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僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です

勇者に“すべり止め”扱いされたので、全力で見捨ててやりました

掲載日:2026/03/17


「俺、お前のこと好きだよ」


魔王を倒した直後、勇者アベルはそう言った。


――ただし、その“相手”は、150歳のエルフだった。

 

魔王討伐は、激戦だった。


はぐれ魔族を束ねる魔王は強大で、狂気じみた魔力を持っていた。


だが、勇者アベル、エルフのシャンディ、そして私パンジー・マリーゴールドの三人が揃えば、敗れる相手ではなかった。


長い戦いの末、魔王は討たれ、はぐれ魔族も瓦解した。


世界は平和を取り戻した――はずだった。

 

「これで、俺はシャンディと一緒に暮らせるな」


満面の笑みでアベルはそう言った。


シャンディはきょとんとした表情で、


「……どういうこと?」


「どういうことって、好きだからだよ。好きな人と一緒にいたいだろ?」

 

――好き?

 

私はエルフ族のシャンディに常々違和感を感じていた。


シャンディは確かに美しい。


だが、どこか幼さが抜けない。


言動も、時々ちぐはぐで――

 

「アベルって、私のこと好きって……そういう意味で?」

 

シャンディが、不安そうに問いかける。


そして、ぽつりと続けた。

 

「里の長が言ってた。人族には気を付けろって。……人族は、幼児が好きだって」

 

――え?

 

空気が凍った。

 

詳しく聞けば、答えはすぐに出た。


エルフ族は一万年を生きる。

その中で、150年は――

 

人族で言えば、10歳にも満たない“幼児”だった。

 

「……は?」

 

アベルの顔から血の気が引く。

 

そういえば、思い当たる節はいくつもあった。


拗ね方。


笑い方。


無邪気な仕草。


あれは“あざとさ”ではなく――


ただの子供だったのだ。

 

「俺……そんなつもりじゃ……」

 

アベルは頭を抱えた。


さすがに、そこまでの趣味はなかったらしい。

 

「……帰ろう」

 

彼はそう呟いた。


逃げるように。

 

 

「そうだ。俺には幼なじみがいる」

 

唐突に、アベルが顔を上げた。


「リリっていうんだ。きっと俺のこと、待っててくれてる」

 

――その自信、どこから来るのかしら。

 

私は何も言わず、転移魔法を展開した。

 

 

トープ自治国、ケープルの村。


勇者アベルの生まれ故郷、そして幼なじみが待つ村。

 

そこにいたのは――

 

「え、アベル?」

 

見知らぬ男の隣で笑う、一人の女性だった。

 

「リリ……!」

 

駆け寄るアベル。


だが、彼女の表情は一瞬で冷えた。

 

「……はあ?」

 

そして、次の瞬間。

 

「どの面下げて来たのよ」

 

氷のような声が、突き刺さった。

 

「待っててくれって言っただろ!?」

 

「はあ!? あんた、私のことなんてとっくに忘れてたでしょ!」

 

周囲の視線が、一斉に集まる。


ざわり、と空気が揺れた。


ひそひそと囁く声が、あちこちから漏れ始める。

 

「……アベルだ」

「本当に帰ってきたのか……」

 

「昔は、リリとあんなに仲が良かったのにねえ」


「待ってるって言わせておいて、放ったらかしかい」

 

「聞いたことあるぞ、あいつ」


「旅の先で女をとっかえひっかえしてるって……」

 

「勇者様、って呼ばれてるらしいけど」


「中身はただの女たらしじゃないか」

 

「……子供の頃は、あんなに真っ直ぐな子だったのに」


「人って変わるもんだねえ……」

 

誰かが、ため息をついた。

 

「リリちゃんがかわいそうだ」


「ずっと待ってたのにね」


「……英雄様、ねえ」

 

その一言が、決定打だった。

 

アベルの顔が、みるみる歪む。


逃げ場は、どこにもない。

 

――ここには、もう“味方”はいなかった。

 

アベルの顔が歪む。

 

「それにね」

 

リリは一歩踏み出した。

 

「本命のきれいなエルフ族の女の人がいるの、知ってるのよ」

 

「っ……!」

 

「本命がいるのに、私に言い寄るなんて気持ち悪いのよ」

 

その本命が中身、幼児だなんて言い出せるわけがない。


完全に、終わった。

 

アベルは何も言い返せず、ただ立ち尽くす。

 

そのまま、逃げるように村を後にした。

 

 

――そして。

 

「パンジー」

 

沈んだ声で、アベルが言う。

 

「君、俺のこと好きだったよな?」

 

私は、黙っていた。

 

「俺もさ……実は、君のこと――」

 

そう言いながら、私に触れようとしてくる。

 

バチッ。

 

結界が、彼を弾いた。

 

「痛っ!?」

  

「ふざけないで」 

 

静かに、言い放つ。

 

「本命は幼児。幼なじみには捨てられて、それで次は私?」

 

一歩、踏み出す。

 

「――私はね」

「あなたの“すべり止め”じゃないの」 


アベルが、何か言おうとする。


だが、言葉にならない。

  

「私はね」

  

「“選ばれなかった女”じゃないの」

  

「“選ばない女”なのよ」

  

私は踵を返した。

 

転移魔法を発動する。

 

もう、この男に使う時間は一秒もない。

   

その後。

 

私パンジー・マリーゴールドはプラチナ帝国へ戻り、公爵当主として政務に復帰した。


28歳。世間では“行き遅れ”と呼ばれる年齢。

 

――だから何だというのか。

 

私は私の人生を選ぶ。

 

好きな魔法研究に没頭し、帝国でも指折りの魔導士として名を上げていった。

  

一方、勇者アベルは――

 

「幼児に手を出そうとした勇者」


「女を使い捨てにした男」

 

そんな噂が広まり、どこへ行っても相手にされなくなった。

 

かつて世界を救った英雄は、誰からも選ばれない男として、静かに落ちぶれていった。

 

――それでも。

 

私は一度も、振り返らなかった。

 


この話に登場した勇者アベル、リリ、パンジー・マリーゴールドは、シリーズ本編第1作目「僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1」の第4部、に登場します。

そこには、アベルとリリの別れの様子や、勇者アベルとパンジー・マリーゴールドの出会いが書かれています。

気になった方は是非、ご一読ください。

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