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卒業試験 三日目 ① キメラ狩り

二日目試験終了後の休憩日、伝輝とカリンバは西の管理棟で、キメラを見た・・・

 ライオンのカリンバと伝輝は、東の管理棟に戻る前、一日目の夜に泊まった草原の管理棟に立ち寄った。

 伝輝とありさの荷物を全て移動させる為だ。


「東の管理棟の方が、設備が良いからな」

 カリンバは言った。


 部屋に戻った伝輝は、軽くシャワーを浴び、持ってきていたお菓子を少しつまんだ。

 そして、日没と共にベッドに入り、目をつぶった。


 空腹に眠気を妨げられそうだったが、冷房の効いた部屋でシーツにくるまっていると、日中の疲れが伝輝を夢の中へ連れて行ってくれた。


     ◇◆◇


 次の日、朝五時に伝輝は起きた。

 

 三日目の課題は、六時に発表される。

 伝輝は身支度を済ませ、サプリメントを口に入れた。

 空腹に襲われたが、フンッと気合を入れて、伝輝は一階に向かった。


「よう、ちゃんと起きたか」

「おはよう、伝輝」


 一階ロビーには、カリンバと全身黒ずくめのありさがいた。


「課題は?」

「もうすぐ発表されるわ。

 伝輝、これあげる」


 ありさは銀色の細長い封詰めを数本、伝輝に渡した。


「何、これ?」

「携帯用エネルギー補充ゼリー。

 昨日もロクに食べてないでしょ。

 課題次第では、獲物を狩って食べる暇もないかもしれないから、念のため持っていて」

「ありがとう・・・」


 伝輝は早速、一本封を破り、チューッとゼリーを吸い込んだ。

 食感はツルツルしているが、カラメルシロップを煮詰めたような、ネットリと濃い味がした。


「準備が良いな」

 カリンバが言うと、ありさはフンッと鼻を鳴らした。

「昨日のホテルで出されたやつを、多めにくすねたのよ。

 マッサージとか、パックとかで、全然休ませてくれないんだもん。

 これくらいしたって、バチは当たらないわ」


 課題発表まで、少し時間があった。

 三人は、ロビーにあるソファに座り、雑談しながら、黒い液晶画面を見守った。


「リゾートホテルのスイートルームで、一日過ごせたのに、随分とイライラしているな、ありさは」

 カリンバが、少々皮肉を込めて言った。


「キバ組織の動物に、今度どんな小さな傷でもつけたら、本気で減点するって言われたのよ。

 だったら、こんな試験受けさせるなっての」

「そんな怪我してたの、ありさ?」

 伝輝が尋ねた。

「擦り傷、虫刺され、日焼け、何かでぶつけた跡。

 どれも、普通なら気付きもしない、軽いやつよ。

 それなのに、連中ときたら、ギャンギャンうるさいんだから・・・」


「大変だな」

 カリンバは笑った。ありさはジロリとカリンバを見た。

「笑ってられないわよ。

 連中は、減点は連帯責任だ、とも言っていたわ」

「マジで!?」

 カリンバの顔は、一瞬で焦りの表情に変わった。


 話を聴きながら、伝輝は試験前にありさが言っていたことを思い出した。

(私の容姿は、人間界で評価が高いんですって。

 色んなことに使えるって、カンパニーから言われているそうよ)


 その価値を維持し、より高める為、

 まごころカンパニーは、ありさの身体を守ろうとするのだろうか。

 しかし、真夏に全身を覆うような恰好をさせたり、休みナシでお肌の手入れをさせるなんて、守るどころか、むしろ「ギャクタイ」や「タイバツ」なんじゃないかと、伝輝は思った。


     ◇◆◇


「見ろ!

 画面が点灯したぞ!」

 カリンバが壁掛け画面を指差した。


 三日目の課題が画面に表示された。


「三日目 課題

 キメラ家畜を狩る

 オオカミ型

  狩るまで 5点/1頭

  殺処分(提出可) 20点/1頭

  生け捕り(提出必須) 30点/1頭


 バッファロー型

  狩るまで 10点/1頭

  殺処分(提出可) 30点/1頭

  生け捕り(提出必須) 60点/1頭


 ※提出先は、東または西の管理棟のみとする。

 ※本課題は、分散点評価あり」


「キメラ狩りかー! よぉーしっ」

 カリンバはソファから勢いよく立ち上がった。


「生け捕りって、どういう意味?

