下級クラス卒業試験 ④ グル―パー島
伝輝達、キバ訓練生達は、試験会場のグル―パー島に向かうため、潜水艦に乗り込む・・・
ザトウクジラが引っ張るという、オッセー潜水艦に乗った受験生達は、ひと時の海底探検を楽しんだ。
外を見られる窓がある場所は限られていたが、閉塞的な潜水艦内で、そこだけは未知なる世界を映しだしていた。
伝輝は寝食忘れて、暗い、けれど微かに見える海中の生物達や海流の流れを眺めていた。
夢中になって見ていたはずだが、気が付いたら寝てしまっていた。
◇◆◇
午前中に出発し、到着したのは次の日の夕方頃だった。
潜水艦を出ようとする訓練生達は、出発時に羽織っていた革ジャンを着ていなかった。
服装や靴も変わっていた。
カリンバは黒いシャツのボタンをほとんど外していて、黄土色の毛並みを出していた。
足元はサンダルに変わっていた。
ドリアンは上半身裸で、派手なフラワープリントのハーフパンツ一枚になっていた。
ありさはつばの広い帽子を被り、薄手のシャツを羽織っている。
ショートパンツに、足首に飾りのついたサンダルを履き、真っ直ぐな足を出していた。
ダニエルはサングラスをかけ、パリッとした白シャツに着替えていた。
ダニエルの姿は、洋画のワンシーンのようだと、伝輝は思った。
伝輝も革ジャンをしまい、Tシャツと袖なしパーカーに着替えた。
靴は、出発前に買ってもらったハイキングシューズしか持ってきていなかった。
周囲の軽やかな足元を見ていると、準備の足りなさを少し悔やんだ。
潜水艦を出ると、外の明るさが目に入り、まぶしかった。
反射的に目を閉じ、ゆっくり瞼を開けた。
「ふわ・・・」
暖かい空気と潮の香りが、風に乗って伝輝の髪を揺らした。
雲一つない青空から、燦々と降り注ぐ太陽の光。
水面に出た潜水艦の出入り口は、二階建てくらいの高さがある。
伝輝は辺りを見渡した。
青い海が延々と広がり、白い砂浜が島を縁取っている。
停泊した港は、行きのまごころ港と違い、工場らしきものは見えない。
代わりに、白く輝く壁の大きな建物や、スッと伸びるタワーのようなものが見える。
さらにその奥は、緑が濃くなっていた。
これが南国なんだ・・・
たった一日程で、気候も景色もガラッと変わってしまった。
動物界に来た時よりも、別の世界にいるような感覚になった。
◇◆◇
訓練生達は港で待機していたバスに乗り、ホテルまで移動した。
見るからに高級リゾートホテルの様な外観をしており、伝輝は自分が場違いな所にいる気がして仕方がなかった。
「班長、鍵と部屋分け表を取りに来てください」
クッキーがホテルロビーで班長達を呼んだ。
鍵とプリントを持ったカリンバが、伝輝とありさを呼んだ。
「部屋に行くぞ。俺達は三人同じ部屋だ」
「え!?」
伝輝はありさを見た。
ありさは、無反応でカリンバについていった。
エレベーターに乗った際、ドリアン・ベルント・ダニエルも一緒だった。
ダニエルは早速ありさに話しかけていた。
海が綺麗だとか、ホテルが上品だとか、分かりきっていることをなぜか自慢げに話すダニエルに、伝輝はうんざりしていた。
チラリとカリンバを見ると、目が合った。
カリンバもダニエルの口説き文句を心の中で笑っているのだろう、意味ありげに目くばせした。
チリン
五階でドリアンとベルントが降りた。
ダニエルは残っていた。
「僕は八階のダブルルームを用意してもらったんだ。
シングルベッドじゃ窮屈なんだよ。
さっきの二人は仲良くツインルームらしいけど、毛むくじゃらの連中と相部屋なんてありえないね」
ダニエルの言葉に、カリンバの耳がピクッと動いた。
「君は?」
「カリンバと伝輝と同室で、最上階」
「え?!」
ダニエルは目を見開いた。
「同じ・・・部屋?」
八階に到着し、エレベーターのドアが開いた。
ダニエルは信じられないという表情を浮かべながらエレベーターを降りた。
ドアが閉まる瞬間、ダニエルの突き刺すような視線が、伝輝に向けられた。
伝輝は下を向いた。
◇◆◇
最上階に到着し、カリンバはキョロキョロと廊下を歩いた。
どこまでも続くような絨毯敷きの廊下なのに、ドアが妙に少ない。
ようやく止まる部屋のドアを見つけ、カリンバは鍵を開けた。
「すげー!
