第三十一頁「思い出と面影と」
―――気がつくと、家の近くにある公園に立っていた。
否、実際のところは立っているのかどうかは分からない。
ただ、小さいころによく遊んだ公園の風景が、昔のままに目に入ってきていた。
……また夢を見てるんだな。
直感だけど、なぜかそう確信できた。
でも、これはたまに見る、嫌な感じの夢じゃない。
むしろ暖かくて、そして懐かしい感じ。
それは風景がそうさせるのかもしれないし、それだけじゃない雰囲気がそうさせるのかもしれない。
雰囲気がよかろうが悪かろうが、夢は夢ということなのか、やはりどこか漠然としてつかみどころがない。
目の前では、小さい……5歳ぐらいの男の子が、父親と思しき男とキャッチボールをして遊んでいる。
その二人には見覚えがあった。
当然だ―――子どもの方は子どもの頃の僕で、父親の方は亡くなってしまった父さんなのだから。
ああ、そう言えばこうやってよく遊んでもらったっけな。
父さんが仕事をやめてからは、特にこういう機会が増えた気がする。
幼稚園の迎えにもよく来てくれてたっけ。
死んじゃうまで、わずかに半年ほどではあったけど、時間以上に深いものを、僕の心に遺してくれた気がする。
子どもだった僕は、父さんが仕事をやめた理由なんか気にもしなかったから、無邪気に喜んだものだった。
お父さんっ子だったし、大好きな父さんと毎日いれる喜びが大きかったから。
だいぶ後になってから母さんに聞いた話だったが、父さんが仕事をやめたのは、僕たち家族との時間を増やしたかったかららしい。
確かに、漫画家という忙しい仕事だったこともあり、家族みんなが一緒の時間というのはあまり多くなかった。
……それでも、普通はそんな理由で仕事をやめる人なんていないだろう。
父さんは、きっと自分の死期を悟っていたんだと思う。
どうやって死期を知ったのかは分からないし、そもそもそうだというはっきりとした根拠もないけど、僕にはそう思える。
それにしても、家族との時間のためにっていう理由は、なんとも父さんらしい。
別に仕事を続けるっていう選択肢もあったはずだろうに。
それでも漫画家をやめたのは、人とのつながりを大事にしていた父さんならではだと思う。
「章は、大きくなったらなにになりたい?」
いつの間にか、父さんはベンチに腰かけ、幼い僕はその膝の上に座っていた。
夢らしい……と言うと変だが、一瞬の内に風景が変わってしまっていたのだ。
「おおきくなったら? うんとね〜……」
覚えている。この問いかけは、妙にはっきりと記憶の中にある。
確か、僕は―――。
「ぼくがおっきくなったらね、おとうさんのまんがのおはなしをつくりたい!
それでね、おとうさんにそのおはなしのえをかいてもらうの!」
そう。こう答えたんだ。
原作だとかそういう言葉を知っていたはずもなかったが……。
たぶん、特に深く考えてなかったんだと思う。
「ははは、そっか。章はお話を作る人になりたいのか」
「うん! だからね、はやくまたまんがをかいてね!」
「……そうだな、章がそう言ってくれるなら、頑張らなきゃな」
父さんは寂しそうに微笑むと、そう答えた。
言葉は力強いものだったのに、表情はそれに伴っていない。
―――覚えていた通りの会話だった。
そして、この夢は叶えられることなく、叶わぬ夢となってしまった。
たとえ僕が原作を書いたとしても、それで漫画を書いてくれるはずの人は既にこの世にいない。
幼き日の夢は、そのまま永遠の夢になってしまったのだ。
……思えば、SS作家としての原点はここにあるのかもな。
子どもの頃の夢はもう叶えられないけど、いつか胸を張って父さんに捧げられるような作品を書ければと、そう思った。
最後に父さんが、夢の中の幼い僕と、そして今の僕の、両方に微笑むような笑顔を見せた所で夢が終わった。
………
………………
心地のいい目覚めだった。
今日の目覚ましボイスは野郎の吉澤だったが、それでも心地いいと思えるくらいに清々しい気分だ。
やっぱり夢はいいものに限るな、なんて思いながら着替えると、1階に下りたのだった。
………
………………
「ふぅ……。一息つくか」
昼過ぎの生徒会室。
相変わらず、この時間に仕事をしている人間は少ない。
まだ学祭本番まで時間があるし、こんなもんなのかな?
