気合が違います
皇国と隣国の堺の深い森とされている、魔物が巣食う広大な森がある。
魔物の数は相当なもので、森を回避した道を通らなければ
隣国へは渡れない。
その迂回先にも魔物が現れるようになり、今回隣国とそのギルドのパーティいくつかと
彼と彼女の国も同様に魔物退治をすることになった。
双方の国の利害一致。
同日早朝に、迂回の道を端と端の両方から同時に団体で通りながら
魔物退治をして、双方の団体と出会えたら完了。
道を安全に通行出来るようにするという計画だ。
どちらの国も気合が違う。
当日。集まった魔物退治の隊は、合図と共に出発した。
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そして、実行日のそれよりも4日前に遡る。
「双方が同日に双方の道の端から真ん中辺りで出会うように退治することでまずは完了。
当日魔物退治でひと段落した後、
月1度双方で決めた同日に、見回りということで互いの国で討伐隊を派遣し、
道確保をするというのはどうかと」
双方の国が道半分づつ、管理するという。
「なるほど。それはいい案です」
この提案をしたのは、ラリー。一緒に考えたのは、ラティ。
彼女の口にした彼女なりの考えを、ラリーがまとめてみた結果の案だ。
それは、酒場で2人で雑談から始まったもの。
この考えは、ラリーは実行出来る案として、ラティに許可を得て、軍師に相談したのだ。
その場にいた将軍達や宰相、皇帝も頷いた。
それから実行まで、細かく2人が考えていた案まで活用し
3日で隣国と合同で実行するに至った。
「話し合いがスムーズだったのは、かなり詳しく計画が練られていたこともありますね。
この考えは、騎士と冒険者の考えが合わさっているからこそ、可能な話」
軍師の言葉に、ラリーは頷いた。
ラリーは、実行隊の班長だが、その実行隊というのは、軍師の部隊だ。
軍師が実行隊の隊長役を兼任しているので、計画案を考えるのは、主に彼らだった。
「ラリーは、理想な女性と出会えたようで羨ましいね」
会議を終えて、執務室で一息入れている時に軍師のタマキは、侍女から
お茶のカップを受け取ると、背もたれの椅子に腰かけた。
「・・、え~と。噂を聞かれたのですか?」
ラリーの隣にいた副長をしている男は、
自然に納得している軍師に疑問を抱きながら問うと、
「ん・何のことだ?俺は、この提案を聞かされた時、ラリーから彼女と考えたとしか
聞いてないよ」
と、ラリーに視線を送ると、彼は苦笑した。
隣りの副長は、にやりと笑うと
「そうですか。実は、班長は、ギルド所属のAクラスの女性とお付き合いされています」
「う。おい、俺のプライベートを」
ラリーが反論すると、軍師はそのまま続けるよう促した。
「それで?」
「は。その女性ですが、タマキ様も聞いたことがあるはずです。
ギルド「ベルバ」の氷のアサシン、美青年と称されるラティ殿です」
「え?同性なんだ」
「いえ、女性です」
「え?でもそいつって美青年だろ?」
「それが、ギルドでも彼女と親しい者かBクラス以上の者しか知らなかった事実ですが
彼女は女性なんです」
「へえ、美青年の姿をした女性なんだ。ラリー、凄いなあ」
軍師は感心しながら、お茶を飲む。
「そうか。そんな凄い人物を彼女に持つのか。で、いつ婚姻するんだ?