 あと、分散点って・・・」

 伝輝がソファに腰掛けたまま、カリンバを見上げた。


「生け捕りは、二日目の提出と違って、生きたままの状態で管理棟に持っていかないといけないんだ。

 課題にもあるように、殺してしまうと、提出しても殺処分になって点数が上がらない」


「生け捕りが狩りの中で、一番難しいと言われているわ。

 野生の力だけでは、実現はほぼ不可能よね」

 ありさが言った。


「獲物を眠らしたり、騙したりして捕まえなきゃいけないからな。

 その時、化けが重要になってくるんだ。

 ドリアン班と松子班が、いよいよ動き出すぞ」

 カリンバは、何だか嬉しそうだった。

「それから分散点は、課題達成の時に発生する点数を、メンバー間で振り分けることだよ。

 誰を何点にするかは、個々の活躍を見て、審査員が決める」


「どういうプランにする?

 どちらを何頭狩るかも、重要よね」

 ありさがソファ前のテーブルに、紙とペンを置いた。


「バッファロー型を一頭生け捕り、もう一頭を殺処分てか食うってのは、どうだ?」

 カリンバが言った。

「バッファロー型にするの?

 カリンバはともかく、大型動物狩りは、伝輝には難しいんじゃない?」


「いや、オオカミ型っていうことは、肉食獣だろ?

 下手すれば、ありさと伝輝が、キメラのエサになっちまう。

 推測だが、オオカミ型は群れで行動する。

 点が高くない分、数を稼ぐとなると、俺達の班ではスタミナとスピードが足りない。

 大物狙いで、数は少なくても良いようにしよう。

 バッファロー型なら、力は強くても草食動物だ。

 こちらが気をつければ、殺されはしない」


「でも、二頭だけで良いのか?

