下級クラス卒業試験 ② 班分け発表
伝輝は下級クラス卒業試験に受験することが決まったのだか・・・
受験者に選ばれた動物達は、一層日々の訓練に励むようになった。
一方で、数名の動物達がいなくなっていることに、伝輝は気づいた。
「試験は年に数回行われるが、三回受験資格をもらえなかった動物は、強制退会させられる。
自己都合での辞退は、カウントされないが、それでも四回受験しなかったら、退会しないといけないんだ」
カリンバが説明してくれた。
ある日の座禅の訓練で、老キツネの先生は座布団ではなく、ちゃぶ台を置き、その上に茶碗を五個並べていた。
「今日からはもっと実践的なコントロールの訓練をするよ。
台の前に座りなさい」
伝輝は言われた通り、ちゃぶ台の前に正座した。
白色三つと、青色二つの茶碗が交互に横一列に並んでいた。
「化けを発動させた状態で、まずは一番右端の白い茶碗を触りなさい。
『消失』をしなさい」
伝輝はギュッ、ギュッと右拳を握り、熱を感じた状態で白茶碗に触れた。
パリンと茶碗は綺麗に真っ二つになった。
日頃の訓練の成果で、伝輝は破壊の程度を調整できるようになっていた。
「よし、次は青い茶碗に触れなさい。
ただし、割ってはいけないよ」
「え!」
伝輝は右手をブンブンと振り、熱を飛ばすイメージで化けの発動を落ち着かせた。
そして青い茶碗を触った。
茶碗は割れなかった。
「青い茶碗を触るまでに、四分かかったな」
先生は言った。
「これから五つの茶碗を五分以内で全て触りなさい。
白い茶碗は今のように割り、青い茶碗はヒビ一つつけてはいけないよ」
先生は、右端の割れた茶碗を片付け、新しい白い茶碗をちゃぶ台に置いた。
「白茶碗が割れなかったり、青茶碗が割れたら、初めからやり直し。
一時間以内でクリアすれば、合格だ。はじめ!」
◇◆◇
パリン! パリン!
この短時間で、一体どれだけの茶碗を割ってしまったのだろうか?
伝輝は段々イライラしてきた。
イライラが手に伝わり、真っ二つにする予定の白茶碗が粉々に砕ける。
「イライラするなら、一旦手を止め、座禅を組みなさい。
瞑想で、心身を落ち着かせ、自分の力をコントロールするのです」
伝輝はちゃぶ台に背を向け、目を閉じる。
数分後、気合を入れ直して、挑戦した。
結果は九分だった。
だが、ちゃんと白い茶碗を真っ二つにし、青い茶碗はそのままにすることができた。
「今日はここまで。
次は五分以内にできるように頑張ろう」
訓練が終わり、伝輝は一気に疲れを感じた。
体を動かしていないのに、こんなにも疲れるのか。
「化けは集中する作業だからね
どんなスポーツよりも、体力と精神力を使うよ。
若い間は、多少の無理ができても、私くらいのジジィになると、教えるだけで精いっぱいだよ」
先生は割れた茶碗が入った袋の口を縛りながら言った。
「先生はいくつなんですか?」
二人で廊下を出て、茶碗の入った袋運びながら伝輝は尋ねた。
「十歳超えたかな・・・?