お前、そろそろした方が良くないか?あ、そういえば今日、次の絵姿紙と手紙を
直々にここへ届けに来たぞ。家には彼女の事は話が通してあるのか?」
いきなり自分の家のことを言われて、ラリーは、我に返った。
「そういえば、伝えていなかったです」
その返答に、軍師はしかめ面をする。
「今回の討伐が終わったら、両親に紹介しろよ。お前の親父は、俺も苦手だ。
とにかく、孫、孫と俺にまで煩く言ってくる」
「タマキ様に?」
「お前が結婚しないのは、俺が仕事をさせ過ぎているからだと苦情を入れてきたんだぞ」
30歳とは思われない30歳の男は、引出から手紙と絵姿紙を取り出し、
ラリーの前へ置いた。
「うわ、申し訳ありません」
「俺も30で、俺にも結婚しろと煩く付きまとってくるんだ。
お前、息子なんだからなんとかしてくれ。下手すると、
お前の2番目の姉を押し付けられそうで怖いよ」
ラリーの父親は、4つの軍隊の中でも北の地を治めている隊の副将軍。
毎月1度の軍会議に参加しては、軍師の下へお説教しにやってくる。
「父は、タマキ様の後見人なので、仕方がないですね」
どこからともなく現れた人物で、軍事事や天気等に詳しいことで
その当時のラリーの父が後見人として、引き取った。
それが、あれやこれやとこの10年で出世したのがタマキ。
息子同然に育てられたので、養父の存在。
「・・・。うわ、くそ、息子の癖に。とにかく、きちんと伝えておけ。
俺が迷惑」
「了解しました」
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実行当日の日。
休憩時に、ラリーは早速自分の両親に紹介したい話を伝えに来たのだった。
「えええ、そ、そうなんだ。両親に私、会ってもいいのだろうか」
もしかして、断られたらどうしようと、ラティは汗をダラダラさせながら、
ラリーの話を聞いている。
「そんなに緊張しなくても大丈夫。なんだかんだ言っても、普通の両親だから」
既に家には、今度の魔物退治が終わったら、紹介すると連絡してある。
「し、紹介。ど、どんな服装がいいだろう」
「普段の君が見られたらいいけど。変な偏見的な事を聞かされて
おかしなことにならないよう、一緒に服を見よう」
「え、選んでくれるのか?」
「ああ。俺は、何度も言うが、俺と釣り合うような恰好とかは考えなくていいから」
「うん」
この話をしていたところに、ちゃちゃが入り
ラティが怒ったことは言うまでもなく。
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整列して、隊を組む。
最初に騎士50人の隊、ギルドのパーティ、最後尾に騎士50人の隊。
行進するように、皆が馬に乗り、馬が無いものは、馬車で大行進のような行列。
体力温存で、徒歩はしない。
3時間も道を進めば、連絡があった通りの獅子のような魔物が10体現れる。
たぶん、オスを筆頭にメスが3頭と子供が成体になった数。
連携して襲いかかる10体に、1頭づつ攻撃に当たる。
「攻撃の手を緩めるな」
「弓手は、腹を狙ってくれ」
彼らが大きくジャンプすると、飛び越された者は恐怖を覚えて、動けなくなる。
ギルドのパーティは、特長をよく知っているので、騎士を助けながら
応戦。
1体が倒されると、苦戦している隊へ応援に入る。
彼らの爪が刺さると、骨近くまでえぐられる。
腕を何人も庇う者が出て、魔術師が治癒魔法で治療にあたる。
そんな戦いが続く。
10体全て倒して一息したところに、さらに5体物陰から奇襲されて
何人か怪我を負う。
ギルドパーティのメンバーが、次々にアイテムをつぎ込むが、
前の10体よりもさらに強く、手こずる。
「危ない」
ラリーが、部下を庇い横の腹を抉られた。
「班長」
部下が血を拭きだすラリーを見て、悲鳴を上げた。
丁度、1体の頭に聖剣を突き通していたラティは、視線を挙げた先で倒れている彼と
悲鳴をあげている騎士を見て、慌てて走り出した。
(ラリー)
「あ、こら。ラティ。どこへ行く」
リーダーのマッシャが、大声で怒鳴るが、彼女はそのまま物凄い速さで
追いつけない。
「こら、戻れ」
彼女らの担当の魔物は2体倒した。
指示は、次に苦戦している隊の応援に行くはずだった。
パーティは別々にならないよう動くのが基本なので、マッシャとメンバーは慌てて
ラティを追った。
ラティが止まった先では、ラリーが負傷していて、彼の部下は魔術師を探しに行った
ところだった。
「ラティ」
マッシャは、恐る恐る声を掛けると、彼女は魔術師ベルに回復を頼んだ。
「お願い」
「分かったわ。横腹を抉られているけど、血の量は、まだ多くないから間に合うわ」
彼女は、座り込むと、ラリーの傷の上に手をあて、治癒を掛ける。
「ラティ、まだ終わってないぞ」
マッシャの言葉に頷くと、直ぐ近くで苦戦している1体の爪を見つめた。
(あれが、ラリーに傷を負わせた奴)
既に戦いモード全開だったはずが、目の色が真紅に変わり、アサシンモードに移る。
