兄
シーアお姉さまのところに長いすることは少ない。
基本的には朝の電車で向かい、夜の電車に乗り、その次の日の朝に帰ってくるのが常だった。
「……帰っていたのか」
「父上」
朝、何時ものように王都から帰ってきた僕を出迎えたのは父上だった。
恐らく、向こうはこれから仕事の為、外出しようという時だった。
「また、シーアのところか?」
「はい」
「……ふぅ、あいつにも困ったものだ。何時までも土塊に構いおって」
「……」
実の息子を土塊呼ばわり。
相も変わらず、冷たい父親である。まぁ、この家に居させてもらっているだけありがたいんだけどね。別に父上は僕のことをこの家に置き続けたいとは思っていないだろうけど。
シーアお姉さまのおかげで未だ居させてもらっているところがある。
「それでも、シーアお姉さまは優秀ですから」
「まぁ、そうだな。あの子は優秀だ。それに免じ、何も言わん。お前とて、邪魔はするなよ?」
「もちろんです」
「……昔からお前はそれだ。悪くない。聞き分けが良すぎる子供というのも不気味なものだな。不足がなく、家から追い出せる口実がない」
「……父上?」
いや、僕が粗相をした瞬間、それを理由に追放しようとしていたことは知っていますよ?
でも、それを僕に向かって言っていいんですが?こちとら、これからもしがみつく気マンマンですが。
「気にするな。こちらの話よ。お前、商売をしているのだろう?」
「えぇ、ありがたいことにウィルアード侯爵家の名前を使わせていただいております」
「好評だ。悪くない。今後も努力せよ」
「御意に」
わぁー、父上から認められたよー。
何か因縁をつけて追放する相手から、居て損にもならん程度の相手になったよ。
僕が内心で喜んでいる間にもさっさと言うべきことを終えた父上はこちらへと背を向け、屋敷の正門に停めてあった馬車の中へと乗り込んでしまう。
「いってらっしゃいませ」
それを見送った後、僕は気持ちを切り替えて自分の部屋に戻ろうと無駄に広い屋敷の中庭を歩く。
「……んっ」
その途中、自分の方へと一つの石が飛んでくる。
「……リュークお兄様」
それを一歩下がることで回避した僕は石が飛んできた方向に視線を向ける。
「ハッ。避けるなよ、土塊が」
そこに立っているのは僕よりも少し背が高く、見た目も似ている少年。ウィルアード侯爵家の次男、リュークお兄様だった。
その手には先ほど投げてきたのとはまた別の石ころが一つ、握られていた。
「大人しく打ちのめされていろや。生意気だぜ」
「……もう少し、大人になって欲しいところですけどね」
既にお兄様は十三歳。
前世で言うところの中学生だ。そろそろ大人って欲しいところ……何だけど、まぁ、でも、中学生なんてこんなものか。
「ァ?……土塊風情が、俺に口答えしていいと思っているのかッ!」
「申し訳ありません」
「ちっ」
素直に頭を下げる僕に対し、リュークお兄様は舌打ちをつく。
「……さっき、父上に話しかけられ、有頂天か?えぇ?」
「いえ、そんなことありません。父上はいつも通りですから」
「ハッ。あったりまえだろっ。土属性を持って生まれた劣等種に意味なんてないんだよっ!」
リュークお兄様が腕を振るえば風魔法が発動し、風の刃が僕の頬を薄皮一枚、斬り裂いていく。
「これが魔法だ。貴族の力だ。お前にはない……本来あるべき貴族の力だっ」
「流石です」
リュークお兄様の魔法の腕は悪くない。
だけど、シーアお姉さまの方が上だ。僕に大怪我を負わせると、シーアお姉さまがブチ切れるので、目立つような傷はつけない。
だからこそ、ただ黙って立っておくのが一番だ。
僕の精神年齢は前世も合わせると三十を超えてくる。流石に中学生の行いでブチ切れることない。
「ちっ……スカしやがって」
大人しく黙っておけば終わりだ。
このやり取りは長く続かない。
「リューク様」
いつものように、大慌てな様子で使用人が僕たちの方へと駆け寄ってくる。
「リューク様、授業の時間にございます」
「ちっ……」
そして、その使用人が告げる言葉にリュークお兄様は舌打ちを打ち、此方には何も言わず、背中を向ける。
「面倒くせぇ」
リュークお兄様はそのまま大人しく屋敷の方へと戻っていく。
「……失礼いたします」
駆けつけてきた使用人も少し、僕へと頭を下げた後にリュークお兄様の方を追いかける。
これがいつもの光景。
「シーアお姉さま様々だね」
シーアお姉さまは王都に引っ越す前から、僕が虐められている光景を目にすれば使用人へと止めに入るよう厳命してくれている。
これでもあの人は不満そうだったが、これだけで十分も十分だ。
いじめを完全になくすのは無理だからね。
父上が僕を土塊と呼んで憚らないし、それに影響されて長男だってリュークお兄様と同様、僕のことを遠慮なく見下している。
僕を庇うのは家族でシーアお姉さまだけ。男尊女卑もあるこの世界でシーアお姉さまの意見を強く通すのは無理だ。庇うので精一杯なのだ。
「それがあるのとないのとでは全然違うから、やっぱりシーアお姉さまは偉大だよ」
あの人の過保護にはうんざりすることも多いが、圧倒的に助かっていることも多かった。
だからこそ、ずっと僕に構っているのではなく、いい人と結婚して、幸せになって欲しいんだけど。
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