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22話後編 禁忌閉幕

『度重なる天体と天使の一身の攻防!

激戦を戦い抜いたのは、起点神アトゥム!』

司会のヒヤルムスリムルが運行を進める。静寂は打ち切られ、観客は大盛り上がり。向上する激闘の野望。

ヒヤルムスリムルはステージを宇宙軸に推薦したことを試合中ずっと悩んでいたが、全てを観終わった結果は大満足だ。原初神同士の激闘に相応しいものとなった。

(これで原初神様に責められることはないわよね~。あ~、これで重荷も一つ下ろせた!)

気分爽快なヒヤルムスリムルの内線に情報が伝達される。開いた口が塞がらない。ヘイムダルが統治神特別観戦室を向く。あちらもあちらで納得していないようだが、運行は任せられている。

「おい」

ヘイムダルは呼びかける。ヒヤルムスリムルは深く息を吸って、覚悟を決めた。天使が音響を整えたことを確認して、マイクを起動した。きゅぃぃんという耳障りな音に観客たちは気になって、顔を一斉に向ける。

『え~、司会運行情報課より皆様方にお知らせです。

仙人大戦(ヘシオドス)第一ラウンド八回戦を予定していましたイスラム神界とアボリジニ神界の試合なのですが、え~…先程アボリジニ神界が無条件降伏の意思表明が為され、課はこれを承諾しました!』

意味が飲み込めず、観客らは呆然とする。ヒヤルムスリムルは続ける。

『それにより、第八回戦はイスラム神界の不戦勝とします!』

結果を簡潔に聞いて、脳が処理する。同時に、観客は驚愕のあまり、驚きの咆哮が重なった。次に巻き起こる非難の嵐。ゴミが投げられ、大バッシングを受ける。

『つきましては~、次の戦いが今ラウンド最後となりますので~、暫しお待ちください!』


北欧専用観戦室。

観客の非難轟轟の声をわずかに拾い、大波乱で幕を閉じた。トールはそんなことを気にせず、試合の分析を始めている。

「イル様は絶対不可侵領域の相殺が一度断絶されても、一回分の火種は残していたのでしょうか。でなければ、アトゥム様の錫杖は届いていたはず。それを考慮してのブラフを作ったのでしょう」

「ブラフを利用した一射必中は確かにアトゥム殿に致命的な傷を与えた。片腕と意識の隔絶。意識を保ち、思考を継続しなければならない宇宙軸では思考の放棄は敗北と同意義。それを狙っての作戦だったが、それすらもアトゥム殿は見据えていた。

決め手は超新星爆発。警戒が緩んだイル殿はまだ絶対不可侵領域が残っていた。それを引き剥がし、尚且つ、殺す威力の隠し手。だが、最後はやはり己で倒し切った。痛みと失敗、相当な覚悟が必要だが…」

『アトゥムはそんな(たま)じゃねえよ』

オーディンの見解を聞いていたユミル神が遮った。

『あいつは負けるなんざ考えてもねぇよ。ただ、目的の為なら死力を尽くす。エジプトのあいつらもそうだ』

オーディン専属戦天使(ヴァルキュリー)フギンとムニンが部屋の扉を開く。すると、銀髪の中性的な見た目の神が儚げな空気を纏って、入室した。

『遅かったな』

ユミル神が一番に声をかけた。くまの残る薄い琥珀色の瞳を向けて、ユミル神に不気味に微笑んだ。

「酷い言い草ですね、ユミル様」

北欧所属ユミル神専属戦天使(ヴァルキリー)、並びに北欧序列第八位幻想神ロキ。

「お勤めご苦労様です。心は入れ替わりましたか?」

トールが尋ねた。ロキは鼻で笑って、あっけらかんと言い放つ。

「唯は遊べればいいんですよ、トール。唯との決闘の約束忘れたとは言わせません」

トールは肩を竦めた。ロキは主人であるユミル様に聞いた。

「次戦が最後だけど、あんな蚊も殺せない女を出すとか…唯を出してくれる約束は?」

『選抜はオーディンに一任してある。心配しなくとも、お前は出す予定だ』

「ぶ~!」

苦言を呈するロキを横目に、歓談が催される。次戦と最終戦を担う北欧は勝つことを見越して着々と準備を進めていく。

オーディンは席を立つ。息子であるトールが戒めた。

「父上、北欧の未来を左右する勝敗を見届けないつもりですか?」

「ユミル殿もいる。先約があるんだ」

オーディンは専属戦天使(ヴァルキリー)フギンとムニンを連れて、退出した。



天界宇宙(ゴットバース)の一等地に聳える豪邸。城とも捉えられるほどの巨大な屋敷は人気がないほど閑静だ。照りつける太陽は分け隔てなく空間を明るくしている。だが、この屋敷がある土地は薄暗く、まるで来客を拒んでいるようだ。ぺたんと規則正しく続く足音の合間に、じゃりりと土を踏む濁点が響く。鼻歌を口ずさんで、豪邸を闊歩する女神がいる。白装束を黒帯で留めて、特段何も着飾っていない女神だが、清浄さを司っている。月白のさらさらと流麗な髪を無造作に跳ねらせて、赤く煌く瞳は情熱をゆらゆらと燃やしている。

『ヨグちゃんはどこにいるの~か~し~ら~?』

裸足で動き、肌が黒色化している箇所は妙な脈動を打って、黒い血管を浮かべている。女神は豪邸の家主の許可なく歩き回り、最奥の一室に辿りついた。思い切り扉を全開にして女神は大部屋に足を踏み入れた。ぺたんと場に似合わない爽快な音が響く。

『みぃつけた』

女神はくすっと微笑んで、大部屋改め書斎の奥にいる神に聞こえる声で言った。

『…鬱陶しいのが来た』

『ヨグちゃぁん』

『ちっ、用件だけ申して帰れ。伊弉冉』

女神はつんとした態度でそっぽ向く。日本所属原初神”純一品”伊弉冉。

『もう話は聞いてるでしょ。伊弉諾が目覚めたの』

伊弉諾。その言葉に反応した神はやっと伊弉冉に顔を向けた。だが、その顔は烏の羽で覆われて、薄らとだけ瞳を覗かせている。膨らみのある髪と異形の体。

―原初神ヨグソトース。

『八百年よ、限界は来てるわ』

仙人大戦(ヘシオドス)で共鳴者が揃う算段は確実なのか?』

『エレちゃんが言うにはねえ。ヨグちゃん、私はカオスにつくわ。あなたは?』

『オーディンとゼウスは勘づいている。味方を増やしているようだが、あいつらの意思関係なく同業者はいる……エジプトとギリシャ、アステカの奴らも次世代派か』

『オメテオトルは優しいわよね。カオスのやろうとしてること、知ったら激怒するわ。私はそういった輩を剪定するだけよ。ヨグちゃんも要らない木なら…ちょん切っちゃうわよ』

伊弉冉の肌の黒色化が進み、爪が鋭く光る。ヨグソトースは女神の放漫な笑顔よりも、一貫した殺意に笑みが生まれる。椅子から立ち上がった。

『その刃はしまっておけ。剪定は朕の好みで行う』

返答に、伊弉冉は黒色化を止めた。

『ところで、次戦は日本だが、貴様は出ぬのか?』

『ああ、それなら大丈夫。日本でも、とっても神秘的で、とっても魅力的なあの子に頼んだわ…

日本唯一の正一位を冠する…あのこに』

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