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第五頁「高嶺の花は恋の香り!?」

 ―――ピンポーン ピンポーン、ピーーンポーン!




 ……半分、条件反射でやっている事だとは思うけど、

 何回も何回もインターホンを鳴らしてほしくない。


 大体、待ち合わせ時間にほんのちょっと遅刻したぐらいで家まで来るなんて、茜ちゃんも大げさだ。



 「お兄ちゃ〜ん! 茜さん来たよ〜!」


 「分かってるって!」


 さらにはあやのに急かされる。

 現在、上半身にシャツを羽織って、ズボンは半分はきかけという、実にマヌケな格好だ。


 時間通りに起きてもこのザマなら、もう気まぐれで目覚まし通りに起きるの、やめようかな?

 ―――いや、うっかり二度寝をした僕が悪いのだが。



 ギリギリ勝負のクセが身についているため、着替えも実に早いものだ。

 茜ちゃんのインターホンと、あやのの大声によるダブルパンチが始まってから、

 ものの1分ほどで着替え終わり、そのまま1階へと駆け下りる。




 「お兄ちゃん、お弁当!」


 「ありがとう!」


 「朝ごはんはどうする?」


 茜ちゃんをこれ以上待たせるわけにはいかない。

 そういうわけで、弁当だけ受け取ったらすぐに家を出る……つもりだった。



 「そんなの食べてる場合じゃ―――わっぷ!?」


 口が! 口がぁ!!



 「フガッ、フガァ〜!」


 「朝ごはんは、ちゃんと食べなきゃダ・メ。

  それじゃ、いってらっしゃい♪」


 出がけの兄貴の口にトーストをねじ込むとは……なんて妹なんだ、あやのめ。

 ―――しかも、笑顔でやるもんだからタチが悪い。


 それにしても、トーストくわえて登校なんて、僕はどこの漫画キャラなんだ?




