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第十三頁「春の嵐!」

 ごちそうはたまに食べるから美味しいのだ、なんていうもんだから、

 休みもたまにあるからありがたみが分かるんだ、とか言う人もいる。


 ……だが、もしも永遠に終わらない休みがあったのなら、

 それはそれで楽しいのではないだろうか?




 ―――そんな事を思わずにはいられない今日この頃。

 カレンダーを見るたびにテンションが下がってくる。




 今日は4月7日……新学期の始まりなのだ。

 もっとも、僕にとっては新学期の始まりというよりは、

 春休みの終りという意味あいの方が強く感じられてしまうのだが。


 まあ、始まりとは言え授業開始は明日で、

 在校生である僕たちは午前中の新任式と始業式だけで解放されるんだけど。

 生徒会だから、もしかして入学式にも出なきゃダメなのかなと思っていたが、どうやら会長の福谷さんだけ出席するらしい。

 ありがたい話である。


 午前中で学校が終わるのは嬉しいのだが、明日からは早くも授業が始まってしまう。

 もう、この堕落しきった悠々自適な春休みライフにピリオドを打たねばならなくなる。


 しかも新学期という圧力によって、強制的に。

 こんなに寂しいことは無い。




 せめて、後もう一日だけ春休みが長ければ……意味も無くそんな事を考えた。

 何か変わったことでも起こって長くならないかな、春休み?



 ―――まあ、そんなバカな願いなんて都合よく聞き入れてもらえるわけでもなく、

 現実には、ちょっと早い時間にトーストをかじるという、平凡な朝を過ごしていた。


 あえて言えば、僕が珍しく早起きしたというのが変わったことだろうか。

 さすがに新学期早々遅刻するわけにはいかないと、直感的に感じ取っていたのだ。

 そうでもなかったらこんな殊勝なマネはしない。




 「早く10時にならないかなあ? ねっ、お兄ちゃん♪」


 不意に向かいに座っているあやのが言った。

 ……このセリフ、もう何度目になるか分からない。



 「そんなに焦ってもどうしようもないだろ、電車の時間とかがあるんだから」


 「冷めてるな〜。お兄ちゃんは。お母さんに早く帰ってきてほしくないの?」


 「そりゃ帰ってきてほしいけどさ。でも、どうせ僕は学校だからあんまり関係無いし」


 「そういうのが冷めてるって言ってるの〜!」


 「あ〜はいはい、分かったって」


 「……もう」


 そんなに怒られてもなぁ……。


 どっちにしろ、僕が帰るのと、あやのと母さんが入学式に行くのが、ちょうど入れ違いのタイミングだから、

 二人が帰ってくるまで母さんには会えないし。

 だから早く10時になろうが遅く10時になろうが全く関係ない。



 それにしても……入学式に来れるとは言っていたけど、まさか当日に帰ってくるとは思わなかった。

 中国から帰ってきてすぐにあやのの入学式に行くとか、どんだけパワフルなんだ、あの人は。


 前に帰って来たのが去年の末から今年の初めにかけてだから……かれこれ3ヶ月ぶりか。

 確かに、あやのが盛り上がるのも分かる。あいつはお母さんっ子の部分もあるし。

 いくらメールしたり、国際電話で話しているとは言え、そういう問題じゃないからな。


 かく言う僕だって、母さんが帰ってくるのは嬉しいわけだし。

 口では色々言っているが、あやのとの温度差はそんなにない―――つもりだ。



 「それより、あんまり母さんを振り回すなよ? 外国帰りで疲れてるだろうからさ」


 あのタフな母さんに限ってそんな事は無いと思うが、一応は言っておく。



 「大丈夫だよ。今日は入学式の帰りにケータイ買いに行くだけだから」


 「ああ、そう言えばそんなこと言ってたっけ」


 「入学祝いの定番だからね〜♪ 

  ―――お兄ちゃんも買ってもらえばよかったのに。

  お母さんだって買えばいいって言ってたんだし」


 「僕はいいよ、別に欲しくないし。

  それに、自転車使えば一日で一周できるような島なんだから、必要ないさ」


 「またそんな事言って……私には持てってうるさく言ってたくせに」


 「それはそれ、これはこれなの」


 何がそれで何がこれなのかはよく分からないが、これぐらいしか言い訳が思いつかない。

 だって、まさか『あやのが心配だから』なんて、本当の事をバカ正直に言う訳にはいかないし。

 必要が無いってのも本当のことだけど。


 兄である僕が言うのもなんだが、あやのは確かに年の割にはしっかりした子だ。

 だけど、そこはやっぱり女の子。何かあるかもしれないという心配な部分もあるのだ。


 何だか保護者みたいだと自分でも思うが、実際、そういう部分も少しあるのかもしれない。。

 あやのは僕が守ってやらなきゃという、一種の使命感のようなものも心の中にあった。



 「でもさあ、お兄ちゃんの友達だってみんな持ってるんでしょ? 

