第十九頁「珈琲の香りに包まれて」
怜奈ちゃんとのデートから一夜明けて。
久しぶりに遅刻寸前まで追い込まれたので、(自ら追い込んだとも言うが)
茜ちゃんを後ろに乗せ、自転車をかっ飛ばしていた。
「最近、少しは寝坊癖も治ってきたと思ったのに、
ちょっと気を抜くとすぐにこれだもんねぇ……」
「はいはい、僕が悪うございました」
ペダルを漕ぎながら生返事。
寝坊したと言っても、今朝はまだ可愛い方だったので喋る余裕ぐらいはある。
……とは言え、高スピードで流れる景色に、人影は無い。
恐らく、歩いていたらもう間に合わない時間だろう。
もちろん、あやのに置いてかれたのは言うまでも無い。
「やっぱ、章は章よねえ。いつまで経っても変わらないって言うか、何と言うか」
「僕だって、一応は起きる努力もしてるって。
昨日はちょっと色々あって、それで疲れただけだよ」
そう……実に色々あった。おかげで予習はおろか宿題もしていない。
―――何も無くても多分してないだろうが。
「ふ〜ん……空木さんとのデート、そんなに色々あったんだ?」
茜ちゃんの意表を突いた一言で手元が狂った。
右コーナーに差し掛かっていた自転車の前輪がコントロールを失う。
暴れる車体。ともすれば転倒という史上初の事態。
―――だったが、ペダルから離した右足で素早く地面を蹴り、どうにかバランスを取り戻した。
……危ないところだった。
僕はともかく、茜ちゃんまで遅刻、それより何より怪我させるわけにはいかないからな。
「ちょっと! 気をつけなさいよね!」
「ごっ、ごめん……」
助かったにも関わらず飛んでくる怒声。
この辺りは結果の問題じゃないらしい。
反射的に謝ってしまう僕も僕だが。
―――いや、問題はそこじゃないだろ。
「じゃなくって! 何で茜ちゃんが昨日のこと知ってるのさ!?」
この事実は当事者二人と、昨日家を出る時に、行き先をしつこく聞いてきたあやのだけしか知らないはずだ。
……まあ、僕が何も喋っていない以上、茜ちゃんに教えた犯人はおのずと絞られてくるが……。
「今朝の行きがけに、あやのちゃんから聞いたの」
……やっぱりか。考えてみれば、それしかありえないよな。
「ぼやいてたわよ〜。
『デートの時はちゃんと時間通り起きれるのに、何で学校は寝坊ばっかりなんだろう』って」
「兄の秘密を平然とバラすような妹を持って、僕だって嘆かわしいよ」
「よく言うわよ。それに、寝坊は章が悪いんだから」
茜ちゃん、それを言っちゃあおしまいよ。
「それよりさ、どうだったの?」
「どうだったって……何が?」
「とぼけないでよ。空木さんとのデートに決まってるじゃない」
「ああ、そういうことか。そうだなあ―――」
ここで言葉を止め、昨日のことを振り返ってみる。
……う〜む、午前中はともかく、午後は振り回されてただけな気がする。
さりとて、映画を観たり、手作り弁当を食べたのは事実なわけで。
これってやっぱり、充実してたってことになるんだよな。
「まあ、楽しかったよ、うん。一緒に映画見たり、中央公園で弁当食べたりさ」
「へえ〜、ちゃんと普通のデートしてるじゃない」
「なんか引っかかるなあ、その言い方」
「率直な感想よ。あんたの事だから、Season辺りで3時間ぐらいだべって、愛想尽かされたりしたのかと思った」
「そりゃいくら何でも無いって」
何処のバカが、喫茶店で3時間なんてそんな馬鹿げたデートやるんだっての。
いくら僕でも、もっとマシなコースを思いつくはずだ……多分。
実際は、自分でそんなことを考えたこと無いからちょっと自信ないけど。
「怜奈ちゃんも結構楽しんでくれたみたいだし、一応は成功だったよ」
借金の元金としては、あれで充分だろう。
……ただし、かなり大きな利子が残ったが。
今思うと、まんまと怜奈ちゃんの策略にはめられたような気がする。
「章ってさ、何だかんだと女の子との話題が絶えないわよね。
デートしたり、選挙の後援会長やったり、部活の手伝いしたりさ」
「別に意識してやってる訳じゃないけどね」
「当たり前よ。アンタがそんなこと狙ってやるような女たらしだったら、
とうの昔にあたしが息の根を止めてるわよ」