 …………




 ……………………




 家を出ると、玄関先で茜ちゃんが待っていた。

 二度寝したとは言え、時間的には多少の余裕があるので、表情は穏やかなものだ。



 「おはよう、章。

  今日は、自転車使わずに済みそうね」


 「おはよう茜ちゃん。

  まあ、毎日自転車だと身がもたないから……」


 走るよりはマシとはいえ、自転車登校=茜ちゃんとの2人乗りなので、体力の消耗が半端ではない。

 例えるなら、1日の疲労の半分ぐらいが一気にやってくるぐらい。

 確かに、ギリギリの時間でも間に合うようにはなるが、できれば避けたい所なのだ。



 「そうね。

  それに、トーストくわえたまま自転車こぐわけにもいかないし」


 「これには何も突っ込まないで……」


 右手にカバン、左手にトーストというのは、カッコいいものではない。

 さっさと胃に流し込んでしまうとしよう。



 「大方、朝ごはんいらないとか言って、あやのちゃんに押し込まれたんでしょ?」


 「いやぁもう、おっしゃる通りで」


 「やっぱり……」


 そんなに残念そうな顔されても。



 「って言うかさ、せっかく朝を一緒にできるんだから、ちょっとは頑張って起きなさいよね。

  ご飯食べるぐらいなら、そんなにキツい時間でもないでしょ?」


 「うん、まあ……。実は今日も、それなりの時間に起きたんだけどさ。

  ―――二度寝したけど」


 「はぁ……ホントにバカ。

  とにかく、あやのちゃんは春休みなのに早起きしてくれてるんだから、アンタも頑張りなさいよね」


 「……そうだね」


 あやのはついこの前、中学校の卒業式を迎えた。

 当然、志木高に入学するまでは春休みになるわけで、早起きの必要は無くなる。


 にも関わらず、僕の弁当作りやらなんやらで、結局いつも通り早起きしているようだ。

 春休みといえば、宿題もなく一番のんびりできる長い休みであるにも関わらず、だ。


 確かに、妹に早起きしてもらって、弁当やら朝食を作ってもらってるのに、

 兄貴の僕が寝坊して迷惑かけるのもしのびない。


 僕だって、できればあやのと朝食にしたいし、少し頑張ってみようか。

 少なくとも、二度寝はもうよそう、うん。




 …………




 ……………………




 いつもの桜並木―――とは言っても、まだ3月半ばなので花は咲いていないが―――そこを茜ちゃんと歩く。

 今日は、景色を楽しむ余裕ぐらいはある時間帯だ。


 周りには、僕らと同じく登校中の学生もチラホラ見える。

 自転車の時には、お目にかかれない光景だ。



 「ねえ、あやのちゃんが志木高入ったらさ、あやのちゃんと学校来るの?」


 ふと、茜ちゃんがそんなことを聞いてきた。



 「う〜ん、どうなるんだろう?

