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第四十五頁「可愛い顔して……!?」

 (……ここ、どこだろう?)


 瞼を開くと、世界の色が黒から青に変わった。

 雲一つ無い青空。ただそれだけが、視界に飛び込んでくる

 他には何も見えない。どうやら高い所にいるようだ。


 横になっている体を起こすと、また世界の様子が変わる。




 (何で屋上に……?)


 見えた景色から割り出された現在地―――そこは志木高の屋上だった。

 確かにここなら、結構な高さがある。

 仰向けになって寝ていれば、空だけが目に入っても不思議ではない。


 ただ、どこに自分がいるのかは分かったものの、

 今度はどうして屋上にいるのかということが新たな疑問になった。


 だが、そんな疑問を気にする暇も無く、今度は視界に一人の少女が映る。

 その姿に、見覚えのある少女。




 (怜奈ちゃん……)


 長髪の美少女―――怜奈ちゃんだ。


 急に彼女が現れたことに対して、不思議と驚きはなかった。

 まるでずっとそうしていたかのように、自然な流れで夢の中の怜奈ちゃんとの会話が始まる。




 されど、彼女が発する言葉は、そのすべてが聞こえなくて。

 僕の言葉も、音になることはなくて。

 そのはずなのに、ただただ、怜奈ちゃんには似つかわしくない、悲しいような寂しいような気持ちだけが伝わってきて。


 僕はそんな彼女に何かしてあげたくてもできなくて、もどかしい想いが胸を支配していた。




 「ねぇ、章くん―――」


 無音の会話の中、ようやく聞こえた言葉は、僕へと呼びかける不安げなもので。

 そして、その表情は、ともすれば魅入られてしまうような、悲しくも美しいもので。




 「章くんには、何が見える―――?」


 言葉の意味はよく分からなかったけど、怜奈ちゃんの言葉には真剣に答えなきゃいけない気がした。

 僕の目に見えるもの、怜奈ちゃんに伝えたいもの、それは―――






 ………






 ………………






 『さーくーらーいーくん♪ 朝だぞー、おっきろー!!

