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20.マリンブルー

 ローブ姿から俺より頭一つは身長が低いと分かっていたが、思った以上に小柄で華奢な女の子だった。

 見た目からして種族は俺と同じ人間……だと思う、きっと。年の頃は10代後半てところ。小柄なことと丸い大きな目で幼く見えるだけかもしれないけど……。

 人間だと断定できなかった理由はショートカットの髪色にある。

 彼女の髪色は海のような深い青色――マリンブルーだったんだ。

 兵士をやっていた俺は他の人よりは色んな人の髪色を見ている。また、王国にはいろんな種族が住んでいるのだけど、それぞれ固有の髪色があるんだ。

 人間は黒、茶色、金色、珍しいところでピンクやアッシュだったか。エルフと呼ばれる魔力に長けた種族だとグリーン、銀、金色。

 ドワーフと呼ばれる筋力に優れた種族は黒か茶色といった風に。

 例外もある。獣人という獣頭か獣耳と尻尾を持つ種族は様々な毛色をしている。

 それでも、マリンブルーというのは聞いたことがないし、兵が一同に集められた時にも青系の人はいなかった。

 青色……青色の髪……喉元まで出かかって出てこなくてもどかしい。


「ねねー。止まっちゃって、何かトラップでも仕掛けてるのー?」

「あ、いや」


 両手を後ろで組んで見上げて首を左右に振るサクラにハッとなる。

 つい君の髪に見とれていた、とはさすがに言えん。どんな気障な奴なんだよって話だ。

 付き合いが長ければ冗談で流せるが、ちらっと会っただけの彼女に言うとドン引きされるよ。

 戸惑う俺をよそにくるりと背を向けた彼女はスロープと地下室の切れ目辺りをじーっと見つめている。


「どこかにスイッチかレバーがあるのかなー」

「いやいや、無いから!」


 天真爛漫な彼女の行動に救われた。おかげで彼女の髪色について俺が気にしていると察しされることもなくこの場を乗り切ることができたのだ。

 ……と思っていました。


「やっぱり、気になるー?」

「あ、いや」

「これでも一応、ブラジャーもつけているんだぞ」

「……」

「あははは、冗談だってばあ。これ、気になるよね?」

「珍しいなと思ったけど、悪い意味じゃあないよ」


 俺の反応がよほどおもしろかったのか腹を抱えて目に涙をにじませていた彼女が、自分のマリンブルーの毛先を指で挟む。

 バレバレだったか、変に誤魔化そうとするんじゃなかったよ。

 変わった髪色のことに対しコンプレックスを抱いている可能性もあるし、容姿のことについてはなるべく触れないようにしていたんだよね。

 過去にそれで失敗したことがあるから尚更さ。

 幸い彼女は気を悪くした様子もなく、ふにゃあとした笑顔でもう一方の手で自分の髪をくしゃっとした。

 

「これね、水の精霊さんの力が強いからだって」

「へえ。水の精霊使いにそんなことが」

「普通は髪色に出て来たりなんてしないみたいなんだけど、精霊さんたちが争っちゃって」

「大人気……俺とはえらい違いだな……」


 精霊って目に見えないけど世界中に沢山いる……と聞いた。

 数ある精霊の中で俺という個人の前に現れてくれたことはとても幸運なことなんだ。

 精霊使いの数は王国全体で3割くらいと兵士長が言ってたからね。

 なので、俺の元に来てくれる土の精霊には感謝しかない。平身低頭でお出迎えしてお願いしなきゃ……やりすぎると逆に気分を害されてしまうので難しいところである。

 世の中は広い。

 彼女は複数の水の精霊から気に入られ、彼女を巡って争いまで起きるとは恐るべし。

 

「テオ」

「ん?」

「じーっとしてて」

「お、おう?」


 髪色と同じ瞳で俺を見上げてきて目線が合う。じーっとしててと言われたが、ずっと神秘的な瞳に見つめ続けられると気恥ずかしくなって目を逸らす。

 すっと彼女の手が伸び、俺の頬を両側からがっしと固定され無理やり目線を合わされてしまった。

 目線を逸らそうにも彼女の力が思ったより強くて全く顔を動かすことができない。

 気まずい……。

 そうだ。いっそ目を閉じればと思いついた時、ふっと彼女の拘束が解けた。

 

「うん、キミにならいいよ」

「何が何やら」


 ぬお!

 彼女の髪の毛が鮮やかな赤色に変わったじゃないか!

 髪だけじゃなく瞳の色も同じ色になっている。

 続いて銀色に変化し、更には新緑のようなグリーンになって、元のマリンブルーに戻った。

 

「びっくりした?」

「腰が抜けそうになった」

「あははは。誰にも言わないでね! ボクとテオとロッソだけの秘密だよ」

「わ、分かった」


 水の精霊って髪の毛と瞳の色を変える力があるのか?

 い、いや、状況からして彼女は「水の精霊以外」も使役することができるんじゃないのか。

 マリンブルーが水で、他にも銀、赤、緑と少なくとも四種類の精霊から愛されている。


「普段はマリンブルーの髪色なの?」

「そうだよー。水の精霊さんが一番大人しい子たちだから」

「土の精霊もいい子だよ」

「土の精霊さんは優しい子たちだけど寡黙だから、他の子たちが出てきちゃうの」

「へ、へえ。そうなんだ」


 彼女が土の精霊を使えたことにはもはや驚かない。

 だがしかし、土の精霊が寡黙ってどういうこと? 個体によって性格がまるで違うのかな。


「テオはマリンブルーが嫌い?」

「いや、綺麗だと思うよ」

『へえ。テオは水がいいの』


 よ、呼んでないのに土の精霊が俺の肩に乗って肘で頬を突いて来た。


「い、いやいや、俺の天使は土の精霊さんだけですって。何卒」


 土下座する勢いでつんとしている土の精霊に謝罪する。


「なにそれー」

「サクラ、少しだけ待ってて」

「その子、別に怒ってないよー。軽い冗談を言ってるだけ」

『テオはいつも頭が固すぎって言ってるでしょー。そこは軽く、お前だけだよ、とか言えばいいのよ』


 土の精霊の言葉に突っ込もうとしてグッと堪えた。軽く言うような内容じゃないだろ、って喉元まで出かかっていたぜ。

 危ない危ない。

 ん。あれ、サクラは俺についている土の精霊が見えている?

 

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