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19話 盈星

宇宙の概念は三十二柱の神々の誕生と共に形成された。

破壊の慈愛(カオス)創造の狂暴(アザトース)

示現の死(タナトス)秩序の返還(ヒュプノス)

未了の泥梨(タルタロス)吞欲の深淵(エレボス)無垢の夜(ニュクス)生命の撤廃(ガイア)

上天の光明(アイテール)肥沃の海洋(ポントス)夢寐の天穹(ウラノス)

黒血の自由(アプスー)無償の混迷(ティアマト)

神政の水(ヌン)永の智慧(トート)暁の日華(ラー)

二柱一対の隆起(イザナギ)沈降(イザナミ)

現象の劫(ヴィシュヌ)剛勇の釈(インドラ)

霜の重鎮(ユミル)宇宙の災禍(ヨルムンガンド)

荒地の播種(タネ・マフタ)

二面性の環(オメテオトル)闇の明鏡(テスカトリポカ)大栄の調和(ケツァルコアトル)

夢想の開闢(盤古)必定の万象(ヤハウェ)

極点の翼(イル)架空の回帰(ヨグ=ソトース)決壊の同化(ビラ)

そして、全の一(アトゥム)

混沌の海より己の意志を持ち、生まれ出でた偉大なる生命体。歪んだ宇宙を整え、大地を肥やし、海を創る。

子孫神を残し、人類を生み出す。

他の生命体の創造に長けた神々。

その存在意義は無限の安寧。因果を結ばせ、終焉へと導く因果の支配者。

然れど、それは未来の平和の為。

宇宙の根幹を営み、概念を司り、その使命は因果から守護する敬うべき御方。

一同は、かの神をこう称した。

『原初神三十二柱───、と。

言うなれば、宇宙そのもの。子孫神の最高神とは格別の存在であるかの神々は、強大すぎる権能を制御している。

宇宙を壊さぬため。衝突を避け、他に遣わす。禁忌とされる直接介入は、仙人大戦(ヘシオドス)では一時無効。

よって、ここに禁忌解放を宣言します!』

司会のヒヤルムスリムルが開戦を宣言する。禁忌中の禁忌に観客の胸が高まる。

『創造と破壊ののち、還し、再構築を図る廻りを基本とする四柱の原初神が率いるエジプト!

強敵と相対する、一柱の原初神が率いる野心に溢れた神界。

神に仕える生命体”天使”の聖地であり、すべての守護を生業とするウガリット!』

モニターに、エジプトとウガリットの文字が表示される。

その順位はエジプト三位とウガリット十四位。十五位最下位を冠する天使の次に控える。

双方の神界は静かに祈っている。

『それでは参りましょう。

先攻エジプト!

かの神は独力で神々を生み出した両性具有。その存在も原初神の支え無しに、自らの意志で誕生した。

宇宙の理を超越し、宇宙と同じ年月を生きる神。宇宙そのものを創造した偉大なる存在!

カオス神、アザトース神よりも古き神。人呼んで始まりの神。

かの神は、この宇宙に誕生した命を認知し、最期を見届ける。神に全てが帰る。

曰く、──起点神!

曰く、──原初の一柱アトゥム神!』


モニターに映った煌々の存在感を放つアトゥム神。白の凹凸ある肌を包み込む鮮烈な青のマント。画面越しでも威圧感が伝わってくる。圧倒的な存在感は、まるで宇宙の縮図を体現しているようだ。

エジプトの神々は胸に手を当てて、感動を堪え、屈服する。


『後攻!

ウガリットが天使の聖地だと言われる由縁は、この神にある!

かの神は三十二だけの概念に新たな生命体を創造し、一つの基盤を作り出した。それこそが天使。

神に仕え、神兵として、個々の神界から徴兵を受ける。命とあらば、神に代わって人類に処罰を下す。

天使は神に逆らわぬが、己の意志に従うときにのみ反逆を許されている。しかし、この神の御心だけは遵守。どんな理不尽を言い渡されても遂行する。それだけ天使には偉大で、頂点で、宇宙を統べたまう(あるじ)に相応しいから。

かの神を守護する。それが天使の本能。

天使の生みの親であり、すべての天使に名を与え、事象を認知した!