  怜奈さんの声でも起きないねぼすけさんには……おしおきだぞー♪ おっきろー♪』




 ―――カチッ




 「……おはよう」


 物言わぬ目覚まし時計に返事をする。

 夢の中とは言え、ついさっきまで隣りにいたからか、自然とそうしていた。



 「なんだったんだろうな、さっきの……」


 目覚めはさして悪くなかったが、妙に引っかかっていた。

 ……最近、どうにも夢に関してはロクなことがないよな。


 まあ、気にしても仕方がない。

 怜奈ちゃんにお仕置きを食らう趣味もないし、とっとと行動開始といこう。





 ………





 ………………





 「なんか、やっと一段落って感じよね」


 通学途中、隣りにいた茜ちゃんが言った。



 「そうだね……ここのところ、イベント続きでずっとバタバタしてたし」


 学祭準備、その本番、修学旅行……もっと言えば、ソフト部の夏合宿辺りから。

 この2ヶ月ほどは本当にイベントの連続だった。


 そしてそれは茜ちゃんにも言えることで。

 ……って言うか、茜ちゃんはそれに加えてソフトボールの大会もあったしな。

 さらに忙しかったんだろうと思う。


 そんな大きなイベントが続く中で、それぞれのイベントで色々な出来事があって、色々な変化も生まれた。




 夏合宿では、明先輩とつばさちゃんが姉妹の絆を取り戻した。

 僕もそれに少しだけ協力することができて……それは、僕にとって大きな喜びだった。




 学祭準備では、生徒会はもちろん、漫研と新聞部の手伝いをした。

 未穂ちゃんと優子ちゃん、彼女達の熱い想いに触れて、僕の中でも変化が起きたように思う。

 そしてそれは、ある大きな決意につながった。




 学祭の本番では、生徒会として、あるいは僕個人としてがむしゃらに走り回っていた。

 最後の後夜祭ではつばさちゃんに告白までされて……。

 自分の心について考えさせられる、大きなきっかけになった。




 そして修学旅行。北海道で仲間達と過ごした時間は楽しいものだったけど、それだけじゃすまなくて。

 つばさちゃんの気持ちに向かい合うこと……それは、僕自身の気持ちに向かい合うことでもあった。

 その末に、おぼろげながらも見えてきたのは―――僕自身の想いだった。




 長いようで短かった、この2ヶ月のことを振り返ってから、改めて隣りの茜ちゃんを見る。




 ―――確かに、色んな変化はあったかもしれない。

 だけど、今日もこうして変わらず、茜ちゃんやあやのと並んで朝の通学路を歩いている。


 変わるものと、変わらないもの、色々あるけど……この登校風景には、変わってほしくないと思う。

 今、こうして前と変わらず歩いていることが、こんなにも嬉しく思えるのだから。



 「……章、あたしの顔になにかついてる?

  なんか、さっきからこっちの方じっと見ちゃってさ」


 「ううん、別になんでもないよ。ただ……」


 「ただ……なによ?」


 「今日もいつもどおり、日常なんだなって」


 「はぁ?」


 茜ちゃんには、僕の言葉は理解を超えていたようだ。

 ……まあ、いきなりこんなこと言えばそうもなるか。


 この“日常である喜び”が、いつまでも続くように。

 そんな事を願いながら歩く、いつもの通学路だった。





 ………





 ………………





 「うへ〜……」


 と、ちょっと気取った感じで始まった今日であったが……。

 日常であるということは、辛い辛い授業が続くということでもあるワケで。


 まだまだ非日常モードの僕にとっては酷以外の何物でもない。

 2限目が終わった時点で、既に頭はオーバーヒート気味だった。

 現金なもんで、こうなってくるとイベント尽くしの日々が恋しくなってくる。




 「―――夏休みカムバック! 学祭カムバック!! 修学旅行カムバーぁぁぁックっ!!」




 なんて、ポーズつきで叫んでみた。




 「あっ、えっと……章、くん?」


 「えっ……って、つつ、つばさちゃん! あっ、あははは……なっ、なにか用かな!?」


 「いや、あの〜……お取り込み中みたいだったから、声をかけなかったんだけど……」


 ―――グハッ!

 見てはならんものを見てしまいましたね、つばさちゃん!?


 ……再起不能ですよ、これは。




 「いやぁもう、全然なんでもないって!

