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第六十頁『聖夜にふたり』(中編)

 ―――カチッ




 せっかくの休みだっていうのに、空気を読まずに鳴った目覚ましで起きた。

 まあ、自分がアラームを切り忘れてたのがそもそもの原因だけど。


 ともかく、目が覚めてしまったものは仕方ない、大人しく起きるとしよう。

 ちなみに、今日の目覚ましボイスは“元”生徒会アイドルトリオの一人、工藤。

 落ち着いた印象があるけど、まさにそのイメージ通りの音声だった。






 ………






 ………………






 朝食を終えると、食休みもそこそこにあやのは出かけてしまった。

 いつもの後輩トリオで遊ぶのだという。

 来週のクリスマスイブでもお泊り会やって、さらにその次の日はつばさちゃんちのパーティーでも会うってのに、

 飽きやしないのかとツッコミを入れたくなる。


 あやのに言わせれば、それはそれ、これはこれということらしいが。

 ……まあ、妹にそれだけ仲が良い友達がいるのは、兄貴としては嬉しいというか、安心する部分もあるのは確かだ。


 それに、あやのはソフト部、愛美ちゃんは声優業、小春ちゃんは巫女業(をどの程度やっているかは分からないが……)。

 それぞれに中々忙しい毎日を送っているし、一緒に遊べる時は遊べるだけ、という考え方も納得はできる。

 要するに、アレだ。



 「―――とやかく言うまい」


 と、ひとりごちて、返らぬ返事に虚しくなったのは言うまでもない。

 あるのは静寂ばかりである。

 別に僕が家に一人ってのはそう珍しいことじゃないけど、今日はやけに寂しくなってしまった。

 寒いからか?



 「……僕も出かけようか」


 とりあえず商店街に行って立ち読みでもしよう。

 ついでに、交換用のプレゼントも物色すればいい。


 とりあえずそこまで決めて家を出てから、ふと隣家の茜ちゃん宅に目をやる。



 (……まあ、無理して声かけることもないか)


 休みなんだし、どこかに出かけていることも十分に考えられる。


 考えてて、自分でも言い訳じみてると思ったが、深く気にしないことにした。

 家に一人でいるのが少し寂しかっただけで、出かけるのは一人でも問題ないのである。




 ………




 ………………




 誰にするでもない言い訳を一通り済ませて商店街にやってきたが。

 到着するなり、見知った姿を見かけた。



 「おー、桜井じゃねーか。

  学校の外で会うのは珍しいな」


 こちらが口を開くより先に声をかけてきたのは沖野。

 吉澤と工藤も一緒だった。



 「ん、まあちょっと気が向いたもんで、ぶらぶらしようかと。

  そっちは?」


 どうでもいいが、こいつら基本的に3人1セットだよな。

 僕もあんまり人のこと言えないけど。



 「福谷さんちのクリスマスパーティー、桜井も呼ばれてるんだろ?

  それで、交換用のプレゼント選びにきたんだ。

  まあそれだけじゃなくて、単に集まってぐだぐだやるってのもあるけどな」


 どうやら似たような目的でここに来ているらしい。

 それにしても、真面目な吉澤からぐだぐだなんて単語が出てくるとは……なんか新鮮だな。



 「吉澤でも、だらだらとかぐだぐだとかするんだね」


 「だから、桜井は俺の事を何だと思ってるんだっての……。

  そんなことより、そっちはもう何を持ってくか決めたのか?

  って言っても、その様子じゃどうもまだっぽいけど」


 「さっき商店街に着いたばっかりだしね。

  色々と物色しながら考えようとは思ってるんだけど……どうしたもんだろうね」


 男4人で寄り合って話す内容でもない気はするが。



 「あんまり高価すぎてもナンだし、かと言って安っぽいのもなぁ。

  さじ加減が難しいというか……工藤とか、なんかいいアイディア無い?」


 「そうだな……」


 さっきから口数の少ない、というかほとんど喋っていない工藤に振ってみると、

 一言だけ返事をした後また黙ってしまった。

 ……軽く話をふっただけなのにここまで真剣に考えられると、なんだか申し訳ない気持ちになってくるな。





 「……茶碗、とか」


 「「「…………」」」


 やがて絞り出された工藤の回答に対し、逆に今度は僕達の方が黙ってしまう。

 そのセンスは―――いや、意外とアリか?


