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第三頁「Oh My Sister!」

 朝6時。いつものように、目覚ましの音で目が覚めた。

 カーテンを開けてみるけど、まだ日が昇りきっていないのか、外はまだ薄暗い。


 少し肌寒いし、本格的な春到来は、もう少し先のことのように思えた。


 私だってお兄ちゃんみたいに、もっと寝てたいけど……

 そんなことしてたら、2人とも、朝ごはんとお弁当が抜きになっちゃうし。


 本当のところは、たまにはお兄ちゃんにもお弁当作りをして欲しかったりもする。

 ―――でも、生活能力ゼロのあの人に、そんな事は期待するだけ無駄だっていうのはもう分かってる。


 それに、もう3年近くこんな生活だし、慣れちゃった。

 ……言ってて少し悲しくなった。




 お兄ちゃんの再教育はともかく、とりあえず制服に着替えて1階に下りた。

 今日は、いつも以上にのんびりしていられないんだし、さっさと行動しないと。




 ………




 ………………




 イスにかけてあるエプロンを付けてから、今日のお弁当はどうしようかと考えてみる。


 とりあえず、昨日の晩御飯の残り物である炒め物は決定だけど、他はどうするか未定。

 まさか、それだけってわけにもいかないし。


 お兄ちゃんは何も気にしない人だから、それでも文句は言わないけど……。

 そこは、私にだってプライドはある。

 そんなお弁当、絶対に許せない。



 冷蔵庫を開けると、玉子が目に入った。これでメニューその2が玉子焼きに決まり。

 定番だけど、まあいいでしょ。


 ついでに、ウィンナーを入れることを思い立ったので、3つ目のメニューが決定。

 タコさんにでもすれば、見た目もいい。


 次に野菜室開放。色んな野菜が入っていたけど、その中でトマトが私の目を引いた。

 これを切って入れればいっか。



 これだけ入れて、後は適当な果物に、ご飯を詰めておけば、もう充分かな。

 お兄ちゃんも私も、あんまりたくさん食べる方じゃないし。


 何にせよ、お兄ちゃんに好き嫌いが無いのは、お弁当を作る身としては助かる。

 お兄ちゃんって、本当に何でも食べるし。



 ―――かと言って、落ちたものまで平気で食べるのは、ちょっとどうかと思うけど。


 掃除をちゃんとしている自信はあるけど、それとこれとは別問題。

 あの無神経ぶりは、ちょっとどうにかしてほしい。




 ………




 ………………




 時間を気にしながらのお弁当&朝ご飯作り。

 7時半には家を出なきゃいけないので、のんびりしている時間があるとは言えない。



 しかも今日は、お兄ちゃんを起こさなきゃいけないし。

 何と言っても、これが一番時間がかかる。


 お兄ちゃんは、毎晩遅くまで起きてるし、その上目覚めが悪いときてる。

 さらに、しょっちゅう二度寝するから、一度起こしても安心できないし。

 本当に、自分のお兄ちゃんながら困った人だ。




 そんなお兄ちゃんを、いつもちゃんと起こしている茜さんを、正直なところ、私は尊敬している。


 かなりキツイと言われている、志木高女子ソフト部の練習をこなして、さらに毎週1回の朝練。

 その上にきて、あのお兄ちゃんを毎朝起こしているのだ。


 こんなハードな生活ができるのは、恐らく、茜さんぐらいしかいないだろう。


 その、お兄ちゃん起こし第一人者の茜さんから大役を仰せつかったんだ、

 めげずに頑張らなきゃ!




 ―――とか考えながら、ウィンナーをタコさんにしている内に、トースターが鳴って、トーストの出来上がり。

 これに適当な玉子料理をつければ、朝ごはんは完成だ。

 お弁当もじきにできるし、今日はここまで、いいペースできている。




 ……後はお兄ちゃん次第。

 あの人が起きてくれるかくれないかで、今朝の勝敗が決する。


 夕べ、私は日付が変わる頃に寝たけど、その時お兄ちゃんは、当然と言わんばかりに起きていた。

 多分……寝たのは夜中の2時ごろじゃないかな。


 成績表を見る限り、勉強している可能性は限りなくゼロに近い。

 毎晩毎晩、一体何をやってるんだろうか?

