表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/60

卒業試験 二日目 ③ 提出

イノシシと食べた後、カリンバ班は残ったイノシシ肉を提出するために、東の管理棟に向かう・・・

 月の光がこんなにも明るいなんて、初めて知った。


 近くから聞こえるのは、靴底が地面を踏む音、草が擦れる音、虫の音、三人の呼吸音と自分の脈打つ音だった。


 遠くから聞こえるのは、獣の遠吠えのような音、小動物の細かい鳴き声、うねるような風の音だった。


 伝輝は周囲を見渡した。


 夜の闇の中に、ぼんやりと浮かんで見える山の形。

 逆の方向は、更に黒く淀んだ密林の木々。


 風景に大きな変化はない。

 しかし、決して飽きることはなかった。

 感覚のどこかが常に緊張していた。


「ありさ、伝輝」

 カリンバがピタッと立ち止まった。


「草原と密林の境界あたりに、ヤギがいるようだ。

 俺、狩ってくるわ。

 三十分以内に戻ってくる。

 戻らなかったら、先にイノシシ肉を東の管理棟に運んで、待機しといてくれ」


「了解」

 ありさが言った。

 カリンバはありさに担いでいたイノシシ肉を渡そうとしたが、伝輝が名乗り出て、それを受け取った。


「ちょっと行ってくる」

 ポンッとカリンバは四足歩行姿になり、密林の方向へと走って行った。


 時間が長く感じられた。

 ありさはカリンバが離れた後、麻酔銃を構え、いつでも撃てる状態にした。


「肉の臭いに誘われて、獣がやってくるかもしれない。

 他班に狙われたら、おとなしくその肉を渡すしかないわ。

 どうせ、大した点にならない肉ですもの」

 ありさの冷たさを感じる言葉を聞きながら、伝輝はギュッと紙袋に包んだイノシシ肉を抱きしめた。


 やがて、カリンバが戻ってきた。

 血抜きを施しただけのヤギを抱えていた。


 生温かい血と獣の臭いが、伝輝の鼻についた。


「毛皮も角も綺麗に残したぜ。

 俺が攻撃した部分だけ、切り取って食させてもらった。

 生肉は久しぶりだわ」

 二足歩行姿のカリンバは、いつもの砕けた表情を見せた。


 伝輝は少し安心した。


「腹壊してないといいなー」

「鍛錬が足りないのよ」

「ヒトに言われたかねー」


 歩き始めてしばらくは、雑談をしていた三人だが、やがて沈黙に戻り、ひたすら歩みを進めた。


    ◇◆◇

 

 試験二日目が開始してからほどなく、西の港にある管理棟に、提出を行った班がいた。


「外傷がほとんどない。

 毛皮はわざと剥がさなかったのかい?」

 管理棟従業員の雄カンガルーが尋ねた。

 彼の前のカウンターには、巨大な雌イノシシが横たわっていた。


「血を抜き、味見をしただけです。

 そちらで皮や角を解体した方が、商品になるでしょう」

 気取った態度で説明しているのは、暑苦しいロングコートを身に纏ったヒトのダニエルだった。


「仕留めてから、三十分経っていません。

 ぜひ、ご活用ください」


「下級クラスの試験で、ここまで新鮮な獲物を提出する動物は初めてだよ。

 このイノシシはこちらできっちり処理させていただきます」

 カンガルーはニコッと微笑んだ。


「君は、ダニエルだよね?

 減点無しで、ベッドルームが使えるが、どうする?」


「あいにく、まだ班でやるべきことが残っていますので」

 そう言って、ダニエルは管理棟の外で待っていたドリアンとベルントの元に戻った。


 管理棟を離れた途端に、ダニエルは持参していた水筒の水を口に含み、ペッと吐いた。

「早く、密林に戻りたい。

 ドリアン、僕にフルーツを分けてくれないか。

 肉の臭いがまだ口の中に残っている」

 ダニエルの険しい表情をしていた。


「ああ。

 美味いやつを選んで分けてやるよ」

 ドリアンは言った。

「ベルント、お前はどうする?」


「俺は自分でヤギを狩って食うよ。

 点数も欲しいし」

 ベルントは、ガシャンと麻酔銃を手にした。


「君達。

 こんなショボイ狩りよりも、他班を攻撃した方が良いんじゃないか?