  あいつ次第だけど、あやのが嫌がらなきゃ、そうなるかな?」


 「そっか。やっぱりそうだよね。

  あやのちゃんって、結構お兄ちゃんっ子だし、嫌がられる事は無いんじゃない?」


 お兄ちゃんっ子……かどうかは分からないが、確かに、あやのとは仲が悪いわけでもない。

 むしろ、どちらかと言えばいい方なのかもしれない。


 そういうことを考えれば、茜ちゃんが言う通り一緒に登校するのも、自然な流れかもしれない。



 「そうなるとあたしも、毎朝アンタを起こさなくてもよくなるわけよね」


 「ええっ!? それはちょっと困るかも……なんて」


 「何でよ?」


 「いや、その―――」


 ……なんか、改めて言うのは照れるな。



 「茜ちゃんに起こしてもらった方が、なんと言うか……その、ビシッと引き締まるというか、そんな感じ」


 「なによそれ」


 「いやいや、笑ってるけど、ホントのことだって」


 笑ってる、と言うよりはむしろ、苦笑しているが。


 そうは言っても、ウソはついてないのだからしょうがない。

 この間、あやのに起こされた時に感じたこと……それが、そっくりそのまま口から出た。


 もちろん、あやのに起こされるのが嫌だとか、そんな贅沢なことは言わないが。

 でも、今一つしっくりこないものがあった。


 少々情けない肩書きだが、長年起こされ続けてる僕が言うのだ、間違いない。



 「アンタってたまに、すっごい変なことを大まじめな顔して言うわよね」


 「そうかな? 自分では全然意識してないんだけど……」


 「まあ、それはどうでもいいんだけど。

  そうね……あやのちゃんが中学にあがる時も、似たようなこと言って、結局は毎朝起こしてたしね。

  しょうがないし、ここまできたら、高校卒業までは面倒みてあげるわよ。

  ―――ただし、自分で起きる努力はすること!」


 最後だけは、やたらと強調されていた。

 その条件を達成できるかどうかは微妙だが、とりあえずはこれで2年の契約延長が決定したことになる。


 僕にとっては、もちろん嬉しいことだ。

 それに、茜ちゃんのほうも、言葉だけ聞くと随分嫌そうに聞こえるが、

 なにやら口元がほころんで見えるのは僕だけではないはずだ。


 起こしてもらってる身で言うのもなんだが、茜ちゃんとしても、まんざらではないらしい。

 嫌々やってもらうよりは、こっちとしてもその方が断然いい。


 茜ちゃんが、どういう思いで毎朝の“習慣”をこなしているかは、僕が知っているはずもないが、

 とりあえず、今は契約更新を素直に喜んでおくとしよう。




 …………




 ……………………




 さらに通学路の坂を歩いていると、後ろから声をかけられた。

 聞き覚えのある声、ふり返ると、そこには光がいた。



 「はよっす、章、茜。

  今日は余裕があるみたいだな」


 「おはよう、光。

  別にあたし達だって、好きで自転車のってるわけじゃないのよ?」


 ごもっとも。

 一度、自転車登校のデッドヒートを体験すれば、あの辛さが分かるんだろうけど……。

 まあ、光には縁が無さそうな話である。



 「光ってさ、朝はいつも1人なの?」


 「ああ。圭輔が、たま〜に朝練休みの時以外はな。

  毎朝の1人旅ってのも気楽で悪くないが、こうやって友達と学校行くのは、やっぱり良いよな」


 「光って、見た目はクールっぽいのに、そういうこと言うのが好きよね」


 「変か?」


 「ううん。むしろいいんじゃない、そういうの」


 「まあ、変にクールを気どるよか、ワイワイやる方が性にあってんだよ。

  それだけのハナシだ」


 なんて軽く流しているが、そこが光にとって、最大の持ち味でもある。

 騒ぐ時には人一倍騒ぐ、それでいて、普段は冷静に。


 本当に人間がよくできてるなって、本人には言わないけど、僕はそう思う。




 ………




 ………………





 途中で光が加わり、3人で歩いている内に校門に着いた。

 と、同時に目を引く光景。



 「……え〜、何よあの男子ばっかりの集団?

  朝からむさ苦しいわね」


 「何かあったのかな?」


 「ちょっと行ってみるか」


 光の提案にのって、集団の中に入ってみることにする。






 「わわっ!?」


 ―――勇んで突入を試みたはいいものの、人垣が半端ではない。

 しかもこの集団、やたらと熱狂的なのだ。

 道を空けてくれそうな気配など、微塵もなかった。

 ……一体、なんの騒ぎなんだ?