 ドリアン達に高得点出されたら、順位抜かされるんじゃ・・・」

 伝輝は一生懸命、意見を述べた。

「今回分散点があるのは、狩られる頭数を減らしたいっていう意図があるんだと、俺は思う。

 ここは動物界有数のキメラ家畜飼育場だが、キメラの希少価値が高いことは変わらない。

 乱獲と判断されて、減点されるよりも、堅実に点を増やそう。

 それに・・・」


「それに?」

 伝輝とありさが、聞き返した。


「バッファローは俺の好物だ」

 カリンバは、ソファに座り、ニヤッと笑った。


     ◇◆◇


 グル―パー島、下級クラス試験会場の東に、小規模な火山があった。

 火山のふもとから草原にかけて、島内でも独特の生態系が存在していた。


 その火山のふもとの一部を縄張りとして行動しているキメラの集団がいた。


 三日目課題のターゲットである、オオカミ型キメラだった。

 オオカミ型といっても、大きさと身のこなしは、猫に近い。

 その為、凹凸の激しい地形でも、彼らは軽やかに行動していた。


 夜行性の彼らは、集団での狩りを終え、寝床へ戻りつつあった。


 ピクン


 最後尾を進んでいたオオカミ型キメラの耳が動いた。

 朝の日射しと空気に紛れて、何者かが近づいてくるのを感じた。

 仲間に異変を伝える為、キメラは「ニャアー」と響く遠吠えを行った。


 集団は移動のスピードを上げた。


「ガルルルル!」


 隆起した地形の陰から、トラが飛び出してきた。

 トラは四足歩行だが、衣服を着用している。

 キメラ集団の中腹めがけて、トラは突進した。


 キメラ達の統率は乱れ、不規則な分散を始めた。

 中には、トラに飛び掛かって抵抗しようとするキメラもいたが、自分よりも何倍も大きな動物に、すぐに振り放された。


 寝床と別の方向へ逃げようとした小集団の前にも、別のトラが襲いかかった。

 今度は、雌のトラだった。


 更に別の小集団には、待ち構えていたかのように、ヒョウが現れた。


     ◇◆◇


 キメラ達の鳴き声は、散り散りに飛び交ったが、やがて終息した。


 残されたのは、雄トラのロナウド、雌トラのガリレイ、雄ヒョウのコウメイだった。

 彼らの傍には、餌食となったオオカミ型キメラが、数頭息絶えていた。


 ガリレイは、二頭のキメラを食べた後、残った死骸を埋める場所を探す為、辺りを見渡した。

 一頭は老体だったので、狩るのは簡単だったが、もう一頭は力も強い成体だった。

 小振りとはいえ、キメラを狩れたのは、少し誇らしかった。


「ロナウドとコウメイは・・・?」


 今回、ガリレイの提案で、ロナウド班は、一つの集団をターゲットにして、同時に各自狩りをすることにした。

 ロナウドも近くにいるはずだ。


「余計なことをしてなきゃ良いけど・・・」

 点数を確実に稼ぐという口実で、今回の作戦を提案したが、真意はロナウドとコウメイの動きを見たかったからだ。

 前回の点数結果。

 どちらかが、班で課したルールを破っているのだ。


 同じトラなのに、妙に鼻につく彼の獣臭さを辿り、ガリレイはロナウドを見つけた。

 すぐ近くにコウメイもいた。

 二人共、衣服に血が付くのを構わず、血や肉片を跳び散らかしながら、キメラを貪り食っていた。


 ガリレイは、彼らが狩ったキメラを見た。

 一瞬何かの間違いかと思った。


「ちょっと!

 何やっているのよ!」


 ガリレイが慌てて二人に近付く。

 それに気づいたロナウドはゆっくり顔を上げた。

 コウメイは下を向いたまま、ビクッと身体を震わせた。


「何って、まだ食事中なだけだ。

 こんな珍しいキメラはめったに食えないからな」

 ロナウドはあっさりと言った。


「あんた達、自分が何したか分かってんの?

 そのキメラはまだ子どもよ!」


 食事していたコウメイの動きが止まった。


「ああ、そうだな。

 あの混乱の中、スピード勝負に出たら、こういう結果になっただけだ。

 選り好みしてたら、キメラの集団攻撃を受けてしまったかもしれない。

 そうだろ? コウメイ」

 ロナウドは言った。

 コウメイはロナウドの顔を見ると、すぐに顔を下に向けた。


「二頭狩るとは班で決めたが、成体かどうかの指定は、課題にもなかったぞ」

「だとしても、ロナウド。

 マイナス評価になったらどうするの?

 同時に集団を襲った以上、グループ減点になるかもしれないわよ」


「野生の動物は、自分が飢え死ぬかもしれないって時に、わざわざ難易度の高いボスを狩ろうとするか?」

 ロナウドは静かに言った。

「悪いのは、生存競争に負けたキメラの方だ」


「・・・もう、勝手にして。

 二人のその姿、見たくもないわ。

 ちゃんと後始末もしておくのよ」

 そう言って、ガリレイは自分の獲物の元へ戻って行った。


「うっとおしい女だ。

 なぁ、コウメイ。

 次の課題が受験生ターゲットの狩りなら、真っ先にあの女の首を狩るね」

 そう言うとロナウドは、ぴょんっとキメラから離れ、ファーとあくびをした。


「俺、アジトに帰って寝るから。

 俺の分も片付けといてくれ」

 ロナウドは、のそのそとその場を去った。


 一人残ったコウメイは、ロナウドと自分が狩ったキメラの亡骸を見た。

 一頭目は老体を狙った。

 しかし、その後ロナウドに促され、キメラを襲ったが、それは子どもだった。


 高い、小さな鳴き声が、耳の奥から離れないような気がした。


「はっ!?」


 コウメイはキメラの気配を感じた。

 

 狙われている・・・!


 子どもを襲ったからだろうか?

 激しい殺意を周囲から汲み取ったコウメイは、亡骸の処理もせずに、走って逃げてしまった。


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