釈放
ともかく、夜は凄まじいスピードで過ぎ去っていった。
一時間が一分に、一分が一秒に感じられるようだった。
気付けばもう朝の5時。
日はとっくに出ている。
最後の一戦を終えた私たちは、呼吸を整えてから、窓際に並んだ。
私は後ろを振り返る。
脱ぎ捨てられた衣服。
汗と体液でぐちゃぐちゃになったベッドシーツ。
無造作に捨て散らかるコンドーム。
使い切ったオイルの瓶。
狂乱しようと途中で飲みまくった缶ビールの残骸。
それらは私たちを閉じ込めていた監獄の全てであり、「真実の愛」だと言い聞かせていた夢の跡地だった。
「カオリ、僕、緊張してきた。クリーム、落ちてないかな」
ゴードンが今更子供じみた不安を言ってくるから、私はちょっと拍子抜けして笑った。
「大丈夫だよ。途中で何度か上塗りしたんだから」
「ああ、そうだよね」
私は窓に向き直る。
左右のカーテンの隙間に、私は指を入れる。
いよいよだ。
私たちは夜の監獄から釈放されて、自由な世界へと歩み出し、本当の「真実の愛」を手に入れるんだ。
ごくりと唾を一飲みして、私は一気に腕を振りぬいた。
「うっ……」
朝の光が、想像を絶するまばゆさで私たちを差し込んでくる。
私は思わず目をつむった。
瞼の裏で、一瞬の内に焼き付いた白光がチカチカと点滅する。
痛みすらあった。
でもだんだんと和らいでいって、恐る恐る瞼を開いていった時、天罰のように私たちを差した朝の光は、今や生まれたての赤子をくるむ羽毛のように、私たちを優しく包んでいた。
見えた。
私は確信した。
これが、真実の愛なんだ。
すると、瞬く間に私の目から涙があふれ出した。
止めようと思って顔をしかめても、涙はとめどなくあふれ出す。
むせるように嗚咽を漏らす。
「やったっ、やったよっ、ゴードンっ。私たちっ、ようやくっ、真実の愛をっ」
その時、耳の奥が潰れるような叫びが、私の体を凍てつかせた。