  『過ぎ去りしイベントたちよ、カムバーック!』なんて叫んでも思ってないから!」


 「あの、気持ちは分かるけど……。

  もう修学旅行から1週間近く経つんだし、そろそろ現実に目を向けたほうがいいと思うの」


 「……なんか色々とゴメンなさい」


 って言うか、結局全部自分で喋ってるし。



 「くすくす……」


 「あ〜、いくらなんでも笑うなんてひどいな、つばさちゃん」


 「ごめんなさい。でも、おもしろくってつい……」


 そういう彼女の顔に、確かに邪気は見て取れなかった。



 「さっきのもそうだけど、なんて言うか……ウソをつけないんだね、章くんは」


 「それって褒めてるのかな……?」


 「褒めてる褒めてる。だから安心してね。

  あっ、でも……」


 「?」


 「その、表情豊かなのもいいけど……。

  やっぱり学校も公共の場なんだし、もう少しだけ抑えたほうがいいかも」


 「……努力はするよ」


 かなりハードルは高いが。

 頑張れ、僕。



 「ところで、つばさちゃんはどうしてここに?」


 「あっ、そうそう。すっかり忘れちゃう所だった。

  気を取り直して……コホン」


 やけに芝居がかった動きをしてから、つばさちゃんが口を開く。



 「章くん、お客さんだよ」


 「客?」


 オウム返しで聞き返した僕に、つばさちゃんが廊下を指差した。

 とりあえず行けということらしい。



 「分かった、ありがとう」


 「どういたしまして」


 伝令役をしてくれたつばさちゃんに一言礼をしてから、廊下に出る。




 つばさちゃんとは特に色々あったけど……今はこうして普通に会話ができる。


 つばさちゃんが、どういう想いでいるのかは分からない。

 でも、彼女が今までどおりに接してきてくれるなら、僕はただそれに応えるだけだ。

 それは僕も望むところなんだし。


 確かにまったく今までどおりってわけにはいかないのかもしれない。

 それでも、せっかくできた大切な友達なんだ。

 これからも仲良くやっていければいいと、今はただそう思った。




 ………




 ………………




 「あっ、桜井くーん!」


 「怜奈ちゃん」


 教室を出るなり、元気な声が僕を呼んだ。

 どうやら、待ち人は怜奈ちゃんだったらしい。



 「珍しいね、なにかあった?」


 こう言ってしまうのもナンだが、怜奈ちゃんを見かけるのは、大抵文化部三人娘が揃っている時だ。

 新聞部や漫研みたいに部活の手伝いをするわけでなし、こうして一人で尋ねてくるのは案外珍しい。



 「うん、実はちょっと頼みがあるんだけど……」


 「頼み……?」


 「む〜! なんでそんなに嫌そうな顔するかな?」


 「いやいや、別に何でもないよ!」


 ……いかんな。さっきつばさちゃんに言われたばっかなのに、早速気持ちが顔に出てしまっていた。

 さしずめ逆ポーカーフェイスといったところか。


 とは言え、なぁ……。

 どうにも怜奈ちゃんの頼みごとって聞くと、いいイメージがない。

 これまでも、何かと面倒なことになるパターンが多かった。

 ―――美味しい思いをしていないと言えば嘘になるが。



 「あ〜! また失礼なこと考えてた!」


 「わわっ! ゴメンって!」


 「もう……別に取って食べようってワケじゃないんだから」


 「ゴメンゴメン。それで、頼みって?」


 ……確かに、ちょっと失礼な態度だったかもしれないな。

 やっぱり、たとえハードルが高くても努力だけに留めておくわけにはいかなさそうだ。



 「うん、それなんだけどね……」


 と、言いかけたところで怜奈ちゃんは思案の表情を見せる。



 「ゴメン、呼び出しておいて悪いんだけど、ちょっと説明に時間がかかるかも」


 「……へっ?」


 「えっと、今日の放課後、大丈夫だよね?」


 「……へっ?」


 「だ・い・じょ・う・ぶ・だ・よ・ね!?」


 「あっ……うん」


 ―――言葉としては疑問系だが、口調は断定だった。

 まあ、間違ったことを言ってるワケではないが……釈然とはしない。



 「うん、よろしい! それじゃ放課後、演劇部室に来て。そこで説明するから。

  それじゃあね♪」


 「分かった……って、怜奈ちゃん!?

  ……もういないし」


 言いたいことだけ言って行っちゃうんだからな、ホントにもう……。

 結局、あの娘は何がしたかったんだ?