あまり普段、実年齢を考えないからね。
誕生日ってのも、忘れているよ」
先生の言葉を聞き、伝輝はタカシを思い出した。
先生と比べると、タカシは恐ろしく若いと思った。
◇◆◇
まごころ町には、人間界の様な祝日や連休といったものは存在しない。
かろうじて、土日は休みという感覚がある位だ。
寿命がバラバラの彼らは、同じタイミング・時期で休んでなんかいられない。
そのため、ゴールデンウィークやお盆休みといったものはないが、各々のペースで休暇をとっている。
しかし、唯一共通して休むことがある。
それが年末年始だった。
年末年始に仕事がある動物もいるので、全体がそこで休むわけではないが、圧倒的に休みを取る動物が増えるのがこの時期だった。
カリンバやダニエルはクリスマス前から休んでいた。
動物界でも地域ごとに風習が違うらしい。
伝輝の家でも、人間界にいる祖父母の家に新年の挨拶に行くことになった。
伝輝がまごころ荘前駅に向かうと、エミリーちゃんもさりげなく同乗してくれた。
エミリーちゃんは人間界にいる間、姿を見せなかったが、伝輝の体調に異変が起きなかったあたり、恐らく近くにはいてくれたのだろうと、伝輝は思った。
「皆さん、おかえりなさい」
サラブレッドのゴンザレスと、アジア象のマグロがまごころ荘敷地内に入るところで、駅から出てきた豊家と合流した。
「ゴンザレスさん、マグロ君、明けましておめでとう。
二人でお出かけ?」
昇平と夏美はにこやかに、新年の挨拶を言った。
「うん。お正月バーゲンに行ってきたんだ!
ゴンザレスさんから、お年玉プレゼント買ってもらっちゃった!」
マグロは嬉しそうに紙袋をグッと体の前で抱きしめた。
「マグロ君は、僕にとって親戚の子どもみたいなものだから、ついつい買っちゃうんですよね」
「良かったわね、マグロ君。
ゴンザレスさんも子どもが好きなら、早く良い人見つけて結婚しないとね」
夏美が言うと、ゴンザレスは照れくさそうに顔をポリポリ掻いた。
「あはは・・・そうですね」
ゴンザレスとマグロと両親達が、楽しそうに立ち話をしている中、伝輝はブスッとした顔で一歩離れて立っていた。
「伝輝君、体調悪いの?」
マグロがヒョコッと伝輝の方を見て言った。
「違うのよ。マグロ君」
夏美が苦笑いした。
伝輝はこの年末年始ではじめて知った事実がいくつもあった。
この事実は、両親は既に知っており、「言うの忘れていた」という理由で、伝輝には伝えられていなかったのだ。
(両親に施されている、記憶操作と催眠も原因に含まれているかもしれないが・・・)
その事実の一つ、豊家は今まで住んでいた家と別に家を借りて、両親は別居状態。
長男は父親と暮らしている設定にしていることだった。
その為、伝輝はいつもと違う駅に降り、初めて見る3LDKのマンションで年末年始を過ごすことになった。
マンションに着いてから、昇平から数枚のプリント渡され、現在伝輝が通っていることになっている学校の名前などを知った。
「一緒に暮らしたらどうなの?
夏美も優輝と二人暮らしなんて、大変でしょう?」
夏美の母・伝輝の祖母が、マンションを訪れた際に言った。
「離婚した訳じゃないし、こうやって会いに来るなら。別居する必要ないじゃない」
別の日に、豊家は昇平の両親の家にも行った。
そこで伝輝は二つ目の事実を知った。
「伝輝は学校に通わないのかい?」
伝輝は祖父に聞かれて戸惑った。
「不登校の生徒向けのフリースクールがあって、そこの方が伝輝に合っているんだよ」
昇平はヘラヘラ笑いながら言った。
「学校の成績も悪くないんだぜ」
「しかし、やはり社会に出た時に苦労しないのか?」
「あなた、今の時代は多様性の時代なのよ・・・」
昇平の両親は、一生懸命、孫の状況を認めてあげようと心掛けていた。
伝輝は不登校生徒という扱いになっていた。
しかし、動物界で生活している事実を隠すとなると、よそに引っ越して不登校しているというのが、一番のごまかし方法なのだろうと思った。
ここまではまだ納得できたのだが、最後の事実だけは、許しがたいものだった。
◇◆◇
伝輝には妹がいた。
と言っても実在しない。
