恋人になりました。
彼らは2人で、彼女の自宅へと向かうことにした。
店を出る時、周囲の女性達は困惑している者と応援してくれる者といたことや
ラリーに大声で「泣かせるな」と、文句を言う者もいた。
2人の問題なのに、何故?と、2人が同時に思ったことはそれぞれの胸の内で
お互い言わなかった。
清算中、メイドがこっそりと言うことには、ラリーと彼女は同性の恋人だと
思われているらしい。
彼女は、メイドに「私は女だ」と、叫んだのでメイド達や店側従業員には
理解されたと思うが、本当に信じてくれたかは定かではない。
「そうか。私は美青年の冒険者として認識されてしまっているのか」
(16歳でギルド登録して、7年になるが、初めて知った。もしかして、
彼氏が出来なかったのは
周囲の認知度が青年だったというのか?私、気付くの遅い?)
自分が女性だというのは、店の従業員とギルドのパーティを組むことが出来るBクラス以上の
人間しか知らない事実を今思い出した。
(だから・・なのか)
「その恰好を変える気はない?」
(全く女性に見えない恰好が悪いと思う)
いろいろ考え込んでいた彼女にラリーは尋ねる。
「・・・。パーティを組んで、魔物退治する時に、バカにされないよう
装備しているんだ。でも、ラリーが言うなら、少し軽装に・・」
「いやいや、軽装でなく。少し女性らしい恰好のことだ」
その言葉に、彼女は左右に首を振る。
「ダメだ。私が女性の服を着ると、男性が女装しているような姿になる」
「着たことがあるのか?」
「ああ。私の実家は商会だ。店の手伝いをするから、女性店員用の服装をしたことがある。
化粧もしてみた。そうしたら、客から不気味だとクレームがきた」
「・・・・。そんなに、女装に見えるんだ」
「・・・・。ああ」
じっと、彼女は、自分よりも顔半分背の高い彼を見上げ
「本当に、私でいいのか?私は、本当に男性とよく間違われる。
悔しいほどに。貴方が、同性と付き合っていると言われてしまう可能性もある」
「俺は、気が合えば、相手が誰でもいい。一緒にいてこんなに面白いとか楽しいと
感じたことはないよ」
くすくすと笑いだすので、彼女はムッとなる。
「それは、どう捉えていいのだ」
「くく・男性と間違われる女性と、つり合いが取れないと断られる男が
付き合ったら、面白いなと思っている」
「・・・・」
「振られてからずっと俺は誰とも付き合う相手がいないだろうなあと思っていたんだ。
君と付き合えるなら、撤回する」
なんだか面白いから付き合うみたいな言い方。
彼女は、複雑な顔をさせると、彼は彼女の首に腕を回した。
「とりあえず、1週間付き合ってみないか?」
「1週間?」
「そ。お試しで。俺は、君と付き合うことが楽しみなんだ」
(今までにない女性だ。先日の居酒屋でも意気投合したくらい、素で話が出来る。
貴重な存在だ。)
「・・。まあ、その・・よろしく」
顔も耳も真っ赤になった彼女は、可愛らしい。
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しばらくして、彼女の自宅兼店に到着した。
店の従業員達は、オーナーの娘なので、直ぐに挨拶をしてくる。
「あ、お帰りなさいまし」
「お帰りなさい」
「ただいま」
ごく自然に彼女も応える。
そこへ両親と妹が、知らせを聞いてやってきた。
「戻ったのか?」
「ラティ、お帰りなさい」
両親は、ラリーが一緒にいることで、安堵したようだ。
両親の後ろに控えていた妹は、自分よりも姉を選んでいる彼と姉を睨んでいる。
両親は、貴族である彼を直ぐに応接室へ案内し、従業員のひとりにお茶を頼んだ。
彼女の実家、ウェルディー商会は、彼の父親の祖父が築いた雑貨屋。
商会として国で有名な大商会にしたのは父親の両親。
小さな飴から大きな船までと、顧客のニーズに応えるべく幅広く商売をしている。
その為、最近は娘が2人いるという事で、お見合い話は貴族や商人達からも
話がある。
ラリーの話もその中の1つ。
いつになく妹も乗り気で、両親も心配だった。
「それで、アーティア様。今回のお見合いは、やはり」
父親が改めて彼に問うと、彼は頷いた。
「お見合いについては、申し訳なく思う。私は、2年前から両親から強制的に話しを
している状態で、全て断っている。伯母上が頼まれて仕方なく話をあちこちに持って行っているが
こちらに話しが来た時も断られるという前提できているはずだ」
「確かに」
「ラティから話を聞いて、再度話に来たのだが、これで終わりにして頂けないだろうか」
両親は頷き、お見合いの話は終わりとされることになった。
既に両親は、話があった時点で、話しを受けてくれただけでも有難いと、
彼の伯母から商会での取引をする約束をして終結していた。
納得していないのは、最初に全て話を受けていたのに、何故か今も不機嫌で
妹は、ぐっと唇を噛みしめている。
「た、確かに説明は受けてた。でも、どうしてお姉さまと一緒にいるのか
納得がいかない。お姉さまは、お見合いの当日まで、アーティア様を知らなかったはずなのに」
うううと、目をうるうるさせて手で顔を覆うと、母親は慌てて妹の背を摩り
落ち着くように言い含める。
「それで、ウェルディー殿」
彼は姿勢を正すと、父親に視線を向けた。父親は何事かと彼に向き直る。
「はい」
「実は、あの後、ラティと意気投合して楽しい1日でした。彼女にも話をしたのですが
今まで自分の仕事の話や趣味の話に同調してくれた女性は、初めてで
出来れば、付き合いたいという気持ちを告げている」
「「「は?」」」
両親と妹は見事にハモって、目を見開いて彼を見た。
彼は、ラティと見つめ合いながら、照れながら
「試に1週間位付き合って、それでもお互い気が合うようなら恋人にして頂こうと」
ラティも頷く。
「もう、呆れた」
妹は怒りよりも呆れが強くなり、直ぐに匙を投げて、部屋から出て行ってしまう。
両親の方は、青年のような娘を嫁に貰ってくれる貴重な存在に
感動し、彼の両手は両親とそれぞれ握手していた。
「あの?」
戸惑う彼に、両親は涙まで流している。
余程、長女に男の存在が出来ることが嬉しいようだ。
「感謝します。こんな男みたいな娘を好いて下さって」
「有難うございます。夫に似てしまって苦労している娘が不毛でしたが、
娘にもチャンスが来たかと思うと、嬉しいです」
「と、父さん、母さん」
両親の自分に対する本音があまりの言い方に、彼女は半泣き状態。
それなのに、両親は涙を流しながら笑顔だ。
「良かった」
「良かったわね、ラティ」
どうやら妹と対決せずに、両親から祝福されたようだ。
そして、お試し1週間も過ぎ、彼も彼女も合意し恋人になりました。
ギルドで彼女は、恋人が出来たことが嬉しくて
友人達に彼との話をしたが、未だ信じてもらえてない。
END
シリーズ第1弾は、これでおしまい。