 残念ながら私には見当が付かない。




 ―――朝ごはんの盛り付けと、お弁当の詰め込みが終わった。


 お兄ちゃんが毎晩夜更かしする理由はこの際おいといて、とりあえずお兄ちゃんの部屋に行こう。

 どうせ私が何を言っても、早く寝るようになるとは思えないし。




 ………




 ………………




 そして、いよいよお兄ちゃんの部屋の前にやってきた。


 やはりと言うか何というか、プレートとかそういうオシャレなものはかかってない。

 それに、部屋の中も殺風景なもので、とにかく物が少ない。


 まあ、自分の部屋じゃないから、とやかくは言わないけど。

 掃除も楽だから、実は助かってたりするし。




 ―――ガチャリ


 ドアノブを捻っていざ突入。


 ……とは言ってもなにがあるわけでも無く、目の前に広がるのは薄暗い空間だけだ。

 お兄ちゃんは、ほとんど聞こえないような寝息を立てて眠ってる。

 そのままにしておけば、昼近くまで寝てそうな勢いだ。



 とりあえずカーテンを開けてみる。


 シャッ、という小気味良い音と共に、開ける世界。

 既に日は出ていて、眩しい光が部屋に差し込んできだ。


 当然、お兄ちゃんの視界にもなんらかの変化はあったはずだけど……ピクリとも動かない。

 この程度で起きるなんて、初めから思ってないけど。



 次は揺さぶり攻撃。


 「ほら、お兄ちゃん。

  朝だよ、起きて」


 「スー……スー……」


 声をかけながらやってみたけど、揺さぶりが足りないのか、返事代わりに寝息が返ってくる。

 ちょっと揺さぶりを強くしてみたけど、状態に変化なし。

 どうやら、私の予想以上にお兄ちゃんは手ごわいようだ。






 微妙な沈黙。

 時間だけが刻一刻とすぎていく。

 ―――って、それだと遅刻しちゃう!?




 ……あまり手荒な手段は使いたくなかったけど、“あの手”を使おう。


 この際仕方が無い。

 “あの手”なら、いくらお兄ちゃんといえども起きるだろうし。



 ―――スー……ハー……スー……ハー……。



 別に緊張はしてないけど、ここは呼吸を整える意味でも深呼吸。




 (よしっ!)
















 「いつまで寝てんのお兄ちゃんはぁーーー!!」


 女の子の大きな声と共に、身体から布団が剥がれる。

 おかげで、一発で目が覚めた。



 ただ、アラームがなる前に起こされたので、少々面食らってる。

 状況が全然分からない。



 「おはよう、お兄ちゃん」


 目の前では、あやのが何かをやり遂げたかのような表情を浮かべている。

 ―――茜ちゃんならともかく、なぜにあやの?



 「……おはよう。今日は遅いんだな、あやの」


 「はぁ……予想はしてたけど、やっぱり寝ぼけてるね」


 「へっ?」


 「まだ7時過ぎだよ?」


 何という事だ、定時より30分も早く起きてるじゃないか。

 ……何でだ?




