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5話 英雄の下弦

この天界宇宙(ゴットバース)には多くの神々が存在し、各神界に分かれている。その神界を束ねることが統治神5柱に許可された権利が’支配権’である

「支配権は最高神が持っているとは限りません。例を挙げるとするならば…」

「メソポタミア神界のエンリル神ですね~」

「支配権を持っていれば、その神界の所有する建造物、神域、財政、富、名声、神に至る全てのものを独断で使用することができる」

「道教界はギリシャに次いだ神域の広さを誇ります。資源もたくさんありますし欲する理由がよく分かります」

『いや…それよりも脅威的な…』

セアの要求に観客達はざわつく。高位の神々は様々な考察をして、何が目的だと探っている。そんな中、主催神である統治神5柱のうち全神界の神域を管理するエレボスが代表して話を進める。

()()()()()()()、というとのはどこまでの範囲(ライン)だ?』

「全部」

『…全部』

エレボスの確認に間髪入れず言い切るセアに観客は言葉を飲む。統治神5柱も可能性のなかった要求に対応を考える。


エジプト専用観戦室

「これは痛いところを突かれたわね」

白い布をエメラルドのはめ込まれた金の装飾で腰に留めている質素であるドレスだが、金髪の女神にはお似合いだ。

エジプト神界序列5位豊饒の女神イシス

「エレボス殿は統治神5柱の中で規律を重んじる神だ。だから自神の定めた規律を破ることはできない…」

イシスの横の玉座に座るオシリスが淡々と話す。

「十中八九了承するしかないように思える…」

「やはりこの闘い受けて良かったわ…あれが神のトップにでもなれば、この宇宙は終焉(バットエンド)だわ」


『ヒヤルムスリムル、道教界に繋ぎなさい』

ざわざわと雑音が響く闘技場、エレボスが専用のマイクでヒヤルムスリムルに指示を出す。それを受け、すぐに命令をこなす。ブォンという機械音が鳴り、道教界にマイクが繋がれる。

『聞こえるか、三清…今回の要求こちらだけの判断では決めかねる。よって道教界の支配権を持つ君に判断を委ねる』


『判断、ねぇ…』

「まだ戦えぬ訳ではありませんが…門神が痛めつけられるとそれだけ道教界の威厳に関わります」

「降参しかあるまい」


皆が三清の意向を待ち望む中、道教専用観戦室に用意されたマイクに触り、三清が近づく。闘技場から見上げるセアが三清の視界に入る。

「戦いの場において…油断が一番の敵だとは思わぬか?」 

三清の声とともに地面に寝そべっていた門神が勢いよく踏みこみ、その反動を利用してセアをぶん殴る。

「っ!」

気の緩みからなのか構えの姿勢を崩していたセアだが瞬時に受け身をとる。門神はぐらつきながらも立ち上がる。薙刀によって右肩の神経を切られてしまったにも関わらず、肩を回して体を解す門神に賛辞の歓声が贈られる。

「やっと一発……肩一つで殴らせてくれるとは、安上がりだな!!」

鼻から出た血を拭うセアの背後に影が見えたかと思うと、もう一度召喚された虎爺(フーイエ)が爪を立てて襲いかかる。セアはすぐに剱を握って切り刻む。

(…エレボス御兄様と話すのに集中しすぎたか。コイツの権能は奇襲に特化していると分かっていたはずだが油断した…さて、次はどこから来る?…)

「貴殿はいつから…我が獣しか喚べぬと思うておるのだ?」

獣の突進のごとくセアの前に突き進む門神を軽く受け流して辺りを警戒する。

「気配の無い無機物に気づかぬものなのだな…セア・アペイロン!」

振り返った時には、門神の手には薙刀が握られていた。

「我の権能は門に侵入した者を滅却するまで様々なものを喚び出せる権能だ。その喚び出せる条件は我が手懐けたもの…判断を見誤った貴殿の負けだ!」

セアに振りかぶる門神、そして三清の声が闘技場に響く。

道教界(あちきら)が欲しいのならばくれてやろぅではないか…ただし、黙ってやられるような道教界(あちきら)ではない…

さあ、道教に仇なす者に牙を向け!!」


道教神界、神々の中でも戦闘に秀でた戦闘神蚩尤、農耕と医薬を司る神農などなど、三皇五帝が在籍している。

道教界序列3位地母神である女禍。序列2位航海守護の女神媽祖(まそ)。序列1位最高神三清を筆頭に女神たちから、道教の神としての教育を徹底的に叩き込まれる。

そして、これだけは、この教えだけは絶対の教えとして、道教の神々は守っている

『例え、どのように不利な戦況でも、強者であろうとも…その(めい)尽きるまで、牙を立て食らいつけ!』


予想外の強敵に、勝るという未来に門神の鼓動の高なりが、観客にも伝達され、門神の勝利を待ち望む。

「…遅い」

しかし、その勝利は無情にも訪れることなく、門神が振り下ろすよりも速く、セアが剱を振るう。そして、薙刀に亀裂をいれ、門神の全身を抉る鋭利な斬れが、無惨にも闘技場に鮮烈を与える。

「この強さで神だと言うなら、私は何者なんだろうな………ああ、でも……聞こえちゃいないか」

突然の巨大な痛みに耐えきれず意識を失い倒れていく門神だけに聴こえる愚痴を溢す。

ドサッ!

