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第四頁「唐突な衝突!?」

 教室へ向かう廊下、手元の時計を見て思わず顔がほころぶ。


 ただ今の時刻、午前8時9分―――どこをどう見ても余裕の時間だ。

 いつものデッドヒートを考えれば、これだけ早く着いたことを喜ばずにはいられない。

 同時に、ちゃんと起こしてくれたあやのにも感謝だ。


 いやあ、何だか心に余裕すら感じるな。

 こういう余裕はぜひとも毎日味わいたいものだ。


 ……が、そうするためには、日々の早起きが不可欠になるわけで。

 それを考えると、ちょっと悩む所である。


 と、言うか僕の場合、遠慮なく睡眠をとる。

 そういうわけで、早く学校に来るたびにこういう結論になるもんだから、

 『桜井章生活習慣改善計画』は毎度毎度先送りになるのだ。

 まあ、そのうち何とかなるだろう。




 ―――などと、少し言い訳めいた自己完結をして教室のドアを開けた。

 やはりと言うか当然なのだが、いつもよりかなり人が少ない。


 そんな中で、見知った顔を2つ見つける。



 「おはよう圭輔、光」


 萩原圭輔と和泉光。僕の中学時代からの友人で、高校でも偶然同じクラスになった。

 最近では、腐れ縁に近いものも感じ始めている。



 「はよ〜っす―――って章! お前がこんな時間に来るなんて、今日は槍でも降るのか!?」


 「はぁ……朝からヒドいな、圭輔」


 僕を見るなり、驚きの声をあげる圭輔。

 ちょっと失礼な気もしたけど、こいつの場合まったく悪気はないので、軽く流しておく。



 「おはよう、章。

  ……まあ、圭輔の言い方はオーバーにしても、こんな時間に登校なんて、珍しいな?」


 「今日はあやのと家を出てきたから、いつもよりだいぶ早い時間に出たんだよ。

  自転車使えば、もっと早く来れたけどね」


 「出来のいい妹さんで、羨ましいこと。

  そう言えば茜たち、今日は朝練だもんな」


 「そう言う圭輔の方こそ、今日は朝練なかったの?

