カリンバは、自分よりも大きなキメラに触れた。

 バチバチと両腕を身体強化し、キメラを持ち上げた。


「早く来い!

 こいつが死ぬ前に、提出するんだ!

 催眠が解けて、群れ全体が興奮している。

 他のキメラを狩るのは困難だ」


「で、でも・・・。

 ありさが」


「ありさのことは気にするな!

 見ただろ?

 ありさはキバ組織に保護されたんだ。きっとすぐに治療を受けているはずだ」


「けど・・・。

 俺のせいで、ありさは怪我・・・」

 伝輝の声が涙声に変わってきた。


「グズグズするな!

 そうだ! ありさは怪我をした!

 俺達は減点されるかもしれない。

 だから少しでも点を稼ぐんだ!」


 そう言って、カリンバはズンズンと駆け足で、その場を移動し始めた。

 伝輝はしばらく下を向いていたが、再度カリンバに声をかけられ、ようやく走り出した。


     ◇◆◇


 ほとんど休憩無しで、伝輝とカリンバは、何とか東の管理棟にたどり着いた。


 管理棟のカンガルーが、バッファロー型キメラを丁寧にチェックした。


「・・・かろうじて、生け捕りだね。

 あともう少し提出が遅かったら、殺処分になっていたよ。

 お疲れ様。まだもう少し試験時間残っているけど、どうする?」


 もちろん、答えは決まっている。


「それじゃあ、試験時間が終わるまで、一階ロビーか、管理棟敷地内のどこかにいてね。

 宿泊部屋にはまだ戻らないように」


 伝輝とカリンバは、二日目試験終了後に休憩をとったベンチのところに行った。

 カリンバは、崩れるように寝転がった。

 四足歩行姿になり、身体の右側を地面に着け、だらーっとした状態になった。


「カリンバ、大丈夫?」

 伝輝はおずおずと声をかけた。


 巨大なキメラを、ほとんどカリンバ一人で持ち運んだ。

 身体強化を常に維持し続けたカリンバの疲労は、極限にまで達していた。


「何てことねぇよ・・・。

 伝輝、悪いが俺のパンツのサイドポケットに干し肉が入っているから、出してくれないか?

 この姿じゃ、自分で取り出せない」


 伝輝は、カリンバの左足のポケットに手をやり、適当な大きさの干し肉を取り出した。

 カリンバの口元にそれをやると、カリンバは頭と手を動かし、それを齧った。


「サンキューな。

 二日目に狩った猪の肉を一部、昨日の休憩日に干し肉にしておいたんだ。

 食品衛生の保証はないから、人間やヒトにはおすすめしないがな」


 声に力は無いが、いつもと変わらぬカリンバの口調に、伝輝は少し安心し、ありさからもらったゼリーを一袋口に吸いこんだ。

 朝一にゼリーを食べた後、ずっと空腹を感じることはなかった。

 このゼリーの腹持ちの良さに、伝輝は静かに驚いていた。


「今日は、悪かったな。

 すぐに助けに行きたかったが、誘導していたキメラ達の催眠が解けて、俺もすぐには動けなかったんだ」

 カリンバが干し肉を噛み続けながら言った。


 伝輝は黙った。

 一時、記憶から飛んでいたが、改めて今日自分がしてしまったことを思った。


「俺のせいで、ありさが・・・」


「自分のせいだと思うな。

 それに、今回のありさの判断は正しかった。

 本来、試験中の怪我においては、全て受験者の責任になる。

 どんなに瀕死の状態でも、自分達で何とかしないといけない。

 もし、キメラに襲われたのが、お前だったらどうなっていた?

 俺達は、大怪我を負ったお前を助ける術がない。

 だけど、ありさは違う。

 ありさの身体の傷については、キバ組織が全力で守ろうとする。

 このまま試験は不合格になるかもしれないが、死にはしない」


 カリンバは、伝輝を諭すように言った。

 伝輝はまだ、黙っていた。


「ありさが残りの試験を参加するかは、分からない。

 だが、試験は個人に対して、合否が与えられる。

 ありさのことは残念だが、俺達は何とか二人で、ベストを尽くそう。

 結果と課題の発表は、午後六時だ。

 十五分前になったら、起こしてくれ・・・」


 カリンバは寝息をたて始めた。

 伝輝も、カリンバの横で寝ころんだが、どんなに目を閉じても眠れなかった。


     ◇◆◇


 三日目試験と四日目課題発表の時間になり、伝輝とカリンバは、一階ロビーの画面を見上げた。


三日目 結果


一位 ドリアン班 235点


二位 松子班 225点


三位 グレイ班 165点


四位 ジャンヌ班 150点


五位 ロナウド班 145点


六位 カリンバ班 100点



「・・・」

 カリンバは黙っていた。非常に険しい顔をしている。

 伝輝は怯えながら、カリンバを見た。


「最下位になっちゃったね。

 ごめん・・・」

「何で、謝ってるんだよ。

 ありさの言ったように、減点されているな。

 バッファロー型一頭生け捕りだから、60点加点されているはずなんだ。

 それが前回結果70点から、30点しか上がっていないということは、半分の点数が減点されている。

 内訳が分からないから、それがありさ個人減点なのか、グループ減点なのかが分からない。

 生け捕り点数は、分散されていると思うんだが」


 カリンバは顎に親指を当て、考え込んだ。

「それにしても、二日目まで下位だった、ドリアン班と松子班が、一気にトップに立ちやがった」


 しばらく試験結果が表示されていたが、サァーッと画面が切り替わり、四日目試験の内容が発表された。


「四日目課題

 他班のカードを奪う

 

班長(金)・・・50点

副班長(銀)・・・30点

班員(銅)・・・10点


●カードはジャケットの内胸ポケットに入れ、必ず身に付けること。

 違反した場合、減点・無効点処分とする。


●午後八時までに、試験場内管理棟にて、各自ターゲットを一人申告する。

 申告したターゲットのカードを奪った場合、奪ったカードの点が倍になる。

 同じ班の受験者をターゲットにはできない。

 班内で同じターゲットを設定しても良い。


●今回課題は、分散点評価あり。


●試験終了までに、カードが奪われずにいた場合、そのカードの点数が受験者の点になる。


●四日目の加点評価は、課題内容のみとする。


※カリンバ班のありさをターゲットにしてはいけない。

※ありさのカードは、カリンバ班で管理する。

 必ずどちらかの受験生が所持すること。

※ありさのカードを他班が奪った場合、30点加点される。

※試験終了時までに、ありさのカードをカリンバ班が所持していたとしても、ありさが不参加の場合、カードは無効点になる」


「マズイぞ・・・。

 よりによって、このタイミングで、この課題かよ」

 カリンバは歯を食いしばった。


 結果と課題の表示が切り替わる画面と、カリンバのしかめっ面を、伝輝はただただ、不安な気持ちで見ているだけだった。

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