「お〜恐い。じゃあ、僕はせいぜいそうならないように気をつけさせてもらうかな」
僕がおどけた様子でそう返すと、茜ちゃんはそれ以上何も言わずに、ただ、溜め息を一つだけついた。
気まずいなんてことは無い、ただ単に会話が無いだけの沈黙の中で、ふと、辺りの景色を見る。
毎朝通ってはいるけど、こうしてちょっと意識しないと、ほとんど見る機会も無い。
志木高まで続いていく緩い坂道にある桜並木。
4月、あるいは春の象徴である桃色の花は散ってしまっていた。
もう後1,2週間もすると、今度はこの木は深い緑色へと変わる。
次の季節の足音が、もうすぐそこまで聞こえてきているようだった。
珍しく余裕があって、ちょっとロマンチシズムに浸ってみた、そんな朝の通学路。
―――遅刻しそうで自転車漕いでるんじゃ、どうにも格好がつかないけど。
………
………………
そんなこんなで時は放課後。
今日は流れるような一日だった。
朝に慌てて登校してきて、その慌しさのまま乗り切ってしまった感がある。
別段忙しかった訳でもないのに、何だかもったいない気がする。
そんな物足りなさを埋めるためかどうかは自分でも分からないが、ふらりと新聞部室の前に来ていた。
新学期になってから、あんまり優子ちゃんを手伝えていないし、まあいいだろう。
部屋をノックすると、どうぞ、といつも通り優子ちゃんから返事がきた。
とりあえず入室は許可されたようなので、遠慮なく入れさせてもらうとしよう。
「おじゃましま〜す」
案の定、中は今日も優子ちゃん一人だった。
何やらデスクワークをしていたようだ。
あっちも僕が来たと思っていたのだろうか、体はこちら側を向いていた。
「いらっしゃい、桜井くん。今日はどうしたの? 締め切りもまだなのに、珍しいね」
「いや、特にこれといった用事も無いんだけど……何となく、かな」
よく考えると、何となくで部活に来るのはどうかなって気がしたが、
そういう事は、この際、もう忘れてしまうことにしよう。
「何か、手伝える事とかあるかな?」
「そういう事なら、ちょうどいいタイミングだよ、桜井くん。
まあとりあえず、座ってよ」
そのまま、優子ちゃんに促されるまま席に着く。
偶然か、はたまた用意してあったのか、すぐさまコーヒーが出てくる。
「実はね、今日は桜井くんを呼ぼうと思ってたんだ」
「あっ、そうなんだ。何か用事でもあったの?」
「うん。ちょっと取材の打ち合わせがしたくって」
「取材……って、何するの?」
そう言えば、もう一年近く新聞部を手伝っているが、取材なんてしたことなかった。
「今度ね、ゴールデンウィーク直前特集って事で、
『志木ノ島・オススメのお店』みたいな記事を書こうと思ってるんだ。
それで、連載記事持ってる桜井くんと未穂に、ゲストみたいな形でコメント書いてもらおうかなって」
「ふ〜ん。中々面白そうな企画だね」
「でしょ。目新しい記事だから、SHIKIのPRにもなるし。桜井くんも、協力してくれるよね?」
「もちろん。これでも一応は、毎号記事を書いてる身だしね」
「ありがとう、桜井くん!」
そう言うと、優子ちゃんはパッと笑顔になった。
「それにしても優子ちゃん、今回はやけに気合入ってるね。
やっぱり、部長になって初めての大きな仕事だから?」
「それもあるんだけど、ね」
どうしたんだろう、優子ちゃんにしてはやけに歯切れの悪い返事だ。
新聞部のトップは、通例として2年生がなるらしい。
何でも、3年生は一応、9月の学校祭までいるらしいが、受験対策で半分幽霊部員になってしまうからだそうだ。
経緯はともあれ、唯一の2年部員である優子ちゃんはこの新学期から部長になったのだ。
「はぁ。部員増えないかなあ……」
ふと、今度は溜め息混じりで優子ちゃんが漏らした。
「そう言えば、新入部員は?」
「今の所ゼロ。もし、文化祭終わって3年生が引退するまでに1人も入らなかったら、
最悪の場合新聞部は廃部。まあ、良くても同好会が残るだけね」
「そんな……」
部長自身の口から告げられる部の重大事実。
事もなさげに言っているが、心中穏やかでは無いだろう。