 その辺も含めて、演劇部室に行けってことだよな、多分。

 ……しょうがない。ここはいっちょ、誘いに乗ってみますかね―――






 ………






 ………………






 「―――やって来ました演劇部室……っと」


 これで3回目の訪問。

 自分で言ってしまうものでもないけど、案外来たことないんだよな。


 くどいようだが、文化部でも最大級の勢力を誇る演劇部は新聞部や漫研みたいに手伝う必要が全くない。


 ……って言うと、今度は優子ちゃんや未穂ちゃんに失礼か。

 あそこにも、学祭の後で新入部員が入ったんだし。

 あれだけ頑張ったんだ、存続して然るべきだもんな。


 と、その辺の事情はともかく、そういう訳なので、これまで演劇部に用事はほとんどなかった。

 第一、専門要素が多そうで、手伝ったところで僕の手に負えそうにないし。


 しかし今日はその演劇部に用事がある。

 改めて考えると、それはすごいことのように思えて軽い緊張感を覚えた。


 ……落ち着け、僕。

 別に取って食うわけじゃないって、怜奈ちゃんも言ってたじゃないか。

 だから落ち着くんだ―――。




 ……なんて、一通り自己完結を済ませた後、演劇部室のドアをノックした。




 「どうぞー」


 返ってきた返事は怜奈ちゃんのものだった。

 とりあえず、唯一の知り合いがいてくれたようで一安心。


 声に招かれ、部室内に足を踏み入れた。




 「あっ、桜井くん、いらっしゃい」


 「お邪魔しま〜す……」


 中にいたのは怜奈ちゃんだけじゃなかった。

 他の部員と思しき生徒が数人。

 学祭やなんやで見覚えのある顔もいくらかあった。



 「あっ、どうも」


 そんな演劇部のみなさんに軽く会釈をする。

 反応もそれぞれで、同じく会釈してくれる人、微笑み返してくれる人や、何の反応もない人、色々だった。



 「ゴメンね、わざわざ来てもらっちゃって。

  それに相変わらずゴチャゴチャしてるし……」


 確かに……。怜奈ちゃんが言うように、この部屋は前に来たときと同じく大量の物があふれていた。

 だけど、今の問題はそこじゃない。



 「いやまあ、それはいいんだけど……頼みって?」


 「それなんだけどさ……あっ、とりあえず座ってよ」


 そう言ってソファー ―――多分、大道具の類だろう―――をすすめられる。

 遠慮なく座ると、見た目とは裏腹、失礼ながらも意外な座り心地のよさに驚かされた。



 「で、本題なんだけど……桜井くん、前に演劇の脚本を書いてくれたよね?」


 「ああ、うん」


 脚本集を返し忘れていた利子……だったはずだ。

 面倒に思いつつも、興味を引かれたのも事実だったので結局書いたのだった。



 「そういえば、あれってどうなったの? 確か……11月の公演で使う可能性があるんだったよね?」


 「そうそう、その通りだよ。でね、実はその公演で使うことになったんだ」


 「へぇ〜、そうなんだ。そりゃ嬉しいっていうか、感慨深いっていうか……とにかく、書いた甲斐があるよ」


 これでもSS作家の端くれ、全く自信がないワケではなかったが、なにぶん初めてのことだ。

 不安も大きかったんだけど……いざこういう話になると、素直に嬉しい。



 「そう? それなら話も早いんだけど……」


 「話……って?」


 ここらで嫌な予感がプンプンしてきた。

 胸のレーダーが危険信号を伝えている。



 「桜井くん、演出……やってみない?」


 「演出……?」


 それはその、えっと―――




 「ってなに?」


 「あ、あはは……そっか、まずはそこからか」


 散々タメを作っておいて、まぬけな返事だったが、演劇に関してズブの素人である僕には未知のワードだった。

 怜奈ちゃんの方はといえば、苦笑しながらも優しくレクチャーしてくれる。



 「えっと、演出っていうのは簡単に言えば劇の製作全体の進行役みたいなものかな?

  中でも、主に演技面に関してって感じだけど」


 「なるほど……じゃあ、音響とか照明とかもやっちゃうんだ?