  意地張らないで買えばいいのにさ」


 「別に意地なんか張ってないって。

  ……それに、みんなって誰だよ?」


 「えっと。茜さんでしょ、それから……圭輔さんとか、光さんとか。あっ、後は翔子さん!」


 「4人じゃみんなじゃないだろ? 僕だって、もっと友達いるし」


 まあ、特に仲がいい友達は言われてしまったが。

 数えるほどしか家に来た事がない翔子ちゃんや、圭輔と光の名前が出てきたのは、流石と言うか何と言うか……。


 どうでもいいが、みんな持ってるだの持ってないだのって、普通逆の立場で使う言葉だろ、あやのよ。



 「ホントに性根が曲がってるんだから! ……でもまあ、なんかお兄ちゃんらしいけどね。

  ―――それより、もう時間じゃない? そろそろ茜さん来ると思うよ」


 「もうそんな時間か……結構余裕があると思ってたんだけどなあ」


 言いながら腕時計を確認すると、後2,3分ほどで茜ちゃんが来る時間だ。

 久しぶりの“制服を着ての”ゆったりとした朝食も終わりか……。


 4分の1弱ほど残っていたトーストを一気に頬張り、コーヒーで流し込んだ。



 「食べ方が汚いよ、お兄ちゃん」


 「モゴモゴ―――気にするなって。それじゃ、行ってくるから。

  母さんの迎えは頼んだよ」


 「は〜い。いってらっしゃい、お兄ちゃん」




 あやのに見送られながら玄関を後にする。

 新年度一発目の登校は、茜ちゃんが来る前に出発という幸先の良いものとなった。

 ―――次にこれができるのは、一体いつの日になるのやら。




 ………




 ………………




 「おはよ〜、茜ちゃん」


 「おはよう、章。今日は早いのね」


 「まあ、新学期ですから」


 「よく言うわよ」


 茜ちゃんは苦笑している。

 いや、今日はホントなんだけど……日頃の行いか。




 「それはそうと、今日は新クラスの発表ね」


 「そうだね。……一年なんてあっという間だなあ」


 「ホントに。この分だと、すぐ卒業しちゃいそう」


 茜ちゃんの言う通りだ。

 ついこの間志木高に入学したと思っていたのに、今度はいつの間にか二年生だ。


 二年になれば、クラスも変わるし、担任だって教室だって変わる。

 “中身”の僕らには変化の実感は無いのに、“枠組み”である環境だけは変わろうとしていた。




 それが良かれ悪かれ、どうこうできるわけでもないけど。

 ……今はただ“日常”という流れに乗っているだけだから―――




 「でも、これって中身が充実してるってことよね?

  ほら、よく言うじゃない。楽しいとか、充実した時間はすぐに過ぎていくって。

  だから、あたしはあっという間に卒業しちゃっても、それはそれでいいと思うんだ」


 「そうやって考えるのもありか……。

  いいなあ、茜ちゃんは前向きでさ」


 「なに言ってんのよ、アンタは」


 また茜ちゃんが苦笑して言った。



 僕にとって、今年一年はすぐに過ぎる一年になるのか、それともゆっくりとした一年になるのか。

 そして、そのどちらがいいのかは分からないけど……とりあえず、後悔のない一年にはしたい気がする。



 「ねえ、章? 今日のクラス替えだけどさ、この人と一緒のクラスになりたいとか、そういうのってある?」


 「一緒のクラスになりたい人? そうだなあ……特にはいないかな?