かく言う僕だって、帰っても特にやることがないから、こうして仕事を片づけてるだけだし。
部活があればきっとそっちに行ってることだろう。
―――まっ、やることがないこともないんだけど。
でも気分転換だって重要だからな。ここは利用させてもらおう。
それにしても、漫才にせよミスコンにせよ女装コンにせよライブにせよ、
なんで今年はこんなに参加申し込みが多いんだ?
例年の倍ぐらいはエントリーがあるぞ。
……予選でもやるか?
って言うか、そうでもしないと時間内に収まりそうにない。
―――と、そんな大盛況必至のステージ企画なのだが、一つ問題がある。
まだ、パンフにのせる企画紹介ページが仕上がってないのだ。
これじゃ盛り上がり以前の問題だろう。
もう締め切りまであまり日数もないし、さっさと書かないと方々に迷惑をかけてしまう。
……とは言ってもな。
企画概要とかだけならともかく、絵心のない僕じゃ挿絵が描けないのだ。
よって、このままでは文字だけの殺風景な企画紹介になること間違いなし。
もちろん、そんなのは冗談にとどめておかないとマズイだろう。
何らかの対策を講じねば。
―――やっぱここは、人脈を生かすっきゃないよな。
イラストは、未穂ちゃんに頼んで描いてもらうとしよう。
なんたって漫研会長だ、実力は間違いないし。
漫研の準備で忙しくてそれどころじゃないかもしれないけど……。
そこだけは心配だ。
とりあえず、漫研室に行ってみなきゃ話にならないか。
「つばさちゃん、ちょっとクラブハウス棟に行ってくるよ」
部屋に残っていたつばさちゃんに一声かけてから、漫研室へと向かった。
………
………………
さてさて、件の漫研室にやってきたぞ。
ここは勝手知ったる、というほど来ているわけではないから、一応ちゃんとノックしておくか。
―――コンコン
「未穂ちゃーん?」
が、返事がない。人の気配はあるのだが……。
「入るよ……?」
無言の承諾ということにしておき、とりあえず室内に入ってみる。
(―――どうしたんだ?)
果たして求め人はそこにいた……いたのだが。
とりあえず、普通の様子ではない。
なにやらノートを目の前にしてうんうん唸っている。
今までに見たことがないような難しい顔だ。
聞くまでもなく、何かあったのは明白だった。
「ふぅ……」
声をかけるのもなんだかためらわれてそのまま立ち尽くしていると、
ふとノートから目を離した未穂ちゃんと目が合った。
「あっ、桜井くん」
声にいつもの弾けるような元気がない。
「どうかしたの? 珍しいね、この部屋に来るなんて」
「いや、まあちょっと……頼みごとがあってきたんだけど」
もっとも、こんな様子じゃちょっと頼むに頼めないが。
「頼み?」
「その……パンフにのせる企画紹介ページの挿絵を描いてほしくて」
「ああ、なんだ。そんなことか」
「でも、未穂ちゃん忙しそうだし……大丈夫?」
「あはは、大丈夫大丈夫。
ちょっと気分転換するにはちょうどいいから」
大丈夫と、口では言っているものの、笑い声もちょっと乾いたような感じなのでなんとも不安である。
「じゃあ、ちょっと今から書くから。バンドとかミスコンとかだよね?」
「あっ、うん。それじゃあ、お願いするよ。
……描きあがるまでここにいてもいいかな?」
未穂ちゃんは何も答えずにただうなずいた。
イラストの出来うんぬんより、まず未穂ちゃんが心配だからな……。
ここでちょっと様子を見てみよう。
「みっ、未穂ちゃん……速いね?」
「ん〜? うん、基本的に絵を描くのが好きだからね〜。
こういう一枚絵も、気分転換とかにけっこう描くんだ」
だからイラストの一枚や二枚、どうってこと無いとでも言うのか、未穂ちゃんは見る見る内に作業を進めていった。
素人意見ではあるが、調子が悪いようにはとても見えない。
―――じゃあ、なにがあったんだ?