 茶碗といってもピンキリだから、リーズナブルなものもあるし、実用品だからもらって困るものでもない。

 クリスマスという舶来のイベントに思いっきり“和”って感じのものってことはひとまず置いておくとして。



 「やはり、微妙だったか?」


 「聞いた直後はちょっとそう思ったけど……でも、意外と悪くないかも」


 「マジかよ桜井……クリスマスに茶碗はないだろ、茶碗は」


 「お前はお前で言い過ぎだろ沖野……」


 友達の気楽さなのか、沖野はひどい言いようである。

 そんな友人に対し、無言の威圧ともとれる視線を向ける工藤。



 「…………」


 「わっ、悪かったからそんなに恐い目で見るなって」


 「別に……そんな目はしていない」


 (……確かにちょっと恐いよな。

  三人の中でも一番真面目そうだし、あんまりからかったりはしない方がよさそうだ)


 怒らせてはいけないタイプってやつだろう。

 沖野を犠牲にして得た教訓だ。



 「とりあえず、何を選ぶかは、お互い当日のお楽しみってことにしておくか」


 「……そうだね。

  それじゃ、また当日に」


 何だかんだでリーダー格なのか、吉澤がいい感じに話をまとめてくれたところで三人と別れた。




 それにしても、いきなり珍しい知り合いに会ったな。

 この分だと、他にもプレゼントを選びに来てる連中に遭遇しそうだけど……はてさて。






 ………






 ………………






 当初の目的だった立ち読みを済ませて本屋を出ると、ちょうど昼過ぎくらいになっていた。

 帰っても昼メシのアテはない。


 いつも用意をしてくれるあやのも、今ごろは友達と楽しくやっているんだろう。

 あやのが出かけることは知ってたし、昼は適当に済ませるつもりだからそれは一向に構わないんだけど。

 それに普段は頼りきりだし、休みの時くらいむしろ好きに過ごしてほしいくらいだ。


 ……とは言え、僕も人間。

 何も食わずにいれば腹も減る。


 とりあえず、ここはちょっと贅沢にSeasonでも行くか。

 せっかく商店街まで来てるんだし、まさかコンビニ弁当ってのはいささか寂しすぎるだろう。


 何か忘れている気もするが、きっと気のせい―――






 「―――気のせい、じゃなかったな」


 「おー、桜井。いらっしゃい」


 ユニフォームをエプロンに替えて……ってわけじゃないだろうが、バイトの明先輩が元気よく迎えてくれた。

 さらに。



 「やっほー章くん♪ こっちこっち!」


 まるで待ち合わせの相手を迎えるかのような、元気のいい怜奈ちゃんの声―――。

 どうやら、文化部三人娘こと、怜奈ちゃんに優子ちゃん、未穂ちゃんも来てたみたいだ。



 忘れてたってのは、まずは明先輩がここでバイトしてるってこと。

 そしてもう一つが、そもそもここが志木高生に人気の店ってことだ。


 そりゃ、休みの日に来れば知り合いの一人や二人、いても不思議じゃない。

 この場合、四人もいたわけだが。


 まあ別に知り合いを避けて行動してたわけじゃない。

 せっかくのお誘いだ、ここはご相伴にあずかろう。



 「それじゃ、お言葉に甘えて……っと。

  なんか、前にもこんな組み合わせでここに来たことがあったような?」


 「あー、それってあの時じゃない。新聞部の取材で、私と優子に章くんの三人で来た時。

  確か、ゴールデンウィーク前くらいだっけ?」


 「ああ、それだそれ。

  確か、あの当時に連載持ってたメンバーでってことで来たんだっけか」


 もっとも、今ではもう僕も未穂ちゃんも記事を提供していないけど。

 別に打ち切りってわけじゃなく、二人とも自分から身を引いたのだ。


 学祭を機に新入部員も入った新聞部。

 発行してる新聞もそれに伴って誌面リニューアル……ってわけじゃないが、

 新しい顔ぶれで頑張ろうって時に、いつまでも僕らの記事にスペースを割いてもらうのもどうかって話になったのだ。

 そういうワケもあって、こちらから辞退させてもらうみたいな形で連載を終了させてもらった。


