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夢路の後

作者: なと

みんな、夏の匂いに息切らして

あの鍾乳洞の中に

レ点ばかりのテスト用紙が転がっていても

駄菓子屋のお菓子が

仄かに光っている夢を見たとしても

耳元で舟虫のざわざわしている足音と

母が叱る声に目が覚めて

おねしょの止まなかった私の子供の頃

凡ては宝石の様だった

懐古の古町は

極上のカキ氷



三日月が満月に嫉妬して

宿場町のとある宿屋に

曇りが隠れている

恥ずかしがり屋な曇りは

台所の

サイダーの入ってゐた

壜の中に隠れて

座敷童が指さして嗤ってゐる

裏庭の

金霊の怪が金塊を蔵に次から次へと

大黒柱に蛇女が絡みついていて

この家の兄妹は不義の関係で

櫻の頃亡くなるだろうと予言







宵祭りの日

雨が

神社の境内に落ちていた

三日月と鬼ごっこした時に

不意にお地蔵様の涙を思い出して

寂しくなったからだろう

荒れ野では野火がじわじわと

夕暮れの草原を燃やしている

旅人は風呂に入ってゐて

段々と溶けていると云うのに

フライパンの中の黄身には

狛犬が入ってゐて

機嫌が悪い

早く消されてしまった夕暮れを

探さなければ

満月泥棒が

間違って三日月を奪って逃げてゆく

黄昏横丁の路地裏で







夢灯籠

想いは儚く何処までも永遠に

久遠の夏はいつまでも呼んでいる

あの鈍色の夏の彼方

祈り子が吊るされて

恐山から地蔵菩薩が

母親の涙を受け止める為に

風車と共に

闇の中の灯りですら

人を癒し慈しむ

よい子ははよ寝ろや

辻占婆が邪悪に変化しても

御子らはあの祭りの灯りを知ってるから






まぶたの裏に

小さな古町

茶碗の中に入っていた

煤けた硝子細工は

トレイメライを奏でる

オルゴール

神棚の七福神が俺を見てと言う

私は何故か裸になって

大黒様と抱き合っている

大黒様は何故か小判を吐き続けている

は、と目が覚めると

びい玉が沢山転がった部屋で

木漏れ日のなか

眠っていた







宿場町は眠る

雨の後

地面に残る

旅人の足跡は

夢のあかしか

誰も居ない部屋の中

古ぼけたギターが

禁じられた遊び

という曲を奏でている

夕餉の父の遊びだ

父の背中は

段々と小さくなっていって

私の袖をひっぱる父は

私の子供みたいになって

煙草をぷかぷか

やがて父は小さくなって

見えなくなった







みんな、夏の匂いに息切らして

あの鍾乳洞の中に

レ点ばかりのテスト用紙が転がっていても

駄菓子屋のお菓子が

仄かに光っている夢を見たとしても

耳元で舟虫のざわざわしている足音と

母が叱る声に目が覚めて

おねしょの止まなかった私の子供の頃

凡ては宝石の様だった

懐古の古町は

極上のカキ氷








朝やけの中に

墓場はあるだろうか

あの切なくて悲しくもある

祖母の香りや

醤油のキッコーマンの香りは

あるだろうか

懐かしい古町を探して八百八町

あの坂道を息を切らして上った先に

入道雲は待っているだろうか

壊れかけた自転車は

転がっているだろうか

すいません

すでに亡くなっている人を求めて





古町散策

さっきまで笑いあっていた

あの子は誰だろう

迷宮に心を掴まれたみたいに

古い町を旅する

そこが墓場になるだろう

三日月がこっそり神社の境内に隠れていて

今夜は雨になるから

雨宿りをしているんだと云う

夕方になると

親を知らない蝙蝠が飛んでいて

心の辛い想い出を

こっそりと盗んでゆく






此の世は

どこまでも迷宮

静かな路に夢が落ちてる

何処までも続く隧道みたいに仄暗い蛍石

日の出は沈む夕日の心を知っている

海の煌めきが木漏れ日の道を想っているように

旅人はコートの影から

真っ赤な林檎を取り出して

僕らは赤に呪われた世代

古町の外灯の下

娘が赤い紐を

小指から風に揺らめいて







古民家の中を覗くと

蝋燭が並べて火を灯していた

此処は風の吹く町

常世の黄泉平坂へと続く

石畳の階段が家の裏へと続いている

闇人がシャボン玉を

格子窓から吹いている

渡せなかった恋文は

裏庭で燃やして仕舞った

過去を告げる黒電話が

何処かの家から鳴っている

日は何時までも暗く

旅人が歩む小径








夢の後先みたいな朝には

昨日の妖怪が肩にこびりついている

只、ひそやかな古きを語ろう

この町の大人しか知らない秘密を

子供達は囁いている

冷たい朝の水は喉の裏で

地球の行く末を案じている

孤独がゆっくりと腰を上げて

木枯らしに舞う木の葉も

群れを成して飛んでいる渡り鳥も

知らなかったように







時は眠る

胎内の中の宇宙は

古めかしい鳥居を包み込むと