「だから、今度の文化祭用の新聞……ううん、毎週の新聞だって、
今まで以上に頑張らなきゃ。
みんなの目を引くような物を作って、それを見て興味を持ってくれた人が入部してくれないかなって」
「……そうだね。僕も、今まで以上に協力するよ。
この場所が無くなっちゃうのは、やっぱり寂しいし」
優子ちゃんの部長として、ひいてはSHIKIの編集長としての決意。
寄稿者としては、その想いに答えない訳にはいかない。
そういうワケで、まずは目先の取材の取材の話だ。
「それで、取材ってどこに行くの?」
「一応、“Season”にしようかなって思ってるんだ。
確かにもう十分過ぎるぐらい有名だけど、初めてのことだから、手堅くいっときたいし」
「うん、そうだね。良いと思うよ」
明確な意図もあることだし、わざわざ反対することもない。
それに、僕もいい店なんて知らないし。
「よかったぁ。実はもうアポ取っちゃってるから、ダメって言われたらどうしようかと思ってたんだ」
「はは……」
もう決定事項なのね、これ。
「じゃあ、もう日取りも決まってるんだ。いつなの?」
「明日」
「へっ?」
「明日だよ。桜井くん、特に何も予定無いよね?」
「まあ、特には……」
何とも急な話だ。これで明日のスケジュールが決まってしまった。
最近、何だかやけに忙しい気がする。
「それにしても優子ちゃん、もし僕に予定があったらどうするつもりだったの?」
「予定あってたらって言うか、予定は無いって見当ついてたしね」
「どういうこと?」
「だって桜井くん、前に聞いた時に習い事はしてないって言ってたし。
部活案内にしても、もう遅い時期だから」
確かに、いつぞや習い事の話題になった時にそういう話をした。
―――って言っても、あれって去年のいつ頃だったっけ?
少なくとも、3学期じゃなかったはずだ。
……よくそんなに昔のことを覚えてたもんだ。
優子ちゃんにとって、特には関係無さそうなのに。
こういうマメな所は、新聞部向きだな〜って思う。
……同時に、計算高い娘だな、とも。
さっきのアポ云々の話にしろこっちにせよ、中々僕の事をよく理解した上での根回しだ。
半ばあきれながら、感心もしていたり。
「それじゃ、スケジュールもバッチリみたいだし、早速始めよっか」
この分だと、こっちも色々準備してありそうだ。
まあ、楽と言えば楽だから、良しとしておこう。
………
………………
「―――じゃあ、大体こんな感じでいいよね?」
「うん、そうだね」
案の定、打ち合わせは半分優子ちゃんの企画発表会になり、僕がそれに頷いている内に、
いつの間にか終わってしまっていた。
あまりに早く進んだので、お開きにはまだ時間があったから、そのまま紙面の大まかなレイアウトを考えていた。
もっとも、ちょうど今それも終わってしまったけど。
時計を見ると17:54の表示。外に目をやれば広がるオレンジ色の世界。
各部活もそろそろ終わりにかかっている。
僕達も、今度こそ解散となりそうだ。
「それじゃあ桜井くん、明日のホームルームが終わったら、すぐに玄関に集合ってことで。
なお、遅刻の場合は問答無用で置いていきま〜す」
「了解。じゃあ、遅れない努力だけはしようかな」
打ち合わせにまで参加して、当日の遅刻のせいで行けなかったとなったら、目も当てられない。
やっぱり、企画段階―――そう言うか微妙だが―――から関わったんだから、ちゃんと最後まで見届けたいものだ。
「ふふふ。それじゃ、明日はよろしくね」
何が面白いのか、そう言う優子ちゃんは笑っていた。
それにしても……Seasonに取材か。
中々面白いことになったなぁ。
………
………………
あくる日の放課後。
僕と優子ちゃん、それに未穂ちゃんを加えた三人は、時間通りに集まっていた。
「それじゃ、そろそろいこっか」
優子ちゃんのその一言で、僕らはSeasonに向かって歩き出した。
―――Season、それは志木ノ島商店街にある、この街で一番人気を誇る喫茶店である。
客に学生を意識しているのか、喫茶店の割には品物の値段が安く、放課後は学校帰りの学生達でにぎわっている。