スイートルームじゃん!」
一番に入ったカリンバが興奮気味に言った。
真っ直ぐ進むと、そこはベッドではなく、おしゃれなソファとテーブルが置かれていた。
カウンターが備え付けられており、そこでお湯も沸かせるようになっている。
リビングルームの傍のドアを開けると、ツインベッドルームになっていた。
更にその奥にはもう一つベッドルームが用意されていた。
「同室でも、問題なさそうだな。
奥のベッドルームには、バスルームがついているぜ。
ツインベッドの部屋にもシャワールームがあるし」
カリンバは伝輝の方を見て言った。
伝輝は少しだけホッとしたが、高級感がありすぎる部屋に、気持ちは落ち着かなかった。
「三十分後に、この部屋に夕食を持ってきてもらうようにしたから、飯を食いながら作戦会議をするぞ!
それまで、各自休憩だ」
カリンバはそう言ってシャワーを浴びにツインベッドルームに向かった。
ありさも自分がシングルベッドルームの方へ行った。
伝輝はもう少し室内を見学した。
恐らく二度と泊まることのない部屋だと思うので、しっかり目に焼き付けておきたかった。
壁には額縁に入った絵が飾られ、ちょっとした棚の上などには、花が生けられている。
風呂の代わりにジャグジー付き温水プールが、ガラス張りの室内にあり、海と空が一望できた。
何で、こんな豪華な部屋に泊まれるのだろうか?
ダニエルの話だと、他の訓練生達はきっと普通の部屋だろう。
まさか、これもポンコツ先生の推薦の為?
俺が人間6号だから?
部屋が立派であればあるほど、伝輝は不安になっていった。
◇◆◇
チャイムが鳴り、ピチッと制服を着たホテルマンの牛の男性が、テキパキとリビングのテーブルに料理を並べて行った。
ステーキ、パスタ、サラダに、ハンバーガー、ピザ・・・
カリンバと伝輝は、疲れと空腹を癒すかのように、豪快にたいらげていった。
ありさは、チョビチョビとサラダを中心に食べていた。
こんな時でも、ありさの背筋はピンと伸びたままだった。
口をほんの少しだけ開けて、ありさはゆっくりパプリカを口に入れていた。
「デザート食べながら、これを見てくれ」
カリンバは皿を無理やり端に避け、紙を広げた。
楕円形に、線や三角の図形が描かれ、緑色やピンク色で塗られてる。
「これは?」
「グル―パー島全体の概略図さ。
俺達が今いるのが、北側の第一港の近くにあるホテル。
試験が始まれば、南北に分かれた北側のエリアで俺達はサバイバルすることになる。
ま、管理棟に行けば、寝泊まりが出来るから、野宿する必要はないけどな」
「随分、雑な地図だね。
これで、目的地にたどり着けるの?」
「地図なんていらねぇよ。
一応、方位磁石も用意されるけど、本当にいるか?」
カリンバがソーダアイスバーを齧りながら言った。
「私達は、地図とコンパスがないと、位置を特定するのは難しいわ」
ありさが言った。
「まぁ、詳細地図は支給されないから、何とかこの概略図とコンパスで頑張ってくれよ。
色分けは、川とか池とかを指しているんだ。
濃い緑は密林で、試験が始まったら、狩りのメイン場になるだろうな。
明日は密林で、最終訓練があるから、その前に試験について確認しておこうぜ」
カリンバは島の概略図を片付け、試験概要と書かれた紙を取り出した。
「試験は休憩日を入れて計七日間行われる。
試験時間は、昼部・夜部に分けられていて、一日当たり十時間と決まっている。
その間に狩った家畜の種類・頭数・手段・処理方法などから、個人に点数がつけられる。
一日の試験時間が終わったら、各班の成績が発表される。
各班の点数は、個人点の合計とチームワーク評価点の総合計点さ。
内訳は発表されないけどな。
最終的に、個人点が最も高い順に合否が決まるんだが、チームワーク評価があるから、班全体で協力しないと、高得点はとれないことになっている。
ちなみに試験中は、任意で参加できる課題が、毎回与えられる。
それをクリアすると、高得点が入るんだが、狩りの技術だけではなく、化け能力も必要となってくるから、課題に取り組むか否かは、班の作戦になる。
ちなみに、失敗したり、ちゃんとした狩りができない場合は、点を下げられる場合もある」
カリンバは伝輝を見た。
恐らく、訓練生として一番経験の浅い伝輝を、気にしているのだろう。
「課題次第では、訓練生同士のバトルもあるかもしれないな。
その為にも、各班の特徴を俺なりにまとめてみたから、聞いてくれ」
カリンバはリングノートを取り出し、机に置いた。
カリンバの手書きだろう。それは、英語で書かれていた。
読めない・・・
伝輝が申し訳なさそうにそう言おうとした時に、ありさが先にカリンバに言った。
「ちゃんと説明して。
こんな雑な字じゃあ、読むの大変よ」
「はいはい、すみませんね。字が下手で」
カリンバはコーヒーをカップに入れながら言った。




