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11話 神に近しい人間

仙人大戦(ヘシオドス)第一ラウンド第三回戦、同神界における二つの派閥、原初神一派シュメール派と次世代の神一派アッカド派の長きに渡る因縁は決着を迎えた。その結果はアッカド派が誇る英雄神マルドゥク神の勝利に終わる。その怒涛の終幕に会場は歓喜の声に溢れかえる。

『さあ、勝利を収めたマルドゥク神と守護者(ガルディ)フォーセリアに栄誉を込めて拍手を!!!』

ヒヤルムスリムルの言葉に神も人も種族こそ違えど、名誉ある勝利を讃え、拍手を送る。その拍手にマルドゥク神は手を振り返し、最高神としての責務を果たす。

「ふぅ」

マルドゥクは呼吸を整えて、激闘の余韻が巡る体の熱気を抑える。担架で担がれて医務室へと運ばれる木聯とアプスーをじっと見つめる。

「じいさん、大丈夫かな?」

「自分の心配しなよ」

マルドゥクの一人言にフォーセリアが突っ込む。木聯もアプスーも重傷だが、マルドゥクも相当な深傷を負っているからだ。フォーセリアは片方の刃が粉砕してしまった両剣を握りしめる。彼がその大きな破片を拾っている姿を見て、

「それ直すよ」

マルドゥクは慰めとして声をかけた。

「いや、これは一人の人間が造り出したものだ。そいつに直してもらう」

「ふーん。人類の中に神器を造れる人間がいるって情報、ほんとなんだ」

「…」

マルドゥクの発言にフォーセリアは嫌な予感を感じて、それがオーラとして少なからず溢れてしまった。

「なにもしないよ。それがお前とオレ様との条件だろ。それより、オレ様、あの魔法使いほしいんだけど」

マルドゥクは木聯を指さす。フォーセリアは彼を一瞥して吐き捨てるように言う。

「俺よりもあいつの師匠がうるさいよ」


統治神五柱専用観戦室

『アプスーたら、負けちゃってるじゃないの』

鬱陶しくも名残惜しそうに言うガイアに相槌を打つタナトスは率直な感想を言う。

「アプスー様の権能は規模と攻撃力、攪乱にも長けてましたし、武闘派の方ですからいけると思ったんスけど」

『技量も権能もマルドゥクを上回っておる。じゃがマルドゥクにあって、アプスーには無いものがある』

「…経験ですか~?」

ほわほわと柔らかい雰囲気のヒュプノスだが、鋭い答えを出す。ニュクスはそれに頷く。

『アプスーは絶対的権力で意図せずとも戦いに発展しておらん。勝てぬからのぅ。じゃが、マルドゥクは違う。次世代の神の象徴として幾千の死線を潜り抜けた異業がある。その経験こそが、原初神を欺き、幾度も窮地に陥れ、窮地を脱した理由じゃ』

『まあ、それがあったとして、苦戦しつつもアプスーが勝っていた』

次いで、タルタロスが話す。その共通の見解にタナトスは質問する。

「やっぱり…」

『ええ、マルドゥクの勝因は…』


北欧専用観戦室

「選抜人類だな」

オーディンが静かに発言すると、トールも乗っかるように見解を述べる。

「アプスー殿の選抜人類である魔法使いは、この試合ずっと客観視で策を講じていました。アプスー殿とマルドゥク殿の弱点を一瞬で見抜く洞察力、アプスー殿の弱みをカバーしつつマルドゥク殿の隙をつく機転の利く頭脳。脳筋の神には最適でしょう」

『…ふん。アプスーはそれも知ってる。が、その人間とアプスーの協力に亀裂が生じたのは、マルドゥクの選抜人類フォーセリアだったか。原初神の中でも指折りの武闘派であるアプスーを一人で抑え込み、マルドゥクが動ける時間を作った。極めつけはアプスーの拳を受けても立っていられるだけの頑丈さ(タフネス)。最後のアプスーの拳は渾身の一撃だった。それがマルドゥクに当たらなかったのが、この戦いの勝敗を喫した』

