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21話 海が動く

統治神特別観戦室────

カオス神に仕えるタナトスとヒュプノス。そして特権の執行を終えて戻ってきたガイア神。他の三柱は仕事で席を外している。彼らが動いていることは隠蔽している。隠蔽を施した張本人であるタナトスは複雑な気分だ。

『アトゥムは最年長で経験に富んでいる。億を越える戦闘経験。戦場で荒波を立てない。感情を出したところで、利益は生まれないと知っているからね。

あのアトゥムが戦いの場に望むのなら、本気を出さなければならない状況なのさ』

『加えて、イルも温厚篤実な性格。争いごとは好まないけど、彼は本筋の戦闘員じゃないのに、ヨルムンガンドやタルタロスとも互角に渡り合える。まあ、それは戦わざるを得ない状況に追い込まれたらの話よ』

二柱の目がずきりと輝く。

セアとエジプトに属する原初神の接触は確認済みの上、報告も済んでいる。そのうえ、セアを連れて観戦室に入った姿も確認しているのだ。原初神は良好な関係を保っているが、娘のこととなると話が変わってくる。

「どっちが勝っても、セアちゃんと対峙することは確定ってことですか~」

ヒュプノスの発言に、ガイア神はにこりと笑った。

『どうしているのやら』


エジプト所属原初神専用観戦室にて、

「ん、これおいしい」

『まだあるよ』

卓とサイドテーブルにびっしりと置かれた果実やお菓子。間食用だけでなく、サンドイッチなどの軽食も用意されている。果汁水にお酒と豊富な食事。ソファに寛ぐラー神。トート神は面倒見がいいようで、望むものを言われる前に用意して差し出している。

絨毯の上で胡座をかいて座るヌン神の上に座るセア。巨体のヌン神にすっぽりと埋まる。縮こまっているわけではない。それほど、体格に差があるのだ。

セアはトート神から渡された果実を頬張る。優しい甘さの梨。美味しかったのか、ヌン神に食べさせてあげている。ラー神は飲み物を渡す。

『ゆっくり飲め』

「ん」

与えられたものを拒絶することなく受け入れるセアに、警戒心の一欠けらもない。

『人類には会ったのか?』

「いいえ、会ってませんよ。会ったとして話すことはありません」

『…』

「あれらは私のことを理解しているから、その邪魔もしてくる。話さなくても、私達は戦場で語り合う仲ですので。問題はありません」

選抜人類と、その他の人類は会場内を独自で闊歩している。ある程度の問題行動を起こさない限りは、人間のすることに制限はない。

セアはモニターを見る。一進一退の戦闘が続いて、その衝動が伝わってくる。概念同士、手数同士の戦いは拮抗して、進展を見せない。だが、油断すれば戦況は崩れることが分かる。

「参考にもなりませんね、やはり」

『そうか?』

「神の肉体という前提条件があることで成り立つ戦況。認知の共通点。今、私が知りたいのは共通しすぎた戦いの終着点が何なのか」

『そんなものを見ずとも、貴様は戦いを学べば活路を見つけ出せるはずだ』

「私は数多くの戦場を見てきましたが、戦う前から優劣はある。一見勝てると思った奴が負けることもある。それとは裏腹に、やはり優れた者が勝つ。絶対的武力は目安にしかならない。時の運。戦場とは冷たく不平等な銀盤と同じ」

セアはモニターに映る二柱を見つめる。

「それ以上に無常な宇宙軸。双方、権能も出してきましたが、まだ手札は残っているはずです。果たして…」



エノクの環が絶えず回転する。イル神は不満そうに言い放ち、見据えた。先にいるアトゥム神は思い入れもなく佇んでいる。僅かに口元に付着した血を拭う。錫杖を強く握った。天使の増加は停止されたが、それでも莫大な数には変わりない。

(遠巻きに見ていただけだったが、敵に回ると恐ろしいな。独立した兵と、絶対不可侵の主将か)

『降参はありそうにないな』

『…上を目指していますので』

イル神は翼を撫でた。

『私は正直頂点などはどうでもいいのです。上に立つような神格もないですし、それならば貴殿に譲ります』

『…』

『ですが、最近の神々は天使の存在意義と私への態度が些かいただけないのです。下僕ではなく、補助。護衛ではなく監視。その認識を信じようとしない神々は多く、私の教育の範囲では収まりきらないのです。だからこそ、誰にも舐められない神界にしたいのです。清くいると肩が凝る。