(のたまわ)く、───原初の一柱イル神!!』


三対の翼を持つ白に塗られた男神。同じ白の肌を持つアトゥム神とイル神の纏う雰囲気は違う。アトゥム神は高慢的な威圧感を持ち、イル神は荘厳な存在の中に優しさを滲みだしている。どちらもが原初神としての威厳を保ち、静かに殺戮欲に昂っているようだ。


『今試合の舞台の紹介に移ります!

今試合は二柱の原初神が力を全開放しても影響が出ぬ、尚且つ、神史上名誉ある場所を用意させていただきました!

そこは地上宇宙(バース)天界宇宙(ゴットバース)の文明が混在する、大地と天、海洋の接続点。

起点神アトゥム神が宇宙と共に誕生した、まさしく宇宙の開始点!

別名、(オムパロス)

正式名称、───宇宙軸』


いつもは頭上にあり、絶対に手が届くはずのない星々の中に二柱はいる。瞬く惑星は遠くにあり、星のように煌いている。黒く染まる空間は星々に照らされている。

足場もない。けれど、立っている。壁もなく、果てしない空間が広がっている。聞いたことがない効果音。天体は各々の速度で公転と自転を繰り返す。永遠に続く宇宙の旅路を、天体が構成している。

宇宙空間が舞台となる規格外の試合だ。その事実に、観客のボルテージは上がる。

これがカオス神が用意した特設舞台である。


『それでは仙人大戦(ヘシオドス)第一ラウンド第六回戦…開戦!!』


バギィッ!!

宣言と同時に、広大な宇宙軸で激突する。嗜みとは言わぬ本気の迎撃。アトゥム神の錫杖と、イル神の翼が入り交じり、火花を散らす。翼からは想像もできない鋼の鈍い音と感触。

線は細いが高身長で体格のいいイル神は身軽に動いている。

対してのアトゥム神は筋肉質な体を大いに奮って、力強い打撃を繰り出す。身軽に飛び回るイル神の迎撃を躱そうと、アトゥム神も動き始める。隔たりの概念がない宇宙軸では、動くこともイメージしなければならない。当たり前のイメージで、無限に広がる戦場を奔走する。

『!』

その内、いつの間にか惑星がアトゥム神の前に立ち塞がる。経路を変更しようと力む。だが、絶好の機会だと言わんばかりに、イル神は翼を刃物のように尖らせて、突き通す。

ばきばきと音を立てて、一つの惑星が崩壊した。イル神が開眼して、金の瞳がぎらりと光る。幸いにも、翼はアトゥム神にとって小さな傷に終わる。三対の翼で、アトゥム神の行く手を遮っている。

イル神は決定打を下す。

『御使い降臨、ラシエル』

一人の天使が翼を羽ばたかせている。そしてアトゥム神に向けて、手を伸ばす。イル神に影響が出ない程度の竜巻を顕現させて、アトゥム神の肉体を削る。逃げぬように、イル神は翼で拘束したまま、アトゥム神がどうなるかを自身の目で見届ける。彼の肉片が飛び散る。叫びが聞こえない。

その直後に、イル神の首に手が伸びる。驚いた彼は咄嗟に後退して、翼の拘束を解いた。ラシエルを下がらせて、事を見守る。

『今のは随分と痛かったぞ』

『それは失敬』

血塗れで態勢を整えるアトゥム神の言葉だが、彼は言うほど焦っていない。竜巻で受けた傷を自らの意志で治し、無かったことにする。唇に付着した血を親指で拭って、アトゥム神も瑠璃の瞳を煌かせる。

『天使は生命体。惑星は生命体ではない。宇宙を構成する個体。種は多岐にわたり、面白おかしい構図を取る。

正転』

アトゥム神が錫杖を高らかに掲げる。宇宙軸が揺れる。イル神は彼のしようとしていることに見当がついた。

一つの惑星が遠くから、物凄いスピードで突撃してくる。鋼に包まれた、いや鋼でできた惑星がイル神に向かって、衝突した。爆発音に近い轟音がモニター越しでも伝わってくる。その衝撃はかなりのものだ。

宇宙軸を鋼の煙が覆う。砕け散った鋼は、二次被害を及ぼす。銀色の中に、純白の一点が見える。イル神が翼を無造作に振るわせて、刺さった鋼を取り除く。惑星が衝突する間際に翼をシールドにしたのだ。無傷の本体にアトゥム神は苦笑いを浮かべる。