 格闘の末、ようやく集団の中心を確認できる地点に辿り着く。

 茜ちゃんと光もすぐに到着した。



 「誰か、人を囲んでるっぽいな……っと、あれは空木か?」


 「光、知り合いなの?」


 「……空木さん知らないの、学校中でアンタぐらいだと思うわよ?」


 「えっ?」


 茜ちゃんから聞かされる衝撃的なワード。

 だが、僕が知っている名前に空木という名字は無い。



 「1−Bの空木怜奈さんといったら、志木高に知らない人はいないと言われているほどの有名人よ。

  ……知らない人が、すぐ真横にいたけど」


 「余計なお世話だっての。 それで、どういう子なの?」


 「1年生にして、演劇部のスーパースター。

  演技力はもちろん抜群で、つぶらな宝石のような瞳に、風になびくサラサラの長い髪と、ルックスも完璧。

  その上で、成績優秀、運動神経は抜群ときてる。


  言ってみれば、我が志木ノ島高校のアイドルって所だな。

  ……まっ、俺は別に興味ないが」


 確かに、渦中の空木さんはこういうことに慣れているのか、

 少し迷惑そうな顔をしているものの、全く動じない様子で玄関へと向かっている。

 それにあわせて集団も動くのだから、ある意味不気味である。



 「とりあえず、すごいのは分かったけど、この人ごみは一体……?」


 人気があるにしても、昨日まではこんなことはなかったのに、

 今日になって、突然この状況になるのは変な話だ。



 「今、思い出したんだが、確かこの前の休みに、演劇部の定期公演があったんだ。

  それで、取り巻き連中が盛り上がってるんだろ。

  ファンクラブがあるとか無いとかって話しだしな」


 「なるほど……。

  でもまあ、邪魔になるから別の場所でやってくれ、ってだけど、

  あそこまで熱くはなれないなぁ―――」


 「そう言うとは思ってたけど……アンタはもっと周りのことに関心持ちなさいって。

  空木さんなんて、超有名人な上に隣のクラスなのよ?」


 「ふわ〜い」


 あくび混じりの情けない返事で返す。

 今日は珍しく起きるのが早かったし、さっきの事で朝からもみくちゃにされたので、体力を余計に使ってしまい、早くも眠い。


 ……これは、今日の授業を乗り切るのが難しそうだ。






 …………






 ……………………






 ―――で。案の定、僕はバッチリ爆睡したわけでして。

 しかも、よりによって4限目の英語……我らが担任・華先生の授業の時に。


 悪いことは重なるものなのか、運悪く寝ている時に当てられてしまった。

 当然、問題に答えられるはずも無く、僕は寝ていた上に答えられなかった罰として、

 廊下でバケツ持ちという、古典的なスタイルで華先生の説教を喰らう羽目になった。


 ……廊下でバケツ持ちというのは、華先生の趣味だろうと思う。



 「さくらい〜? あたしの授業で寝るなんて、いい度胸してるじゃない?」


 「すっ、すみません……」


 「そんなに私の授業はつまらなかった? ん〜?」


 そう言って僕の額を小突く華先生。

 まるで子供みたいだ。


 ……この人は、僕をからかいたいのか叱りたいのか?

 口調と動作から察するのはかなり難しい。



 「まっ、いいわ。桜井が寝てるのはいつものことだし。

  友達に頼んで、ちゃんとノートは写させてもらうように。

  それから、バケツの水も捨てておいて。いいわね?」


 『まっ、いいわ。いつものことだし』で説教を済ませる教師が、全国にどれほどいるだろう?

 その上で、寝ていた生徒のノートの心配までするとなると、もはやこの人しかいないのでは無いだろうか?


 それでも、シメるべき所はきちっとシメてくれるのだから凄い。

 少なくとも、この1年間はそうだった。


 ……確かに、生徒に理解もあってこの性格なら、人気が出るのもうなずける話だ。




 それにしても―――いいわね、と同意を求められているのだから、返事をせねばなるまい。



 「は〜い」


 「返事はシャキッと!」


 「ハイハイ!」


 「ハイは1回!」


 「ハイ!」


 「よし、合格! 行っていいわよ。

  短い昼休み、しっかり楽しみなさい?」


 返事にこだわる辺り、華先生らしいと言うか何と言うか……。




 とにもかくにも、こうして無事に昼休みを迎える事が出来た。

 迫り来る空腹感に押され、鞄から弁当を取り出す。


 ふと、たまには食堂で食べてみようかと思い立ち、そのまま現地へと向かった。

 何も買わないのはなんだし、お茶でも買うとしよう。資金は充分にあるし。

 華先生じゃないが、短い昼休みを最大限に満喫せねば。




 …………




 ……………………




 「うっわ、かなり混んでるなあ……」


 食堂にはたまにしか来ないのだが、来る時はいつも混んでいる。

 いつも混むのか、あるいは、僕が来る時をピンポイントで狙って混むのかは分かりかねる。


 後者だったら嫌だなあなんて、のん気な事を考えながら、とりあえず空いてる席を探す。






 ……お、奥の角が空いてるっぽい。

 優子ちゃんと未穂ちゃんが一緒にパンを食べてる。

 そう言えば、2人は友達同士だって言ってたもんな。


 それから、もう1人の女の子が目に入った。

 空木さん―――今朝、取り巻きらしき連中に囲まれていた、あの彼女だ。

 興味は特に無かったが、光が言っていた評判通り、確かに美人だったので顔と名前がすぐ一致した。


 そんな美人かつ有名人な空木さんなので、みんな遠慮するのか、彼女の向かい側の席が空いている。

 座ろうと思えば座れるが……どうしたものか?


