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卒業試験 一日目 ① 出発

 試験前日の夜、伝輝の発言により、ありさは泣き出しベッドルームに籠ってしまった・・・

 午前七時半。

 キバ訓練所下級クラス卒業試験受験者達は、左右に広がる巨大な塀の間にある、鉄製の門の前に立っていた。


 そこは、第一港やホテルなどがある町と、これからの試験会場の境界線であった。


 動物界のあらゆる組織が、狩りと化けの訓練や試験の為に、グル―パー島を訪れる。

 それ以外の日は、観光地として一般動物も入島することができた。


 この門の先は、グル―パー島の東側にある家畜飼育場で育てられた家畜が放たれている。


 家畜とは、決して食肉用の豚や牛や羊だけを指すものではない。

 肉食獣や大型草食動物も、まるで人間界の野生動物のように、島内で自由に活動しているのだ。



「狩って良いのは、家畜だけだ。

 野生動物は絶対に狩ってはいけない。

 これは違反になり、点数も大幅に下がる。

 また、家畜の乱獲も違反である。

 君達には何頭以上が乱獲になるかの基準は伝えない。

 自分達で判断しなさい。

 家畜と野生動物の判断も君達が行うのだ」


 昨日の最終訓練で、剛力所長は強い口調で言った。


 動物界では、人間界で野生動物と言われている動物を非常に尊敬しているらしい。


 自分達のように、無理やり人間に姿も生き方も近づけて現在に至っている動物よりも、本来の生き方を貫いている野生動物を誇りに思っているのだそうだ。


 グル―パー島は、厳重な管理の下、家畜しかいないのだが、稀に野生動物が紛れ込む場合があるらしい。

 管理者が発見した場合、丁重に野生動物を適当な場所に移動させているのだ。


「目の前の動物が違反対象かどうかを見定める目が必要ってことか」

 剛力所長の話を聞きながら、カリンバは考え込むように眉間に手を当てていた。



「これより卒業試験一日目の課題を発表する。

 各班長に小型タブレットと充電器を配布する。

 今後の途中結果報告、課題発表はそのタブレットで確認すること。

 万一、紛失・損壊した場合は、速やかに各管理棟に申し出ること。

 交換可能だが、減点対象になるので取扱いに注意すること。

 なお、下級クラス試験会場内にある各管理棟にも同様の掲示をしている。」

 門に背を向け、剛力所長が声高らかに言った。


 ロースがカリンバに縦約十三cm・横約八cmの薄いタブレットを渡した。

 既に画面には、課題が書かれている。

 英語と日本語が並んでいた。


「一日目 課題

 ウサギを狩る

 狩るまで・・・5点/1羽

 捌く、食べるまで・・・10点/1羽

 処理するまで・・・20点/1羽」


 こんな簡単な内容が課題なのか?

 伝輝は拍子抜けした。

 伝輝自身は、ウサギ狩りはしたことないが、ここにいる受験生ならすぐにクリアできるのではないか?


