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卒業試験 二日目 ① 伝輝の挑戦

キバ訓練所の、下級クラス卒業試験は、一日目を終えた・・・

一日目 結果


一位 グレイ班 45点


二位 ジャンヌ班 35点


三位 カリンバ班・ロナウド班 30点


五位 松子班 20点


六位 ドリアン班 10点



 画面に映し出された結果を、伝輝が見たのは夜の九時頃だった。


 あれから何とか身体を動かしシャワーを浴び、ベッドに沈むように眠り込んだ。

 まだ、頭の中がぼんやりしていたが、画面の結果を見ると、少し興奮した。


「三位だ! 凄い!」

「凄くねぇよ。合格するなら班で一位目指さなきゃ意味がねぇよ」

 カリンバが言った。

 彼は既に装備を固め、準備万端だ。


「ドリアン班が最下位なんだ・・・」

 伝輝は言うと、カリンバは鬣を撫でながら説明した。


「まだ一日目だ。

 今後順位はどんどん変わっていくだろうよ。

 ドリアン班は狩猟メインの班じゃない。

 一日目の点数が低いからって油断しない方がイイぜ。


 あと、この点数は個人点とチームワーク点の合計点だ。

 内訳は分からないが、俺達の点数から推理すると、恐らくウサギを一羽喰った俺に十点。

 捌いて後片付けもしたありさは二十点。

 今回はバラバラで行動したからチームワーク点はなしってところかな」


 となると、自分はまだ0点なのだと、伝輝は分かり、少し凹んだ。



「二日目の課題は何なの?」

 ありさが一階に現れた。

 全身黒ずくめで、彼女もしっかり準備していた。


「画面が切り替わるから観てな」カリンバが画面を指差した。


「二日目 課題

 イノシシまたはヤギを狩る

 狩るまで・・・五点/一頭

 捌く、食べるまで・・・十点/一頭」

 提出するまで・・・二十点/一頭」


 画面に映し出された課題を見て、伝輝はまた、受験生にとっては簡単な課題ではないかと思った。


「提出ね・・・。

 どうする? カリンバ?」

 ありさが尋ねた。


「提出するまでが一番良いだろう。

 きっと食べきれないし、かと言って不適切な放置は減点対象になりかねない」

「となると、上手に狩らないとね」

「どうってことないぜ。

 次は伝輝にも活躍してもらうからな!」


 カリンバはニッと笑って、あくびをする伝輝の背中を叩いた。



    ◇◆◇


 同刻、密林で適当な寝床を見つけた、ロナウド(トラ・雄)、ガリレイ(トラ・雌)、コウメイ(ヒョウ・雄)は、ロナウドの持つタブレットに映る課題を見た。


 ため息をつきながら、ガリレイとコウメイはスッとロナウドから離れた。


 タブレットを持ちやすくするために、ロナウドだけは二足歩行姿に戻っているが、残り二人は獣の状態を保っていた。

 

「提出は面倒だな」

 ロナウドはポリポリと耳の裏を掻いた。


「他のメンバーは、食べきれないってことで、提出の方向で動くんじゃないか?」

 コウメイが言った。


「提出しようと思ったら、獲物を綺麗な状態で狩らないといけないし、道具を使わない私達には不利よ」

 ガリレイがロナウドの方を見ながら言った。


「どうする? ロナウド?」

 コウメイもロナウドを見た。


「提出しなくて良いだろ。

 どうせ、俺達なら、ヤギの一頭位余裕だろ?