 未穂ちゃんの方もこの意向に納得してくれて、今はこちらも新入部員が入った漫研と自分の作品とに力を注いでいる。

 新聞部と漫研にあまり顔を出すこともなくなったのが、少し寂しくもあるが……。

 とは言え、愛美ちゃんの一件の時は、かなり手伝ってもらったか。



 「えー、私は呼ばれてないんだけど、その集まり?」


 「いやいや、怜奈ちゃんは別に記事書いてたわけじゃないでしょ。

  演劇部で忙しいんだし」


 「そういう問題じゃないのー。ひどいなぁ章くんは。

  ―――私のことは遊びだったんだね!?」


 「いやいやいや」


 なんつー人聞き悪いことを。

 演技力の無駄遣いはよしていただきたい。



 「そうだそうだー」


 「誰がいいのかハッキリしろー」


 「優子ちゃんと未穂ちゃんも、悪乗りしないの。

  って言うか、ハッキリってなんだよ、ハッキリって」


 公衆の面前ってなんちゅう事を言ってくれるのか、この子たちは。



 「私にそれ、聞いちゃう?」


 「うっ……」


 怜奈ちゃんなんか、本気とも冗談ともつかない調子でこんなことまで言っちゃう始末だ。

 だから演技力の無駄遣いはよしてっての。



 「確かに……桜井には、そろそろハッキリ決めてもらわないとね」


 「げっ、明先輩……」


 「“げっ”てなんだい、“げっ”て。

  久しぶりなのにご挨拶なやつだね」


 仕事に専念していてくれればいいものを、ピークを過ぎたのか客は少しまばらになっていた。

 おかげで(?)、こっちに声をかける余裕も出てきたみたいだ。



 「―――そういうことで、桜井の注文は?」


 「って、そっちですか!」


 「んんー? なんのことだと思ってたんだい、桜井?」


 「あっ、いや別に……」


 「注文じゃない方の事は、後でゆっくり聞くからお楽しみにってね」


 あー、やれやれ。墓穴を掘った気しかしない。

 にぎやかなのはいいけど、にぎやかすぎるのも考え物だ。




 「ほれほれ、さっさと決めな。

  それともコーヒーだけかい?」


 「空っぽの胃にブラックコーヒー入れていじめる趣味はないですよ。

  えーっと……じゃあ、このクリスマスランチってやつ、飲み物はコーヒーで」


 七面鳥ってわけじゃないだろうけど、鳥料理を中心にしたセットメニューっぽい。

 飲み物その他、色々ついて1000円だから、割と財布に優しい価格設定である。

 喫茶店というか洋食屋みたいなメニューだけど、とやかく言うまい。



 「クリスマスランチ、コーヒーで1つね。

  決めると言えば―――桜井、あんた25日にウチでやるパーティーには来るんだろ?

  プレゼントはもう決めたのかい?」


 「いや、まだなんですけど……明先輩は?」


 「あたしもまだ決めたわけじゃないけどね。

  まあ、つばさと選びにでも行くさね」


 仲が良いようで何よりである。

 この二人……福谷姉妹に関しては特にそう思う。



 「川科たちは? もしかして、今日も選びに来てたとか?」


 「そうですねー。私達も遊びがてら、選ぼうかって感じですね。

  一人で選ぶより、こうやってワイワイやりながらの方が楽しいですし

  ……まあ、そうじゃない人もいるみたいですけど」


 「こっちを見るな、こっちを」


 優子ちゃん、何か言いたげなその嫌らしい視線はやめてください。

 どうにも、優子ちゃんと明先輩の連携ってのは底知れぬものがあって恐ろしい。

 新聞部の取材なんかで割と交流はあるみたいだけど、直接しゃべってるのはあまり見たことないし。

 だから、余計に恐かったりもする。



 「でも、章くんはぼっちでも休みの日のSeasonに入れちゃうくらいだし、どうってことないよね?」


 「別にぼっちなわけじゃないって!

  今日はたまたま!」


 未穂ちゃんにもずいぶんな言われようである。



 「たまたま、陽ノ井さんとは一緒じゃない、と?」


 「怜奈ちゃ~ん、勘弁してよもう」


 「なんだい桜井、茜は誘わなかったのかい?