 「そうだね、プランを考えるっていう意味ではそうかも。

  でも、実際には音響や照明のスタッフもいるから、その人たちと相談してって形にはなるよ。

  後、舞台作りのプランも、舞台監督と相談した上で決めていくことになるし」


 「ふむふむ……」


 またもや色々とよく分からない単語が出てきたが、とりあえずは大体の雰囲気は分かった。

 とりあえず、大変そうだってのも。



 「―――って、素人の僕にそんな大役やらせて大丈夫なの?」


 怜奈ちゃんが大げさに言ってるとかそういうことがない限り、どう考えても劇作りの中心的な役割になるはずだ。

 しかも他の部員達が何のツッコミも入れないことから察するに、怜奈ちゃんが適当に言っているとも思えない。


 どう考えても、演劇の“え”の字もよく分からないような僕に務まるような仕事だとは思えない。



 「あっ、え〜っと……ちょっと説明不足だったね。

  実質的な演出の仕事は、そこの、ともちゃんがやってくれるから」


 「どうも……平川智恵(ひらかわ・ともえ)です」


 「あっ、こちらこそどうも……」


 紹介された平川さんは、最小限の言葉だけ口にすると、また黙ってしまった。

 ……第一印象で決めつけるのは悪いけど、ちょっとキツそうな娘だな。

 さっきも、挨拶を返してくれなかったし。



 「で、桜井くんには演技面……特に、感情表現の部分を見てほしいの。後、全般的な舞台の設定とか。

  ほら、脚本書いたのは桜井くんなんだし、一番よく分かるでしょ?」


 「そりゃまあ、それなりには……」


 その辺はSSと同じだ。

 登場人物がどういう気持ちでセリフを言っているか、どういう舞台で物語が展開しているのか。

 その辺のビジョンは頭の中にあった。



 「難しいことを言ってくれなくてもいいし、私達もできる限りサポートするから。

  ―――どうかな?」


 「どうかなって言われても……」


 正直、決めかねる―――もっと言えば、断りたい部分も少なからずある。




 新聞や漫画だって専門領域だったワケじゃないが、それでもそれなりの知識はあった。

 だが、演劇は僕にとって未開の領域。


 さらに言えば、今回は新聞部や漫研と違って、どうしても手伝いが必要ということでもなさそうだ。

 なんたって人数からして違うし。もしかすると、僕なんかがいても足手まといなのかもしれない。

 それに、さっきの平川さんの反応や一部の部員の表情を見るに、必ずしも歓迎されてるってわけでもなさそうだし。


 時間が惜しいとかそういうこと以前に、今回はさすがに断ったほうが無難―――




 「んも〜、男だったらビシッと決める!」


 「えっ、ええ!?」


 「他でもない、桜井くんだから頼んでるんだよ?」


 「そうは言っても……」


 言いよどみながら、いやに強引な怜奈ちゃんの態度に違和感を覚えていた。



 「しょうがない……この手だけは使いたくなかったんだけど」


 「この手?」


 ……またしても危険信号。

 今度はさっきよりも断然強い。




 「利子……脚本集返却遅延の、利子だよ」




 って、結局このパターンかよ!?

 怜奈ちゃんの、この抜け目なさっていうかなんていうかは、ホントに可愛い顔してなんとやらってヤツだ。


 ……だが、そう何度も何度も同じパターンで折れるほど、僕も甘くはない。

 こっちだって日々進化しているのだ!




 「それは脚本書いたんだから、もうチャラのはずでしょ?」


 「残念でしたー! あれで完済だなんて、私は一言も言ってないもんねー♪」


 「う゛っ……!」


 きっ、汚い! 志木高のアイドルとは思えないぐらい汚い!

 時折見せる怜奈ちゃんのこの腹黒さ……只者じゃない!



 「―――何ていうのは冗談だけど、本当にどうかな、桜井くん?