 見た感じでは、3人で親しげに話してる気がする。

 どうやら、適当に相席になったわけでは無いらしい。


 ……多少はばかられるけど、他に席も見当たらないことだし、ここはお邪魔させてもらおうか。



 「ここ、いいかな?」


 努めてフレンドリーに言ってみた。

 よく考えたら、3人中2人とは知り合いなんだから、そんなに硬くなる必要はなかったのだが。



 「あっ、桜井くんだ♪ いいよいいよ〜。

  桜井くんならいつでも大歓迎、だよ」


 3人を代表するかのように、未穂ちゃんが言った。

 相変わらず元気がいい。



 「ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらって……っと」


 空木さんの向かいに座る。

 軽く会釈をすると、微笑み返してきてくれた。

 ―――意識して近くで見るのは初めてだが、

 さすがに学園のアイドルと言われるだけあり、確かに可愛かった。



 「桜井くん、ここにはよく来るの?」


 「ううん、今日はたまたまかな。

  なんか、食堂に行けっていう天の声が聞こえた気がしてね」


 「相変わらず、面白いこと言うんだ、桜井くんってば」


 そう言う割には、優子ちゃんの笑顔は多少引きつっていた。

 まあ、天の声云々はちょっと言い過ぎたかもしれない。



 「ここって、いつもこんなに混んでるの?」


 「う〜ん……そうだね、大体は毎日こんな感じ。

  でも、購買でパンを買って食べてる人とかもいるし、

  みんながみんな、食堂で何か買ってるってわけでもないけど」


 「へぇ」


 優子ちゃんが言った通りなら、どうやらピンポイントで狙われているわけではないらしい。

 まあ確かに、ウチの食堂は学校のにしてはメニューも充実してるし、人気が出るのもうなずける。


 ……食べたことがないから、味がどうなのかは知らないけど。

 でも、これだけの盛況なんだから、そっちもそこそこなんだろう。



 「ところで、3人はいつもここでお昼なの?」


 「うん、大体はね。今日はパンだけど、食堂のメニューもけっこう食べるし。

  それに、今日は色々と、ね」


 そう言って、未穂ちゃんがチラリと空木さんの方を見た。

 何かワケありなのだろうか。


 ―――〜〜♪〜〜〜〜♪♪〜〜〜♪


 ちょっと聞いてみようかと思った矢先、誰かの携帯が鳴って会話が途切れた。



 「あっ、私のだ」


 どうやら空木さんのものだったらしい。

 メールでもきたのか、何やら読んでいるようだ。



 「……ゴメン、ちょっと部活の用事ができちゃった。また後でね」


 そう言うと、空木さんは少し慌てたように立ち上がり、小走りで食堂を出て行った。

 なかなか忙しい娘なのかな。




 「定期公演が終わったばっかりなのに、大変だな〜、空木さん」


 「もしかして、桜井くんも行ったの、この間の定期公演?」


 「ううん。友達に聞いて、今朝知った。

  それに……お恥ずかしながら、その時まで空木さんのこと、知らなかったし」


 「…………」


 「…………」


 って、オイオイ。2人揃ってそんなに硬直しなくても。



 「信じられない……まさか、怜奈を知らない男子がいたなんて。

  って言うか、怜奈のこと知らないの、多分学校中探しても桜井くんぐらいだよ?」


 「朝も言われたよ、今と似たようなセリフ」


 未穂ちゃんにせよ茜ちゃんにせよ、よっぽどショックが大きかったらしい。

 どうやら、僕はよっぽどの世間知らずだったようだ。



 「そっか、それで怜奈がいても入ってこれたんだ」


 妙に納得したような顔で、今度は優子ちゃんが言った。



 「どういうこと?」


 「ほら、怜奈って志木高のアイドルとか言われてるでしょ?