 これ以上不味いものを食わされるのは、ごめんだよ」

 ダニエルは言った。


「焦るな。

 今後必ず、任意課題に他班襲撃が出されるはずだ。

 その時を狙った方が、高得点が出せる。

 それまでは、携帯食料と家畜の肉で我慢してくれ」

 ドリアンは落ち着いた口調で言った。

 しかし、その言葉の中は、野望に燃えていた。


「肉嫌いなのは、この試験では苦労するな。

 俺も好きじゃないから、ダニエルの気持ちは分かるよ。

 だから、もう少し辛抱してくれ」

 ベルントが言った。


「フン」

 ダニエルは不満そうに鼻を鳴らした。


    ◇◆◇


 東の港にある管理棟に到着した頃には、日が昇り始めていた。


 一日目の終わりに利用した草原内の管理棟と違って規模が大きく、塔以外の建物もあった。

 建物の先に海が見えた。


 管理棟が見え始めたころから、伝輝の眠気と疲労は頂点に達しつつあった。

 夜通し歩いたので、とにかく早く寝たかった。


 三人は管理棟一階のロビーで、従業員を呼んだ。

 イノシシ肉と内臓と、ヤギ丸ごと一頭を提出した。


「お疲れ様。

 試験終了までまだ少し時間が残っているが、外で活動するかい?」

 肩から腕にかけての筋肉が膨れ上がった雄カンガルーが言った。


「今日はもう休みます。

 三日目開始まで、ここで休憩します」

「オーケィ。

 試験が終われば、冷房の効いたベッドルームに入れるよ。

 三日目は明日の八時に始まる。

 それまでは、冷蔵庫も使用していいよ」


 雄カンガルーの言葉を聞いて、三人は何かから解放されたような表情を浮かべた。


「試験が終了するまでは、ロビーか外で休憩していてくれ。

 別の班も既に終了して、どこかで待機しているよ」


    ◇◆◇


 三人は試験が終了するまでの間、敷地内の日陰で休むことにした。

 屋根付きのベンチだが、そこに座らずベンチの下に寝そべった。


 それは構わないが、配置に伝輝は違和感を感じた。


 カリンバは自分の両脇に伝輝とありさを横たわらせた。

 「両手に花」のような状態だった。


「暑苦しいよ、カリンバ」

 伝輝が不満をこぼした。


「少しは我慢しろ。

 リーダーの俺に束の間のプライドを味わせてくれ」


「プライドを味わうって何だよ?