遠くで狐の面を被った少年が踊っている

みなもの輝きは木漏れ日の秘密を知っている

ただ冷たい家の裏の川に

漂う人魚を守りたいがため

今日もこがね色の鈴を鳴らす名主の息子

夢は何時だって古き町の秘密を隠している

月の裏側では兎が眠るのか






人魚の夢を見てから

妙に生臭い物が欲しくなる

遠くの海では蜃気楼が桜色に

煙草の煙をくゆらすと

幽かに娘の顔が見えた気がする

ひとけのない通りに

白菊ばかりが植えられている

夏ばかりが愛おしくて

洗面台の蛍石が人魂のように夜光る

通りでは雲水が

托鉢をしているから

大判焼きの釣りを捧げた冬





古い町並みは

時折人の残した足跡を

語り掛けてくる

壊れかけのトタン

草原にぽつんと石灯籠

昔の人は何を想って

古い家を建てたのだろう

船町の軒の下に立つ

過去という名の亡霊は

何故か心に温かいものを残して

消えて行く

夢の後先みたいに

ぼやけたフィルムの中で

過去の怨念を呟くのだろうか





懐かしい町には

孤独がさ迷い歩く

幽霊列車が近くを走り

人はまたひとりひとりと

消えて行く

お嬢さんおはいんなさい

と子供達は遊ぶが

よく見れば影がない

死者の眠る町は

宿場町にはお似合いだ

旅人はコートから風を出して

闇人と化して人を攫ってゆく

それでも泡沫の日々は消えない

君ももうすぐ…






今日は

お化けを背中に乗せたまま

古い故郷の町へ

祖母の家に向かって歩く夢を見た

そこでは

松の木が古い町並みに沢山生えていて

駄菓子屋のお菓子が仄かに蛍光色に光っていた

墓場があちこちにあって

神社は高い盛り土の上にある

そこの高い土地にある神社には

禿げ頭の尼さんがいて

お話をする






宵闇の部屋の隅

陰翳礼賛

古の呪文を唱えよう

魔術師はそう云って

洗面所に蛍石を置いた

その次の日から

なぜかヒトデが洗面所に棲み

お風呂場の水晶石に

海蛇がくっついている

寝床が蝸牛だらけに

シュルレアリズムのお化けは

鍋の底のナメクジに

塩をかけるなと

居間でどろどろに溶けながら

怒っている






君はじゃあねといって

三途の川のほとりへ行ったまま

還って来ない

常世の國

郷愁が窓からシャボン玉を吹いて

夢人が運命論の本を読んでいる

風が袖を引っ張っていた父の小人を

連れ去ってしまって

煙草のケースの中の小骨が笑ってゐる

こんな処に居たの?

と水頭症の子供が

美しい玻璃を愛でている







線香花火の最後の一滴が

闇に吸い込まれてゆく

暗がりの中で息をしている生き物は

夜の闇が怖くないのか

不意に海のさざ波の音が聞こえた気がして

怖いものが蘇らないように

南無阿弥陀仏と唱えて

只虫の音だけが

私の中を支配する

そろそろと真白の蛇が

足に絡まったような

そんな気がしただけなんだ






夕暮れ時の秘密

野良猫が

こっそり此方を見ている

猫は時々

彼岸の川に遊びに行くから

あんなに妖しく目が光る

子供達は神様の物だから

神隠しに逢う

夢のような黄金色の夕陽は

亡くなった人を呼び寄せて

黄昏時に仏壇に行ってみよう

いいかい

凶日は吉日なんだよ

ちょっと地獄にも行ってみたいだろう







夢の花に誘われて

枕返しがこっそり恋文を枕の下へ

玩具みたいな金魚の硝子細工を

お百度通いの最後の日に

お賽銭箱の中へ

貴方の姿が煙る桜吹雪の中へ

きっと夢幻

雨に濡れた通りで

桜貝の小瓶を拾いました

壁の鬼の仮面に小さなヒビが

不吉な予感がして

風知鳥が

心の中で厳かに鳴いている





あなたの横顔が

雨に濡れていて

静かに家々は朽ちてゆく

東尋坊で逢いましょう

其処の公衆電話では

こっそりと地獄逝きの

アドレスが貼ってあるから

櫻の頃に電話をかけて

この古い家の中では

人も死んでいないのに

喪服の人が悲し気な顔をして

こちらを睨んでいるのです

凡て宿場町で起こる出来事






夕暮れ時の屋敷には

壊れかけた警官の人形と

首を吊った死体

風の探偵が

夢人の抱えている獏の胎をさすると

獏はシャボン玉を口から吐く

此処は常世の國

いつまでも時計は逆さに廻り

白塗りの顔の学生が

静かに恐山で風車を廻している

鳥居の裏で

美しい少年が

桜の枝を持って

今日も一人舞います


夢の後先みたいな朝には

昨日の妖怪が肩にこびりついている

只、ひそやかな古きを語ろう

この町の大人しか知らない秘密を

子供達は囁いている

冷たい朝の水は喉の裏で

地球の行く末を案じている

孤独がゆっくりと腰を上げて

木枯らしに舞う木の葉も

群れを成して飛んでいる渡り鳥も

知らなかったように

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