ちょっと優雅な気分に浸りたい時はSeasonに、とにかくお金が無い時はファーストフードに……と、
そんな使い分けをする学生も多かったりする。
かく言う僕もその1人だが。
そういうわけなので、この店には結構来たことがある。
テストが終わった時なんかに、いつもの五人で夕方近くまでだべっていた、なんて事もあったし、
あやのにせがまれて、プリンパフェとミックスジュースをおごらさせられた事も、幾度となくある。
……そう、ついこの間もそうやってあいつにおごってやった。
合格者登校日を忘れていた罰かなんかだったよな、あの時は。
まあ、個人的な思い出話はともかく、今から行くSeasonっていう喫茶店は、
世間に疎い僕でもよく知っているようなメジャーな店なのだ。
有名なのになんで、っていうことに関しては昨日の会話にあった通り。
確かに、志木ノ島で取材するにあたっては、一番手堅い店かもしれない。
「そう言えば、優子ちゃん達はSeasonにはよく行くの?」
「どうだろう……怜奈が割と甘いもの好きだから、よく行くといえば行くかな。
ちょっと高いけど、やっぱり美味しいし。
予算が無い時は、屋台のアイスクリームとかクレープで済ませるけどね」
「怜奈と言えば、前にあそこでパフェ5つ食い! とかやってよね〜。
甘いものは別腹なんて言ってたけど、あれだけ食べてどうやってあのスタイルを維持しているのやら」
「へっ、へぇ〜」
そう言って未穂ちゃんが付け加えた。パフェ5つか……ちょっと遠慮しときたい。
―――怜奈ちゃんのファンが見たら泣きそうだな。
僕も、テーブルに並んだ5つのパフェにがっつく怜奈ちゃんは想像できない。
「桜井くんはよく行くの?」
「そうだね。最近はあんまり行ってないけど」
「やっぱり、陽ノ井さんとか、島岡さんと一緒に?」
「そうだね……一緒に行くメンツも、大体そんな感じかな」
何となくで言ったんだろうが、ズバリ的中している。
……これじゃまるで、男友達がいないみたいだな。
この二人がいれば、まず圭輔と光も一緒にいるのだが。
「ねぇねぇ、桜井くんは、Seasonにまつわるおもしろいネタとかないの?
桜井くんを巡る、女二人のド修羅場バトル! とか」
「いやあ……それはちょっと無いかな。
面白いネタかぁ。そうだなあ―――」
……そう言えば、五人で割り勘した時に圭輔がとんでもない量を食べて、翔子ちゃんとケンカした事があったっけ。
『割り勘だと思ってバカみたいに食べるんじゃないわよ!』
『これが俺の標準的な量なんだよ!』
とか言って。結局、その時は自分が食べた分は、自分で払うことで解決したんだけど。
そしたら、今度は圭輔がお金足りなくて。どうしようかってなってた時……。
何と、さっきまでケンカしてた翔子ちゃんが、圭輔にお金を貸したんだ。
『しょうがないヤツ』って。
やっぱり、ケンカしてばっかりだけど、何だかんだ言って仲が良いんだろうな、あの2人。
「とまあ、こんな事があったりしたよ」
「へぇ〜。中々面白い2人だね、島岡さんと萩原くんって。
付き合ったりしてるの?」
「そんな事は無いと思うよ。単に、小学校の頃から一緒ってだけだから。
仲が良いって言うか、本人達の言葉を借りるなら“腐れ縁”って感じかな」
それにしても未穂ちゃん、いきなり核心に迫る質問をしてくる。
でも、圭輔と翔子ちゃんが付き合うなんて、天地がひっくり返っても無いよなあ。
少なくとも、現状見てる限りではそんな様子は微塵も見られないし。
と、そんな取り留めの無い会話をしている内に、いつの間にかSeasonの前に辿り着いていた。
意識しないでも来れたってのは、やっぱり、何だかんだと何度も来てるからなんだろうな。
―――カランカラン
入り口のドアを開けると同時に、ベルの音が鳴る。
喫茶店といえばこれだよな、やっぱり。
放課後といってもまだ早い時間だからか、店内にはまだあまり人がいない。
混み始めるのはもうちょっとしてからだろう。
入り口近くのテーブルに三人で座る。
四人掛けの席で、僕の向かい側に二人が並んで座っていた。
席に着いて間もなく、すぐにウェイトレスがお冷を持ってきてくれた―――って、んん!?