翼の錆と生れ、アトゥム(老害)!』

温厚な笑顔が一変し、純粋な言葉の暴力をぶつけられる。凶悪な笑みが白を際立たせる。

『すまんが、余も成さねばならんことがある。退いてはやれん。その代わりと言ってはなんだ…口の利き方教えてくれよう、イル(若造)!』

殺意を孕んだ慾が正面からぶつかる。錫杖を薙いて、天体に呼びかけた。宇宙と共鳴する物体に、イル神は度肝を抜かれた。ガスと塵が重力で結合して、巨大な宇宙塵を生成しているのだ。宇宙塵が浮遊すると、摩擦で生じた熱で燃え始めた。それに加え、遠くで駆ける彗星を見つけた。地面から見上げる彗星は美しいが、それが直進して、己を狙っていることは脅威にしかならない。

『逆転―スターゲイザー!』

彗星が青白い線を引いて、宇宙人を駆ける。彗星の軌跡から外れた天使だが、天体の持つ巨大エネルギーに当たり、翼が焼き切れた。そして、巨大な宇宙塵は少し当たれば、その箇所から吸収し、同化した。もろに当たれば例外なく消滅する天体攻撃に、天使は怯む。アトゥム神に接近を成功させた天使だが、錫杖から放たれる宇宙エネルギーに中てられて、天使の神格を相殺された。ことを重く見たイル神は天使を吸収して、エノクの環に内包して、力を補填した。的が一つに絞られた瞬間に、天体は軌道を修正して、イル神に直撃する。青白い直線の筋が散乱して光を発しながら消滅し、その穴を塞ぐように宇宙軸が破裂して、ガスを放出する。イル神はガスを吸ってしまった。すると、器官が壊死して、内部から崩壊を始めた。吐血する体を治療しつつ、外側の攻撃を相殺し続ける。エノクの環が回転するごとに天使の力は溢れ、天体内部に入り、崩壊を促す。そうしても続く天体の降下に、イル神は防御に徹することしかできない。


エジプト所属原初神専用観戦室にて。

『正転ネメシスは、天体そのものを操る。派生として、天体の持つ一部を抽出することができる基礎の業。

そして、逆転スターゲイザー。宇宙間にある宇宙物質を操る技。氷を主成分とする彗星。ガスや塵が積もり集まった星雲。天体そのものにもガスは多く含まれている。それから成される銀河。天体そのものを構築に欠かせない物質は未知であり、有毒だ』

ラー神が誇らしげに言う。

『高い壊滅力で敵を屠る応用の御業。創造の圧制。重力に晒され、息を吸えば内部から崩壊する。相殺効果を付与した絶対不可侵がなければ、とっくのとうに消滅している。イルも限界が近いだろう』

「ふふっ…」

ヌン神の最後の言葉にセアは笑って否定した。

「確かにジリ貧なのには間違いありませんが、忘れていませんか?

イル様の名前の意味を」


青白い光が発散し、飛び散る中、過熱する天体の超越行為。アトゥム神も出力を増やして、相殺効果の絶対不可侵領域を破壊しようとする。危ない状況に、イル神がやっと動き出した。彼はエノクの環に指を滑らせて、埋め込まれた宝石と化した天使の存在をもう一度認知する。

『御使い降臨』

けたたましい光と共に、六つの扉が現れる。白皙の荘厳な扉から、六翼の天使が翼をはためかせ、見下ろす。

「イルという名前は、文字通り”神”を意味します。別名”エル”。神の代理人という定義を持つ天使にエルという名前を与え、認知しました。しかし、エルを持たない天使もいます。イル様が始めに生み出した六天使”秩序”の守護者。原初神三十二柱に匹敵する実慾を持つ自立の精神。

失効【アルマロス】、失墜【シェムハザ】、荒野【アザゼル】、契約【サンダルフォン】、神の代理人【メタトロン】、自由意志【タブリス】」

イル神が高く高く手を伸ばすと、六天使も頷いて集まっていく。燦爛と放出する黄色混じりの光。宇宙を優しく覆い包むそれをセアは羨望の眼差しで見惚れた。

「三十二の権能と天界宇宙(ゴットバース)を委ねられたとき、七大天使を筆頭に天使の思いは受け止めたつもりです。でも、あれらだけは手懐けられなかった。利害関係の一致で見せかけの手綱を握っていたに過ぎなかった。隙あらば殺そうとしてくるやばい奴らです。でも、それを帳消しにできる圧倒的な神格と連携力。

そんな脅威的存在が傾倒する唯一の存在イル様だけが扱える神器。六天使同士が共鳴し、創造される神器…」

等身大の弓を持ち、白で塗り固められた重厚な弓をイル神は強く握り、弓を弾く。イル神の神格で構築された矢を装填し、鏃を合わせる。その間も絶え間なく投擲される宇宙塵と彗星の混合。視線が大きく揺れる中で、イル神の真っ白な瞳に、青のマントが映った。