  そのせいか、食堂で相席でもしようものなら、やっかみの目がすごくて」


 「はぁ?」


 何とまあ……浅ましいとでも言うべきか。

 でも確かに、こちらに向けられた視線を感じないこともない。



 「だから、食堂で食べてる時に、怜奈の隣とか向かいが空いてても、男子は誰も座らないんだ。

  それでも、公演の後なんかは、チラチラ見てくる人とかはいるんだけど」


 「じゃあ、もしかしてさっき言ってた色々っていうのは―――」


 「そう。多分もう分かっちゃったと思うけど、怜奈の身を隠すため。

  食堂なら人も多いし、ここみたいに奥の方なら目立たないしね。

  桜井くんは、目ざとく見つけちゃったけど」


 途中から未穂ちゃんに言われてしまったが、全く予想通りである。

 木を隠すには森、ってところだろうか。

 その中から、1本の木を見つけ出すのだから、確かに目ざといのかもしれない。



 「視力はいいほうだからね」


 「……やっぱり、面白いこと言うんだ、桜井くんって」


 今度は、さっきみたいに引きつった笑いじゃなく、微笑むようにして優子ちゃんが笑った。

 何か思うところがあるんだろうか。




 それにしても、空木さん……か。

 学園のアイドル恐るべし、とでも言うべきなんだろうか。


 ちょっとだけ、興味が出てきた。

 何の縁でか、自分の知り合いと随分親しいみたいだし、今度会ったら声をかけるのもいいかもしれない。


 そんなことを考えながら3人でランチをするうちに、昼休みは終わりを告げたのだった。





 …………





 ……………………





 午後の授業は寝まいと気を張っていたので、何だか長く感じられた。

 それでも、頑張った甲斐があってか、午後は起きていられたから、たとえ長くても良かったとしよう。




 帰りのホームルームになってしまえば後は短いもので、授業終了後、ものの数分で放課後となる。


 知り合いの部活組は、帰りの挨拶が終わるなり教室を飛び出してしまって誰も残っていない。

 僕と同じく、帰宅部組の光に声をかけて一緒に帰ろうかと思ったが、いつの間にやら彼もいなくなっていた。

 ……しょうがない、一人で帰るか。


 考えてみれば、光っていつもすぐ帰っていたような気がする。

 あんなに急いでどこに行くのやら……。


 そのくせ、フッと現れては、一緒に帰らないかと誘ってきたりするし。

 性格同様、行動も今一つ掴みきれない部分が多いな、あいつは。




 っと、そう言えば、今日は毎週購読している漫画雑誌の発売日ではないか。

 帰りに商店街で立ち読みしていくか。







 この時間の商店街というのは妙な盛り上がりを見せてくれる。

 夕食の材料でも買いに来ているのであろう、主婦と思しき中年女性や、

 学校が早く終わる小学生、そして学校帰りの学生たちで賑わっている。

 かく言う僕も、下校途中なのだが。




 本屋につくと、目的の本は平積みされていた。

 さっそく立ち読み開始だ。

 この店は、立ち読みフリーなので大変重宝する。


 ……まあ、本を買う時はいつもこの店だし、

 ちゃんと売り上げにも貢献しているのだから、立ち読みしても文句は無いだろう。




 ………




 ………………





 いやあ、読んだ読んだ。

 特に、『軟骨先生ワカドリ!』、毎週毎週楽しませてくれる。


 今週も強烈な引きで終わっていて、早くも次回が気になるところだ。

 何でこう、漫画っていっつもいいところで終わるんだろうか。

 この一週間っていう期間が、なんとも微妙なんだよな。


 ―――何だか、上手く作家と出版社の戦術に乗せられている気がしつつも、

 用が済んだので店を後にする。

 とりあえず、微妙な一週間を過ごしてから、また来週に来よう。




 店を出るとすぐに、道の反対側にあるクレープ屋の前に、見覚えのある3人組を発見した。


 優子ちゃん、未穂ちゃん……そして、空木さん。

 昼休みにも見かけた3人組だ。


 放課後まで一緒に行動とは、かなり仲が良いんだな〜と思いつつ、その場を立ち去ろうとすると、

 優子ちゃんが僕に気付いたらしく、元気に大きく手を振っている。


 ……まあ、あちら側から手を振っているのだから、近づいてもバチは当たらないだろう。

 今日は何だか彼女達と絡む機会が多い気がするが……気にしないでおくか。



 「やっほ〜桜井くん♪ 何してたの?」


 「ちょっと本屋で立ち読み。優子ちゃんたちは?」


 「私達は、これからカラオケ行くんだ〜。

  桜井くんも、良かったら一緒にどう?」


 「えっ? そんな、友達同士で行くのに僕が行ったら悪いないよ」


 「良いって良いって、そんなの気にしなくても!