「うわ、最強モードに入った」
「マッシャ。今の彼女に着いて行けば、直ぐに片が付く」
「ああ」
彼女自身、気が付いていないが、怒りが最高潮に達すると、自然に敵を倒すことを優先する
アサシンに変わる。その戦いの能力は、素早さと剣裁きに瞬間移動能力。
その速さに着いて行けないのだ。
16歳の時に、彼女の能力に気付いたギルド長が5年の歳月を掛けて
彼女を鍛え上げた結果だ。
あっという間。
高く飛び上がり、一撃。
瞬間移動し、横を蹴り上げ、地に1回着いたと思うと、飛び上がり脳天から
聖剣を突き刺す。
それを繰り返す。
マッシャ達もその攻撃に合せて、魔物の動きを封じて行く。
2体が崩れていくと、その姿に周囲が沸き立った。
「すげえ、流石ベルバの氷のアサシン」
「あれで女だって?信じられん」
それから、隣国方面の道から、隣国の騎士団とギルドのパーティが応戦に駆けつけ
ようやく獅子のような魔物との戦いは終わった。
時刻は夕刻。
「夜の帰還は危険だ。ここで一夜を明かすことにする。
それぞれ指示の通り、野営をしてくれ」
班長に変わり、副長が声を荒げる。
その場で、それぞれのパーティがテントを張り、一夜を過ごす体制に入った。
食事は国単位で、準備されているので、食事担当の騎士達が慌てて
食事を作り始めた。
まだ魔物がいるかもしれないので、酒は控え、通常よく飲むチチャが振る舞われた。
たき火があちこち焚かれ、隣国の隊長と副長、それぞれの地位の者達が
大きなテントに集まり、今日の収穫の話と報告を始めとする会議に入った。
隣国側は国を出立して3時間後に、獅子のような魔物5体と鳥のような魔物12体に襲われ
怪我人が出たものの、合流することを優先に、怪我人も連れて
こちら側まで来たようだ。
「本当に、怪我人は出たものの死者が出なくて、ホッとしています」
「まことに」
魔術師総動員で、怪我人の治療が行われ、明日は撤収出来る。
「そういえば、こちらに向かっている時、やけに凄い冒険者を見ましたな」
「冒険者?」
「銀髪で、真紅の瞳。あれは、ギルド「ベルバ」の氷のアサシンですか?
噂では聞いたことがありますが、腕の良い冒険者ですな。
噂の通りの美青年。女性騎士達が、騒いでおります」
隣国の隊長の言葉に、副長はここで笑ってもいいのか悩みつつ、
怪我をして手当をしたばかりの班長に視線を向けた。
副長の視線の先の班長ラリーは、苦笑していた。
「今回は第1回という事で、次回はまた連絡がお互い行くと思いますので」
「そうですな。了解しました」
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外ではギルドごとにテントが張られていた。
ベルバでは、5つ。女性だけのテントが2つ、男性3つ。
「女性と分かっていても、ラティと一緒のテントだと、緊張しちゃうわ」
「サリカナさんは、あちらでも構わないですよ」
ベルが隣のテントを指差す。
「ま、ベル。酷いわ。絶対に嫌」
そこへ別の女性から横やりが入る。
「あたし、変わろうか?」
「いいって」
だが当の本人は、恋人が怪我をしたので、彼のテントに入り込んでいた。
「大丈夫なのか?」
「ああ、君のパーティのメンバーの魔術師の女性のお蔭だ」
彼は、班長でありながら、思ったほどの行動が出来ず、少し落ち込んでいた。
怪我も見た目は治っているものの、魔術師達の治癒は、大勢の怪我人を見ることで、
とりあえずの応急措置。
城に戻れば、医師団の診察が必要だ。
副長からは、治癒の副作用で今夜は熱が出るらしい。
明日には、平熱で動けるが、怪我人は全て馬車で戻ることになった。
「そうか」
「痛みはないけど、体力は落ちてると思う」
「うん」
「隣国の隊長が褒めていたよ。君は凄いって」
(決して美青年=男だと思われていたことは、言えないけど)
くすりと思い出し笑い、彼は落ち着いてきたようだ。
「そうか」
「来月、別の部隊が行くことになっているが、ギルドには半年に1回、お願いするつもりだ」
「うん」
この調子で、彼の吐き出したい言葉を彼女は聞き役に徹して
薬が効いて、眠りにつくまで彼の傍についていた。
彼が眠りにつく頃は、彼女も近くで仮眠をとるつもりにしていた。
彼のテントで一緒に就寝予定の者達は、
どうせ2人でバカップル的な展開になると踏んで
既に他のテントへ避難していた。
食事は、軍からの支給で、具だくさんスープや干し肉1人5キレ、
男の手のサイズのパン1個に水。
今日の戦いの反省会となった。反省会と言いつつ、戦い方のあれこれ自慢話大会。
だが、やはり盛り上がりに欠ける。
「酒が出ないのが、辛いな」
「本当に。帰ったら、浴びるほど飲んでやる」
男性陣は、やっぱり酒が欲しかった。
END
シリーズ第2弾、おしまい。
軍師 タマキ・トワエ 30歳 男 ある日皇国に現れた不思議人物
軍事事に長けている。
黒髪、黒目 175㎝ 中肉中背。