絵のスランプとかかなと思っていたのだが、そうではないらしい。
「そう言えば未穂ちゃん、学祭の方は調子どう?
漫画を書いてるんだよね?」
何気ない、この問いかけがすべての始まりだった。
―――ピタッ!
さっきまで順調に動いていた未穂ちゃんの手が、妙な擬音も聞こえてきそうな勢いで止まったのだ。
ビンゴ……というよりは、むしろ地雷を踏んでしまったらしい。
「漫画、漫画かぁ……。ハァ〜」
大きくため息をつき、ひとり呟く未穂ちゃん。
僕のことなんかまるで眼中にないようだ。
「えっと……よくないのかな、調子?」
「……うん、ちょっとね」
答える未穂ちゃんの表情は、やはり先ほどの重たいものだった。
元気印の未穂ちゃんがこんなに落ち込んでるんだ、よほどの状態なんだろう。
「よかったらでいいんだけど……どうしたのか、聞かせてくれないかな?」
「…………」
しばらく黙ってこちらを見ていた未穂ちゃんだったが、やがて。
「うん、そうだね。桜井くんならいいかな」
そう言って何やら納得した様子でうなずくと、事情を説明し始めてくれた。
「どうしたってほど、大した話でもないんだけどね。
ちょっと話が思いつかなくて」
「話? 話って……漫画の?」
「そう。なんて言うのかな……気合が空回りしちゃってるのかな、私」
少し自嘲気味に未穂ちゃんが笑った。
彼女らしくもなかったが、そういうわけにもいかず、ただ黙っているしかできなかった。
「今回の学祭で新入部員が入ってこないと、漫研がなくなっちゃうからね……。
だからかな、ちょっと気合いが入りすぎちゃって。
いいものを描こう、って考えれば考えるほど深みにはまっちゃうって言うか、そんな感じで。
あんまり肩肘はらないように心がけてはいるんだけど、やっぱ限界はあるしさ」
「……未穂ちゃん」
確かにそういうことはある。
僕だってSSを書いてるわけだから、ジャンルの違いはあるにせよ、そういう悩みに陥ったことはある。
だから状況は痛いぐらいによく分かるのだが―――残念ながら、特効薬的なアドバイスはできそうにない。
「あ〜あ、どうしたもんかな〜、ホントに。
まだ時間あるけど、いつまでもこうしちゃいられないし……。
二次創作なら、いくらでもアイディアがあるんだけどね」
冗談めかして言う未穂ちゃんだが、それができないのは彼女も重々承知だろう。
まさか、学祭用の展示として堂々と二次創作を出すわけにはいかないからだ。
だすなら創作……未穂ちゃんオリジナルの作品である必要があるだろう。
だがオリジナルとなると、キャラクターから何から、全て一からの作業となるわけで。
産みの苦しみとでも言えばいいだろう。
二次創作よりも書き始めにくいのは間違いない。
「実は、秋に即売会もあってね。だから、そっち用の本にも早くとりかかりたいんだけど……。
こっちが終わんないと、それには手をつけられないし。
それはネームできてるから、始めれば後は速いんだけど、締め切りがあるし……」
「そうなんだ……」
二重苦というところだろうか。
そういうことなら焦りも生まれてくるだろうし、なおさら創作にはよろしくない。
苦しみながらも漫研の方から取り掛かるのは、未穂ちゃんらしいと思えた。
多分、本当にこの場所が好きなんだろうな。
う〜む……何か手伝えればいいんだけど。
こればっかりは未穂ちゃんの問題だしな……。
僕のオリジナルSSを原作として提供するっていう裏技みたいな方法もあるにはあるんだけど。
これをやると正体を自分でバラすことになっちゃうからな。
まあ、でもこれは未穂ちゃん相手なら特に問題はない。
それよりも、未穂ちゃんにだってプライドがあるだろうし。
はい、そうですかと言って安易に受け入れるとは到底思えない。
作業を再開した未穂ちゃんの横で、よくない頭を回転させてはみたが、
これといったいいアイディアは出てこなかった。
これを言っちゃおしまいだが、門外漢の僕じゃこのぐらいが限界なのかもしれない。
そんな諦めムード漂う中、漫画でも読むかと本棚を見ると、ある一冊の単行本が目に飛び込んできた。
『櫻井剛短編集』
「おっ、さすがは桜井くん、お目が高いね〜。櫻井剛に目をつけるなんて!
