王都
ガタンガタンと揺れる音。
鉄同士の擦れる音に火花の散る音。キキーっという甲高い音の後、僕の体に働いていた慣性力が止まる。
「うぅーん……蒸気機関車も中々乙なものだね」
プシューという蒸気の上がる音を聞きながら僕は、乗っていた蒸気機関車から駅のホームへと降り立つ。
僕は自分の生まれた家であるウィルアード侯爵領からルノア王国の王都、ベルンを繋ぐ鉄道に乗ってきたのだ。
異世界と言えば何となく中世くらいの文化レベルを想像してしまうのだが、この世界の文明レベルはかなり高い。産業革命は既に達成され、人口爆発も起きている真っ最中だった。
資本主義の過渡期も過渡期で未だ貴族制が維持されていることに違和感を覚えるくらいの社会だった。
「……えーっと、シーアお姉さまへと会う前にあそこ行かないとな」
そんな異世界で過ごすこと十二年。
早いことで僕はもう十二歳になっていた。
「ノア様、お待ちしておりました」
「ん?」
僕が目的地に向かって歩き出そうとしたところで、自分の背後から声をかけられる。
「あぁ、爺やか」
振り返れば、そこにいたのはウィルアード侯爵家に昔から仕えている執事の爺やだった。
「お久しぶりにございます」
「言うほど久しぶりじゃないでしょ。先週も来たよ」
「一週間というのも長いものですよ。シーア様がお待ちです。お屋敷までご案内いたします」
二年ほど前からシーアお姉さまは王都にある屋敷へと引っ越し、そこでお仕事していた。
爺やはその付き添いだ。
「いや、シーアお姉さまに会うよりも前に僕はちょっと寄りたいところがあるんだけど」
「そうですか。ですが、シーア様からは早く屋敷に連れてくるよう言われているのです」
「先週も会いに行っているし、そんな急ぐ必要もないでしょ」
そんなシーアお姉さまに呼び出される形で何故か僕も定期的に王都へとやってきていた。
土属性を持って生まれた僕はちょっとウィルアード侯爵家に居場所がない。落ちこぼれのいない者扱いしてくる家にいるよりも、構ってくれるシーアお姉さまの元に呼び出されるのは結構助かっていた。
とはいえ、毎週毎週呼ばれているのは流石に面倒だけど。
「待つように伝言をお願い。シーアお姉さまだって仕事があるでしょ」
「いえ、本日は休暇を取っておられますが」
「あら?そうなの。でも、やること自体は多いでしょ。それじゃあ、僕は寄り道しているから、先に戻っていて」
爺やに頼みごとをした後、僕は一人でさっさと歩きだす。
「おいーっす。やっている?」
舗装された道を歩いてきた僕は1つのお店へと入っていく。
「おぉー!ノア様。お待ちしておりました」
お店に入るなり店番をしていた男が大慌てでこちらへと近づいてくる。
「商売の調子はどうかな?」
「順調にございます。売れ行きはバッチリ。目新しい料理の数々がしっかりお客様の御心を掴んでおりますよ」
「それならよかった」
やってきたこのお店は僕が前世の知識を活用した料理を形にし、運営している飲食店だった。
文明レベルは上がっている。
だが、それが食にも適応されているかと言われれば、微妙みたいなところがあったこの世界。僕の知識を元にしたそれまであった伝統は一線を画す新しい料理の数々は新しい流行として市井から受け入れられていた。
「素晴らしいね。その言葉を聞けて良かったよ。僕の自信につながる」
そんなお店の店番を任せた男、ローレンと言葉を交わしながら僕は店の奥へと引っ込んでいく。
「どう?他国への展開も行けそうかな?」
「十分可能でしょう。国外のお客様も多いですから」
「そりゃいい。出来れば、新大陸の方にまで進出したいね」
「新大陸ですか?あんなところに?」
「あの国はデカくなるよ。間違いなくね。まぁ、今はまだ国内の店舗を増やすところからだね」
「えぇ。そもそもとして、海外進出するのであれば、ジャガイモ以外の料理を色々と考えなくてはいけませんしね」
「……この国。マジでジャガイモしかないからなぁ」
ルノア王国。
前世で言うところのドイツ帝国感がある。採れる作物がジャガイモばかりなところが特に。
「あぁ、そうでした。ノア様が前々から言っておられた方との面会の約束を取り付けられましたよ」
「……ほんと?流石だよ。後で会いに行く」
商人としての活動。
それは僕が二年前から進めていることだった。今のところ、僕を家から追い出そうと父上はしていないが、何時その姿勢を変えてもおかしくない。
いざという時の為に僕は色々と商売の方にも手広く手を広げていた。
僕には前世の知識というアドバンテージがあるが、それを活用させるのは思ったよりも難しい。普通にこの世界の文明レベルが発展し過ぎていて、大して僕の知識が役に立たないのだ。
表面しか知らないことばかり。好きだった料理くらいしか今のところいかせてはいない。
「気を付けてくださいね?相手は死の商人です」
「わかっているよ」
どちらかというと、今の僕の強みになっているのは純粋に貴族の子という肩書だった。
その肩書目当てで近づいてくる商人の方と仲良くなり、商売を進める。それが僕の基本的な進め方だった。
「じゃあ、僕はシーアお姉さまに呼ばれているから、また後で」
「はい。お待ちしています」
「うん。それじゃあ、任せた」
最低限の、しなきゃいけない確認作業を終えた僕は再び街に出る。
「……はぁ」
そして、僕は最後のローレンとのやり取りを思い出してため息を吐く。
死の商人。つまりは、武器商人だ。この世界で、商売を通して成り上がるなら今、一番ホットなのが武器商人だ。だからこそ、僕も死の商人と近づくことを選んだ。
……。
…………だが、それにあまり気乗りしていない自分がいることも事実だった。
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