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キバ訓練所 ④ 訓練生達の実力

伝輝は、キバ訓練所の指導員である、キンイロジャッカルのクッキーに、身体強化について教わるが・・・

「聞いてー」

 クッキーが手を叩き、散らばっている訓練生達の視線を自分に向けた。

「準備が出来た動物から、板を割ってください。

 自己申告ノルマが達成したら、残りの午前時間は自由時間とします」


「まじでー! クッキー、気が利いてるじゃん」

「クッキー、サイコー!」

 訓練生達は意気揚々と声を上げた。

 クッキーは訓練生達に目上という扱いは受けていないようだ。


「クッキー、私、銅板一枚を割るわ」

 一番に声をあげたのは、ありさだった。


 伝輝はドキッとした。

 ありさも身体強化ができるのか。


「はい、ではやってみて」

 クッキーは手袋をありさに渡した。

 ありさは伝輝と同じく手刀で、軌道を確認した。

 バチッ!

 ありさの右手から音が鳴り、シュッと手刀で板の面を打ち付けた。

 面にありさの手が触れた瞬間、板は割れ、上下真っ二つになった。

 コンクリート破片を散らしながら、ありさは右腕を最後まで綺麗に振り切った。


「ふぁー・・・」

 ビクともしなかった板が、女の子の手によって、いとも簡単に割れてしまった。

 伝輝は驚きで言葉が出なかった。


「はい、クリアだね。休憩してよし」

 クッキーに手袋を渡し、ありさはスタスタとその場を去った。

 出口へ向かう途中に、ダニエルがありさに近付き、話しかけた。

「見事なコントロール技術だね。

 僕がアドバイスすれば、もっと沢山割れるようになるよ」

ダニエルはピンッと伸ばした指先で、クイッと眼鏡をあげた。

「ありがとう。

 でも、私、身体強化は必要最低限のレベルで良いから、結構よ」

 ありさは澄まし顔を一ミリも崩さず答え、出口まで歩いて行った。

 ダニエルはありさの後ろ姿を見ながら、ありさに気付かれないように、眉間に皺を寄せた。

「あの女・・・

 調子に乗りやがって・・・」


    ◇◆◇


「どうだった? 伝輝君」

 クッキーが言った。

「身体強化が出来れば、実際の体格とは関係なく、力が発揮できるんだよ。

 折角だから、皆が身体強化して、板を割る様子を見てごらんよ」


「次、俺やりまーす」

 カリンバがクッキーに言った。

「俺は銅板二枚ね」

「はいはい」

 クッキーは銅板二枚をカリンバの前に用意した。

 銅板二枚は面と面をピッタリ重ねて立てられ、厚みがさっきの倍のコンクリートの塊になった。

 カリンバの身長に合わせているのか、ありさの時より大きく二メートル四方の板だった。 

 簡単に運んでいる辺り、クッキーはごく普通に身体強化を使用しているのだと、伝輝は思った。


 手袋をはめたカリンバは、手刀であっさり二枚の銅板を真っ二つにしてしまった。

 ドシンドシンと、床に落ちるコンクリートの塊の音は、確かに重いものだった。

「はい、クリアだね」クッキーが言った。

 カリンバはニッと笑った。


「銅板なんて、情けないな」

 雌ライオンのジャンヌが現れた。

「良いんだよ。この手は剣を握るものなんだ。板割りで痛めたくない」

「そんな甘い考えが、キバ組織に通用すると思っているのか?

 クッキー、銀板二枚を用意してくれ」

「ほいほい」

 クッキーは右上角に銀メッキを施している二メートル四方のコンクリート板二枚をぴったり重ねて用意した。

「マジかよ」

 カリンバが言った。


 ジャンヌは銀板の面と向かい合い、ボクシングの様な構えをした。

 スースーと呼吸を整え、ジャンヌは右拳を銀板の面の中央に打ち付けた。


 バリッ! ビキィ!