私、櫻井先生の大ファンなんだよね〜!
話は面白いし、絵だって今でも古臭さを感じさせない上にめちゃくちゃ上手いし!
それに何より、雰囲気がいいんだよね、作品の雰囲気が!」
さっきまで沈んでいたとは思えないほど、未穂ちゃんは興奮気味にそう話した。
どうやら、相当な入れ込みのようだ、
「……でも、櫻井先生ってもう亡くなってけっこう経つのに、よく知ってたね?
私たちの世代じゃないから、周りじゃほとんど知ってる人はいないんだけど……」
「うん、知ってるよ―――」
知らないはずはない。だって、この人は―――。
「櫻井剛……1965年、志木ノ島に生まれる。
それから1983年、某新人賞に入賞、翌年デビュー。
以降は東京で大学生を続けながら、主にその賞を実施した会社の漫画雑誌で活動を展開、一躍人気作家に―――」
まるで振り返るかのように、彼の略歴をそらんじてみせる。
「学生を続けたのは、色々な世界に触れることで自分の見聞を広げたかったから、と本人は語っている。
その後、大学卒業と同時に交際していた女性と結婚。それを期に、故郷の志木ノ島に移り住むように―――」
自分でも不思議なくらいに次々と言葉が出てきた。
「1988年、その女性との間に第一子が誕生、翌年には第二子が同じく。
その後も順調に漫画家活動を続けるも、1994年の初めに、突然の引退。
そしてそのわずかに半年後、29歳の若さで、多くのファンに惜しまれつつ、この世を去った……」
「桜井……くん?」
あっけにとられたような未穂ちゃんの声が聞こえるが、構わずに続ける。
「櫻井剛、本名は桜井画……。
ちなみに、奥さんの名前は千春で、二人の子どもは上の子が章で、下は子はあやの―――」
「!!」
「……僕の父さんなんだ、櫻井剛は」
自分でも少々カッコつけすぎた気がしたが、嘘は言っていない。
種を明かされた未穂ちゃんはとにかく驚いているみたいだ。
『櫻井剛短編集』を手にとって見る。
もう何度ともなく読んだ一冊であったけれども、改めて開いてみた。
父さんの漫画を読めば、いつでもそこに父さんの存在を感じられた。
辛い時や悲しい時、そうして父さんに思いを馳せると、不思議とそうした気分が和らぐのだ。
今はもういない父さんは、目に見える形と目に見えない形、両方の形でその存在を遺している―――。
少なくとも、僕はそう思っている。
なぜだか、父さんの漫画にはそうさせる力を秘めているような気がするんだ。
「そっか……なんだか嬉しいな、父さんの漫画を好きって言ってくれる人がいてくれて」
「えっ?」
「何て言うかさ、父さんはまだ生きてるんだなって感じられるから」
「桜井くん……」
たとえ死んでしまっていても、その存在が誰かの心の中にあるということ。
きっと、父さんだって嬉しいはずだ。
父さんの漫画が並んでいる棚の横に、未穂ちゃんの作品と思しき漫画を見つけた。
何の気なしに手にとってみる。
………思えば、未穂ちゃんの漫画をじっくり読んだのは初めてだった。
4コマとか、後は初めて会った時に落としていった原稿だとかで絵は見ているが、こうして漫画になっているとやはり違う。
独立した絵ではなく、連続させることで一連の流れができ、違った様子を見せていた。
―――そして、なんとなくだけど……父さんの漫画に似ているような気がする。
もちろん、絵のタッチは全然違うし、話の作り方も違うんだけど。