「これより、試験を始めます。

 呼ばれた班から順番に出発してください。

 十分間隔で出発します。

 一日目の活動時間は、八時~十六時です。

 しかし、二班目以降は、この待機分の時間を超過しても構いません。

 活動時間を超えた狩りなどは、点数に入りません。

 状況によっては、減点対象です」

 クッキーが甲高い声をキャンキャン響かせながら言った。


「ドリアン班!」


 ズシズシとドリアンが力強く門の方へ向かった。

 その後に続いて、ベルントとダニエルが歩いた。


 ドリアンは、昨日配布されたジャケットの袖を破り、逞しい腕をむき出しにしていた。

 前は閉じておらず、赤茶色の長い毛並みが動くたびにユラユラ動くのが見える。

 下半身は赤い布地に大きな白い花がプリントされた、いつも以上に派手なハーフ丈パンツを履いている。

 ウエストポーチを背中の位置で留めている。


 ベルントはシンプルなデザインのジャケットのチャックを一番上まで上げ、下は迷彩柄のズボンとブーツだった。

 リュックと長筒の銃を背負っていた。


 ダニエルは膝くらいまであるジャケットをベルトで閉め、ハーフパンツとショートブーツを履いていた。

 よく見ると、襟元とベルトは、クロコダイル革になっていた。

 配布されてから自分でアレンジしたのだろうと、伝輝は思った。


    ◇◆◇


「次はカリンバ班です。

 呼ばれるまで待機すること」


 クッキーの言葉を聞き、カリンバと伝輝は辺りを見回した。


 実は、朝起きてから一度もありさの姿を見ていないのだ。

 リビングのテーブルに「先に用意して行ってください」とメモ書きがあった。


 二人とも、複雑な表情をした。



 昨晩、ありさは突如泣き出して、ベッドルームに籠ってしまった。

 ルームサービスの食事が部屋に来ても、出てこなかった。


 カリンバはジャグジーで呆然としていた伝輝に何があったか尋ねた。

 伝輝はカリンバに話した。


「嘘くさいって・・・。

 言われたら、嫌な気分になるだろ」

 カリンバは呆れたように言った。

「念のため確認するが、雄の本能で襲ってはいないんだな?」


「違うよ!」

 伝輝の否定ぶりを見て、カリンバは信じることにした。


「明日、お前からちゃんと謝れよ」

 カリンバに言われ、伝輝はうなづいた。


 ありさが一方的に怒って、泣き出しただけにしか思えない伝輝は、正直不服であった。

 しかし、これから一週間程一緒に行動するのだから、さっさと片付けた方が良いと伝輝も思ったので、渋々承諾した。

 あとは、ありさが納得してくれかどうかなのだが、あれから会っていないのでどうしようもない。


「もうすぐ、出発なのね」

 二人の背後から声がした。

 振り向くとありさが立っていた。


 だが、本当にありさなのかと思った。

 ありさは身体中を薄手の黒い布で覆い、全身黒タイツ状態だった。

 黒タイツの上にジャケットとショートパンツとブーツを身に付けている。

 顔も、目の周り以外布で隠れていて、キャップを被っていた。


「すげー、重装備だな」

 カリンバが引きつり笑いをしながら言った。


「日焼け、虫よけ対策よ。

 私は試験中、肌を守らないといけないから。

 さっき、試験官の一人から、肌に傷がついたら減点するって言われたわ」


 ありさの声は布越しに聞こえた。

 通気性は良いようだ。


「ありさ・・・」

 伝輝が意を決して、声をかけた。


「何?」

 ありさが伝輝を見る。

 目元以外隠れているので、黒く済んだ瞳の力が余計強く感じる。


「あの・・・」

「ウジウジしている暇があったら、もう一回トイレに行ったら?」

 ありさはいつもの口調で言った。


 特に怒っている様子もない。


「あ、うん」

 伝輝は言われた通りに、トイレに走った。


「昨日の夜は大丈夫だったのか?」

「何が?」

 カリンバの気を遣った言葉に対しても、ありさは何事もなかったかのように答えた。


「カリンバ班!」


 伝輝がトイレから戻ってきたタイミングで、クッキーの呼ぶ声がした。


 三人は門の方へ向かった。

 結局、伝輝は謝ることができなかった。


    ◇◆◇


 門を越えると、一面に緑の草原が広がっていた。

 その奥の方にぼんやり見える山の様な塊は、密林だった。


「試験が終わるまで、もうこの門の向こうには行けない。

 まずは、管理棟に行くぞ。

 ここから一番近い管理棟は草原の西の方にある。

 途中で、ウサギを見つけたら狩るぞ」


 カリンバが言った。


「ありさ、調理器具は持っているだろうな」

「もちろんよ」

 ありさはリュックをポンポンと叩いた。

 ベルントのように、リュックと長筒の銃を背負っていた。


「よし、じゃあ行くぞ!」

 カリンバは歩き出す方向を指差した。


 昨日は昼間少し雨が降ったのだが、今日は快晴で雲一つない。

 日差しも強く、気温も高いのだが、湿度があまり高くないのか、カラッとしていて快適だった。

 狩りや試験といったものがなければ、最高の遠足日和だった。


「こまめに水分を摂るのは良いが、もう少し一回に飲む量を減らせ。

 その辺でションベンをすると、臭いを覚えられてしまう。

 管理棟に着くまで、トイレに行かずに済むようにしろよ」


 水筒に口をつけた伝輝はビクッと肩を動かした。

 もう一口飲もうとしたが、すぐにボディバッグにしまった。


 カリンバ、伝輝、ありさの縦一列で黙々と歩いていたのだが、カリンバは全くこちらを振り向かずに言った。

 草食動物は視野が広いと聞いたことがあるが、彼は肉食獣だ。

 どうして分かったのだろうか?


「多分、音と臭いよ」

 ありさがスッと横に並び、小声で言った。


「カリンバはきっと、普段セーブしている五感を全開しているんだと思う。

 元々、聴覚・嗅覚はヒト以上に優れているわ。

 試験中は、他の受験生たちも本来の四足歩行に戻り、神経を研ぎ澄ましているわ。

 のんびりハイキング気分だと、簡単に襲われてしまうわよ」


 伝輝は息を飲んだ。


 カリンバは支給されたジャケットの袖を破り、前を閉じずに羽織っている。

 その上からショルダータイプの双剣ホルダーを背負い、腰には大きめのポーチをつけていた。

 カーキ色のワークパンツと黒のブーツを履き、指が出た革製のグローブをはめていた。


 彼の背中からは、普段のヘラヘラした雰囲気は感じ取れなかった。


 ドキドキと、心臓の鼓動が速くなるのを、伝輝は感じた。

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