 板の面は中央から放射線状に亀裂が入り、二枚目の板も亀裂が入り、板がバラバラの塊と化した。

「お見事、クリアー」

 クッキーが気の抜けた声を出した。


「すげーな、ジャンヌ」

 伝輝と一緒に傍らで見ていたカリンバが言った。

「フン、ボクは君には絶対に負けないからね・・・

 うっ・・・」

 手袋を外したジャンヌは、顔をしかめた。

 右拳から血が滲んでいた。


「無理し過ぎよ、ジャンヌ。手を見せて」

 パッと、マスクをつけた雌ライオンのクララが、ジャンヌに近付き、彼女の右手を持った。

 クララがジャンヌの右手を撫でると、傷が癒えていった。


「化け治療だ・・・」

 伝輝は、クララがタカシと同じことをしていることに気付いた。

「私は化け医者を志しております。

 人間の皮膚は、どの程度の衝撃で破れるのか、どの程度の治療で回復するのか、非常に興味深い分野でございます。

 あの、もしよろしければ、貴方の腕を私の爪で引っ掻いてみたいのですがいかがでしょうか?

 もちろん、その後はちゃんと治しますので・・・」

 クララはジャンヌの治療を施しつつも、ギラギラした目で伝輝を見ながら、マスク越しにブツブツ言った。

「クララ、落ち着くんだ。それはまた今度にしな」

 ジャンヌがクララに言った。


    ◇◆◇


「次は誰が割りますかー?」

 クッキーはカリンバやジャンヌが割ったコンクリートの塊を拾って集めながら言った。


 クッキーのところに、黄色いバンダナをつけたハイエナが、タイヤ付きの大きな箱を押しながら現れた。

「バラ!?」

 伝輝はハイエナを見て、思わず声を出してしまった。

 見た目がバラに似ている。

 しかし、バラよりも体が小さく、あの獲物を狙うような威圧感もなかった。

「バラおじさんを知っているの?」

 まだあどけない、少年の声をしていた。

「いや、あの・・・」

 伝輝は何と答えて良いか分からなかった。

「ハラミ、箱を持ってきてくれて、ありがとう。

 彼は俺のちょっとした知り合いで、以前同僚のバラの話をしたことがあるだけだよ」

 クッキーがフォローするかのように、間に入ってくれた。

「ふーん。

 ねぇ、クッキー、俺のノルマは、この塊を拾って回収するお手伝いってことで良い?」

「良いよ。俺も助かる」


 そう言って、クッキーとハラミと言う名のシマハイエナの少年は、ヒョイヒョイとコンクリートを拾って箱に入れていった。

 破片と言っても、元々何百キロもあったものだ、軽いはずがない。

 ハラミもクッキーと同様、身体強化ができるのだろうと、伝輝は思った。


「次は僕がやります」

 ダニエルが近づいて言った。


「お、新入生君、チャレンジかい?」

 クッキーが言うと、周りの訓練生達もダニエルを見た。

 ダニエルは余裕の表情で眼鏡をクイッとあげた。


「僕は、銀板三枚でお願いします」

 周囲から「おー」と歓声があがった。


「はーい」

 クッキーとハラミが一メートル四方の銀板を三枚重ねて用意した。

 厚みは一メートル近くに達している。


 ダニエルは手袋をはめ、ジャンヌと同じく拳を構えた。

 バチバチ・・・!

 右手から音がし始めた。

 ビシ! ビキキキキ・・・・!