雰囲気……いや、それも違う。そんな一言で片づけられないような、もっと大きな何か……。
あえて言うなれば、作品の根底に流れているものに、通ずるものがあるような気がする。
その辺は大ファンを自称しているだけのことはあるな。
「―――ねえ、未穂ちゃん」
「どっ、どうしたのかな桜井くん!?」
「……いや、それはこっちのセリフかも。
そんなに硬くなって、どうしたの?」
「あっ、えっと、その〜……。
あっ、あはははは……はは、はぁ
……なんか、桜井くんが櫻井先生の子供だったなんて分かっちゃったから、緊張しちゃって」
「ああ、なるほど」
って、僕は父さん本人じゃないんだからあまり関係ない気もするけど。
「ゴメンゴメン、もう大丈夫。それで、なにかな?」
「うん。未穂ちゃんがよかったらでいいんだけどさ―――」
さっき、自ら否定したことを思い切って口にしてみる。
「僕に、学祭の漫画の原作を書かせてもらえないかな?」
「へっ?」
「ホント、未穂ちゃんがよかったらでいいんだ!
未穂ちゃんだってプライドがあるだろうし、僕も無理強いするつもりはないから」
この辺は強調しておく。
言ってはみたが、気にならなくなったわけではないし。
「何て言うかさ、未穂ちゃんに僕の原作で漫画を描いてほしいって言うか、そんな感じ。
その、ちょっとそっちの足元を見るみたいになっちゃうんだけど……いいかな?」
……詳しく言えば、未穂ちゃんの漫画に父さんの面影を見たからってことなんだけど。
さすがにそこまでは言えなかった。
夢の中で幼い僕が父さんに語っていた夢、その夢を違った形で叶えてみたいと、未穂ちゃんの漫画を見るとそう思えた。
もちろん、純粋に彼女を助けたい気持ちも同じぐらい大きいのは言うまでもないが。
「私は全然構わないよ。正直、全然アイディアが出てこないからどうしようかなって思ってた所だったし」
「そっか、じゃあよかったよ」
「でも、こんなこと言うのもナンだけど……時間は大丈夫?
桜井くんだって仕事あるんだし、それに私も急がないといけないし……」
「その辺は気にしなくても大丈夫。
えっと……この部屋、確かネット使えたよね?」
「へっ? あっ、うん。そこのパソコンでいけるけど……どうするの?」
「ちょっと、ね」
確かに、未穂ちゃんが言うとおり、今から新作を書き上げるだけ時間はない。
―――それならば、別に新作を書かなきゃいいだけの話だ。
パソコンを立ち上げると、早速あるテキスト系サイトに接続した。
「あっ、ここ知ってる〜。たまに読むんだよね〜、ここのSS」
「そうなんだ?」
「どうするの? ……もしかして、ここのSSから盗作とか?」
「まさか! それに、そんな必要なんてないよ」
「……どういうこと?」
「―――こういうこと」
そしてサイト内のあるページを開く。
SS作家『ショウ』の作品が掲載されているページだ。
「ここにあるSS、どれでも好きなの使っていいよ」
「それって……どういうこと?」
「えっと、まあ……この『ショウ』って、僕だからさ」
「えっ……えっ、ええ〜!! ほっ、ホントに!?」
未穂ちゃんはやたらと驚いている。
……まあ、面喰うのもしょうがないかな。
「そっ、そうだったんだ……」
「どうかした?」
「どうかした、じゃないって! 私、この人の……って言うか、桜井くんのSS読んだことあるし!
