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卒業試験 三日目 ② バッファロー型キメラ狩り

 三日目の課題は、異なる種を化け医学で組み合わせたキメラ家畜を狩ることだった。伝輝達は、三日目試験開始を迎える・・・

 三日目課題について、バッファロー二頭を狩ると決めたカリンバ班は、試験開始の午前八時になるまで、打ち合わせを続けた。


「この課題は、ありさが鍵だな。

 でも、分散点評価があるから、伝輝もしっかり自分の仕事をするんだぞ」

 カリンバは伝輝とありさの肩を同時にポンッと叩いた。


 午前八時、三人は東の管理棟を出た。

 外に出た途端、強い日差しを浴び、伝輝は一瞬目がくらみそうになった。


「今日は一段と暑いな。

 この時間で、この気温だ。日中は更にキツイかもな。

 今日は密林を進む。

 日陰を見つけたら、こまめに休憩していこう」

 カリンバが言った。


 三人は草原を西に進み、密林の入口にたどり着いた。

 密林に入ると、川を目指した。

 起伏が大きな地形で、ほとんど山登り状態だった。


水牛バッファロー型キメラは、動物界じゃあポピュラーなキメラだ。

 日本列島は、キメラ認知度の低いよな。

 通常の家畜よりも、成長が速くて、丈夫で、加食部分も多く、農作業にも使いやすい。

 こんな便利なキメラ家畜を、ほとんど使用しないなんてもったいないよな」

 暑さを忘れる為か、カリンバはペラペラと話し続けた。

 伝輝も気が紛れるので、流すように聞いていたが、ありさは逆にイライラしているようだった。


「きっと今回のキメラも、動物界で最も普及しているトナカイとの合体型じゃないかなと思うんだ。

 通常の水牛よりも、角が大きくなって、動きが俊敏になるが、体格は少し小さくなる。

 家族を主とした数十頭の群れで行動するが、刺激を与えない限り、おとなしいはずだ。

 けれど、敵と認識されてしまうと、一気に攻撃姿勢に入る。

 そこで、奴らを狩るには、化けの力が必要なんだ。

 ありさの催眠を使って、キメラをおとなしくさせた状態で、二頭狩るぞ」


     ☆★☆


 川に到着した三人は、そこで休憩をとった。


 水流はさほど激しくなかったので、カリンバと伝輝はそこで水浴びを始めた。

 事前に動物界の予防接種を受けていた伝輝は、遠慮なく冷たい水に飛び込んだ。


「ありさも、来いよ。

 冷たくて気持ち良いぞ」

 カリンバが言ったが、ありさは首を横に振り、頑なに拒んだ。

 ジッと木陰に座り込み、服と服の間の隙間や肌が見えない様に、ぎゅーっと身体中を抑え込んだ。


 汗でベトベトだった服は、天日干しのおかげで乾いていた。

 伝輝は下着のタンクトップを着た後、腹巻のような形状のサポーターを手に取った。


「なぁ、カリンバ。

 今日、めちゃくちゃ暑いし、腹のサポーターつけなくても良いんじゃないかな?」

「馬鹿、何言ってんだ。

 皮膚剥き出しの動物が、サポーター無しで、どうやって身体を守るんだよ。

 我慢しろ。

 このクソ暑い中、上質な毛皮を一時的に脱ぐことすら出来ない俺はどうなる?」

 カリンバは、クシとヘアワックスで鬣をセットしながら、伝輝の発言を反対した。


 渋々と、伝輝はサッパリしたばかりの身体にピタッと密着するサポーターを身に付けた。


「よし、それじゃあ、出発するぞ。

 目指すは、バッファロー型キメラが集っている可能性が最も高い場所。

 滝だ」


「おー」

 伝輝は頼りない掛け声をあげた。

 服を着ると、たちまち背中が汗でじんわり湿ってくるのを感じた。

 少しでも風を身体に取り込みたくて、服の裾をパタパタさせた。


「だらしねぇな、伝輝。

 隣のありさを見習えよ。完全防備だぞ」

 そう言って、カリンバは歩き始めた。

 続いて伝輝とありさが横並びで進んだ。


 ありさの呼吸が、先程よりも荒く熱っぽい感じがした。


「大丈夫か? 暑いんじゃないのか?

 その黒タイツ、脱いだ方が良いんじゃ・・・」

「馬鹿言わないでよ。

 今朝、私が言ったことを忘れた?

