婚約者の完璧貴公子が私しか見つめない理由
私の婚約者は、私しか見つめない。
「カロン様、今日も素敵ですわ!」
「カロン様こっち向いてー!!!」
「かっこいいですカロン様!」
貴族子女が揃って参加するパーティーにて。
きゃあきゃあと上がる令嬢たちの黄色い声の方は振り向きもせず、まっすぐに柔らかな笑顔を向けてくださる。
一寸の乱れもない整った顔面でそんな表情をされると破壊力がすごい。思わず赤面し、あわあわと唇を震わせてしまう私に、婚約者様はますます笑みを深めた。
「ベレニスは照れ屋さんだね。可愛い。世界で一番可愛いよ」
言動までイケメンである。
さすがは完璧貴公子と呼ばれる方だ。
まず、王弟殿下である公爵のご子息だから、私の婚約者様は現在王子のいないこの国において最も地位の高い貴公子と言える。さらには容姿は理想そのもの。煌めく金の髪、海より深い青の瞳、白い肌、剣術を嗜んで鍛え上げた逞しい肉体にときめかない乙女はいないだろう。貴族学園の成績は常に一位、それでいてご自分の優秀さを鼻にかけることなく誰にでも優しい。
そして私に対しては特別に激甘だった。
それが私だからなのか、婚約関係を平穏に保つためなのかは、わからないけれど。
私には彼と釣り合う魅力がない。
可愛らしいと言われる部類の顔立ちはしているが、婚約者様の美貌の前ではどうしても見劣りする。頭だって良い方かと言うとそうでもない。唯一、身分だけは隣国の王家出身なので私の方が上だろうか。
私より好条件な女性なんて探せばいくらでもいる。探すまでもなく、今まで熱烈に私の婚約者様を欲した者は多くいた。
例えば、この国の麗しき姫君。「ワタクシこそがカロン様の伴侶に相応しいのよ」などと豪語していた。
例えば、才女と名高い留学生。何でもないような風を装って私の婚約者様へ急接近した。
例えば、学園に編入してきた平民上がりの男爵令嬢。持ち前の愛嬌で多くの貴公子を虜にし、婚約者様にもしきりに擦り寄っていた。
婚約者様は彼女らを無下にせず、彼女らが発する恋慕の言葉を受け止めた上で、一言。
『将来を誓っている相手がいるから、すまない』と必ず断る。必ずだ。
しかも絶対に視線を交わさない。目を合わす価値もないとでもいうように。
近くで彼を見ていた私としては、そこまでする意味が理解できなかった。
姫君はフラれたことに逆上して問題を起こし退学、留学生は実は他国からの間者だったと判明して投獄、男爵令嬢は痴話喧嘩に巻き込まれて命を落とすこととなったため、結果的には良かったのだろう。
そうして私たちの婚約はすでに十年以上続いている。
故にこそ、私はいつも申し訳なく思ってしまうのだ。
婚約者様を縛り付けているのではないか、と。
互いに十八歳を迎え、結婚が目前に迫ったこの頃、ますます不安は大きくなっていくばかり。
――だから、思い切って単刀直入、訊いてみることにした。
「どうして、私以外を目に入れないのですか? 私たちはあくまで政略的な婚約関係です。私の祖国とこの国を繋ぐ架け橋となる。それ以上でも以下でもありませんのに」
婚約者様は、驚いたように目をぱちくりとして。
それから「決まっているだろう?」と笑った。
「貴女がそれを望んだからだよ、ベレニス」
「私が望んだ……?」
「おや、覚えていないのか」
婚約者様曰く。
婚約してからまだ日が浅い頃のこと、婚約お披露目の催しに二人で出席した際、私が機嫌を悪くしたのだという。
ずっとエスコートしていたし、周囲の視線からも護っていたから不機嫌になる原因が婚約者様には思い至らなかった。パーティーが終わったあと、私は頬を膨らませながら言ったらしい。
『挨拶の時、他のお嬢様のこと、見てたでしょ。私の婚約者様なんだから私だけを見てほしい……』
多分、そんな風に口にしたのは不安だったせい。
婚約のために隣国からやって来て間もない頃だ。頼れるのは婚約者様しかおらず、それ故に独り占めしたかったに違いない。言ってしまえば子供らしいわがままだ。
婚約者様は嫌がることなく、快く頷いた。
まさか、十年経ってもそんなわがままを聞き続けてくれているなんて。
言われてみればうっすらとその時の記憶が残っているが、ほんのうっすらで、言われなければ絶対に思い出さなかったくらいなのに。
「もしかして僕がどれだけベレニスを大事に想っているか、まだ伝わっていないのかな」
「だって、私は大した取り柄がないし……」
「僕はねベレニス。君の存在そのものが、君の髪も瞳も声も匂いも性格も君が発した言葉も君が着たドレスも君の身につけているものも全てが大好きでたまらないんだよ。許されるなら朝から晩までずっと眺めて、近くで触れ合っていたい。一目惚れして以降、見れば見るほど愛しさが増す一方だ」
早口でとんでもないことを告げられた気がする。
思っていたより、私の婚約者様は本気だったのかも知れない。
「改めてしっかりと、教え込まなければいけないらしいね」
私を見つめる婚約者様の青い双眸は、静かな狂気を秘めているように見えた。
声にならない悲鳴を上げるが、もう遅い。
そのあと数時間、唇を奪われ耳を舐められ抱きしめられ、婚前に許されるギリギリまでぐずぐずに愛されることになったのだった――。
お読みいただきありがとうございました!
実は激重なヒーローっていいですよね。
他にも愛が重いヒーローの短編を投稿しています。
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「今度こそ君を守る」と聖騎士様が溺愛してきます。……私、あなたの名前も知らないんですが?
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