 何で、カリンバの自己満足の為にくっつかなきゃいけないんだよ」


「伝輝、カリンバの言うプライドの意味分かってる?」

 ありさがカリンバの身体越しに伝輝に言った。

「プライドは、ライオンが作る群れのことよ。

 雄ライオンは、雌を何頭も引き連れるの。

 言い方を変えると、ハーレムね」


「はぁ!」

 伝輝の眠気は吹き飛んだ。

「俺は雌じゃねぇってば!」


「俺からすれば変わんねぇよ。

 股に何かついてるか、ついてないか位じゃないか。

 歳とれば、違ってくるんだろうけどな」

 カリンバは笑いながら言った。


 それは、ありさにもかなり失礼だろ、と伝輝は思った。


     ◇◆◇


 二日目が終了し、三人はすぐにベッドルームに向かった。


 伝輝はシャワーを浴びた。

 部屋にTシャツと綿パンとサンダルが置かれていた。

 サイズは大きいが、遠慮なく着用した。


 シャワーと日の光を浴びたせいか、身体は重いが、あまり眠くはなかった。


 ベッドに横たわり、ウトウトとし始めた頃に、カリンバに呼び出された。

 二日目の結果が発表されたのだ。


二日目 結果


一位 グレイ班 85点


二位 ジャンヌ班 75点


三位 カリンバ班 70点


三位 ロナウド班 70点


五位 ドリアン班 55点


五位 松子班 55点


「順位、変わってないね」

 管理棟ロビーにかかっている画面を見ながら、伝輝は言った。


「任意課題が狩りメインだった中で、そこまで差は開いていない。

 勝負は後半だ。

 ドリアン班も連続最下位なのは、この後巻き返せる自信があるからだろう」

 カリンバは落ち着きを保とうとするかのように話した。


「一日目から40点上がっているということは、俺に20点、伝輝に5点、全員にグループ点5点かな。

 三人の個別点は、俺35点、ありさ25点、伝輝10点だな。

 あくまで、推測だが」


「俺、点低いなぁー」

「課題次第だが、もう少し伝輝が活躍できるチャンスを作らないとな。

 折角だ。三人共合格したい」

 カリンバは両横にいた、伝輝とありさの肩を握った。


「ヌルイこと言うんじゃねぇ。

 こっちまで、イライラしてくる」

 伝輝達が振り向くと、ジャンヌ班の三人が立っていた。


 先に到着していたという班は、彼女らのことだったのだろう。

 ジャンヌとクララは薄いブルーの綿ワンピースをお揃いで着ていた。

 三人共、シャワーを浴びて、さっぱりとしていたが、クララは相変わらずマスクを着用していた。


「二人とも、キュートな恰好をしているね。

 俺とビーチにでも行かないか?」

 カリンバが軽い口調で言うと、ジャンヌの表情は更に険しくなった。


「ふざけるな! 誰がお前なんかと!

 キバ組織に忠誠を誓う気の無い奴が、ヘラヘラ合格なんて語るな!」

 ジャンヌの髭が逆立っている。

 クララはオドオドし、ハラミ(雄シマハイエナ)がジャンヌを落ち着かせようと腕を掴んだ。


「受験資格は、キバ組織入隊前提でなくても持てる。

 俺は正当な受験者だよ」

「うるさい!」

 ジャンヌは踵を返し、その場を離れた。


「悪かった、カリンバ。

 ジャンヌは誰よりもキバ組織を目指している。

 そうでない受験者が腹立たしいんだろうね。

 でも、君には関係の無い話だ。

 後半戦、互いにベストをつくそう」

 ハラミが軽く会釈して、ジャンヌの後を追った。

 クララは十秒ほど、伝輝をじっと見つめた後、その場を去った。


     ◇◆◇


 休憩日は、各自の方法で過ごした。

 家畜を狩っても、点数はつかないが、勘を維持する為に、四足歩行で密林の中で過ごす班もいた。


 ロナウド班も、その方法をとっていた。


「どういうこと? ロナウド。

 なぜ、40点なの? 一人一頭ずつなら加点は30点のはずでしょ。

 私も、コウメイも、一頭しか狩っていないわ」


 ガリレイとコウメイの表情は厳しくなっている。


「次の課題で、調整しよう。

 二日目40点の内訳は俺も分からない。

 試験中単独で行動していた以上、お互いアリバイを保証することはできないんだ」


「待ってよ!

 三人の中に、裏切り者がいるってこと!?」

 ガリレイは、ロナウドとコウメイを見た。


 コウメイはサーッと血の気が引いたような顔になった。


「俺はお前たちを信じているよ。

 加点の理由は分からないが、事故でそういう結果になったのかもしれない。

 これ以上の詮索は止めて、今日はしっかり休もう」


 そう言って、ロナウドは寝床に身体を沈め、グゥグゥと寝息を立て始めた。


 ガリレイとコウメイは互いを見た。

 コウメイのおびえた表情は変わらなかった。


 ガリレイは何も言わず、自分の寝床に向かった。


 カサカサと申し訳なさそうに動くのは、コウメイだろう。

「馬鹿正直な奴ら・・・」

 ロナウドは必至で笑いをこらえていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