 この密林の中で、肌を出すわけにはいかないでしょ」

 ありさは厳しい口調で言った。


     ◇◆◇


 鬱蒼とした木々のおかげで、日差しは幾分軽減された。

 しかし、むせるような暑さと湿気が、絶えず三人を苦しめた。

 唯一の救いは、川沿いを歩いていたので、度々そこに顔をつっこんだり、カリンバはチロチロと水を飲んだりできたことだ。

 だがそれも、ありさは一切しなかった。


 やがて、川の流れとは異なる、水の音が聞こえてきた。

 時折吹く風が、今までよりもヒンヤリしていた。


「止まれ」

 カリンバが手を横に上げた。


「ビンゴだ。

 この先に、大型草食動物の臭いと気配がする。

 ほぼ間違いなく、滝周辺にバッファロー型キメラの群れがいるだろう」


 カリンバはありさを見た。

「ありさ、お前の催眠効果はここからでも適応できるか?」

「化かす動物を確認できれば、ある程度広い範囲でもできると思うわ」

「ということは、もう少しこのまま近づく必要があるな。

 伝輝、音と風向きに気をつけて、進むんだぞ」


 先頭のカリンバは、四足歩行姿になり、身体を低くしながら進んだ。

 やがて滝が見えてきた。

 その周辺を多くのウシの様な家畜が活動していた。


 大きさや全体の形状は、伝輝も写真等で見たことがあるバッファローそのものだった。

 しかし、頭の両横に生えている角は、一般的な水牛の大きさのものだった。

 そのかわり、鼻の上に、先端が鋭利に磨かれた角が生えていた。

 体は、体毛がほとんど目立たず、茶色い肌は硬くゴツゴツした印象だった。


「あのキメラ、バッファローとトナカイというよりは・・・」

 ありさと伝輝はチラリとカリンバを見た。

「バッファローとサイだな。

 ま、キバ組織の試験で、普通の家畜が出てくるわけないか」

 カリンバは苦笑いした。


「ありさ、あの群れ全部のキメラに催眠をかけることは出来るか?」

「やってみるわ。

 ただ、もう少し、群れに近付かせて」

「了解」


 三人は更に滝の方に近付いた。


 バッファロー型キメラの群れは、滝壺付近で身体を洗ったり、鼻の上の角を岩で研磨したりしていた。

 別のキメラは、川沿いの土を掘り、めくれた草木や根っこなどをムシャムシャ食べていた。

 鼻上の角はそこで使用するようだ。

 大きなキメラの隙間を縫うように、子どもバッファロー型キメラが、互いに身体を擦りつけながらじゃれて遊んでいた。


「ありさが催眠をかけたら、俺と伝輝で群れを滝から移動させる。

 その時、成体二頭を残すんだ。

 なるべく年取ってそうなのを狙え。

 絶対に子どもや親子は狙うな。

 最悪の場合、親の催眠が解けて、攻撃してくるかもしれない」


 カリンバの指示に、伝輝とありさは深くうなづいた。

 ありさは、覆面越しに深呼吸し、右手をスッと群れの方に向けた。


 パチン・・・


 ありさは指を鳴らした。

 三人に近いキメラから、徐々に動きが止まり始めた。

 やがて、奥の滝壺付近にいたキメラも、川遊びを止めてのっそりと起き上がった。


「よし、効いているぞ」

 カリンバが言った。


「早くキメラ達を移動させて。

 キメラはボーっと眠っている状態だけど、身体は動くはずよ。

 気をつけてね。

 私もこんなに一度に大量の生き物に催眠をかけるのは初めてなの。

 ちょっとのはずみで、催眠が解けてしまうかもしれないわ」


「了解。

 行くぞ、伝輝」

 カリンバと伝輝は草むらから抜け、滝周辺に向かった。


 カリンバは全体を見渡し、この群れを主導するキメラを見極めた。

 そして、そのキメラを優しく押して動かした。

 すると、自動的に周りのキメラ達も動き出し、滝から離れだした。


「お前は、ターゲットにするキメラを決めて、そいつらをその場に留まらせろ」

 カリンバの指示に従い、伝輝はバッファロー型キメラの合間を縫って進んだ。

 周りよりも細身で皺が深いキメラを見つけ、移動しないようにそっと手を伸ばして制止した。


 ヴモォォォォォ・・・・!


 群れの移動を促していたカリンバの耳に、バッファロー型キメラと思われる、鈍い鳴き声が聞こえた。

 ここからあまり遠くない場所で、別の班がキメラを襲っているのだろう。

「まずいな。

 この群れも興奮し始めるかもしれない」

 カリンバはサッとありさのところへ行き、状況を説明し、すぐに元の場所に戻った。


「ハァハァ・・・」

 全身から噴き出す汗と体温のせいで、頭の中がクラクラする。

 しかし、ここで催眠が解ければ、仲間が危険な目に遭ってしまう。

 ありさは集中を切らさないよう、必死だった。


     ◇◆◇


 群れの移動はかなり進み、滝に残るキメラもターゲット含めて残りわずかだった。


「伝輝、あの親子は早く移動させた方が良いな。

 ちょっと行ってくれ。

 あともう少しだから、ありさも手伝わせよう」

 カリンバは言った。そして、ありさにも伝えに行った。


 キメラの親子二頭は滝壺に近いところで泥遊びをしていたようだった。

 子どもの方は、完全に寝ているらしく、少し押したくらいでは動かなかった。

 先に親を動かすと、勝手に他のキメラと同じ方向へ進んでくれた。


 カリンバの指示を受けたありさは、姿勢を低くしたまま、草むらを抜けた。

 伝輝と子どもキメラの姿が見えた。


 ありさはスッと立ち上がった。

 すると、目の前が一瞬真っ暗になり、視界がボンヤリとし、ピントが調整できなくなった。


「ウッ・・・」

 立ちくらみを起こしたありさは、膝と手が地面についた。


 パチン・・・


 何かが弾けるような小さな音が周囲に響いた。

 伝輝の耳にも届いた。


 動かそうと、触れていた子どもキメラと目が合った。

 その目は、目の前にいる仲間ではない生き物を認識した。


 化けが解けた!?


 ドンッ!


 そう感じた瞬間、大きな衝撃が伝輝の身体を襲った。


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