  まあ、強いて言えばクラスに1人でも多く知り合いがいるといいな。


  ……でも、そういうのって考えても仕方ないし。

  それに、もし期待してダメだったら、それはそれでショックだから、深くは考えてないよ」


 「アンタって、こういうことに関しては妙にクールよねぇ」


 「茜ちゃんはどうなの?」


 まさか自分からネタを振っておいて、人の事を言うだけ言って終わりではあるまい。

 大体、茜ちゃんはそういう人じゃないし。



 「あたしはね―――あたしも章と一緒で、とりあえず知り合いが1人はいて欲しいな。

  周りが知らない人ばっかりじゃ、やっぱり寂しいし。

  ……それから」


 「それから?」


 非常に気になる所で会話を切って、そこで口を閉じる茜ちゃん。

 こういうのは珍しい。言いたい事は、ズバッと言い切ってしまうタイプだから。


 別に気まずくは無かったが、しばしの沈黙の後、茜ちゃんが口を開いた。



 「私の場合は、アンタを近くに置いておきたいかな?」


 「えっ?」


 意外な答え。

 それでいて『近くに置いておきたい』っていう言い回しは、なんとも彼女らしかった。



 「だってさ、アンタって何かこう……放っておけないのよ。

  昼休みとか、短い時間でも平気で寝るし、

  生徒会副会長のくせに、学校のことにはすっごく疎いし。

  幼なじみとしては不安なのよね。昔っから知ってるだけに」


 「随分な言われようだなあ、それって」


 「だって本当の事でしょ?

  アンタもいい加減、あたしとか、あやのちゃんに面倒かけるの卒業しなさいよね。

  あたしだって、いつまでもアンタといれるわけじゃないんだしさ」


 確かに茜ちゃんとあやのには随分と世話になっている。

 二人に甘えてる部分が無いとは、とてもじゃないが言い切れない。



 「―――でもまあ、高校いる間ぐらいは、ね。面倒見てあげるけど。

  何だかんだ言って、毎朝アンタを起こしに行ってるし、


  前にも言ったけど、今さらやめるってのも、あたしとしては何かしゃくだし。

  だから、少なくとも高校生の間は、あたしに迷惑をかけるのを許す」


 「……うん。ありがとう、茜ちゃん」 






 「でも、急にどうしたの?」


 「―――新学期ですから」


 わけを聞いても、どこかで聞いた口調で、どこかで聞いたセリフが返ってきただけだった。




 ―――今日から新学期、か。





 ………





 ………………





 (で、結局こうなる訳ですか)



 新クラス―――2−Aを、もう一度見回してみた。

 教壇では華先生がいつもの様子で喋っている。




 クラス替えの結果、僕は2−Aになった。

 一学年に5クラスあって、2年連続でA組というのは結構低い確率ではないだろうか。

 ……そんなのに当たっても全く嬉しくないが。



 そんな我らが2−A、担任は桃田華先生。

 僕にとっては2年連続で担任という事になる。


 そして、気になっていたクラスの知り合いの構成はどうなっていたのかと言えば。




 まず圭輔と光が今年もセットでいた。

 いや、あの二人だっていつも一緒にいるわけでは無いだろうけど、僕の中ではセット化されている。


 男子の際立った知り合いはこのぐらいで、案外少ない。

 吉澤を初めとする生徒会好青年軍団の三人とは違うクラスになったようだ。




 続いて女子。


 女子には翔子ちゃんがいた。

 彼女とは中学の間はずっと同じクラスだったから、もう随分と長い間同じクラスだ。

 今年で5年連続ということになる。


 それから、福谷さんがいた。彼女とも一年の時から連続で同じクラスだ。


 知り合いが一人でも多いのは嬉しい。

 友達の友達みたいな感じで、クラスの知らない連中とも上手くやれたりするし。




 そしてもう一人、忘れちゃないけない人物がいた。

 ―――茜ちゃんだ。


 朝、色々と言っておきながら、何だかんだで同じクラスだった。

 これで茜ちゃんの願いは叶った事になる。


 彼女としては、この結果は嬉しいのだろうか?