 昼間、ウサギ一羽で我慢した甲斐あったぜ」

 ロナウドは、舌で垂れかけた口元の涎をベロンとぬぐった。


「それじゃあ、二日目も、各々狩りが終わったらここに戻ってくるってことで。

 ロナウド、今度はちゃんと身体を洗ってから戻って来てよね。

 臭いで、この場所を特定されたら困るわ」


「分かってるって、ガリレイ。

 あと、今回もきっちり一頭だけ狩るんだぞ。

 個人プレーなんだから、班の中では、互いにフェアでやろうぜ」


「もちろんだよ。ロナウド。

 コツコツ、点数を積み上げていこうぜ」

 コウメイがニコッと笑った。


「二日目開始の時間まで、休んでましょう」


 ガリレイの言葉に、ロナウドも四足歩行になり、即席のねぐらに身体を押し込んだ。


 シーンと、静まり返り、ロナウドの耳には、ガリレイとコウメイの寝息だけが聞こえてくる。


「勝手に、フェアプレー気取ってろ。

 俺は上を行くんだ」

 二人に聞こえない音量で、クククとロナウドは笑いをこぼした。


    ◇◆◇


『開始五分前』

 管理棟一階にあるテレビ画面が、開始時刻を告げる。


「伝輝ぃー! ありさぁー!