  細かいこと考えずに、男ならビシッとやりゃあいいのさ、ビシッと」


 「はぁ……。

  まあ、別に考えてってほどでもないんですけど……」


 とは言え何も考えていないと言ったらさすがにウソになるが。


 それにしても、セリフは違えど、言ってることの主旨は前につばさちゃんが言ってたのと同じだ。

 あまり似てると思ったことはないけど、やっぱり姉妹ってことなのか?



 「ふふっ……いつだったか、茜が桜井を遊園地に誘う誘わないとかって、ここで悩んでた事があったけど。

  今度はすっかり逆の立ち位置みたいだね?」


 「茜ちゃんが?」


 遊園地って……それこそ、ゴールデンウィークにマリーンランドに行った時か?

 確かに、珍しくもったいづけて電話で約束をとりつけたりなんかしたけど……。

 悩んでた? 茜ちゃんが?



 「その時の茜にも言ったけどね、深く考えなさんなって。

  あんた達ふたり、揃いも揃って難しく考えすぎだと思うよ、あたしは」


 「……覚えときますよ」


 「―――って言うか章くん、陽ノ井さんと遊園地デートなんてしてたの!?

  ちゃんと話きかせてよ~」


 明先輩が余計な燃料を投下したせいで、またまた優子ちゃんに火がついてしまった。

 いやまあ……怜奈ちゃんと未穂ちゃんも似たようなもんか。


 珍しい組み合わせだとは思ってたけど、ありがたくない化学反応だ。

 エサをばら撒いた当の本人は、オーダーを通しに行っちゃうし。




 結局、料理が来るまでは三人娘から、

 来てからはそこに休憩がてらなのか明先輩まで加わって、店を出るまで良いようにおもちゃにされたのだった。


 プレゼント選びのヒントでも得られればよかったけど……それも叶わず。

 散々とまでは言わないが、えらい目にあったな。






 ………






 ………………






 三人娘に明先輩を加えた四人と別れ、ふたたび商店街の人波へ。

 さて、まったくのノーヒントのままだが、そろそろプレゼントを選ぶ素振りだけでも見せないとな。

 結局、商店街に来てやったことと言えば、立ち読みしてSeasonでメシ食ったくらいだ。

 あ、後は吉澤たちの漫才みたいなやりとりも見たか。


 まあ当初の目的は確かに立ち読みだったが、せっかく寒い中出てきたんだ。

 これで帰るのももったいないだろう。

 とりあえず、次の目的地は雑貨屋だな。


 途中、茜ちゃん御用達のファンシーショップが目に入ったが……。

 流石に男一人で入る勇気はない。

 ぼっちで休日のSeasonってのは造作もないが、こればっかりは勘弁だ。


 そんなどうでもいいことを思って目線を前にやったところで、またしても見知った姿を見かけた。

 それも二人、連れ立って歩いている。

 ここ最近の二人の様子を思うと、声をかけるか少し迷ったが、あえて見なかったことにするのも今さらな気がして、その姿に近づく。






 「よっ、ご両人」


 「なーに言ってんだか」


 「今までの意趣返しってことで」


 なるべくおどけてみせると、返ってくるのはいつものクールな調子で肩をすくめる姿。

 言葉通りの、今まで散々やられたお返しは、この娘にはあまり効果がないらしい。

 見知った姿―――翔子ちゃんと圭輔だった。



 「こんなトコに一人でなにやってんだ、お前?」


 「家で一人ってのもなんだかな~って、なんとなくブラついてる。

  25日のプレゼントも選ばなきゃだし。

  そっちは?」


 「まあ、俺達も大体そんなところだな。

  翔子のやつが、『圭輔のセンスじゃ心配だー』とか言ってきてよ」


 「アンタに任せたら、何を持ってくるか分かったもんじゃないでしょ。

  ……って言うか章、家に一人って? 

  あやのちゃんに、ついに愛想尽かされた?」


 「友達と遊びに出てるだけだって。愛美ちゃんと小春ちゃん」


 人聞きの悪い事を言う。

 見捨てられたら見捨てられたで、探し出して謝り倒してでも帰ってきてもらうつもりだけど。



 「ふ~ん。それにしたって、茜は一緒じゃないんだ?」


 「ん……別に、あえて声をかけなかったわけでもないんだけど。

  フラッと出てきただけだし、わざわざ声をかけるのもなって」


 あまり聞かれたくなかったが、やはり聞かれるか。

 そんなに茜ちゃんといつも一緒にいると思われてるのだろうか?