『なんとも情け容赦のない』

緩やかに冷徹な視線を送るイル神は感想を述べる。まるで何ともないように思っている。

『まあ、本気を出されないのも癪に障りますが…』

『要望が多い』

イル神の態度に舌打ちをして、動くアトゥム神。異常な速さで距離を縮めて、錫杖でイル神の首元を突き刺す。だが、その間に割り込む二人の天使。杖で錫杖の力を相殺する。間合いを詰められたイル神は、瑠璃の眼から燃え盛る強い眼差しを感知した。

『自慢の白を塗りつぶしてやろう!

ネメシス────正転の軌跡』

アトゥム神が宣言する。彼の持っていた錫杖が透けるような黄金に発光して、燃え盛った。炎を帯びた錫杖で天使諸共、イル神を薙ぎ倒す。初めての傷に戸惑いは見せないが、権能の片鱗を垣間見て嫌な未来を予想した。

轟轟しい音が宇宙空間に響く。目の先には隊列を成して移動する惑星の数々。イル神は不利だと確信して、空間のあちこちに進取する。だが、行く先々で異なる天体の妨害に遭う。

宝石と炎の天体。水のみで構成された天体。がちゃがちゃと常に金属同士が衝突する天体。それ自体が高温で、遠くにいても熱波に中てられる天体。球体二つが結合したかのような不揃いの天体。毒ガスが充満した天体。高密度のエネルギーを秘め、膨張と収縮を繰り返す天体。火山活動が生じている天体。

公転速度が他よりも速く、不規則な軌道を描いて進路を妨害する天体。暴風が吹き荒れ、その影響を外に出し、宇宙空間に嵐を呼ぶ天体。絶対零度の天体。それを外周する衛星は氷の活火山を存在させ、肺も凍てつくような冷気を平然と放出している。

横殴りの硝子の雨を降らせる天体。壮大な宇宙には小さすぎる天体が、体に突き刺さる。反重力の天体と雷雨を伴う天体の組み合わせで、上下から雷が落ちてくる。植物で覆われた天体は、枝を伸ばす。

あらゆる物質を兼ね備える天体の迎撃に、イル神は疲弊を覚える。すべてに対処できているわけではない。

(対応した瞬間、すぐに新たな天体がくる。まさに宇宙の荒波に呑まれているようですね)

切り替わる宇宙の情景。イル神は対応できないことにストレスを感じるが、その中でただアトゥム神だけは悠然と立ち尽くしている。不変の象徴だ。


北欧専用観戦室

「宇宙に存在する天体の数、およそ十兆個。ですが、これも推測の域を出ません。大きさも不揃い。密度・重力・公転自転速度・地平面。解明した天体ですが、次の瞬間には特徴を変え、性質そのものを変化させる」

『宇宙は不変に存在するが、そのために天体は姿を変え、永続の道を辿る。俺でさえも宇宙の全貌は知らねえ』

原初の一柱であるユミル神は言った。だが続けて、アトゥム神を見据える。

『神でさえも宇宙の一つに過ぎねえ。アトゥムはその宇宙と共に誕生した始まりの概念。生の誕生と喪失を認知し続ける。全を知り、一の概念を持つ己自身を認知した。宇宙の神秘を常に見据える。

概念は、”全の一”。

宇宙を構成する天体を操作する能力を持つ。権能、”神秘の観測点”』


速度の落ちたイル神の動向を確認したアトゥム神が動いた。降りかかる影響を無視して、一瞬の間にイル神に狙いを定める。視界の全てを占領するアトゥム神。イル神は思い出した。彼の応用した技の存在を。

錫杖は黄金の光を灯す。莫大なエネルギーを感じた。透けるような光に息をのむ。

(神秘の観測点は天体操作。そして、天体一つ一つの性質を抽出することも可能!)

イル神は睨んだ。アトゥム神の表情に変化はない。

『エルナト────逆転の軌跡』

天体が共通して持つ核エネルギーを抽出して、錫杖に付与した。間合いを詰められた状況では防御の貫通は避けて通れない。

瑠璃に星紋が刻まれる。錫杖がイル神の肉を斬る。けたたましい光に呑まれて、神の苦痛の声はかき消された。


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