 先生の話を聞いている後姿からは、それをうかがうことはできない。



 ……それにしても、特に親しい知り合いが五人、それも元1−Aばっかり集まるとは。

 しかも、生徒会長と副会長二人が同じクラスにいるなんて……運命って恐ろしい。



 他にも、見たことや話したことがある顔ぶれが結構いて、とりあえず一安心だ。

 担任も華先生だし、上手く一年間やっていける予感がした。



 ふと、茜ちゃんがこのクラスに持った感想が気になったが……

 まあ正面からバカ正直に聞いた所で、教えてはくれまい。


 ここは忘れておくことにしよう。

 そっちの方が精神衛生上よさそうだ。





 ………





 ………………





 親任式、始業式、そして新クラスでの初ホームルームが終わり、いつもよりかなり早い放課となった。


 例によって例のごとく、茜ちゃん達はさっさと部活に行ってしまった。

 光も相変わらずホームルームが終わるなり消えていたし。




 ふと、腕時計を見てみる。

 デジタルで『10:27』の表示。実に半端な時間だ。


 さっき気がついたのだが、どうやら鍵を忘れてきてしまったらしい。

 ちょうど、今はあやのが母さんを迎えに行っているはずなので、

 このまま帰っても家に入れない。

 ……自分の家なのに、だ。


 家の前で2人を待っているのも一つの選択肢だが、それも何となく嫌だ。


 そういうわけで、どこかで時間を潰すことにした。

 一つ思い当たる所がある。

 最近は行っていなかったが、そこなら暇つぶしにうってつけだ。




 明先輩あたりに見つからない事を祈りつつ、下足に履き替えて校舎裏へ向かった。





 ………





 ………………





 志木高の裏には、ちょっとした小さな山がある。

 何故か山小屋があったりして、人がよく来るのかと思いきや、実はそうでもない。


 整備はされているので管理は行き届いているはずなのだが、

 いつ行っても人がいないのだ。


 確かに好きこのんで学校の裏山に来るヤツは珍しいと思う。

 実際、僕以外でここに来ている人を見たことないし。



 ここは人が少ないし、雰囲気がのどかだから、気持ちが落ち着く。

 SSのネタに詰まった時や、色々あって疲れた時なんかに、少し骨休めをするには最高の空間だ。

 高校に入ってから、この場所に助けられた記憶も多い。




 中腹辺りの広場に辿り着き、木に背をあずけて座りながら、目を閉じる。

 鳥の鳴き声や、木の葉のざわざわっていう音、他にも色んな自然の音がいつもより鮮明に聞こえた。


 空から差す陽の光も暖かく、充実した時間を過ごしていた―――が。




 不意に、頬に冷たいものを感じた。

 目を開けて、ちょっと視線を空にやってみる。



 「げっ!」


 反射的に声が出た。

 先程まで青空が広がっていたはずなのに、いつの間にか、空は黒い雲で覆われている。


 最初はぽつぽつと降っていた雨も、あっという間に強くなり、

 とてもじゃないが、外にいられる状況ではなくなっていた。



 なにかないかと思って周囲を見回したところ、例の山小屋が目に入った。

 ―――よし、雨宿りさせてもらうとするか。


 きっとこういう時のために山小屋があるんだな、などと都合のよい想像が浮かんだりしたが

 ……恐らく違うだろうな。本来の用途はともかく、こうして存在するからにはありがたく利用させてもらうが。





 急いでいたこともあり、少し乱暴に戸をあけて中に入った。


 一回だけ、どんな感じになっているのかに興味があって中に入ったことがあるが、

 その時は人が住んでいるとか、そういう雰囲気は無かった。


 だが、それは過去の話。

 今はどうやら、誰かが生活しているらしい。


 着替え、その他生活用品が少し。

 囲炉裏に火を入れた形跡もある。


 もっとも、それ以外のものは何もなく、生活感は乏しかったが。




 ……はてさて、こんな所に住む物好きがいるのだろうか?

 そんな事を思った矢先。






 「盗人め! そこになおれぇいっ!!」


 「へっ?」


 「でぇぇぇぇぇぇい!!」


 女の子の掛け声と、空気の切れる音が同時に聞こえた後、

 次の瞬間には明らかに空気の流れが変わっていた。



 ……ヤバイっ!


 瞬間でそう判断し、急いでその場に伏せる。




 ―――チッ!






 頭頂部の毛先が宙を舞っている。

 刃物ではないが、それに近い何かで切られたような感じだ。




 ―――あっ……、危なかった。

 あと少し遅かったら、毛じゃなくて首が飛んでいる所だ。



 「ほぅ、一の太刀を避けるとは、盗人風情が中々やるな!

  ……だが!」


 「ちょっ、タンマタンマ!」


 目の前には道着姿の女の子。まだ物騒なことを言っている彼女を、身振り手振りも加えて制止する。

 何だか知らないけど、もう1回さっきみたいに切られたら、今度は避けられる気がしない。



 「ええい、問答無用っ!!」


 手にした得物を振り上げる女の子の目は本気だ!

 このままじゃ、本当に切られる!?



 「わーーーー!? ちょっ、ちょっと待ってってば!!

  僕はドロボウに入ったわけじゃないんだって!」


 「貴様、この期に及んで何を言うか!」


 日本刀を上段に構えたままそんな事を言われると、本当に怖い。

 って言うか、“じょうだん”だけに、シャレにならない。


 ―――だが、ここでひるむ訳には……っ!



