転生
「土属性……ハズレか」
僕を産んだ母の苦しみの声。自分の口から勝手に出ていく泣き声。産婆さんの安堵の息。
数多くの声が僕の耳に入ってくる中、少し離れたところに立ち、モノクルに手を置いている父の言葉を僕は今でも覚えている。
「この子は駄目だな。生まれた持った魔力属性が土では誉ある魔法使いにはならん。ハズレの子だ」
父の落胆の声と失望の視線。
生まれたばかりの子に向けるその視線を、僕は強く覚えていた。
……。
…………。
僕が生まれたから五年。
「んまぁー、それは別に僕の心に深い傷として残るわけじゃないんだけどねっ」
五年の月日が経っても覚えている父の失望を回想し、僕は軽く笑い飛ばす。
生まれたその日より父親から落ちこぼれのハズレ扱いされるなんて普通の子どもであれば病んでしまってもおかしくない状況。
だけど、僕は普通の子どもじゃなかった。
五年前。生まれた時の記憶を明確に覚えているのにはちゃんと理由がある。
僕は転生者なのだ。現代日本で二十歳まで生きた記憶を持つ転生者。前世の記憶として両親から愛されて育ち、大学教育を半分は受けて恵まれた人間であるという自負がある。
何と言うか、あの人たちの子どもとして生まれておきながら申し訳ないが、まだ僕はこの世界の人間として自分を見られていないところがある。
だからこそ、実の父から失望されていようともあまり気にならなかった。
僕が生まれた家は貴族の家系でお金持ち。
ハズレの烙印を押されようとも、家族の一員として裕福な暮らしを送れているしね。
「美味しっ」
僕に与えられた広い一室。
窓辺の席に座り、ティーセットを広げる僕はクッキーを口に頬張る。親からの過度な干渉もなく、自由にのびのびと生活出来ている。
今の待遇に僕はあまり不満がなかった。
「ノアッ」
庭師が綺麗に整えてくれている庭をほんわか眺めながらティータイムを楽しんでいた僕の名前が呼ばれると共に、部屋の扉が勢いよく開けられる。
「シーアお姉さま」
ずかずかと僕の部屋の中に入ってくるのは一人の少女。年齢は僕より三つ上の八歳。僕と同じ白い髪を腰にまで伸ばし、赤い瞳を輝かせる可愛らしい少女だ。
彼女の名前はシーア。ルノア王国が重鎮、ウィルアード侯爵家の長女であり、僕の姉だった。僕はウィルアード家の三男。
我が家は四人兄弟の大家族だった。
「今日も独りぼっちの貴方のところにこの炎属性持ちの天才児たるシーアちゃんが遊びに来てあげたわよ!」
「魔法の授業帰りですか?」
僕はティーポットを手に取り、自分の対面の席に置いていたカップへと紅茶を注ぐ。
「えぇ、そうよ!」
シーアお姉さまは僕の言葉に頷くと共に、対面の席へと躊躇なく座って紅茶を勢いよく胃の中へと注ぎ込む。
「土属性を持って生まれた貴方とは違って、お父様から期待されているからね!ハズレの貴方とは違うのよ!」
僕が生まれたこの世界は日本とはまるで違う異世界だった。
この世界の特色として、最も大きいのが魔法の存在だろう。
魔法とは、生命であれば必ず持っている魔力でもって発動する奇跡の力だった。
そんな魔法にも種類があり、誰でも使うことの出来る無属性魔法。そして、生まれ持った時から持っている属性に由来する属性魔法とある。
魔法の属性は火、水、土、風の四つだけ。四大属性と呼ばれるこの属性のうち、土属性の魔法は不遇の属性。これを持っているだけで落ちこぼれ扱いされるような属性だった。
「えぇ、僕の代わりに何時もシーアお姉さまは頑張っていますね。本当に凄いと思いますよ」
「ふふんっ!」
僕の前で胸を張って威張り散らかすお姉さまを僕は優しい笑顔で見つめる。
遠慮なくこちらのことを見下し、生意気なことこの上ないが、まだ八歳の少女。年齢は三つも上な姉であるわけだが、僕の精神年齢も加味すると姪っ子のような存在。
この生意気な態度も含め、可愛い子だった。
「貴方はちっさくて弱っちからね!貴方を守れるくらいに強くなってあげているのよ!感謝なさい!」
「ふふっ、ありがとうございます」
彼女なりに僕を弟として愛してあげようという優しさを持っているのも好ポイントだ。
まぁ、ナチュラルに見下してきているのはどうかと思うが、それがこの世界のスタンダードなのだし、気にしなくてもいい。
「今日の授業はどうでしたか?」
「そーね!今日の先生は駄目だったわ!うるさいだけよ!」
「あら、そうでした?」
「あぁ、そうね!でも、魔力の育て方についてだけはちょっとだけ役に立ったわね」
「魔力の育て方?」
「えぇ、かなり特殊なやり方だったわよ?何でも、魔力を全身で循環させているだけで魔力が増えるんだそうよ?魔法を使えば使うほど魔力が増える。っていうのは一般的だけど……魔法を使わず、循環だけでいいなんて中々に良い話だと思ったわ。まぁ、でもあの先生は胡散臭い人だったし、何処まで正しいかはわからないけど」
「(……へぇー、そんな技術があるんだ。後で試してみよ)」
まだ五歳の落ちこぼれ。
僕に父親はまともな教育を施そうとしていない。そんな中で、シーアお姉さまが伝えてくれる魔法の情報は僕が魔法を学ぶ上で重要な情報だった。
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