 「別にお前らふたりなら、そんなの今さらカンケーねぇだろうに」


 珍しく圭輔までそんな事を言う。

 例のノック勝負以来、ぐっと距離が近くなった目の前のふたり。

 その当事者に言われるとぐぅの音も出ない。



 「まあ、そういうところで変に生真面目っていうか、妙に理屈っぽいのは章らしいって言うか、何て言うか」


 「僕、そんなに理屈っぽいかな?」


 「ちょっとだけね。

  誰かのためってなると、深く考えずにダーッと動けるのに、自分の事となるとまるで逆って感じかな?

  ……ってのは、茜の受け売りなんだけど。でも、私もそう思うし」


 「本人としては、そんなに直感で動いてるつもりも、立ち止まって考えてるつもりもないんだけどね」


 とは言え、茜ちゃん評だとなんだか当たってる気もする。

 実際のところはよく分からないのが本音だ。

 ただ、いつもできてることができてないってのは事実かもしれない。



 「自分のことなんてのは、えてして自分が一番よく分からないものだと思うわよ」


 「……ごもっとも」


 「ん? なんで俺を見るんだよ」


 外野からは素直じゃないと散々に言われてきた僕と茜ちゃんだが、

 翔子ちゃんと圭輔だってノック勝負の件を思えば大概だ。


 圭輔は尚も自覚ナシみたいだけど。

 ある意味、圭輔にとってはこれが一番自然体なのかもしれない。



 「まっ、章が誘いたいなら誘えばいいし、そうじゃないなら別にいいんじゃねぇの?

  難しく考えずに、シンプルによ」


 「シンプルに、か……そうかもね」


 「圭輔にしては良いこと言うじゃない」


 「俺にしてはってなんだよ、俺にしてはって」


 「あはは……」


 いつかも見たふたりのやりとり。

 いつかもと言うか、いつもの、と言った方が正しいかもしれない。

 でも、そんな中にも二人にこれまでと違う距離……それも近づいた方向の、そんなものを感じた。


 圭輔が言うところの、シンプルに考えた結果が今のふたりなら、僕は―――






 ………






 ………………






 その後、圭輔と翔子ちゃんと少しやりとりしてから、二人とは別れて再び一人。


 ありがたいことに、一緒にブラつかないかと両方から声がかかったが、

 とりあえず今日のところは遠慮しておいた。

 二人に気を遣ったってほどでもないけど、ここで三人になるのは野暮な気もしたし。




 みたび、冬の商店街に一人。

 そう思い歩いていると、二度あることは三度と言わず四度までも。

 今日はよくよく知り合いに遭遇する日らしい。

 いや、今度は知り合いというか何と言うか―――



 「お兄ちゃん!? 一人でどうしたの?」


 「よっ、楽しそうだなあやの」


 知り合いというか、家族だし。

 と、我が妹に声をかけたところで、三人だと思っていた集団が四人だったことに気がついた。

 後輩トリオに加え、京香ちゃんも一緒だった。



 「それに、京香ちゃんも。

  ……これはこれで、珍しい組み合わせなような?」


 「小春に誘われてな。

  プレゼント選びも、手伝ってもらった」


 そう言う京香ちゃんの手には袋が下がっていた。

 見れば、あやの、小春ちゃん、愛美ちゃんも手提げ袋を持っている。

 どうやら、この一行は順調に25日の準備を進めているようだ。



 「お姉様はこういうの、初めてだと思ったので!

  それに、お姉様にあやのちゃんに愛美ちゃんに……。

  大好きなみんなと一緒で、小春は幸せ者です♪」


 そう言って本当に嬉しそうに笑う小春ちゃん。

 確かに、以前はこうして京香ちゃんと街に出るなんて考えられなかったのだろう。

 こう考えれば、あの“魔”の騒ぎも悪いことばっかりじゃなかったと思える。

 京香ちゃんも、凛とした佇まいはそのままに、ずいぶん表情が柔らかくなったように思う。



 「お兄ちゃんはプレゼント―――は、まだみたいだね」


 「まだ時間があるんだし、お兄ちゃんだから焦らないの」


 「またワケの分からないことを……直前になって慌てても、助けてあげないんだから」


 「大丈夫だって。今日、知り合いの団体にあやの達を入れて4回会ったけど、

  プレゼントを準備できてるのに会ったのはこれが最初だし」


 会う奴会う奴、示し合わせたみたいにプレゼントの話をしてたけど、

 実際に決まってる奴はいないみたいだった。

 みんな、ちゃんと選ぶあるのかと疑うくらいに。




 「しかし桜井、なればそなたは一人で何をしていたのだ?