  野球部、いつもやってるんだろ?」


 圭輔は野球部所属だ。

 運動神経抜群の圭輔だけあり、一年にして既にレギュラーの座を獲得している。

 その分練習量も多く、毎日のように朝練があるので、早い時間に登校しているのだ。



 「だから、今日は休みだったんだって」


 「……休みだからって6時半から俺んちに押しかけてくるなよな。

  たまたま起きてたからいいものを、普通はそんな時間に人の家に来るもんじゃないぜ?」


 今、ボヤいているのが光。

 圭輔とは、時間が合えば一緒に来るらしいけど……そんな朝早くからとは、何とも圭輔らしい。



 「そっ、それも見越して行ったんだよ!」


 「はいはい、そういうことにしておいてやるよ」


 「ったく、素直じゃねぇんだからよ」


 よくあることで慣れているとは言え、光って圭輔の操縦法が本当に上手い。

 操縦とは言っても、何だかんだで、光も圭輔を買ってるんだけど。




 「それはともかく……だ。

  卒業式も学年末テストも終わったとなりゃあ、後は春休みを待つばかりってトコだな。

  気楽でいいぜ」


 状況が不利と判断したのか、圭輔が話題転換してきた。

 確かに、2年生になるまでさしあたっての行事はない―――



 「一応、まだ生徒会長選挙があるだろ?」


 「あんなもん関係あるかよ? 光、お前もしかして立候補でもするのか?」


 「まさか。章はどうだ?」


 「僕も出るつもりないよ。生徒会とか興味ないし、何より時間が惜しいしね」


 行事、なくもなかったな。

 光に言われて、ようやく思い出したレベルだけど。


 まだ1年生だから、どんな行事がいつあるのかという事を把握しきっているわけではないし、

 何より生徒会の選挙なんて、関心がゼロに等しかったので、そもそも脳内での存在すらも希薄だった。




 「俺もパスだな。章じゃねえが、時間が惜しい」


 「野球の練習、だろ? 目指せ甲子園って所か」


 「そういうことだ! 見てろよ、今年こそ甲子園だぜ!」


 と、圭輔が熱い誓いを立てた所で教室のドアが開く。

 ほぼ同時に入ってくる、2つの人影。



 「朝から大声出しちゃって。今日も3バカさんは絶好調ね。

  廊下まで響いてたわよ、『今年こそ甲子園だぜ!』ってね」


 「そういうお前こそ、朝から言ってくれるじゃねぇか、翔子」


 入ってきたのは、茜ちゃんと翔子ちゃんだった。

 ―――なんかよく知らないが、圭輔と翔子ちゃんは年中言い争っている気がする。


 中学入ってすぐに知り合ったから、もう結構長い付き合いになるけど……。

 大小問わず、色々やりあってるよな、この2人。


 2人は小学生の時からの幼なじみなんだけど、

 同じ幼なじみでも、僕と茜ちゃんとは少し違う感じがする。


 仲が悪いってことは無い……ハズだ。

 とにかく、不思議な2人だけど。


 「まあまあ圭輔、その辺にしとけよ。

  翔子だって、朝練あがりで疲れてるだろうしよ」


 「私は別に、そんなことないけど?」


 「そうそう、翔子がそれぐらいで参るワケねぇだろ」


 「……お前らなあ」


 つくづく、不思議な2人だ。



 「それより章、ちゃんと起きれたみたいね?」


 「陽ノ井茜流布団剥がしの術をあやのに喰らったからね。

  でも……あやのに連絡してくれてありがとう、おかげで助かったよ」


 「素直に初めからそう言いなさいよね。

  まあ、あやのちゃんのことだから、わざわざ電話しなくても起こしてくれただろうけど」


 茜ちゃんはこう言ってるが、あやのが朝練を知らなかったらアウトな訳だし、

 口には出さないけど、心の中でもう一度感謝しておく。

 幼なじみのよしみで、茜ちゃんにも伝わるだろう。



 「しかし章、お前は羨ましい生活してるよな。

  毎朝毎朝、黙ってりゃ顔だけはそこそこ美人の幼なじみか、素直で可愛い妹が起こしてくれるんだからさ」


 「誰が黙ってればそこそこ美人よ!?」


 「ほ、褒めてるんじゃねえか!」


 (……圭輔、お前今日、墓穴掘りすぎ)


 という突っ込みは、心の中にしまうことにする。

 なんて心優しいんだろう。




 ―――だけど、考えてみると、端から見れば確かに羨ましい生活なのかもしれない。


 究極的に言えば、朝は自分で起きなくても良いわけだし、

 朝食はいつもあやのが作ってくれる。

 しかも味も良い……これは確かに魅力的だ。


 いつまで経っても、朝一人で起きられないのは、

 あまりにも恵まれ過ぎた、この生活環境にあるのかもしれないと思った。

 こんな他力本願な生活だから、『桜井章・生活習慣改善計画』も成就しないのだろう。


 ……とは言ってみるが、良い意味でも悪い意味でも慣れというのは凄いもので、

 僕は当分この生活から抜け出せそうもなかった。

 怠惰してるなあ、僕って。






 ―――その後、続けて取り留めのない会話をしていると、朝の予鈴が鳴った。

 こうして、珍しく余裕があった朝は終わりを告げる。


 次に、こんな朝が迎えられるのはいつだろうと、

 『それは自分の努力次第だ』という答えが分かっているにも関わらず、そんなことを考えた。





 ………





 ……………………





 ―――キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン



 授業はまだ終わっていないが、4時間目終了のチャイムが鳴った途端、一気に騒がしくなる教室。

 教科担当の先生も諦めたのか、終わりの挨拶も無しで1−Aの4時間目は終了となった。




 ふと、窓の外に目をやると、実に天気が良い。

 普段は教室で昼にすることが多い僕も、こんな日は外で食べたくなる。

 ……よし、今日は屋上で食べよう。


 善は急げと、この学校でもっとも高い場所を目指して、教室のドアを開けて一歩踏み出す。

 ―――その次の瞬間、何者かが、かなりの速さで突っ込んできた。



 「イタタ……あっ! ごっ、ごめんなさい! 

  ちょっと急いでて! えっと、ケガとかない?」


 「僕は大丈夫。それより、君こそ大丈夫?

  その……しりもちついてるけど?」


 大丈夫も何も、僕はちょっとバランスを崩したぐらいですんだ。

 ……さすがに多少は痛かったが。


 でも、、突っ込んできたと思しき、眼鏡をかけているその女の子はそうもいかなかったようで、

 硬い廊下に、しりもちをつく格好になっていた。場合によっては、アザとかができかねない。



 「あっ、これくらいは大丈夫! 何たって、丈夫さが取り柄だから!」


 「そっ、そう? ならいいけど……立てる?」


 未だしりもちをついたままの女の子に手を差し出す。

 すると彼女は、「アリガト」と言いながら、僕の手をとって立ち上がった。


 この様子だと、あっちもケガは無かったようで、とりあえずは一安心だ。



 「やっぱり、人が多い廊下は走っちゃダメだね。

  ―――って、あれ? 原稿どこいっちゃったんだろう!?