門神が地面に横たわる。闘技場に静寂が訪れる。誰もが状況を呑み込めず、否、受け止められていなかったが司会の言葉で、それが現実であると、事実であると理解する。

『門神の戦闘不能により…第2回戦勝者は天使!!』

「救護班急げ!」

試合の終わりが告げられると、準備を完了していた救護班にヘイムダルが指示を出す。まもなく、門神に応急処置が施される。それには目もくれず、勝者のセアはさっさと闘技場を後にした。第1回戦終了後の熱狂とは反対に、絶望を観客や観戦室の神々は覚える。


ギリシャ専用観戦室

「次の対戦相手は、あれですか」

「……だねぇ、困ったなぁ」

「天使の力というもの…使っていましたか?」

「使って…いや、わからん…ただ、この闘いで明らかにセア(あれ)は権能使っていた」

「…………」

「門神の攻撃を何度も離れたところまで避けたこと、そして顔面に傷を与えたにも関わらず、その傷が無くなり、その上統治神5柱の観戦室に瞬時に逃げたこと…」

「速いという次元ではありません。恐らく、移動か空間系統の権能ではありませんか?」

「どうだろうねぇ、まっ、アテナの推理は間違ってはないと思うよ〜…だけどまあ…末妹が出場するなんて、だあーれも推測してなかったよねぇ」

ゼウスはセアが闘技場に現れた時に統治神5柱を見ていた。その顔は驚嘆、とてもレアなものだとゼウスは内心、心踊った。だからこそ、

「腹立つ」


統治神5柱専用観戦室

「あの、、、大丈夫すか?」

観戦室に何とも言えない空気が流れて、タナトスが気まずそうに声をかける。続けて、ヒュプノスが、

「大変申し訳ありません…気が緩んで監視の目を抜いていました」

『いや、セアに監視は不要だ…だが、千年投獄していたはずなんだが…寝起きであそこまで動けるなんてな』

『そうねえ』

「…呼んできましょうか?」

『いや、それも不要じゃ』

沈んだ室内、カオスが端末を手に取り、何かの連絡を見た。

『そんなに気にしなくてもいいんじゃないかい?

闘いは始まったばかり、それに私達の終わりには賑やかな方がいい』


「浮かない顔ですね」

闘技場内回廊、闘いを終えたセアに話しかける天使は銀と紫、青の波打つ髪と青のリボンをまとわせる七大天使ガブリエルであった。

「そうね」

「…私の見せた未来とは異なっていましたか?」

不安げに聞いてきたガブリエルの頭を優しい笑みで包みながら頭を撫でる。

「お前が見せてくれた未来通りだったから…新鮮味が無かったのよ」

「あー!ガブリエルずっっっる!」

会話に割り込んできたのは、七大天使の一翼であるウリエル、黒の髪と瞳の青年と少年の間のような姿をしている。

「静かにしなさいよ」

「うるさい!頭撫でてもらうのは僕の特権!」

そう言ってセアの横に立ち、ガブリエルに対して猫のように威嚇する。小動物とじゃれ合うような目をしてウリエルを相手していると、通知音が鳴る。

「現時点での選抜人類が決定したようですね」

端末をセアに見せる。


―天地創造の海エリア代表

櫻華の花魁桜雲(おううん)

―和の海エリア代表

“刻”の元祖一条実経(さねつね)

―交易の海エリア代表

守護者(ガルディ)バイラール・イグニス

―夜の海エリア代表

守護者(ガルディ)ライラ・エンプレス

―星の海エリア代表

守護者(ガルディ)オーシャン・クラトス

“嵐”の元祖ゼーユングファー

―魔法の海エリア代表

古代魔法使いカトレア

武器魔法使い木聯(もくれん)

―知識の海エリア代表

守護者(ガルディ)血の女帝イニティウム・テオス

眠れる獅子ラウルス・ノビリス

大海の覇者プロエレ・ノウム

―精霊の海エリア代表

守護者(ガルディ)精霊王フォーセリア・ラトゥリア

―英傑の海代表

守護者(ガルディ)人類最強の王ゲニウス・ニードホック

―神殺しの海代表

魔法の開祖キルケ

“穏”の元祖イレミア

“疼”の元祖ノーヴァ

無名レヴィアタン・リヴァイアサン


「うーわっ!ガチすぎて引くんだけど…」

「見苦しい。どの神々も必死ですね…どうされます? お望みであれば、私たちが処理いたしますけど…」

天使らしからぬガブリエルの発言にウリエルはばーかと罵る。それを聞いたガブリエルはウリエルを締める。その二翼の喧嘩もどきを眺めて、セアはガブリエルの提案を否定する。

