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キバ訓練所 ③ 身体強化

キバ訓練所で、伝輝は狩りの訓練や、体力トレーニングに取り組んでいく・・・

「おはよう、伝輝」

 朝、ロッカーに荷物を入れていると、カリンバがジャージ姿で声をかけた。

「今日は身体強化の訓練があるぞ。伝輝は初めてだよな?」

「身体強化?」

 言葉は聞いたことがあったが、よく知らなかった。

「一時間目、地下訓練室だからな」

 カリンバはそう言って、ロッカールームを出た。


 地下訓練室は初めて足を踏み入れる場所だった。

 薄暗い階段をカンカンと降り、重そうなドアを開けると、そこは人間界の体育館の様な空間が広がっていた。

 天井に並ぶ大きなライトで室内は明るいが、窓は一つもなく、閉鎖的だった。

 中央に体操のマットの様な分厚い灰色の四角形の塊が沢山並んでいた。

 よく見ると、コンクリート製だった。


 他の訓練生達もポツポツ集まっていて、その中にありさとダニエルもいた。

 ダニエルは相変わらず笑顔でありさに話しかけていた。

 ありさの表情を見ていると、会話と言うよりも、ダニエルが一方的に話しているように見えた。


「何見てんだよ、伝輝」

 カリンバがスッと伝輝の横に現れた。

「お前も積極的に行かないと、碧眼へきがんのハンサムにありさをとられるぞ」

「どうでも良いよ」

 伝輝はプイッと、顔をそらした。


 ノス・・・ノス・・・


 背後から、厚みのある存在感を感じた。

 伝輝は思わず振り返った。


 明るい茶色の長毛を帯び、脚よりも長い腕を前に押し出し、拳で地面を突きながらドシドシと歩いている。

 パツパツになった革ジャンを前を閉じずにはおり、下はカラフルな大柄の花模様のハーフパンツを履いている。

 顔の額部分と真横部分から黒い固そうな塊が出っ張っている。


「オランウータンのドリアンだ・・・」

 カリンバが言った。


 ドリアン・・・、あの顔・・・


 名前と、何ともいえない独特的な顔と、のっそりした動きを見て、伝輝はクスリと小さく笑った。


 その微かな笑い声を聞きつけたドリアンは、額の出っ張り越しに鋭い視線を、伝輝に突きつけた。


 伝輝は「マズイ」と焦った。

 ズシズシとドリアンはこちらに近づいてくる。

 ずっと伝輝を睨んでいる。


「お前、俺の顔を見て笑ったな」

 どっしりとした低い声。

 年齢を重ねて出来た声ではなく、実年齢よりも落ち着いた雰囲気から発せられているようだ。


「・・・すみません」

 伝輝は小さな声で謝った。

 ドリアンは前足をついているので、伝輝を見上げる状態だ。

 しかし、その堂々とした風貌に、遥か高いところから見下ろされているような威圧感があった。


「別に良いんだ。人間にとっては、おかしいものなのだろう。

 だが、このフランジはオランウータン特有の身体的特徴だ。

 これを批判するのは、俺達の種を批判することになる。

 今後は、気をつけてくれ」


 ドリアンはそう言って、伝輝の傍を横切って言った。

 グレート・デーン犬のベルントが、ドリアンのところに近付いていった。


「危なかったな、伝輝」

 カリンバが伝輝を慰めるように言った。

「あんな訓練生いたっけ?」

「いや。ドリアンはあんまり訓練所に来ないんだ。普段は東南アジア地域に暮らしている。

 だけど、成績はトップクラスさ。次の卒業試験の合格最有力候補だな」

 伝輝はウームと唸った。


     ◇◆◇


 ピーっと、笛が鳴った。


「はい、集合ー」

 ヨレヨレのジャージ姿のクッキーが訓練生達を集めた。

 伝輝と背丈の変わらないクッキーの周辺に、ゴツイ肉食獣たちがゾロゾロやってきた。

 クッキーの傍らには、様々な大きさの正方形のコンクリートの分厚い板が何枚も並んでいた。


「今日は、身体強化の訓練をします。

 自分のレベルに合わせて、板を選んで割ってください。

 保護手袋はこちらにあるので、各自取ってください。」

 クッキーは自分を挟んで、板の反対側にある箱を指差した。


「それでは、始めてください」


 訓練生達は散らばり、柔軟運動をしたり、周辺を走り回ったりし始めた。


 カリンバも伝輝から離れ、軽いジョギングを始めた。

 一人になった伝輝に、クッキーが近づいた。


「伝輝君は身体強化は今までやったことがないんだよね?」

「うん」

「じゃあ、説明するね」


 クッキーは伝輝をコンクリート板の前に連れて行った、

 その板は一メートル四方の正方形で、厚みは二十~三十cm位あった。


「身体強化とは、化け能力を使って、自身の筋力を一時的に増強する技術だよ。

 本来の筋肉量や質とは関係なく、化け能力のコントロールで、力を上げることができるんだ。

 今回は腕力の訓練だけど、脚や全身のバネを強化して、通常よりも高くジャンプしたり、早く動き回ったりすることも可能なんだよ。

