姉
「……あっ、串焼きの匂い」
ローレンが店番を勤めている僕の店からシーアお姉さまのいるウィルアード侯爵家が王都に所有する屋敷までは歩くと地味に時間がかかる。
僕はゆっくり買い歩きなんかもしながら、屋敷へと向かっていく。
「それにしても、相変わらず裏は酷いな」
表の街道を見れば、そこには王都らしく煌びやかな街並みが広がっている。
だが、裏の方に目を向ければ資本主義の工業化の波に巻き込まれ、悲惨な労働環境で過労に苦しんでいる労働者の最低限の生活がある。
産業革命時のロンドンそのまま。共産主義の台頭待ったなしだ。
「未だ強力な貴族制であるのが信じられないね」
そんな文化圏。文明レベルだというのに、この世界では一切革命の予兆はなく、民主主義の『み』の字もなく、王政の国しかなかった。
「……魔法は偉大やなぁ」
これもすべては魔法の影響だ。
王侯貴族が使える強大な魔法の数々は絶対的なアドバンテージを貴族に与え、革命を起こす余地を限りなくゼロにまで削っているのだ。
「こんなところにいた!」
「おわっ」
街を歩きながら悠長に前世との相違点を見ていた僕の耳にいきなり大声が届いてくると同時に、背後から持ち上げられる。
「……シーアお姉さま」
一瞬足をばたつかせて困惑の表情を浮かべた僕だが、すぐに自分を持ち上げた人物に気づき、彼女の名を呼ぶ。
「遅いわよ!」
顔をあげれば、此方を見下ろしている成長しているシーアお姉さまのお顔があった。
十二歳になっても成長が伸びず、何時までもチビな僕とは違い、十五歳となったお姉さまは女子にしては珍しいくらいの長身になっていた。
シーアお姉さまが僕を持ち上げた上で、その顔を見る為に僕が上を見上げる必要があるくらいの身長差なのだ。
「落ちこぼれの貴方を私が呼んであげたのよ?すべてを犠牲にしてでも来るべきじゃない!」
「僕は僕でやることがあるかぁ~」
不満たらたら。
信じられないとばかりの表情で僕を見下ろしているシーアお姉さまに対し、冷静な言葉を返す。
「結構忙しいんだよ?自分がやっている商売。これからどんどん大きくしようとしているところだから」
「そんなのやる必要はないわよ!私が一生面倒見てあげるわよ!弟の面倒を見るのは姉の仕事だもの!」
「いや、そういうわけにもいかさいさ」
シーアお姉さまは昔から何故か僕に過保護なんだよなぁ……普通にシーアお姉さまもいつかは結婚するだろうし、落ちこぼれの弟にずっと構っていられなくなるだろう。
「何を言っているの!土属性を持って生まれた貴方が普通の人間になれるわけないじゃない。大人しくお姉ちゃんに守られていなさい?」
「……いや、そこまで言う?」
「そこまでよ!」
何とも力強い宣言だ。
このシーアお姉さまの歪みっぷりは何とかならないだろうか?ブラコン直してくれ。ついでに、僕を見下すのも。庇護対象過ぎるよ、僕。
「まぁ、今はこれくらいで許してあげるわ。さっ、さっさと屋敷に帰るわよ」
不満を持つ僕に対し、シーアお姉さまは上機嫌で歩き出す───僕を抱えたまま。
「……いや、降ろして欲しいんだけど?」
「ん?」
普通に周りから見られて恥ずかしんだけど……そんな、僕の至極当然の不満はシーアお姉さまからは黙殺され、そのままドナドナと運ばれていった。
ご覧いただきありがとうございました。
ここより少しスクロールして広告の下にある『☆☆☆☆☆』から評価することが可能です。
ブクマ登録、いいねも合わせて評価していただけると幸いです。
また、感想は作品を作る上での大きなモチベとなります。
感想の方もお待ちしておりますので、気軽にお願いします。