 「今日は、茜さんがソフト部の朝練の日でしょ?」


 「あっ、そっか」


 ようやく頭の中で情報が繋がる。

 ソフト部の朝練で、茜ちゃんは来ない―――それで、代わりにあやのが僕を起こしてくれたのか。

 感謝感謝。



 「昨日、7時ぐらいに起こしに行くから、嫌なら自分で起きてねって、言わなかったっけ?」


 「……言われてみれば、そんなことも言ってたな」


 すっかり忘れてたが。

 別に起こされるのも嫌じゃないし、大して気にしなかったからなぁ。

 確かに、驚きはしたけど。



 「ほんとに、しょうがないお兄ちゃんなんだから。

  ―――朝ごはんできてるから、冷めない内に、着替えて降りてきてね。

  それじゃ、失礼しました♪」


 やはりどこか嬉しそうにそう言うと、あやのは部屋を出ていった。






 そう言えば夕べ、茜ちゃんから電話があったんだっけ。

 あの電話は、僕を起こすのを頼むためのものだったのか……。


 それは別に良い、いやむしろ、そこまで気を回してもらってありがたいのだが、

 陽ノ井茜流布団剥がし術は勘弁してほしい。


 確かに、あれなら僕が一発で起きるのは、痛いほどに分かる。

 だけど、あんな強引な起こし方は茜ちゃんのだけでもうお腹一杯だ。


 あやのも一体どこで覚えたのやら……。

 ああいう方法は、あいつにはしてほしくない。


 それに、あやのにはちょっと似合わない気がするぞ。

 と、いうわけで、次回以降は普通に起こしてくれ、あやの。




 ―――とまあ、本人に聞こえるはずもない要望をまとめ、

 着替え終わったところで下の階に降りた。


 今日は久し振りに、ゆっくりと朝食をとれそうだ。

 ……これも、あやののおかげかな。




 ………




 ………………




 「そう言えばお兄ちゃん、最近お母さんからメール届いてる?」


 「いいや。前にオーストラリアから送ってきて以来、1通もない」


 「そっか……お母さん、今どこにいるんだろうなあ?」


 ハタから聞けば妙な会話かも知れないが、僕達にとってはその限りでは無い。

 我が桜井家には現在、僕とあやのしかいないのだ。


 両親はどうしているのかと言うと、父さんは僕が6歳の時に亡くなって、

 母さんは国際ジャーナリストとして全世界を飛び回っている。


 当然、母さんは家を空けているわけで―――そういうこともあって、僕とあやのは二人暮らしだ。




 母さんとの連絡方法は、パソコンによるメールのみとなっている。

 このメールも曲者で、不定期でいきなり来るという代物なのだ。


 前に来たメールは、一週間ほど前にオーストラリアから送られてきたメールで、

 その前は、その3日前に中国から来たメール、

 さらにその前は、その2週間前に中東の何とかっていう国から来たメール―――

 と、本当に不定期である。


 不定期ではあるが、その内容は濃く、

 どの国で何を取材しているかはもちろん、

 その国の観光地や名産品の写真、現地であった面白い話に加え、

 僕たち兄妹それぞれにあてたメッセージなどが毎回書かれている。


 あやのはこのメールを結構楽しみにしているらしく、

 事あるごとにメールは来ていないかと聞いてくるのだ。


 ちなみに、我が家のパソコンは僕の部屋にある1台だけなので、

 メールの管理は僕に一任されている。

 そのことで、あやのは余計にもどかしく思っているのかもしれない。






 兄妹での二人暮らしも、もう3年近くになるけど、

 あやのには本当に感謝している。


 この生活が始まってから、毎日の家事はもちろん、何かと僕の世話を焼いてくれるし。


 それだけでなく、歳が近いからか、結構話を聞いてもらったりと、

 精神面でもかなり助けてもらっている。


 ……我ながら自慢の妹だ。

 だからこそ、そんじょそこらの男には、嫁にやりたくない―――と思う。

 あくまで思うだけで、親でもないんだから、実際はどうしようもないけど。


 でも、あやのが付き合う男って、どんなヤツなんだろうなあ……。






 「ごちそうさま」


 僕が朝食を終えて箸を置く時には、あやのは既に洗い物をしていた。

 手伝おうかと言っても却下されるのは既に分かっている。

 よって僕にできるのは、せいぜい黙って空いた皿を差し出すぐらいだ。



 さすがに慣れているだけあり、洗い物はすぐに終わった。

 時計を見ると、僕より家を出るのが早いあやのとっては、もう出発の時刻だ。






 「あやの、今日はせっかくだし、一緒に行くか?」


 僕が出発するにはまだかなり早いが、早く行く分には問題ないだろう。

 それに、今日は何だか、あやのと家を出たい気分だった。



 「うん、いいよ♪」


 今日朝一番の笑顔で、あやのは嬉しそうに答えてくれた。




 こんな笑顔を見てると、今日は何だか良い一日になる気がするな―――

 作者より……


 ども〜作者です☆

 Life第三頁、いかがでしたでしょうか?


 ふぅ……今回も朝だけで1話ですか。

 随分と1日が濃いなあ、章は(笑)


 それにしても―――いやあ、妹って難しいですね(笑) 今回書いてて痛感しました。

 (だったら、いきなりあやの視点の一人称なんてするなって話ですが(^^ゞ)


 さ〜て次回は誰が出るんでしょうね?(爆)

 とりあえず、期待しすぎない程度にご期待をば!


 それでは次回まで……サラバ!(^_-)-☆by.ユウイチ

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