 一枚目は拳から中心に亀裂が走り、二枚目三枚目は、横に亀裂が入って割れた。

 板を割ってすぐ、ダニエルは三枚目の板に近付き、そっと左手で押さえたので、三枚の板は倒れることなく、割れたままその場で止まった。


「お見事ー! しかも、散らからないように配慮してくれてありがとうね!」

「当然のことです」

 ダニエルはピンと伸びた左手の指で再び眼鏡をクイッと上げた。

 手袋を外した右手は、格好つけるようにジャージのポケットに入れている。

 横目でチラリと伝輝の方を見る。

 その眼は、完全に伝輝を見下していた。


「やるなぁ、新入生」

 カリンバが言った。

「何で、あんなに化けができるんだろう? ここに来たばっかりなのに」

 伝輝は明らかに見下されたことを感じ、少し不快な気持ちになっていた。

「ありさが言うには、ダニエルの家は、化けの指導教室を行っているらしい。

 小さい頃から、化け能力も技術もしっかり身に付けているだろうな。

 ここの訓練所は、予め化けの心得がないと入会できない。

 あいつみたいな、初めっからエリートがいてもおかしくないのさ」

 ポンッと、カリンバは伝輝の肩に手を乗せた。

「同期だからって、気にするな、もともとのバックヤードが違う。

 あいつは、お前を意識しているみたいだけど、他の動物と自分を比較するなんて、無意味なことだよ。

 お前は、自分の上達だけを考えれば良い」

 カリンバの言葉はとても心強いものだった。


 ダニエルはソソッと、ドリアンとベルントがいる場所に行った。

「やるな、新入生」

 ドリアンが落ち着いた声で言った。

「フフ、成績トップと聞く貴方にそのように言ってもらえて光栄です」

「今後は、板の枚数を減らして、純粋に強化した腕力だけで、割る訓練をした方が良いぞ」

 ダニエルはビクッと肩を震わした。自分より背が低いドリアンを見下ろす。

 ドリアンはダニエルを見ずに、ノシノシとクッキーの方へ向かった。


 ダニエルはコソッと、ポケットから右手を出した。

 まだ、右手の緑色の鱗は完全に消えていなかった。


    ◇◆◇


「クッキー、金板を用意してくれ」

 ドリアンが言うと、ダニエルの時よりも更に大きな歓声が上がった。

「何枚?」

 ドリアンは手袋をはめながら言った。

「三枚だ」


 クッキーとハラミが板を用意している間、伝輝とカリンバは銅板・銀板・金板が並んでいるところに行った。

 見た目も厚みも変わらない。

 伝輝は左手で三種類のコンクリート板を触ってみた。

「あ・・・」

 触れた感触はコンクリートなのだが、コンコンと軽く叩くと、銀・金板の密度の高さを感じた。

 硬さが全然違うような気がした。

「加工しているから、普通のコンクリートよりもかなり硬いよ。」

 カリンバが言った。


 右上角に金メッキが貼られた一メートル四方の板三枚の前に、ドリアンは立った。

 長い右腕をグッと構える。

「フンッ!」

 ビキビキビキ・・・!

 ドリアンの右腕が、大きく膨らみ始めた。

 ドリアンは右拳を振り上げた。

 

 ドーン!

 

 三枚の板は割れるというより、破壊された。

 ドリアンの拳から発せられた衝撃が、広い室内に伝わり、床から振動が走った。


「さすが! 凄いね、ドリアン!」

 クッキーがパチパチと手を叩きながら言った。

 自然と周りからも拍手が起き、伝輝とカリンバも拍手した。


 ドリアンは黙ったままノシノシと元の場所に戻った。

 現実離れした力を目の前にして、伝輝は興奮した。

 体が熱くなり、拍手する手の平に熱がこもった。


    ◇◆◇


「凄い、凄いよ!」

 伝輝はカリンバに言った。

「ああ、そうだな。

 ん?」

 拍手を続けていた伝輝を見て、カリンバはジッと伝輝の手の方を見た。

「お前、手の平が赤いぞ?」

「え?」


 伝輝はカリンバに言われ、拍手を止めて両手の平を見た。

 右手の平には「6」の数字が浮かんでいる。


「アザか? 何か「6」の数字に見えるな」

 カリンバは不思議そうに言った。


 伝輝の興奮は一気に冷めていった。


 忘れていた。

 この「6」の数字は、まごころカンパニーが自分が人間6号であると識別する為につけたものだ。

 化けによって施された数字は、一般の動物の目には見えない。

 化け能力者であれば、それを見ることができるのだ。


「これは・・・」

 伝輝は焦って、右手を隠すように背後にあった板に触れた。


 バチッ! バリバリバリ!


 伝輝が触れた一枚の板は、ガラスのように砕けた。


「え!?」

 隣にいたカリンバ、訳が分からず呆然としていた。


「大丈夫?!」

 クッキーとハラミが近づき、テキパキと砕けた破片を拾い始めた。

「すみません」

 伝輝は青ざめた顔で、クッキーに謝った。

「化けで割っちゃったんだね。

 ちゃんとコントロールできるようにならないと、危ないよー」

 クッキーは優しい声で言った。

 

 破片を拾う中で、メッキがついた塊を見つけた。

 メッキの色を見て、クッキーは驚いた。


「見たか、ベルント」

 離れたところで、伝輝達の様子を見ていたドリアンが言った。

「ああ」

「あの新入生が割った板は、金板だった」

「そうだな」

「身体強化は、技術だ。

 あいつは、化けの力であの板を粉々にしたってことは、潜在能力は相当高いだろうな」

 ドリアンは微笑んだ。


 ドリアン含め、訓練生達は伝輝の方をじっと見ている。

 緊張感が走り、今までの気楽な雰囲気は消えていた。


 ダニエルはグッと唇をかみしめた。

「素人のくせに・・・あの野郎・・・」


 伝輝は、周囲の視線に気づく余裕もなく、クッキーとハラミに申し訳なさそうに、その場に立っていた。

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