「やらなくていいわ、私…神々の王とかどうでもいい」

セアはもう一度端末を見る。選抜人類の顔、すぅと端末を指でなぞる。そして晴れやかな醜悪な笑みを浮かべる。

「この闘い、存分に楽しみましょう」



仏教専用観戦室の扉をノックするチャイナドレス型のリンドウの装飾がチャームポイントの戦闘服を身に纏う黒髪の女、仏教界専属戦天使(ヴァルキュリー)エイル。

「失礼します」

「おーすっ!おつかれさん!」

エイルが扉を開けると快活な声で出迎えてくれる仏、襟が大きく開いている上下白黒のパオを着ている癖毛の銀髪をハーフアップにまとめている釈迦如来。丸眼鏡をかけている釈迦はちゃぶ台の上にある煎餅を食べ始める。仏教専用観戦室は床に絨毯が敷かれており、そこにちゃぶ台があり、ちゃぶ台を取り囲むようにふかふかの座布団に座っている。釈迦の横には金色の布で織られた漢服、ストレートの金髪で釈迦と同様に丸眼鏡をかけているが、釈迦とは違って優雅な雰囲気だ。すっと煙管を手に取り吸い始めるが、その所作からも品性が漂っている、阿弥陀如来である。

「釈迦様、阿弥陀如来様…こちら敗戦にベットされた分の掛金でございます」

金、という言葉に二柱が反応する。エイルが手に持ったものをちゃぶ台に置く前に釈迦が取り、ちゃぶ台に置く。そして二柱はせっせと帳簿と合うか、掛金を数え始める。無気力なエイルがさらに無気力な顔をして二柱を見る。

「仏様なのに、何故金にがめついのでしょう」

「お金は裏切りませんからね」

優しいオーラが溢れていた阿弥陀如来の顔はお金のおかげか綻んで、笑みが溢れ出している。しかし、そのお金を取り扱う手捌きは神業だ。

「…1、2、3、4、5、6、7、8、9……おっし!儲け!!」

勘定を終えた釈迦は元気な声を上げて、にやにやと笑い、札を見ている。

「釈迦様、もう少し仏としての威厳を示してください」

「えー、めんど…仏の威厳なんて仏教(うち)に無くない?」

釈迦の神らしからぬ態度に苦言を呈する。しかし、それを否定する釈迦。

「薬師如来様を見習ってください」

エイルがそう言うと、釈迦が寝っ転がり声をかける。声の先には、座布団ではなくビーチチェアで次の試合が始まるまでゆっくりとしている仏だ。薄い空色の瞳と、桑の実色の髪、釈迦と阿弥陀如来とは違った雰囲気である。パンツスタイルにチューブトップというアウトドアな格好、だが全体的に整った美しい仏、話に出ていた薬師如来だ。

「だってよー、姉貴~」

『……』

「気分じゃないから話したくないの?」

『……』

「エイル、これは威厳があるんじゃなくて、ただの面倒くさがり屋だからね」

釈迦の問いに無言で頷く薬師如来に、釈迦がそーですか、といつものことながら呆れる。

「うん、勘定合ってます…薬師、次の試合の読みはどうですか?」

『………選抜人類が二名、動いた……そして、アッカド派の神々も、シュメール派の神々も動いた』

「喧嘩かなぁ、そうなったら運営側としても盛り上がるよね」

「メソポタミアの神々は何故、他の神界と違って派閥があるのですか?」

ふと疑問に思ったエイルが3柱に尋ねた。

「あそこは根っから仲が悪いんです、よく知られているのはティアマト殿と次世代の神々との争い…私たちはエヌマエリシュと呼ばせていただいています」

「そ!そこでティアマト殿メソポタミア原初の神々は敗れて支配権を奪われた、だけど、そこで終わるような神じゃなかったんだよね〜……なんて言うか、小競り合いばっかしてるから、統治神5柱もめんどくさくなって…」

「マルドゥク、アヌ、エンリルを始めとした次世代の神をアッカド派…ティアマト、アプスーを筆頭にした神をシュメール派に分けた…ことはよかったけど、派閥が分かれたことでさらに争いに熱が入った」

「確か、それでティアマト様は逃げたと、」

「そうです、誰も知らない場所へ…」

三柱がお喋りをしていると、闘技場が暗くなる。そして、ヒヤムルスリムルにスポットライトが当たる。深呼吸をして、

『皆様、大変お待たせいたしました…やはり、神々の王の座を手にすることは困難にぶち当たります…ですが、それが良い…それでないといけない…新しい王のため、存分に盛り上げていきましょう…それでは、リニューアルした闘技場をご覧ください!』

今までは闘技場に黒幕がかけられており、どうなっているかが分からなかったが、ヒヤムルスリムルの合図で黒幕がとかれる。

「…いいね」

闘技場は砂漠になっており、そこに2つの巨大な川が流れている。そして、所々に四角形や長方形の煉瓦のブロックがあり、草も生えている。この壮大さに観客たちは言葉を飲む。

仙人逆境(テイレイギャンブル)第6位、この宇宙始まりの神話メソポタミア…開戦!!』

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