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人外婚ブーム

作者: 雉白書屋

 結婚率の低下により、生涯独身が新たな社会的スタンダードになりつつある時代。その余波として、さまざまな社会問題が浮上していたが、その中でも奇妙なトレンドが急速に広がりつつあった。


 それは『人間以外のパートナーとの結婚』である。


 人間以外のパートナーとは何か? ある男性は人形と結婚し、ある男性はヤギと、またある別の者はアニメのキャラクターと結婚。さらには洗濯機などの家電と結婚する者まで現れた。結婚の決め手は「自分に尽くしてくれるところ」。理想の旦那は『ATM』だと言う女もいる時代だ。これはさほど奇妙な話ではないのかもしれない。

「いやいや、何を馬鹿なことを……」と思うかもしれないが、「多様性を認めろ!」と声高に叫ばれる今の社会では、こうした流れが一気に加速した。業績低迷にあえぐウェディング業界もこれを後押しし、人外との結婚式が次々と行われ、その様子が連日ニュースで取り上げられ、世間の注目を集めていた。

 この流行は止まることを知らず、まるで新しいファッションアイテムのように広がり続けた。『恋』や『愛』は映画やドラマの題材として消費され続けていたが、その本質を理解する人は多くない。特に若者の中には、物欲と恋愛欲を取り違える者が少なくなかった。


 もちろん、同性婚すら認めていない政府が、人外婚を公式に認めるはずもない。ある記者会見で「政府は人外婚を認めるのか」と問われた官房長官は、その質問を一笑に付した。皮肉めいたジョークと思ったのかもしれない。

 だが、『常識』や『現実的』という枠に縛られない人々は増え続けた。ある者は冷蔵庫と、ある者は食洗機、ロボット掃除機、ぬいぐるみ、さらには電子タバコやバイブといった次第に手軽に持ち運べる『パートナー』との軽薄な結婚が流行の中心となっていった。

 この動きは一国に留まらず、やがて世界に広がり、ある国では国家元首がAIと結婚し、国民から心から祝福された。

 人間同士の結婚は、困難な現実に直面するたびに厄介な問題を抱え、結婚生活が面倒臭いだけの義務に変わることが多い。それに比べ、人外との結婚生活は、こちらからぶつかりに行かなければ衝突することはない。自由恋愛を夢見ていた昔の人々にとって、こうした現象はどこか夢見がちな未来を象徴しているように見えた。

 しかし、これらの結婚式や生活は、まるでままごと遊び。社会全体が老齢化し、幼児退行を起こしていると指摘する声も少なくなかった。こんなことをしても現実の厳しさから逃れられるわけではないと知りながら、あえて目を逸らし、狂ったように踊り続けているのだ、と。

 健やかなるときも、病めるときも。……病めるときも病めるときも病めるときも、病めるときばかりの病んだ社会。悪化する地球環境。経済不振、戦争、暴動、凶悪犯罪の頻発、不倫、すべての問題は流れ落ちる水のように、人々の心を蝕んでいった。 

 新型ウイルスの流行が始まると、空気清浄機や抗ウイルスマスク、抗菌手袋、防護服との結婚が最後のブームとなり、人外婚の熱は他の流行と同じように、いつの間にか静かに終焉を迎えた。絶望的な現実の前で、人々はついに笑うことすら忘れてしまったのだった。


 だが――。



「あ、あの、どうもこんにちは、ワタシ、この星のテレビニュースで、異種族婚が流行っていると知りまして、ははは、もしよろしければ、結婚とかどうかなと。あっ、申し遅れましたが、ワタシ、ウエディングプランナーでして。いやあ、うちの星は独身の方が多いんですよ。いろいろと支援もできると思うのですが、どうでしょう?」


 ブームは遠くへ届き、そして忘れた頃にまたやってくるのだ。

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