決断
ゴーチン。それが彼の巨根に名付けられた愛称である。
私の思いを飲み込んだゴードンは、何も言わずにゴーチンを私の前に突き出した。
すっかり色を失ってしまったゴーチン。
天に向かってそびえ勃っていた、あの溢れんばかりの生命力は皆無だった。
でも、ゴーチンであることに変わりはない。
私を快楽の深海にまで連れて行ってくれた、ゴーチン。
私は口を大きく開き、縮んで変色したゴーチンにかぶりつく。
だが味わう間もなく、ゴーチンは私の口の中で砂粒のように粉々に溶けた。
「げっほっ‼ ぅげっほぉっ‼」
たまらず私は吐きだした
私の唾液が混ざった粒状のゴーチンは、さらに細かく分解されて、やがて私の肉眼から消失した。
そして、止まっていた涙が一気に溢れ出てきた。
ゴーチンっ。
私のゴーチンっ。
ゴーチンなしじゃ私は生きられない。
ゴーチンなしじゃ私はイケない。
じゃあ、私はこれからどうすればいいの?
闇に沈んだ未来に絶望する私を、ゴードンが上から優しく抱きしめる。
ゴードンは何も言わない。
無言の優しさ。
それがもっと私を悲しませた。
「カオリっ、カオリっ‼」
私の号泣は、窓の外から聞こえる呼び声によって止まった。
誰だろう。
深く考えず頭を出したのが運の尽きだった。
私の夫が、目の色変えて私を呼びつけていた。
おいカオリっ‼ お前の隣にいる男は誰だっ‼
私はすぐに窓の下に身を潜めて縮こまった。
どうして? どうしているの?
出てこいカオリっ‼ 俺は全部見たんだぞっ‼
夫は出張中のはず。なのに、どうして。
冷や汗の止まらない頭を抱えて、私は狼狽える。
お前は俺が出張しているとでも思っているんだろ。
嘘だよ、何もかも。
出張なんて嘘だ。お前を見張るための罠だったんだよ!
そう。そうだったんだ。
じゃあ、何もかも見抜かれていたってことなんだ。
上手く隠し通せたと、私、思い上がっていたんだ。
ふざけるなよクソ女っ‼
俺が、どれだけお前に尽くしてやったのかわかってんのかよっ‼
クソ女。彼の口からそんな乱暴な言葉を引き出してしまうなんて。
ああ、私ってば、本当に罪深い女ね。
夫の声は、絶望の静寂の中でけたたましくこだましていた。
耳を塞がず、遮らず、私は夫の怒声を一から十まで聞きとおした。
その一方で、私から未来を、自由を、「真実の愛」を奪った絶望が着々と膨らみ続ける。
そして、谷折りになった紙面同士がぴったり縁を合わせてくっつくように、夫の怒声と私の絶望が、美しい落としどころに折り合いをつけた。
「ねえ、ゴードン。もう一つお願いがあるんだけど、いいかな」
「ああ。なんでも言いなよ」
「私に噛みついて」