  え〜と、え〜っと……」


 とか言って、女の子は何かを探している。

 さっきぶつかった拍子に落としたらしいが、察するに、かなり大事な物らしい。




 ………原稿?

 って、足元にあるこの茶封筒のこと?



 「あの、もしかして探してるものって、これ?」


 「えっ? ああ〜、そうそう、それだよ

  これ、すごく大事な物なんだ! 本当にありがとう!」


 「どっ、どういたしまして」


 何だか大げさなぐらいに喜んでますよ。

 本人も言ってるけど、よほど大事なものらしい。



 「ゴメンね、さっきも言ったけど、私急いでるから、これで! じゃあね♪」


 「じゃ、じゃあね」


 ……最後までやたら勢いのいい娘だったなあ。




 ……ん? まだ何か落ちてる。

 拾い上げてみると、さっきの“原稿”と思しきものの一枚だった。



 「ねぇ君! まだ1枚落ちてるよー! お〜い!!」


 呼びかけてはみるものの、女の子はもはや昼休みの人ごみの中に消えてしまっている。

 聞こえるはずもない。



 どうしようかと思って、とりあえず落としていった紙を見てみると―――



 (……漫画? 名前は……のってないや。

 さっきの子に届けた方が良いんだろうけど、どうしたものやら?)


 絵は結構……いや、かなり上手い。

 1ページ分しかないので、ストーリーは評価し難いが、

 絵に関しては、プロ級と言っても差し支えないほどだ。


 ―――はて? この絵のタッチ、どこかで見たことがあるのは……気のせいだろう。


 それにしても、原稿は原稿でも、漫画の原稿とは。

 ちょっと意外だ。小説かなんかだと思っていたんだけど。


 まあ、高校生で漫画を書いてるってのも、そんなに珍しくないか。



 とにかく、さっきの娘を探し出すのは難しそうだし、放課後にでも何とかしよう。

 漫画なら多分、漫研にいけばどうにかなるはずだ。


 唐突に午後の予定が決まってしまったが、とりあえず今は忘れて、さっさと屋上に行こう。

 日の光の下で食べるランチは美味しそうだ。






 …………






 ……………………






 昼休みは色んな事があったので、まるで長かったような感覚があるが、

 それに対して午後の授業はあっという間だった。


 密度に関しては、薄くは無いと思うけど。

 大してまじめに聞いてないから、何とも言えないが。


 そんな事はともかく、放課後になったし、漫研室へ行くとしよう。






 そう言えば、漫研へ行くのは初めてだな。

 さらに言うと、漫研については噂しか聞いてないから、誰が何をしているかもよく分かってないし。


 場所も、新聞部室の近くにあるからたまたま知っていただけで、

 もし優子ちゃんの手伝いがなかったら知らないままだったろう。

 ……よく考えたら、相当マイナーな部活だな。


 ちょっと気になるな。何してるのかとか、あの娘の他にどんな人がいるのかとか。

 この際、いい機会だから見学としゃれこむとするか。








 少し歩いて、クラブハウス棟にある漫研室前に辿り着く。

 部員―――研究会だから会員か?―――が多くないのか、部屋の大きさは普通教室の半分ぐらいだ。




 初めてという事もあり、少し緊張しながらドアをノックすると、

 中から女の子の返事が返ってくる。


 肯定的な返事だったので、安心してドアを開けた。

 すると、中にいたのは1人だけ―――昼の女の子だ。何と運がいいことか。






 「あれ? 君は確か……そうそう、お昼の男の子だ!

  さっきはありがとう、すごく助かったよ〜」


 「気にしなくてもいいよ。そっちこそ、ケガとかなくてよかったよ」


 ……さっきも思ったが、すごく人なつっこい娘だな。

 こっちが何をやっても大きな感動を示してくれる。

 見ているこっちも楽しい気分に浸れそうだ。



 「良かったついでに……これ。まだ1枚落ちてたよ」


 「はえ……?」


 持って来た1枚を受け取るなり、封筒の中身を確認し始める女の子。

 一通り見終えるたところで、表情がハッとしたものに変わった。

 どうやら、思うところがあったらしい。



 「わっ、ホントだ〜! わざわざ届けてくれて、どうもありがとう!