  ね、未穂、怜奈?」


 チラリと2人に目で同意を求める優子ちゃん。

 2人とも黙って頷いた辺り、問題は無いようだ。



 「そうね。私も、ウワサの桜井くんと一緒にカラオケ行きたいかな?」


 そう言って、空木さんは僕の方を向いている。

 思えば、この娘が僕に向かって話しかけるのは初めてだった。



 「ウワサのって……空木さん、僕のこと知ってたの?」


 僕が空木さんの存在を知っているならともかく―――って、それすらなかったが、

 空木さんが僕の事を知っているのは、かなり意外だ。



 「だって、優子も未穂も、いっつも嬉しそうに君の話するんだよ?

  そりゃ嫌でも覚えちゃうって」


 「ははは、そりゃどうも」


 志木高のアイドル空木さんにまで名前を知られているとは……

 僕の名前も、知らない間に広まっているのかもしれない。


 なんて、のんきに考えていると、おもむろに空木さんが近づいてきた。



 「でも―――ふ〜ん……そっか、君が桜井くんか」


 とか何とかつぶやきながら、ともすれば触れ合ってしまいそうな距離で、空木さんは僕をなめるように見ている。

 僕を観察するかのように、周囲を回ったりとか……。




 不意に、至近距離で目があった。




 確かに、光が言うように、大きくてつぶらな瞳だ。

 ともすれば、吸い込まれてしまいそうな―――。




 って、イカンイカン。見とれてる場合じゃなくてだな。



 「あっ、あの……空木、さん?」


 「ん……あ、ゴメンゴメン。

  昼休みに見た時には、あんまりじっくり見れなかったから、その分を、って思ってさ」


 そう言って、空木さんはいたずらっぽく笑った。

 こういう笑顔が、これまたよく似合っている。



 「あっ、それから、私のことは気楽に名前で呼んでくれれば良いからね。

  これからよろしく、桜井くん♪」


 「こちらこそよろしく……その、怜奈ちゃん」


 「うん♪ それじゃ、さっそく行こ!」


 ほぼ初対面の女の子を名前で呼ぶなんてのは、ちょっとはばかられたが、

 怜奈ちゃんは嬉しそうだし、よしとするか。




 ともあれ、こうして僕は、文化部トリオのカラオケにお付き合いさせていただく事になった。

 ……持ち歌の乏しい僕はほとんど歌わなかったが。


 それに対して、3人はみんな上手かった。

 優子ちゃんがカラオケ得意なのは前から聞いていたが、

 やはりと言うか何と言うか、怜奈ちゃんも歌が上手かった。


 何と言うか、声がクリアで、心に染み渡る感じだ。






 ―――学園のアイドルとか言うから、もっとお高く止まったお嬢様タイプを想像していたけど、

 随分とフランクな娘のようで、何だか意外だった。




 近づいて話してみれば、明るい、普通の女の子だと思う。

 優子ちゃんや未穂ちゃんと仲がいいのも、不思議な話ではない。




 そして、そんな彼女なら、これから上手く付き合っていけそうな気がした。




 空木怜奈、高嶺の花は恋の香り―――なんてね。


 作者より……


 ども〜ユウイチです☆

 いかがでしたでしょうか、Life第五頁は?


 さて、ここまでキャラ出しに徹して来た本作ですが……キャラ紹介編も次回で終わり!

 (次回もまた紹介編かよ!? という突っ込みは受け付けておりません(笑))

 皆さんはどのキャラがお気に入りですか?

 えっ、まだキャラがよく分からない?

 じゃあ―――これからも気長に読んでくださいね♪(爆)


 さて、そんな次回ですが、キャラ紹介編の締めくくりにふさわしい方を予定してますんで、

 いつものごとく、期待し過ぎない程度に期待してやって下さい。


 それでは次回またお会いしましょう!

 次回まで、サラバ!(^_-)-☆by.ユウイチ

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