『ヨハネの峻厳―!』

手を離した瞬間、巨大な宇宙塵を通過し、その先にある天体も貫いて、さらに先に待ち受けていたアトゥム神の胸を貫いた。

「アンギラスの皓弓。一射必中、イル様の最終奥義…。でも、まあ…相手も相手…流石というには、ねえ?」

セアが言葉を濁す。

必中した瞬間に天体の操作が打ち切られ、場が星雲で満たされる。視界が悪い状況。遠くから血の匂いを嗅ぐ。遠くから、天体エネルギーを確認できた。同じ戦い方。相殺の力も残っている中で、イル神は弓を構えた。天体の近づく振動を感じて、本体を探り始めたその瞬間に、予期せぬことが起きた。

ぼわ────っ…

自らが風を纏い、星雲を掻き分け、真正面からアトゥム神が突進してきた。貫かれた胸はそのままで、流れた血の分だけ興奮する思考。アトゥム神は錫杖を振って、絶対不可侵領域に侵入した。ぎちぎちと衝突する不可視の領域と錫杖。激突の時間は刹那に過ぎ、錫杖の突起がイル神の首を貫通した。

『!?』

『やっと…届いたぞっ!!』

荒ぶる感情と地続きに発散する蹴り。よろめくイル神に対して、合鉄と化した錫杖を本体にぶつけた。脱臼と骨折した肉体を抱えて、イル神は鋭く睨んだ。

『なぜ…』

『貴様は戦闘特化の神ではない。故に全能に動き、襤褸を出さん。他者を寄せ付けぬ領域。あのまま天体の衝突だけならば、余が不利に当たる。天使のエネルギーに底はあるが、貴様は効率よく使う。半永続的のエネルギーを底無しに見せる防御には感嘆するが…攻めとなると、やや劣る』

『…』

『攻守揃うというのは手段の話。どちらも同時となれば、倍の集中力を必要とする。一射必中に消費するのはエネルギーではなく、脳だ』

アトゥム神は頭を指差して言った。

『戦闘特化の神はそういったことの脳の扱いには慣れている。守りに徹する貴様には皆目見当もつかんだろうが…』

『知っています』

食い気味にイル神が言い放った。血みどろの首を修復することなく、睨んでいる。ただ、それは酷く穏やかだ。白が血に染まって、赤く色づく。

『伊達に教育者ですので、把握はしています。脳が焼き切れる思考の数々、痛みに恐怖を殺す理性、勇猛さ、視線をもろともしない詭弁。ただ相手が貴殿だけだったというだけのこと…』

エノクの環が回転する。再構築された不可侵領域。イル神は翼から一つ羽根を取り、神格を注ぎ込む。アトゥム神は荒ぶる気持ちを沈静化して、錫杖を構え直す。

『埒が明かんな』

『御心配なく、次で決めますので…』



エジプト専用観戦室では、ただ一柱が残っている。試合が終わりに近いことを感じ取ったエジプト序列三位オシリスは立ち上がり、中央のモニターを見続ける。

「貴方様は毎度面白いことを提案なさる。未熟な私を育ててくださったときも、多様な教育方法を使っていました。その全てが子孫神に有益なものとなってきました。しかし、此度の提案は意図が分かりません」

ガラスに手を当てて、悲壮に満ちた表情をする。

「色々考えてみましたが、私の知識と創造力では限界がありました。であれば、地下ではないようですし、地上宇宙(バース)にも目的はないようです。天界宇宙(ゴットバース)の核心を突く何か…お答えください、タルタロス様」

いつの間にか、観戦室に侵入していた統治神五柱タルタロスに詰問する。悲壮は止まず、悪い未来を予知しているのだ。タルタロス神はにっかりと笑っている。

『悪い方向には行っていない』

「愛娘殿が出場した際の貴方様の表情、かなり焦っていました。私も初めて見る表情です。統治神が見据えている計画に、娘は必要なのですか?」

俺たち(・・・)には必要ない。だが、守る必要がある』

「何から?」

『お前は探求心の塊だな』

煩わしく吐き出すタルタロス神に、オシリスは無言で見続ける。

『お前も最優先で守護しなければならん。お前も知りたいのだろう、何があるのか。統治神とともに来い』

「私でさえも負ける相手ですか…」

オシリスはモニターに向き直る。エジプトに所属する原初神アトゥム神は勇ましい姿で、ウガリットに所属する原初神イル神と戦っている。

「支配権がなくとも、原初神がエジプトを勝利に導いてくれるはずです。その御提案、受けさせていただきます。守ってくださるのですよね?」

『…勝手な行動を取らなければな』

承諾の結果に、タルタロス神は満足そうにしている。

「最後に、統治神は何に挑戦なさるおつもりで?」

オシリスの問いに、タルタロス神は言い放つ。

『ウミ』


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