「いらっしゃいませ……って、桜井。
お前さん、こんな所で何してんのさね」
「いや、あの、それはこっちの台詞なんですけど」
お冷を持ってきたのは意外や意外、明先輩だった。
「あれ、桜井くん、知り合いなの?」
「まあ、そんな所。ウチのソフト部のキャプテンだよ」
知り合いというか、半強制的な主従関係というか。
無論、優子ちゃんにそんな回答をする訳にはいかないので、当たり障りの無い答えにしておいたが。
「そんな他人行儀な紹介しなくてもいいようなもんだけどね。
それにしても桜井、あんた転校生や新入生だけじゃ飽き足らず、また女の子はべらせてんのかい?
しかも今度はダブルデートとは……顔に似合わずよくやるねえ」
「先輩、誤解を招くような事言わないで下さいよ。
この前だって、別にはべらせてた訳じゃないって言ったじゃないですか」
「ははっ、ただの冗談さね。
同じパターンのジョークに同じように反応してるんじゃ、あんたもまだまだだね。
……それはそれとして、だ。
結局そっちの二人はどちらさんなんだい?」
そう言うと、明先輩は優子ちゃんと未穂ちゃんの方に視線を移した。
相変わらず挨拶から手加減無しの人だ。
ホント、この人には絶対に勝てる気がしない。
「あっ、初めまして。新聞部部長の川科優子です。よろしくお願いします」
「漫研会長の山村未穂です。よろしくお願いしますね、え〜っと……」
「ああ、まだ名前言ってなかったね。
あたしは福谷明。桜井が言った通り、ソフト部のキャプテンやってるよ。
よろしく。
―――新聞部ってことは、もしかしてウチの店取材に来ることになってたのって、あんたらなのかい?」
「あっはい、そうです。色々お世話になります」
「こちらこそ。バイトしてる身で言うのもなんだけど、色々見てっておくれよ」
「ありがとうございます」
文化部三人娘マイナス1と明先輩って、珍しい組み合わせだな。
接点が全くないもんな。
―――そんなことよりも、僕にはどうにも気になることがあった。
「ところで先輩、どうしてSeasonでバイトなんかしてるんです?」
「んっ? まあ、あたしにも色々あるんさね。
小遣い稼ぎとでも思っといてくれ」
「はぁ……」
いつぞやみたいに、急にお金をくれたりと、
妙に金回りがいいのはここでバイトしてるからなのか?
でも、明先輩がわざわざ部活休んでまで小遣いを稼いでるとは思えないなあ……。
何か裏がありそうだ。
「さあさ、遠慮せずに色々頼んでおくれよ。
ここに来たのも何かの縁だ、全額とはいかないけど、いくらかおごったげるよ」
「えっ、いいんですか? じゃあ、どうしよっかなぁ……うーん、色々あって迷うな〜」
「ちょっと未穂、ここに来た目的を間違えないでね。
今日は取材に来てるんだから。
アポ取り、結構大変だったのよ?」
「分かってるって。だからさ、色々食べて、そのレポート書こうかなあ……なんて」
「はぁ……じゃあ、その辺期待してるからね?」
―――何て言うか……平和だなあ。
運ばれてきたコーヒーを飲みながら、賑やかな二人のやり取りを見ていた。
こういう放課後も悪くないか。しかも先輩のおかげでコーヒーは割り引きだし。
さっきはああ言ってたけど、やっぱり金回りいいじゃん、明先輩。
でも、明先輩のバイトの理由って何なんだろう?
さっきの答えが本当だとはどうにも思えない。
……考えても仕方ないか。本人がああ言う以上は、それ以外の答えはとりあえず無いんだろうし。
それより今は、SHIKIに載せる記事を考えなきゃ。
未穂ちゃんが料理について書くなら、僕は店内の雰囲気とかについて書くかな。
そうしてコーヒーの香りを楽しみながら、記事のプロットを考えている内に、春の日の放課後は緩やかに過ぎるのだった―――
作者より……
ども〜作者です♪
Life十九頁、いかがでしたでしょうか?
閑話休題ながら、色々と今後の展開のヒントも隠されてます。
バレバレっちゃバレバレですが(笑)
さてさてそんな十九頁、今回はそんなに悩まずに一直線で書く事が出来ました。
長さも大体平均値に収まりましたし、個人的には満足です。
もっとも、完成度と満足度は別物ですが(^^;
そしておなじみのアテにならない次回予告ですが……今回はあえてしません(笑)
次でいよいよ二十頁の大台に乗るんで、皆さん予想して楽しんでください。節目の話になる事は間違いナシ!
それではまた次回お会いしましょう!
サラバ!(^_-)-☆by.ユウイチ