表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

禁断の始まり

「んっ……」

 

 不意に、ゴードンの唇が私の唇と重なった。

 背徳感の真っ只中に飛び込んできた、生温かく情熱的な口づけ。

 その失楽園を包むように、ほんのりと、だが危険を孕んだワインの香りが漂う。

 彼は私を抱く。

 私はもっと彼を抱きしめる。

 強く、美しく、破壊的に。


「はぁ……、カオリ……」

 

 紅の瞳をつぶらに開いて、夢うつつな吐息交じりにささやく。

 彼の顔は赤らんでいた。

 ワインのせいじゃない、官能的な紅潮。

 その紅潮は、私も同じだった。


「ゴードン、私、もう……」


 うねり始める体の熱に、私の意識は朦朧と浮かされる。

 彼は、そんな私の顔に、そっと手を添える。


「僕もだよ、カオリ……」


 それからはあっという間だった。

 私もゴードンも、欲情に熟した体を露わにした。

 私たちは本能に操られたかのように、示し合わさずとも自然に絡み合った。

 私たちの長い夜がいよいよ始まったのだ。

 

 私はゴードンが大好きだ。

 たくましい体格と、端麗な顔立ち、紳士的な立ち振る舞い。

 女性ならば誰しも惚れる好青年。

 だが上辺だけ優れていても、女の欲を底まで満たすことはできない。

 

 ゴードンが私の深淵までつなぎとめた最大の魅力、それは巨根であった。

 

 下品、卑猥、低俗、どんな罵倒を浴びせられようが、快楽の向こう側まで征服しなければ、男女は真の愛にたどり着けないと私は考えている。

 

 ゴードンのそれは、私が今まで寝てきた男より群を抜いた逸品だった。

 ゴードンはワインの専門家だが、私はそっちの専門家。

 ゴードンのそれは、私の知らない世界を強引にこじ開けて、私は快楽の荒海の中に溺れさせる。

 

 私は、ゴードンそれなしでは生きられない体になっていた。

 ゴードンのそれなしではイケない体になっていた。

 

 異種族と交わることは、互いの体を危機にさらすとして、法律ではっきり禁止されている。吸血鬼も例外ではない。

 彼らと交われば、自分まで同族になってしまう危険性がある。

 彼らの牙で咬まれたら最後、人間には戻れなくなる。

 だが風俗の世界では異種族と楽しめる裏コースを隠し持っていたり、実際ゴードンのように人間の姿に紛れ、ほとんど人間として生活する種族もいる。

 法はあれど、現実は雲をつかむように混沌としているから、取り締まりも困難を極めているのが現状である。

 

 そうした社会的な危険と、夫の愛の裏という背徳感に追われながらの行為は、私たちを果てしない快楽へと導いた。

 

 私たちは夜通し交わった。

 あの巨根で、私は数えきれないほどの絶頂を迎えた。

 意識が混迷してきても、私は私の手で私を刺激して、快楽の荒海を泳ぎ続けた。

 自分でも狂ってると思った。

 でも、狂ってる自分が何よりも愛らしくて愛おしかった。

 

 私たちは何も性欲でバカ騒ぎをしたいわけじゃない。

 私たちの本当の目的は、来たる夜明けを二人で迎えることだった。

 互いに精根尽きてもなお交わり続け、これが「真実の愛」だと語らっても、隠密な夜のとばりは監獄のように私たちを閉じ込める。

 だからこの目で見たかったのだ、夜明けというものを。

 この身体に刻み付けたかったのだ、「真実の愛」というものを。

 

 ここで、「吸血鬼は陽光を浴びると死ぬ」という定説が邪魔するが、現代の吸血鬼はそんなの大昔の悩み事だと一蹴している。

 吸血鬼を陽光から守る、「吸血鬼日光防御剤」という特別なスキンクリームが開発されて以降、吸血鬼達は一抹の不安無く、日中の外出を楽しんでいる。 

 

 もちろんゴードンも抜かりなく全身に塗布済みである。

 ゴードンがシャワーを浴びなかったのも、クリームが落ちないようにするためだった。

 一応、汗をかいても簡単に落ちないよう、水に強く作られているのだが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