 「本当だって! 急に雨が降り出したから、ちょっと雨宿りさせてもらってただけ!」


 「……本当か?」


 「本当だって。僕はこの山の裏にある高校に通ってる、普通の高校生だし」


 「…………」


 日本刀少女は、器用にも、構えを崩さぬまま僕をじっくり凝視している。

 僕が逃げる事を懸念しているのだろうが、少なくともあの刀がある限りはそんな気は起きない。

 と、言うか素人目に見てもスキがなく、逃げられるとは到底思えない。




 「……すまない。私の早とちりだったようだ」


 何かに納得したのか、そう言って、ようやく道着の女の子は刀を下ろしてくれた。


 ほっとしてため息を一つ。

 『死ぬかと思った』という言葉は、こういう時のためにあるんだなと、身をもって知らされた。




 「お主、名は?」


 「えっ? ああ、名前ね。

  僕は桜井章。さっきも言ったけど、ここの裏にある、志木ノ島高校の2年生だよ」



 「そうか……すまなかったな桜井。

  いきなり切りつけるなど、無礼千万であった。

  許してくれ」


 そう言って頭を下げる剣道少女。

 予想通り、礼儀正しい。


 が、そういう反応はノーサンキューだ。



 「そっ、そんな、頭下げなくても!

  分かってくれたんだし、別にいいって!」


 「むっ……そうか。かたじけない」


 それにしても、やけに時代がかった喋り方をする子だな……。



 「えっと……君の名前は?」


 「私は西園寺京香さいえんじ・きょうか。好きに呼んでもらってかまわない。

  年は今年で17だから、桜井と同い年だな」


 「そっか。じゃあ、京香ちゃんはどうしてこんな所に?」


 「私はこの山小屋に住んで、剣の修行中だ」


 「剣の修行……って、なんで?」


 さっきの日本刀を見るに、剣道部の合宿とかでは無さそうだ。



 「話せば少々長いのだが……簡単に言えば、実家の道場を継ぐため、だな」


 「へえ……大変なんだ。何かの流派とか?」


 「そう思ってもらって構わん」


 もしかして、さっき切られかけたのもその流派の技だったりするのだろうか。

 漫画みたいな話だが……でも、刃物が頭上を通った感覚はなかったんだから、そう考えるのが自然だろう。



 「学校とかは、どうしてるの?」


 「この春からは志木ノ島高校に通うことになっている。

  だから、お主と同じ学校だな。また会うこともあろう。

  その時は、よろしく頼むぞ」


 「そうなんだ。こちらこそ、よろしく」


 挨拶は挨拶でも、日本刀での“ゴアイサツ”はもう勘弁してほしいが。



 「うむ。それに、今日の詫びもせねばならんしな」


 「まあ、そんなに硬くなってもらわなくてもいいんだけど。

  とりあえず、この雨が止むまでここにおかせてもらえないかな?

  通り雨だから、すぐに止むと思うし」


 「もちろんだ。何もないところだが、ゆっくりしていってくれ」


 失礼だが、確かに何もない。

 京香ちゃんと話でもしながら、囲炉裏で制服を乾かすぐらいしかやることがなさそうだな、こりゃ。




 ………




 ………………




 予想通り、20分もしない内に雨は止み、山小屋を出て家へと向かう。

 形はどうあれ、予定通りに時間を潰すことができた。




 それにしても、西園寺京香ちゃんか―――古風な子だったなあ。


 よく見ると顔立ちも整ってて、スタイルも良さげだったし。ついでに背もかなり高かった。

 大和撫子って、ああいうのを指すんだろうか?


 何にせよ、悪い感じはしなかった。

 学校も同じみたいだし、次に会ったら、声をかけてみるのもまた一興かもしれない。






 そんなこんなで、今日は新学期早々色んな事があったが、まだイベントは終わっていない。

 母さんが帰ってきているのだ。


 家にいるあやのと母さんの事を考えたら、自然に早足になっていた。

 久しぶりだし、僕自身も、何だかんだで早く会いたかったんだろう。




 イベント目白押しで、今日はまさに春の嵐、ってところだな―――


 作者より……


 ども〜作者です♪

 Life十三頁、いかがでしたでしょうか?


 章じゃないですけど、新学期早々盛りだくさんな内容でしたね。

 にわかにですけど、本編も盛り上がっていきそうな予感。


 そして飽きずに新キャラ登場!

 新学期編の新キャラ達は、ひとくせもふたクセもある連中ばっかり……のハズ!


 さてさて次回は、その新キャラ京香ちゃんが早速メイン。

 どんな感じで各キャラと絡むのか、期待しすぎない程度にご期待を。


 それではまた次回お会いしましょう!

 サラバ!(^_-)-☆by.ユウイチ

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