ユミルのその感想に、トールはふふと笑い、オーディンは改めて言う。

「人類は恐ろしい。特に守護者(ガルディ)というものは…」


選抜人類魔塔所属専用観戦室

「わぁぁぁん!!!木聯~~~!!精霊王様に無礼だよ!!でも勝ってよ!!」

「どっちなの?」

アロエが泣き叫んで、木聯がフォーセリアに無礼を働いたことに起こる。しかし、木聯が勝ってほしかったというフォーセリアへのある意味の無礼にカトレアは呆れる。

「姐さんも出場するんでしょ?負けないでよ~~! あと酷い傷受けちゃだめ!」

「無茶苦茶なこというわね」

泣きつくアロエの頭を撫でて、実の姉のように接するカトレアは魔塔主であり、守護者(ガルディ)であるウェルテクスに目を向ける。相変わらずの仏頂面でなにを考えているのか分からない。

「誘いが来ていますが、師範は出場されないのですか?」

カトレアが選抜人類出場者の表示された端末を見ながら尋ねる。しかし、案の定答える気がないようでカトレアはため息をつく。

コンコンと部屋の扉がノックされる。カトレアが対応する前に、扉が開き、二柱の神が入ってきた。部屋の外では護衛が門番をしている。色黒の肌と黒曜石のロングヘアー。上半身むき出しの、下半身がズボンのアプスー神が髪を伸ばしたら、こんな神なのだろうと想像してしまうほど似ている。だが、アプスー神と違い、表情は少々緩く、野心に満ち溢れている。琥珀色の瞳はまるで狼のようだ。その後ろにいる高身長の女神。憂いを感じるが、その麗しさで緩和されている。

「メソポタミア序列三位エンリルだ」

『…序列よ位ティアマトよ』

その神々は名前を名乗る。序列はよく分からないが、ここを闊歩している時に話題に上がっていたアプスー神の妻のティアマト神と、メソポタミア神界の支配権を持つエンリル神だと、やっと分かった。聞き耳だけのウェルテクスはずっとガラス越しに闘技場を眺めて、向く気配がない。