  できるだけ負担にならないように、頑張るからさ」


 「………………」


 さっきの真に迫った言い方が冗談だったとはちょっと思えないんだけど……まあ、それはさておき。

 いや、さておきじゃなくって、ちょっと関係があるか。



 なんだろうか……引っかかるんだよな。

 確かに、怜奈ちゃんって前から少し強引なところもあったけど、今日みたいなことはなかった。

 さっきのは不審なまでに強引だったし。


 ―――少し邪な考えかもしれない、おせっかいかもしれない。

 だけど、そんな怜奈ちゃんが気になるのだ。


 ……そう思った時には、気持ちが答えになっていた。



 「……分かった。受けるよ、その話」


 「やったぁ! さっすがは桜井くん♪」


 「でも、期待にそえる保証はないからね。

  ……それから、利子はこれで完済ってことで」


 「オッケー、分かってる。こっちも、無理を承知で言ったんだし。

  利子のことは、半分冗談だったんだけどね」


 そう、照れ笑いみたいな表情で答える怜奈ちゃん。

 自分でもさすがに思うところがあったのかもしれない。


 ……無理を承知でってのは、正直、信憑性に欠ける感もあったが。

 まあ、深くは追及しないでおこう。


 これからなにか分かるだろうし……もしかしたら、僕の勘違いかもしれない。

 今のところはそれでいいんだ。




 「あっ……演劇部の手伝いするんなら、“桜井くん”じゃないよね」


 「?」


 「ウチの部ではね、部員間の仲を深めやすいようにって、お互いにあだ名で呼び合うんだよ。

  私は普通に怜奈って呼ばれてるけど……桜井くんは、章くんって呼べばいいよね?」


 「それは構わないけど……ってことは、怜奈ちゃんも名前で呼ぶってこと?」


 「そうそう。いいじゃん、優子も未穂もそう呼んでるんだし」


 「そりゃまあ、そうだけど……」


 「じゃ、問題ないよね。

  改めて……よろしく、章くん!」


 なんだろ……ちょっとこそばゆいような気がする。

 ただ、どうにも慣れない感じだけど、悪い気がしないのもまた事実だった。



 「まあ、いきなりで難しいかもしれないし、ちょっとずつでいいからね。

  それじゃ、ここにいる部員の紹介をするね―――」


 部室にいたのは幹部格の部員だったようだ。


 人がよさそうな、舞台監督の古田修一(ふるた・しゅういち)こと、しゅーちゃん。

 優しい感じの、副部長兼大道具チーフの岡村真里奈(おかむら・まりな)こと、マリナ。

 さっきのちょっとキツそうな、演出兼会計の平川智恵こと、ともちゃん。

 独特な雰囲気の、キャストチーフの村田力也(むらた・りきや)こと、リキ。

 そしてご存知、部長兼今回の主演である怜奈ちゃん。


 僕も人のことは言えないが、みんなひとクセもふたクセもありそうな連中だ。

 でも、悪い人はいなさそうだし、上手くやっていけそうな気がした。

 ……あだ名で呼べるようになるかはともかく。




 そんな演劇部の面々だったが、実力の方は本物で、ちょっとだけ見学した練習もかなりハイレベルなものだった。

 えらい所に来てしまったものだと、違った意味で少し後悔もしてみたり。


 だが、今さら後悔してみた所で何がどうなるわけでもないし。

 僕は僕にできることをするだけだ。幸い、過度の期待はされてないみたいだし。






 ともあれ、こうして僕の新たなイベント漬けの日々は始まったのだった―――


 作者より……


 ども〜作者です♪

 Life四十五頁、いかがでしたでしょうか?


 ようやく修学旅行が終わったと思ったら、また新章突入です。

 高校時代演劇部だった作者にとってはある意味専門分野でもあるので、いつも以上に気合を入れたいと思います(笑)


 それから怜奈以外の演劇部員は……分かる人だけ分かってください(^^;

 まあ、全国探してもほとんどの方は分からないでしょうけど……。

 分かる方には、ここで謝っておきます_(._.)_


 ということで(?)次回は怜奈編その2。いよいよ章を迎えた演劇部が始動します。

 いつものごとく、期待しすぎない程度に期待してお待ちください。


 それではまた次回お会いしましょう。

 その時まで……サラバ(^_-)-☆byユウイチ


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