 準備は良いか!」

 カリンバが管理棟の一階階段踊り場から、上の階に向かって吠えるように大声で呼んだ。


「待って! もう一回、トイレに行きたい!」

 伝輝は焦りながら、トイレに駆け込んだ。

 ウォシュレットや暖房便座はないが、水洗トイレだった。


 ズボンのチャックを上げながら、伝輝は勢いよく男子トイレから飛び出した。


 丁度、目の前を通っていたありさにぶつかりそうになった。


「うわっ!」


 伝輝は慌てて、立ち止まる。


 ありさは伝輝の姿を見て、眉間に皺を寄せた。

「ちゃんと、手を洗ったの?」


「あ・・・!」

 ありさの指摘に、チャックをまだ上げきっていない自分の手元に気付いた。


 伝輝は恥ずかしくなり、サササと男子トイレに戻った。

 チャックを上げ、手を洗っていると、カンカンカンとありさが階段を降りる音が聞こえてきた。


『一分前・・・』


「伝輝、早くしろー!」

 カリンバが叫ぶ。


「お待たせ・・・!」

 伝輝は階段を駆け下りた。

 慌て過ぎたのと、ありさに変な所を見られた所為か、軽く息切れしていた。


「二日目、狙いはイノシシかヤギだ」

 カリンバは管理棟の入口のドアを開けた。


『十秒前・・・』


「あれ?」

 伝輝はありさを見た。


 黒ずくめのありさの目元の皮膚が、火照っているように見えた。

「ありさ、暑いの?」


「この環境、寒いって言う動物いる?」

 バサリとありさは言い切った。


『ピー!』


「行くぞ!」


 カリンバ、ありさ、伝輝は管理棟を飛び出した。


    ◇◆◇


 事前の打ち合わせで、カリンバ班は密林には行かず、湖周辺を中心に獲物を探そうということになった。


「密林の方が、家畜の出現率は高いんだ。

 けど、ヒトは夜行動に不向きだ。

 初心者の伝輝もいるし、一回目の夜課題は安全第一でいこう」


 カリンバの提案だった。


 伝輝は部屋を出る前(最後のトイレを済ます前)に、以前タカシからもらっていた目薬を差していた。

 おかげで、街灯も何もない草原でも、メンバーの姿や、周囲の様子がよく分かった。


 昼間と違って、夜は意外と涼しかった。


 虫の活動的な音が聞こえてくる。


 一日目が終わって部屋に戻ると、無数の虫刺され跡に驚いた。

 キバ訓練所からの指示で、動物界の予防接種は受けていたが、それでも腫れと痒みが気になった。

 薬を塗り込んだ後、伝輝は虫よけローション(無臭タイプ)をしっかり体につけた。


 時々、ペシペシと顔などに虫がぶつかる感覚があったが、すっかり気にならなくなっていた。


「いるぞ」

 カリンバが歩みを止めた。


「湖のほとりにイノシシがいる」

 カリンバは鼻と耳をヒクヒクさせた。


「自分の音に気をつけろ。

 連中も敏感だ。

 もう少し、近づいて、数と大きさを確認する」


 カリンバは身体をかがめた状態で歩いた。

「伝輝、今のうちに槍の用意をしてろ」


 伝輝はそっと慎重に折り畳み槍を取り出し、組み立てた。

 どうしても棒同士を接続する際、どうしても音が出てしまう。


「伝輝、もっと静か・・・」

「落ち着け、ありさ。

 多分、気付かれていない。

 伝輝は焦らず、準備しろ」

 カリンバが一切振り向かずに言った。


 泥が混じったような水の匂いが、静かな夜の風に乗って、伝輝の鼻にもようやく届いてきた。


 同時に、獣独特の臭いもした。


 カリンバは長く草が生えている箇所に移動しながら近づいた。


 歩くたびに、上体を低くしていく。

 伝輝は腰と膝が痛くなってきた。


「一頭か・・・」

 カリンバは歩みを止め、湖の方を見た。


 湖のほとりに、もぞもぞと黒い塊が動いている。

 動きの幅が少ないところを見ると、夢中で水を飲んでいるようだ。


「体格・・・、動き・・・、臭い・・・。

 恐らく、繁殖の役目を終えた、老イノシシかな。

 狩りには、ベストな獲物だな」


 カリンバはここで初めて振り向いて伝輝を見た。


「俺が獲物をビビらして、動かす。

 お前はその動きの方向を先読みして、イノシシを捕えるんだ。

 ありさは、伝輝が怪我しそうになったら、麻酔銃でイノシシを撃て」


「分かったわ」

 ありさはうなづき、銃を手に持った。


「うん・・・」

 伝輝は首を重そうに動かした。


「お前の頑張りがポイントだぞ。

 俺とありさが手を出すと、獲物に傷が出来ちまう。

 上手く獲物の動きを止めるんだぞ」

 

 カリンバはニヤッと笑った。


 伝輝の槍を握る手に力が入った。


 グゥゥ・・・


 伝輝の腹が鳴った。

 イノシシには気付かれていない。


「腹減ってるのか?」

 カリンバは少し笑いながら言った。


「ん・・・」

 正直、かなり空腹だった。


 朝食は普段通りに食べたが、その後一日歩き回って、口にしたのは、不味いウサギ肉とお菓子のグミだ。


 これでは、まともに腹は膨れる訳がない。


「結構なこった。

 狩りの原動力は空腹だ。

 捕食対象家畜ってのは、感覚がメチャクチャ冴えてる。

 ここで一回狩りをしかけたら、少なくとも日が昇るまで、ここには家畜は寄ってこなくなるだろう。

 チャンスは一度きり。

 飢え死にしたくなかったら、死ぬ気でやるんだ」


 そう言って、カリンバは分厚い肉球で伝輝の肩をポンと叩いた。


 伝輝は唇をかみしめた。

 草むらから、イノシシを見る。


 昼間のウサギを思い出す。


 イノシシには申し訳ないが、伝輝はイノシシを、あの時のウサギと同じように見ていなかった。


 獲物、だった。


「獲物が湖から離れる前にやるぞ。

 配置に着け!」


 カリンバの指示に従い、伝輝、ありさはその場から移動した。


 カサカサカサと、草葉がかすれる音が響く。


 老イノシシの耳がピクピク動いた。


「ガルルルル!」


 イノシシが伝輝達に気を取られる前に、カリンバがイノシシの前に現れた。

 カリンバは、四足歩行で、全身を低くかがめ、イノシシを睨んだ。


 イノシシは水面につけていた鼻を上げ、素早く切り返して、走り出した。


 その延長線に伝輝は待ち構えた。


 イノシシの動きは止まらない。


 伝輝は、ドリスと源次郎との特訓を思い出した。


 大きさも、成人になった源次郎と変わりない気がする。


 伝輝は槍を構える。


 イノシシは一瞬、頭を上下に動かした。


「あ」


 源次郎と違い、そのイノシシには、太くて立派な角が生えていた。

 もちろん、角カバーなんて、していない。


「くっ!」

 気づきから、恐怖が沸き起こる。

 伝輝はそれをかき消すように、槍の柄をイノシシに向け、振りかざした。 

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