二次創作だったけど……確か感想も送ったよ?」
「あっ、そりゃどうも……」
―――こういうことが無いとも言い切れないから、あんまり正体をバラしたくなかったんだよな。
まっ、いっか。そんなに害があるわけでもないし。
「わ〜……へ〜……ふ〜ん……」
未穂ちゃんの方はと言えば、しきりに感動している。
どうも創作の方は初見みたいだ。
「やっぱすごいな〜、桜井くんは。センスあるもん。
二次創作も面白かったけど、オリジナルもすごい面白いし」
「そう、かな? 自分ではあんまり分からないからさ……。
えっと、それじゃあいいかな、これで?」
「良いも何もないって! ぜひぜひ、使わせてもらうよ!」
「うん。必要があれば修正もするから、遠慮せずに言ってね」
「りょーかい。じゃあ、どれにするか選んだら連絡するね。
携帯は……持ってないだったよね。じゃあ、ここにのってるアドレスでいい?」
「……まあ、それは僕んちのパソコンのメールアドレスだから」
「あはは、そうだよね! うん、それじゃあそうするから」
とりあえず、未穂ちゃんはいつもの元気を取り戻したみたいだ。
この笑顔を見れただけでも、原作を提供する価値があるってもんだ。
「そういえばさ、何でショウっていうハンドルネームなの?」
「ああ、それ?」
……あんまり言いたくないんだけど。
「名前の“章”の音読み……文章の章でしょ? だから、ショウ」
「……作品はすごいのに、やけに安直だね」
「僕もそう思うよ……」
これだから言いたくなかったんだけど。
今さらながら、もうちょっと考えておけばよかったと思う。
「よ〜っし! 原作も決まったことだし、今日の作業はここまで!
景気づけにゲーセンいこー!!」
「お〜……って、いいの、ホントに?」
「いいっていいって。ずっとデスクワークじゃ、できることもできなくなっちゃうでしょ。
気分転換も重要な仕事のひとつ、だよ?」
「……まっ、いっか」
分かったような分からないような理論だけど。提案そのものは悪くない。
ここは乗っかるとしよう。
それにしても、本当に僕のSSで漫画書いてくれるんだよな。
父さんのことを抜きにしても嬉しいし、なんともこみ上げてくるものがある。
自分が書いた文章に絵がつくっていうのは、それだけでも嬉しいもんだ。
もしかしたら、今朝の思い出みたいな夢は、この事を教えていてくれたのかも。
……なんて、ちょっと考えすぎかな?
とにもかくにも、面白いことになってきたぞ―――!
作者より……
ども〜作者です♪
Life三十一頁、いかがでしたでしょうか?
やって参りました未穂編の前編!
ちょっと影が薄かった彼女ですが、ここいらで一花咲かせてほしいです、作者的にも(笑)
書いてて楽しい娘ではあるんですけどね。
まあ、ラブコメの登場人物なのに恋愛にはあまり絡んでこないっていうキャラではあるんですが(^^ゞ
そういえば、章の母親の名前って今回初公開なんですよね。
話そのものは第六頁から出てたっていうのに、今回、初めて本格的に出てきた旦那と同じタイミングって(笑)
……なんだか、キャラに中々名前をつけない漫画家なんかの気持ちが分かったような気がします(^^;
さて、そんな漫画家が実の父だという告白をした章(と言っても、この話もチラホラ出てますけど)
次回は未穂ちゃんと共に、漫研存続に向けて(?)奮闘します。
いつものごとく、期待しすぎない程度に期待してお待ちください。
それではまた次回お会いしましょう!
サラバ!(^_-)-☆by.ユウイチ