「人類の魔法、面白かったぞ。それでなんだが、木聯を貰う」

エンリルのありえない言葉にアロエは怒る。対照的にカトレアは笑顔を張り付けているが、それは笑っていない。

「話が違いますわ。あくまで闘いの中での関係でしょう。神の所有物ではありません」

「そのつもりだったんだが、マルドゥクが気に入ってな。不自由はさせん」

「待ってよ!それをなんで認めなきゃいけないんだよ!?」

アロエが退出しようとする二柱に異議を申し立てると、エンリルは振り向いて言い放つ。

「貴様らの承諾はいらん」

それだけ吐き捨ててエンリルは部屋を出る。ティアマトは申し訳なさそうに低くお辞儀をして、エンリルの後に続いた。神のいなくなった部屋は憤怒が取り巻く。

「神なんて…」

「無理にでも取り返そう」

二人が木聯奪還に思考が塗り替えられていると、ウェルテクスがゆったりとした動きで振り返る。

「待て」

ウェルテクスの制止を二人は素直に従う。

「カオスの言った規則(ルール)に選抜人類勝者は望みを一つ叶えてもらう権利がある。ここは神の領域。いわば、人類と神の交流の場だ。あまり反感を買うのはよくない」

ウェルテクスの正論に二人は少なからずの不満を抑えて、頷く。

「正当な権利で奪還する。仙人大戦(ヘシオドス)が終わるまでにだ」


仏教神域の険しく急な山道が続く山頂を目指して、歩く二つの影。ざっ、ざっ、と無機質な足音が、静寂を纏う山々に響く。二つの影が向かう先には、もう一つの影。

「おーい!」

釈迦が大きな声で呼びかけると、座禅をして瞑想していた仏が目を開く。あかかがちのような紅をさし、目を紅く縁取っている端正な顔。

「メソポタミアの小競り合い良かったよ〜。それと行方不明だったティアマト殿がね、エンリルちゃんといたんだよね~」

「それは良かったな」

快活な釈迦に温度の感じられぬ答えに釈迦はでかい舌打ちをする。座禅を解き、仏が立つ。華やかな武装の女姿の仏は不愛想だ。

「次、君だってさ。文殊」

釈迦が地面に座って、仏に言う。仏は文殊菩薩であり、次の仏教代表の仏であった。

「承った。して、そちらの人間は?」

文殊が後ろに控えている文殊といい勝負をしそうなくらい派手で華やかな着物と髪型の人間に目をやる。釈迦は笑顔で、

「選抜人類だよ。で、君の相方の花魁さ」


統治神五柱専用観戦室

『人類は神によって創造された。原初神の一柱アザトースによって創造された人類は紅魔族。その他の原初神によって創造された人類は明帝族という。二つの人類は共存するであろうと、神は思い、明帝族は突飛的な強さを…紅魔族には安定した強さを与え、互いの非力さを、互いで埋めて、波乱万丈を謳歌しろ』

『神の願いとは裏腹に、二つの人類は争いを始めた。それは明帝族の弱さを紅魔族が劣等の証とした。神の善意が人類の考えに反した。紅魔族は過激派と穏健派に分かれた。

過激派はクヴァレ帝国という人類最大の帝国組織を築き上げ、人類の統一と管理を目的としている。

穏健派は明帝族と手を組み、子孫を繁栄させた。それが紅帝族。新たな人類である。そして、七大一族とは三つの人類の僻み関係なく、クヴァレ帝国に対抗する異種族の中の7つに数えられる最大種族のことである』

次の試合が始まるまで、暇を持て余している統治神5柱のために、部屋に備えられている控室が埋まるほどの娯楽道具からタルタロスが一冊の本を手に取り、音読する。それは地上宇宙(バース)に住まう人類誕生を記したものである。小さな神々の教育本のようなものであるそれを今更読み返すタルタロスを見て、タナトスが茶を配膳するついでに聞いた。

「何やってんすか…」

タルタロスは呆れ混じりの疑問を受けて、悪い笑みを浮かべる。

『次の試合の予習だ』

そう言って、頁を捲る。

『紅魔族の中には、祖であるアザトース神の血を稀に開花させた存在が現れる。その存在を元祖と言い、アザトース神の子であると定義されている。元祖は摩訶不思議な御業を使い、その叡智で人類の技術を繫栄させた実績を持つ』

「その御業を”才”と呼ぶんでしたっけ?」

『ええ、元祖の”才”はとても面白い。見ていて飽きないの』

話に混ざってきたガイアが、タルタロスに軽くキスをして、タルタロスの膝に座る。見慣れた光景にタナトスは虚ろな目で受け流す。

「予習ってことは、次の試合は元祖が選抜人類として…」

『ええ』

ガイアは肯定して、闘技場に目を向ける。司会進行を務めるヒヤルムスリムルを筆頭に、次の試合に向けて、多くの天使が忙しなく動いている。そして、各神界専属の戦天使(ヴァルキュリー)も人手不足のため、駆り出されている。その光景が小鳥のさえずりのようで微笑ましいのか、ガイアは笑っている。そして用意された端末に映し出されたものを眺める。そこには、こう記されていた。


《第一ラウンド四回戦

 仏教vsポリネシア

 仏教神代表 文殊菩薩

 ポリネシア神代表 タネ・マフタ》


画面が切り替わる。


《ポリネシア選抜人類”穏”の元祖イレミア

 仏教選抜人類櫻華の花魁桜雲》



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