出現者
小説は初めて書きます。異世界ジャンルには疎いです。
青々とした快晴の空の下、熱された砂の上、竜舌蘭に類似した形状の奇妙な色合いをした植物の横で男は目を覚ました。男は空、砂、植物、6時12分を示したまま役目を終えてしまった見慣れた腕時計、撚れた没個性的なシャツ、これまた没個性的なズボン、片方のみの革靴、植物、砂、空に目をやったあと、ここに至るまでの記憶を呼び起こそうとしたが二つの光、耳を劈く不快な音の群れ、経験のない破壊的な衝撃以外思い出せるものはなく、しかたがないので立ち上がり周りを見渡したが目新しいものは見当たらなかった。乾いた空気を吸い、男は当てもなく歩き始めた。
歩き始めてしばらく経つと男は自身の置かれた状況について整理し始めた。男が今いる場所は以前暮らしていたところとは全く異なっており、目の前には本やテレビなどでしか見たことのないような風景が広がっていた。男がこのような場所に抱いていた印象よりは格段に気温が低く、以前暮らしていた場所でのおおよそ人が生活できるとは思えない夏よりずっと快適だった。とはいえ頭上より降り注ぐ光から男の身を守るものは何一つ見当たらず、雨の兆候も、川や湖との感動的な邂逅にも期待できないためこの快適さが失われるのは時間の問題だった。あたりに生えている唯一の植物(竜舌蘭もどき)からわずかな水でも得れないかと考えたが、馴染みのない色合いの植物に触れたあとのことを想像し、やめることにした。現状を何一つ変えることのできない無駄な状況整理を終えた男は自身のうちに以前の暮らしに対する渇望や郷愁といった感情が一切湧き出なかったことに気づいたが、そういった感情が湧くほど良い経験もしなかったため当然だろうと一人納得した。
歩き始めたどれほど経ったかわからないが男は初めてぽつぽつと聳え立つ巨大な、葉のない木々を発見した。男はひどい疲労感に包まれていたため腰を下ろし、背中を木にもたれさせた。全身の疲労が大地に流れるような感覚を覚え、深く息を吐き、遠く景色に目をやるとあるものが目に入った。それは馬にしては巨躯だが確実に生物と認めることはできるものに乗っている黒々とした襤褸を纏った集団だった。次の瞬間、男は自身の左肩に矢のような細長い針が刺さっていることに気づいた。それはほのかなオレンジ色を帯び、複雑な模様が蠢いていた。男の肩に焼けるような苛烈な痛みが押し寄せ、咄嗟に針を引き抜こうとした。男の手が触れる直前に針が発するオレンジ色が煌煌とした輝きに変わり、音も立てずに爆発を起こし、男の肉体を破壊した。複数に分裂した男だったものは光にさらされ美しい光沢を放ちながら落下し、大地を赤に染め上げた。集団はその様子を何の気なしに眺めていた。そして一言二言言葉を交わし、姿を消した。