 ただ、あまりにやりすぎると、身体に負荷がかかるのと、化けをコントロールする技術が求められるから、慣れない間は精神的にも負担が大きい。

 キバ組織では、身体強化技術は必須事項だから、この訓練所に入った以上、基本的な部分はしっかり習得するように頑張ってね。


 話してばかりじゃあ、よく分からないだろうから、見てみて」


 クッキーはそう言って、コンクリート板に触れた。

 右上角には銅メッキが貼られている。


「これを持ち上げてみて」

 伝輝は両手をめいっぱい伸ばし、正方形の端と端を掴んだ。

 フンッと、腕に力を入れたが、ビクともしない。

「無理だよ・・・」

 伝輝がボソッとクッキーに言った。


「当然だよ。

 この板一枚で、四八〇キログラム位あるから」

 クッキーはそう言いながら、板の側面と向き合う位置に立った。

 厚み約二十センチメートルの板を両手で挟んで、同様に腕に力を入れたが、やっぱり動かない。


「通常の状態なら、俺も動かすことはできない。

 でも、身体強化を使えば・・・」

 クッキーは右手をスッと自分の顔の前にかざした。

 微かに、右手からバチバチっと音がしたが、見た目では特に変化はない。


 クッキーは再び側面から板を、今度は右手だけで掴んだ。

 クッキーの右手の大きさでは、厚みを全て手の平で覆うことはできなかった。

「フンッ!」

 グググ・・・と板は音を立て、グインと宙に浮き始めた。

 あっという間に、クッキーは右手一本で、板を自分の頭上まで持ち上げた。

 そして、ゆっくり下ろした。


「分かった?」

 クッキーは手をはたきながら言った。

「うん・・・。

 でも、どうやってやるの?」

「化けを発動する感覚は身についているんだよね?

 だったらその発動させる対象を、自分の腕にするんだ。

 筋肉を一時的に大きくするイメージで、腕に化けの力を集中させるんだ」

 クッキーはあっさり言うが、伝輝は全くイメージが湧かない。


「とりあえず、皆みたいに身体を動かして、筋肉を温めてから、そのエネルギーを『溜める』イメージトレーニングを今日はしてみよう。

 化けは、言って聞かせるものじゃないんだよ。

 さ、始めて」

 そう言って、クッキーは伝輝の肩をポンッと押した。


    ◇◆◇


 クッキーに言われるまま、伝輝は他の動物達同様に、とりあえず室内を走り、腕立て伏せをした。

 身体が温まってきたので、呼吸を整えつつ、今まで手の平にしていたように、今度は腕の筋肉に

熱を集中させるようにしてみた。

 しかし、上手くいっているのかすら分からなかった。


「お、初めての割には、悪くない反応だね」

 クッキーが近寄ってきた。

「その状態で、板を割ってみようか?」


 クッキーは伝輝に茶色い布手袋を渡した。

 ガサガサした感触で、着け心地はあまりよくない。

「これは、手を保護するだけではなく、化け能力で板を割らないように能力を遮る役割があるんだ。

 板はあくまでも、強化した腕力で割ること。

 まずは、化けで強化していない『銅板』で試してみよう」

 クッキーは先程持ち上げた、右上角に銅メッキが貼られたコンクリート板をパンパンと叩いた。


「この訓練で使う板は、三種類で『銅板・銀板・金板』っていうんだ。

 これらの板は、割られても再度固め直すんだけど、その時に化け能力で特殊加工するんだ。

 銅・銀・金の順で強度が上がる。見た目は変わらないけど、イメージとしては、厚みが二倍・三倍と大きくなる感じかな。

 この板の割り具合で、その動物の身体強化の実力、化け能力・技術の程度が分かるんだ。

 さ、やってごらん。初めてなら、瓦割りみたいに手刀でやる方が、手を傷つけにくいよ」


 伝輝はジッとコンクリート板を見た。

 力いっぱいこれに手をぶつけたら、かなり痛そうだ。

 割れてくれたら、大丈夫だろうが、割れる気がしない。


 スッと手袋をはめた右手をかざす。

 ゆっくり手を動かして、手刀の描く軌道を確認する。

 右手は熱を帯びている。

 伝輝は呼吸を整えた。


「エイッ!」

 掛け声と共に、伝輝は手刀をコンクリート板の面部分に打ち付けた。

 手刀は壁とぶつかっただけだった。

 指の関節部分、骨が出っ張っているところに衝撃が伝わり、痛みが走る。


「いってー!」

 伝輝はしゃがみこんだ。

 クッキーは伝輝は打ち付けた面を見た。

「残念。全く、割れていない。でも、通常よりも若干威力があったと思うよ。

 だから、それだけ痛いんだよ。

 これは、コツを掴むことが大事だから、少し右手を休ませたら、もう一度チャレンジしよう」

 クッキーはニコッとしながら言った。


 伝輝とクッキーのやりとりを、ダニエルは縄跳びをしながら見ていた。

「フン、所詮、素人だ。大したことないな」

 ダニエルは嬉しそうに鼻で笑った。

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