動物界が用意した、籍だけの存在、つまり「枠」だった。
名前は「環輝」らしい。
「環輝の病状は相変わらずなの?」
これも、祖父母の言葉で初めて知った。
環輝は病気の為、ずっと入院していて、面会も中々できないという設定だった。
「ふざけんなよ! 何だよ、妹って!」
マンションから帰り、伝輝は大声をあげた。
「私達もびっくりしたのよ。
引っ越しで住民票取りに行ったら、一人多いんだもん。
まごころカンパニーが、今後の発展の為に必要だから協力してほしいって言われてね」
「それで、OKしたのかよ」
「別に、誰にも迷惑かけないし。
むしろ、テアテとかゼイキンとかで、得することもあるんだぜ」
両輪のケロリとした表情を見て、伝輝はこれ以上話す気になれなかった。
まごころカンパニーは、どこまで自分達家族を利用するつもりなのだろう。
元々いる人間を消して、枠を作った訳ではないのだから、百歩譲って良しとするか・・・
伝輝は必至で、自分を納得させようと考えていた。
「伝輝、怒ってる?」
夏美は、伝輝が座っているリビングのソファに横並びで座った。
優輝はベビーベッドで寝ており、酒に酔い潰れた昇平はダイニングテーブルに顔をべったりくっつけて眠っている。
「勝手に色んなことされすぎだよ。
せめて、もっと早く言ってほしかった・・・」
「ごめんね。しょーちゃんに任せっきりにさせない方が良かったわね。
それは私も反省。
でも、環輝のことはね、ちょっと嬉しいの」
夏美はいつもと違う、少し悲しげな表情を浮かべた。
「今まで、伝輝には言わなかったけど、実は伝輝を生んですぐ、赤ちゃんができたの。
でもね、その子は大きくなる前にお腹の中で死んじゃったの。
死亡届も出す必要がない位の段階でね。
周りからの反対を押し切って産んだ後に、また子どもができちゃったから、誰にも言ってなかったの。
しょーちゃんと相談して、堕ろそうかとも考えたんだけど、悩んでいる間に、ね・・・」
伝輝は夏美を見た。
知らなかった・・・
「赤ちゃんがお腹の中で死んじゃったことを知って、凄く後悔したわ。
悩むくらいなら、ちゃんと大事にして産めばよかったって。
それから毎日が大変だったけど、やっぱり二人目がほしくて・・・
中々、上手くいかなかったけど、ようやく優輝を授かることができたの。
そんなことがあったから、嘘でも、紙の上ではあの時の子がいると思うと、ちょっとだけ嬉しいの」
伝輝は夏美の話を聞き、両親が納得しているなら、それでも良いかと思うようになった。
だが、次第に新たな疑惑が浮かんでしまっていた。
まごころカンパニーは、二人が結婚する前から、狙っていた。
流産が、まごころカンパニーの仕業でないと、言い切れるか?
伝輝の疑念は、表情を暗くさせてしまっていた。
◇◆◇
数日ぶりのキバ訓練所では、訓練生達がざわついていた。
「伝輝! 卒業試験の班分けが発表されたぞ!」
カリンバがグイッと伝輝の腕を掴んで、食堂前まで引っ張って行った。
【一月度 下級クラス卒業試験 活動班一覧】
1、ドリアン班
班長:ドリアン (オランウータン)
副班長:ベルント (グレート・デーン)
班員:ダニエル (ヒト)
2、カリンバ班
班長:カリンバ (ライオン)
副班長:ありさ (ヒト)
班員:伝輝 (人間)
3、グレイ班
班長:グレイ (シベリアンハスキー)
副班長:サンド (キタキツネ)
班員:マーブル (コヨーテ)
4、ロナウド班
班長:ロナウド (トラ)
副班長:ガリレイ (トラ)
班員:コウメイ (ヒョウ)
5、ジャンヌ班
班長:ジャンヌ (ライオン)
副班長:クララ (ライオン)
班員:ハラミ (シマハイエナ)
6、松子班
班長:松子 (キツネ)
副班長:竹男 (タヌキ)
班員:梅千代 (タヌキ)
「俺達、一緒の班だぜー!
よろしくな! 俺のプライド!」
カリンバはグッと伝輝を自分の身体に寄せた。
そして、たまたま隣に現れたありさも同様に自分に寄せた。
伝輝とありさの顔がカリンバの胸の前で近づいた。
「う・・・」
今までにない近距離でありさの顔を見た伝輝は、恥ずかしさで思わず目をそらした。
ありさは微かに眉をしかめた。