  他の皆は、友人同士で遊んでいたのだろう?」


 「「「「…………」」」」


 悪気は無いんだろうが、京香ちゃんの言葉が胸に突き刺さる。

 僕はもちろん、後輩たちも言葉を失っている。


 気にしないように、気にしないようにここまで来たが……。

 やはり、こんな時期に一人でぶらつくのは寂しい話らしい。

 思えば、家を出てからこっち、結局立ち読みしてSeasonでメシ食った以外の成果は特にない。



 「まっ、まあ僕くらいの街歩き上級者になると、一人で過ごすくらいどうってことないのさ!」


 「先輩、さすがにそれは無理が……」


 「ふむ、そうなのか。

  では、私も今度そのように―――」


 「いやいや、マネしなくっていいですからお姉様!!」


 強がりまじりの冗談は、愛美ちゃんには通じなかったが京香ちゃんには通じたようだ。

 ……翔子ちゃんがこの娘にやたら変な知識を吹き込む気持ちが、少し分かった気がする。



 「そっ、そうだ先輩! 

  これから私達、カラオケに行こうと思ってたんですけど、

  よろしかったら先輩もいかがですか?」


 「えっ、いいの?」


 「しょーがない、可哀想な兄貴を助けてあげようじゃない。

  それに、愛美の誘いを断る気?」


 なんでそこであやのが偉そうなんだよ。

 と、思わず口に出そうになったがここは堪える。

 それに、確かに可愛い後輩のお誘いを無下にするほど、僕は孤高を気取ってるわけじゃない。



 「それじゃ、お言葉に甘えて……よろしく、愛美ちゃん」


 「はい、先輩!

  せっかくですから、一緒に楽しみましょうね」


 一緒に楽しもう、か。

 愛美ちゃんからこういう言葉が出てくるなんて、ちょっと驚いたけど。

 でも、出会った頃ならいざ知らず、色んな事に前向きになれた今の愛美ちゃんなら不思議じゃない。

 今日なら、惜しげもなくその歌声を披露してくれそうな気すらする。


 とりあえず、今は細かいことは忘れて楽しむとしよう。

 そう思うと、ますます気分も盛り上がってきた気がした。






 ………






 ………………






 「―――って、結局なんもやってないな、今日」


 立ち読みして、メシ食って、妹達とカラオケして。

 そして帰ってきて、今さっきまでベッドの上で漫画を読んでたわけだ。



 「プレゼント選びも何も進んでないし……。

  ただ遊んでただけじゃん」


 もっとも、楽しかったからそれはそれでいいんだが。

 とは言え、手ぶらで25日のパーティーに出席するわけにもいかない。

 これはいよいよ真剣に考える必要がありそうだ。




 「……助っ人、頼むか。

  あくまでシンプルに―――」


 友達からは色々言われたけど、“彼女”を誘う理由はシンプルだ。

 ただ単に、困っているから助けてほしい……それでいい。




 苦し紛れに見えなくもないが、この際それでもいいと思った。

 変に迷うより、分かりやすい方がよっぽど良い。


 そうやって結論付けたところで、電話の子機を手にし、“彼女”の携帯番号をダイヤルしたのだった―――


 ども~作者です♪

 Life第六十頁、いかがだったでしょうか?


 まさかまさかの三話構成(笑)

 プロットちゃんとしろよって話ですが、みんな出してたらこんなことに……。

 次はちゃんと終わります^^;


 ということで次は章が最後に声をかけた女の子との話になります。

 そろそろ風呂敷をたたみにいっている感じもありますが(と言いつつもう少し続きますが)、

 変わらず期待し過ぎない程度にご期待ください。


 それではまた次回☆

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