  え〜っと……君、何ていう名前?」


 「僕?」


 「ここには、私と君しかいないよ」


 言われてみればそうだ。思わず聞き返しちゃったけど。



 「僕は桜井章」


 「桜井、章くん……?

  もしかして毎週、SHIKIにコラム記事を書いてる、1−Aの桜井くん!?」


 「うっ、うん。そうだけど……もしかして、優子ちゃんの知り合い?」


 あのコラムには僕の本名は載せていない。

 僕と優子ちゃん以外で、僕が執筆しているのを知る人間は、茜ちゃんとあやのぐらいだ。

 それ以外の人には話していないので、彼女は優子ちゃんから情報を得たとしか考えられない。



 「知り合いも何も、優子とは友達だもん! それに、私もSHIKIに4コマ書いてるんだよ?」


 そう言って壁に貼ってあるSHIKIの最新号を指差す。

 ……どこかで見た絵だと思ったら、新聞の4コマ漫画だったのか。



 「桜井くうの話は、優子からよ〜っく聞いてるよ。

  すごく記事を書くのが上手くて、その上いい人だって。

  私も会ってみたかったんだけど、こうして会えるなんて、嬉しいなあ」


 「あ……ああ、それはどうも」


 何かペースを乱されてると言うか、あっちに押されっぱなしのような。

 ―――それはともかく、肝心な事を聞いていない。



 「えっと。君の名前は?」


 「ゴメン、まだ言ってなかったね」


 そう言って、イタズラを注意された子供のように舌を出す女の子。



 「私は山村未穂。未穂でいいよ。

  クラスは、優子と同じで1−B。これからよろしくね♪」


 「よろしく、未穂ちゃん」




 …………




 ……………………




 それからしばらく未穂ちゃんと話していたが、一つ気付いた事がある。

 他の会員が一向に来ないのだ。



 「ねえ、他の人は来ないの?」


 「来ないよ。漫研はの会員って、私だけなんだ。

  引退するまでは、先輩がいたんだけどね」


 サラッと言ってるけど、それってかなりの重要事項では?

 ……もしや、未穂ちゃんってかなりの大物?



 「ねえ桜井くん。こんな所だけど、良かったらいつでも遊びに来てよ。

  優子みたいに、コーヒー淹れたりは出来ないけど、漫画だけはたくさんあるから」


 確かに、本棚には所狭しと漫画が並んでいる。

 新旧問わず、かなりの数が、だ。

 大方、資料という名目なのだろう。



 「分かった。きっとまた来るよ」


 そう言い終えるのとほぼ同時に、完全下校時刻になったことを知らせるチャイムが鳴った。



 「あっ、もうこんな時間か〜。

  それじゃ、今日はもう帰ろうかな」


 1人呟くようにそう言うと、未穂ちゃんも帰り支度を始める。

 僕もそろそろ帰るか……。



 「よかったら、玄関まで一緒に行かない?」


 「おっけ」


 知り合ったばっかりなのに、随分と仲良くなったな。

 未穂ちゃんには、警戒心ってものはあんまり備わっていないらしい。

 まあ、ガチガチに警戒されて硬くなられるよりは、断然いいけど。







 なりゆきと流れとで生徒玄関まで一緒にきたが、

 どうやら家は反対方向らしく、そこで別れることになった。



 「それじゃ桜井君、またね♪」


 「うん、また」


 元気に手を振って未穂ちゃんは帰っていった。




 何だか見ていてこっちも明るくなれるような、そんな楽しい娘だなあ。

 ……また今度、暇な時にでも漫研室に遊びに行こう。




 そろそろ日が長くなり始めた春の日の放課後、そんな事を考えながら家路についた。

 作者より……


 ども〜作者のユウイチです☆

 いかがでしたでしょうか、Life第四頁?


 まったまた新キャラ登場ですね(笑)

 まだまだ出るので、こいつ誰だっけ?って感じになったら、バックナンバーをチェックしてくださいね(爆)


 ようやく章以外の男性キャラも出てきて、盛り上がってきたかな……なんて思ってます(^^ゞ

 これからもどうぞよろしく―――


 さてさて次回は、高校生活の醍醐味の一つ、放課後がテーマ!

 ……になると良いな(^^ゞ 予定は未定、まあ期待しない程度に期待しておいて下さい♪


 それでは次回、またお会いしましょう。

 サラバ!(^_-)-☆by.ユウイチ

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